誰を信じればいい。
誰かに必要とされたい。
誰かに___。
助けて、と言いたかった。
あるときから殴られた私の母。父はひたすらに殴った。
幼き頃の私はそれが許せなかった。それがわからなかった。どうしてそれほどまでに怒りを溜め込む??
なんで殴るの??と聞いたことがあったが、それはストレス発散のためだと。こいつがくずだから。なのだと理解した。
その数日後母がなくなれば今度は(名前)が標的となった。
蔑んだ言葉をかけられるたび、日常の中でなにかと暴言を言う父になんの感情もわかなかった。
だって、味方が居ないから。私にはいきる価値などないのだと痛感する。
彼女の心の水槽は満杯になって、流れた。そのたびに彼女の中の何かが失われた。
きがつけば、
意思がない子供になった。
なにもない、生きている価値すらない。子供に。
「あたしがあんたの盾になる。だから、」
__眠ってて。必要だってなったら起すから。
女物の着物を着た(名前)は、神谷道場に潜り込み、緋村の殺害を図る。彼女は風呂敷を持ち歩いており、その中には必要性があるかもしれないという理由で男物の着物を一着入れてある。
「あ、あの、こ、ここは……。」
「ここはね、神谷道場だよ。」
師範代 神谷
「師範代……、かみや、かおる?? 」
「……敬語、取ってもいいかな……。」
「あ、はい。いいですよ。」
と言えば彼女の綺麗な顔が私(名前)に向かれる。
「うん、そうなの。私ここの道場の師範代やってるんだ。名前は神谷 薫。よろしくお願いします。あなたは……?? 」
「(苗字)(名前)です。よろしくお願いします。神谷さん。えっと、それはそれは、すごいですね……。」
「……まだまだよ、私よりも強い人なんてたくさんいるもの。なかでもここの道場に居候している剣心っていう男の人。その人私以上に強いんよ。彼とは合わせたことはないけど、強さが桁違いだわ。まだまだ半人前っていう証拠ね。じゃあ、居間に案内するね_あ、剣心?? 」
案内する、といったとき赤髪が見えた気がしたから彼の名を言ったら的中したらしく。私はぼそりと自分の意識の奥底にいる実花に言う。この人、神谷薫。は大丈夫かも。と。そしたらその奥底にいる自分はにこりと笑った。
「薫殿。客人でござるか?? 」
「やっぱり剣心!! そうだよ、お客様を案内してたの。」
居間からひょいと突然現れた人に薫は状況を伝える。よく見るとその人は赤毛で……。その人を見た瞬間、ビビッと来たような大きな衝撃を感じた。やっぱり見たことがある。私(名前)はこの人に会ったことがある。初めて会った時は十、のころ、だった気がする。剣、心。……頬に傷あり、その傷は十字傷……。東条様が命じたときのことを思い出す。「え、あの、緋村抜刀斎の……。」とそう思っていると彼の藍色の瞳と目が合い、どうしよう、彼は私のこと……男装していたときの私のことを覚えているんだろうか……?? という得体のしれない不安感にかられ、なんだか心配になってうつむいてしまった。それを慰めるかのように、「大丈夫。」と実花が言うという幻聴を聞いた気さえしてしまった。神谷道場を元気いっぱいに照らしているお天道様がなんだか憎らしい。その光と同じくらいになぜだか彼の赤色の髪も暖かい輝きをもって見えていた気がした。
「紹介するわね、こちら__。」
「知っているでござるよ。……久しいな、(男装時の名前)。……薫殿。この者は女ではなく、男、でござるよ。訳あって女物の着物を着ているんだ。」と言った後、彼はぼそぼそと「本当は女なんだがな、仕方なかろう。」と蚊の鳴くような声で言ったが薫には運よく聞こえることはなかった。
「え?? 女の子じゃ……ない。!! し、失礼しました!!女物の着物をきているからてっきり……。ど、どういうこと剣心、まさか幕末の頃の知り合い、なの?? 」
「いや、大丈夫。親が女っぽい名前をつけたんだよ。特に気にしなくてもいいから。(名前)か、(男装時の名前)、好きなように呼んでくれると助かる。」
咎めるように彼に聞く彼女に(男装時の名前)は控えめにかつ、威圧感を与えないように。できる限り口角をあげて言えば彼女はなぜか目をそらし、控えめに、わかった、教えてくれてありがとう。と言ってきた。
「ああ。どういたしまして。」
こうしている間にも時間は刻一刻と迫っている。何せ期限は今日中。さっさと目的を果たさなくては。クビになってしまう。彼の目線がこちらに向けられたがすぐにそらされる。たぶん無意識に彼を見つめていたのだろう。
「あ、うん、えっと、久しぶり_「薫殿ー。この後の予定は?? 」え?? 」
慌てているのを必死に隠しながら私が、彼に久しぶりと言ったが、すぐに薫さんに話しかけて……。彼はさほど気にしていないのが幸いだった。やはり幕末の時から剣心は私のことを嫌いだったのだろう……。正確に言えば(名前)自身ではなく、(名前)自身の信念に。それはなぜなら、と言われなくても見当がつく。
「私は、いや『俺』は、幕府軍だけではなく、幕府軍に勝とうとする政府側の仲間と、無関係の人まで斬ったから。むしろ戦争が終わってからもそれは続いて__、それらは、剣心の志の『不殺』には、合わなかった_。」
とボソリという。その言った言葉を酷く痛感してしまう。その様子を彼は人斬りの頃に戻ったような冷酷な瞳で、(名前)いや(男装時の名前)を見ていた。東条様に命じられたのだから断ることはともかく、失敗すら許されなかったのだ。今まで殺害という件で一度も失敗をしなかった彼女なのだからよほど、彼は嫌いなんだろう。癪に障るのだろう。そうだったらあの時別行動だなんて言わずに私を突き放してくれればよかったのに。なんてざらにもないことを思ってしまう。でもなんで嫌いっていうだけで、こんなに胸が苦しくなるのかが、わからない。あの頃よりは
「(名前)さん、なにか言った?? この後? 特になんもないわよ、それよりも無視してもいいの?? 剣心。」
「言ってない、言ってないです……。」
その心を見透かされたくなくて、必死にそういった。
「別にいいでござるよ。なんも、影響はござらん。」
そういったあと、彼は(名前)ではなく、薫の方に体を向けた。まさかの無視ですか。……いいですよいいですよ。なんだかとても腹ただしくなって心のなかでそうぼやいた。
「そうなの?? ねえ、みた限り二人知り合いって感じするけど……。」
「知り合いではござらんよ。薫殿。」
「え、?? 」
納得できない様子の薫はモヤモヤしているみたいで、「じゃあ私、
「あ、わかりました、
そういうのと同時に彼に手を拘束され、睨まれる。その瞳をみて、彼らしくない。と思った。なぜかと問われれば、とくに理由はない、と答えるのが妥当だろう。
「おい。まだ人斬りをしているのか。どうみてもあの掲示板にかかれているのは、(名前)、お前だろ。」
__いや、こう言った方がいいな、深紅の
「……。ご、ごめんなさい……。あの、手を離してもらいたいんだけど。」
さっきまでの薫への態度とは対照的に冷ややかな態度を向けられる。そうだろう、私は彼に嫌われているのだから。先程の薫への態度が猫だとしたら、今の私実花への態度の代わりようは虎か鮫である。
「わかった。」
彼は少し苛立ちを見せる。東条様の命を遂行しなければ。と気を引き締めた。とりあえずその場を巻きたい。
「変わんないわね。あのときよりも強情よ、強情。」という実花に心のなかで軽く笑う。彼は変わってないなあ。と感じる。口を開こうとしたら門が開いて、男の人が入ってきた。
「瓦版ー、かわらばんだよー。お、兄ちゃん見てみ?? 」
「これ、は……。」
「ああ、最近ここら辺でむやみに人が殺される事件が多発してるだろう?? また発生しちまったんだよなあ、あの白い髪の男、可哀想に……。殺害した人の絵も載せといたから見てくれ。じゃ。」
「お疲れさまでござるよ。やはり、な。」
「え、??私、その人殺してない……。」と言おうとしたが、言うとなにかとしつこく付きまとわれるかもしれないから私は黙る。覚えていない不利をする。勿論ばれるだろうが。
実花の人格をあのときは遠目で見つめる感じだったが殺したのは、確かだ。何も言えなくて彼の藍色の瞳を見ていると鋭い言葉が飛んだ。
「嘘を言っても無駄だ。」
だいたいそういうのは実花がしてくれているから。だから私は覚えてない、とでもいいたい。でも。うっすらと覚えている。最期の彼の_縁の表情。なにかやり残したという後悔を感じさせた。
「答えないのか。」
そういわれた瞬間私は、片手で刀を鞘から出し、彼の首もとに刃を当てた。咄嗟の行動だった。上手くいったと思った。だが逆刃刀で、私の刃を受け止めている。いつの間にか捕まれていた手は、ほどかれていた。
「どういうつもりでござるか。」
「東条さま……。私、は。あな、たを_。」
女子用の着物姿の(名前)と、赤い着物姿の緋村……が対峙する。
「拙者を殺したいのか。」
失敗は許されない、という気持ちとなぜか彼を手にかけたくない……、その思いで葛藤して言葉を紡ぐ暇もなかった。
「離してくれ。このままでは傷つけてしまう……。」
だれかの、こえが。木霊する…。
『はやく、殺せ。できるだろ、お前なら。なぜならお前は俺の人形、だからなあ、できなかったら拷問だぞ?? 』
聞こえる。僅かな空気が変わった気がして彼は(男装時の名前)と距離をとる。
「はあ、はあ……。あああ!!! 」
(名前)が彼を睨みながら刀を持ち、剣心に向かっていく。だが__彼は(男装時の名前)と距離をとったため彼女の刀は剣心にあたることは無かった。見合い、互いに仕掛けるタイミングを図る。
「はあ、はあ……。あああ!!! 」
(名前)が彼を睨みながら刀を持ち、剣心に向かってきた。だが__。首をかすらないどころか、切っ先を手のひらでおさえられている。
(見切られた!? )
「……その程度の刀では、拙者を殺せまい。殺すのだったらもう少し強くなってからくると良い__なっ!? 危ない。」
そう言って彼は私を支えた。彼の手を振りほどき、距離をとろうと少し動くがその動いた場所は段差で。途端のことに防止できず落ちると思ったが間一髪。剣心が支えてくれたおかげで立て直し、また再度距離をとった。ただでさえ道場は広く、段差はほとんどないが最初の位置から広範囲に離れていたから動くゆとりがあったことを示すかのようだ。腕が互角だということを改めて感じてしまう。それに負けられないのだ。彼を手にかけないと、自分が何をされるかわからないから。理由は自分を守るため、だという保守的な理由に反吐が出るかのように不快だと思った。
「……はあ、はあ……東条様に、証拠を見せなきゃ……。負けられない……。勝負!! 」
「な、ま、まだやるのでござるか!? 」
「そうだ、次こそは__負けられ……、」
(名前)がそういった時、門が開いた音がしたので振り向くと……。
「まだ仕留められなかったのか。この雑魚。」
上司が立っていたのだった。
「と、東条様……。も、申し訳ございません。」
「フン。こんな雑魚に聞く耳なんて持たん。お前のことだから強すぎて全く歯が立ちませんでしたあ。とかいうつもりか?? いつまで甘えてんだ。お前は強いだろう。」
あきれているのかため息をつきながら悪態をつく我が上司こと東条
「いえ、私は強くなど、ありません……。」
「はあ、」
__こいつと話してると自分を否定する内容ばかりで疲れる……。実花の方がましだ……__。
「おい、起きてるか。実花に変われ。」
「え。い、いやです。」
「少々聞きたいことがあるでござるが……実花……、とはいったい誰のことでござるか?? 」
「俺じゃなくて直接本人から聞きゃあいいだけの話だろ?? 」
と言った後すぐ、「しょっぱなから否定形で入るなよ。おい。」と言って肩をたたいてくる上司に、「だーかーらあ、いやなんですってば。それに人もいますし。」と反論する(名前)。
「かたじけない。わかったでござる。」
「ああ。」
「ていうかそもそもそのこと自体は話しましたけど、むやみやたらに呼びたくないんで。辞めてください。……あの、緋村、ううん、剣心、五月蝿くしてごめんなさい。」
「拙者は特に気にはしてない。」
「……やめだやめ。お前にこんな頼みごとをした俺がばかだったよ。お前は知らない人は殺せるのに、お前と同等またはそれ以上の実力差だとやすやすと殺せないのはだめだ。ということでお前はクビだ。」
「え゛。」
「お、おろ!? 」
なにそんなこえだしてんだ(名前)、当然だろう_と上司は言う。その人を苦笑いで見つめた。任務を遂行できなかったからだ。と言いながら彼女の隣にいる元人斬り抜刀斎を見る。
__やはり彼も変わったな。あんなに冷徹だったのに、今ではその冷酷さを一切感じさせないある意味余裕のようなものを感じる。
「やはり作戦は成功したな。__。」と、かの上司は思いながらあることを思い出していた。
『ええ!? 抜刀斎を殺すう!? な、なにいってんですかあ!! 』
『要は試しだ。彼女に抜刀斎を殺すよう命じろ。』
『な、何のために。』
『こいつが俺の手駒にふさわしいかどうかチェックだ。まあ殺しても殺さなくても、俺はあいつを解雇させるつもりだがな。それに__あいつを
ここは彼が住む家の中。上司東条満とその他部下が在籍している。彼女には偽善集団だと言っているがその実態は平気で人を殺すわ、平気で人のものをとって勝手に売ったりする要は犯罪集団なのだ。ようするに(名前)は騙されたというわけだ。だが、一つ訂正を。この上司は幕末の動乱の時活躍したため単にこいつが犯罪集団のリーダーだとしても周りの人たちは気づくことは無いということが本人の口から明かさされている。
『はあ、わかりましたよ。そういえば桂さんは。』
『あいつは昨日崖から落ちて死んだよ。』
『は!? し、しんだあ!? 』
_葬式は??__
_は?んなもん終わらせたっつーの。__
とかいろいろ会話を交わしていたのだ。
帰ろうとした上司が門に手をかけたその時。だが、ここで予想外が発生する。
「……あ、あの。私の上司さん、私何か悪いことしましたか!? 」
そういった(名前)を上司と緋村はえ!? というような驚きの表情でなんども反復するように見る。
「私の上司さんってなんだよ……クックッ……。……、は、ばあか。してるわけないだろう。」
「じゃあなんで……。」
「俺はお前に偽善集団だといったがそれはめっぽう違ったんだぜ。」
「違った……。ではお主らは(名前)をだましていたという事に……。」
「さすがだ、抜刀斎。」
「東条様……。そんな……、これから、これから!! ……どうすればよいのですか……。」
「お前の好きなように生きていけばいいんじゃあないのか?? 」
「好きなように生きろって言われたって……。」
__どうすればいいんだ__。
「じゃあな、俺は行く。お前はお前なりの生き方でいいんだよ。__おーい、町のみなさーん、あの白い髪の男殺したの俺だからあ!! 」
と言って、「はあー!? この、おお馬鹿者があ!? 確保ー!! 」と町の人に言われながら追いかけ回され、去っていった。
「行っちゃった……。」
「そうでござるな……。」
静けさが広がる。その静けさを破ったのが(名前)だった。
「あの、その、緋村……。」
「?? どうしたでござるか?? 」
「ご、ごめんなさい。刀をたててしまって……。」
「それが先までのお主のやることだったのだから仕方なかろう。これからどうするつもりだ?? 」
「これから……。ど、どうしよ_!? 『(名前)ー。おきろおおおー。』あっ実花が呼んでる……。あ、あのごめん。少し倒れます。」
「え、倒れるってどこに__おろろ~!! 」
そう言って意識を手放してしまった。衝撃が来ると思ったが、床に倒れる寸前で優しく抱えられた気がした。
「_と。大丈夫でござるか?? (名前)。」
「だいじょーぶだいじょーぶ。こんな怪我日常茶飯事なんだよねえ。ちょっとー、名前間違えないでー。私は実花だよー。もう一人の(名前)さ。」
その名前を聞いて聞きたい衝動に駈られた彼は聞こうとしたが、ダメだよ。と跳ね返された。
「こういうのは本人の許可がないと言えないから駄目。とりあえず今はもう一人の(名前)だっていうことで覚えといて。」
「む。わかった。」
「はい。しんきくさーい話は終わりい!! やっと、アイツ解放されたわー。」
「おろ?? 」
「大丈夫。こっちの話。それにしてもあんた身長変わんないのな__抜刀齋。久しぶり。元気だったか?? 」
「ああ。元気だ。」
「当時は男装しなきゃここらでは生きていけなかったからなあ。それに、あいつに男装して性格も変えろって言っても無理だから、あたしが(男装時の名前)としてあんたとともに行動したって訳。」
「あいつっていうのは__。」
「うんうん、察しが良くて助かるねえ。そうだよ、(名前)のことだよ。……そのときの(名前)はあのバカ上司東条に支えていたからな。心の拠り所がそこしかなく、あいつの人間不信ならぬ人間嫌いも加速して、抜刀齋よりも冷酷だったんだよなあ。」
_そんな(名前)をお前は嫌いだって。まあ言ってることは、関係のない人を殺すだなんて言うのは可笑しいということで。そう思ったお前は正しいんだよ。『俺』は(名前)を守るために(名前)と共に闘ったんだよ、あのときから。だから俺は、俺たちは偽善者だ。_
と酷く寂しく紡いだ。
「……すまない。」
「ん?? どうして謝るの?? 俺は今お前を殺そうとたくらんでいたわけだし、そんなやつに謝るなんてお前_。」
心底優しすぎる。
「……。今戻ったらこいつの過去を、話してやる。もう少し、先になるかもしれないけど。そのときは、そのときで。」
「ああ。わかった。」
そう言って私たちいや、俺たちは、みんながいる居間へと向かっていった。
「はあ。それにしてもお前が、なあ……。」
道中、二人で話す。剣心の問いにたいし、実花が答える。
「しょうがないだろ。上司命令なんだから。もしかして剣心お前、このこと知ったら一発殴るつもりだったんじゃないだろうな。」
「ん?? 大当たりだよ。まあ、あっても合わなくても俺はお前のその信念が気に入らない、からな。」
「……ははっ。じゃあお前に一発くれてやろう。」
「おろろ!? 」
「ふっ、冗談だよ。嫌われないように、頑張るかあ……。」
軽く笑ってそう答えた。そのあと、「な。(名前)。」と実花は小さく呟く。
「そういえば、いつまで男だと通すつもりだ?? 」
「え?? それはわからないなあ。俺は人殺しだからいつまでもここに居座るわけにはいかない。それにあいつのところがクビになった以上、人殺しの疑いが消えるまで稼ぐことはできないから、な。」
彼は何も言わずに聞いていた。
「あと、もうひとつ。改善してほしいところがあるんだが、(名前)と、(男装時の名前)と、呼び方を統一してくれないか?? 」
「おろろろ……。」
呆れながら私は言う。
「どっちがどっちだかわからなくなるときがあるんだ。」
「それは、同じく拙者もわからぬよ。だから拙者に言われても困る。」
「……決めた。一人称を変えればいいだけの話しかも。実花は俺。(名前)は私。ね?? 」
「それはよいかもしれぬなあ。」
と言って二人で笑った。
「だよな。……あれ、うーん、やっぱり変えてもわかんないわ。やっぱり今のはナシで!! 」
「唐突でござるな!? 」
「悪い悪い。まあ気にしないでくれや。」
「ああ。わかったよ。」
そういう頃には居間は近くに迫っていた。
数刻前_。
「今、戻ったでござるよ。」
「遅かったわね。剣心。」と言ったのは薫。「その御方は?? 」と恵。
「えっと、こんにちは。みなさん。」といった(名前)をみて眼孔を鋭くさせながら立ち上がってこう言った。そう言ったのは佐之助で。
「おいお前、縁を殺したやつ、だな。」
そう言うと空気が緊張した。
「なんで殺した。」
「ええ!? (名前)さんが……縁を……。」
と言ったのは薫だった。そのほかにも反応は様々で。そのなかで(名前)は言う。
「本当は殺したくはなかったんだ。だけど、あの上司とあのときから接点を持ってしまったからそうせざるを得なくなった。失敗はできなかった。東条って言う人に言われて。やっただけ。ただ、それだけ。」
「ふざけるな!! お前のその行動で、どれだけの人が犠牲になったのかわかってんのかあ!! 」
わかってる。そう思いながら幕末のことを思い出す。私は実花と人格を混ぜた状態であの時の動乱に参加した。人間不信だった当時バッタバタと斬られていく人たちをみて、正直やっと今までの人間に復讐ができたと、思った。そして、愉しかった。愉快だった。これからもっと過激な殺戮者となるのだから。それくらいのことをやったのだ。あのとき私が父上を殺したとき以上に過激な殺しかたで殺した。
「な、なんだ、あいつは恐ろしすぎる……。」
「化けもんだ。緋村抜刀齋いじょうだあああ。」
「さあ、冥土の土産にあんたに血の雨を降らせてあげるよ。」
「ひっ、や、やめてくれえ!!! 」
緋村は殺気が怖いと言われ、(名前)は狂喜の笑い声が不気味だと恐れられた。すべての動乱が終わり、森のなかで緋村と再会したとき、東条様に殴られた。今までの付き合いは嘘で。私はただの実験動物でしかなく、すぐに殺すために近づいたのだと。私はすべて東条様の掌のうえで踊らされていたことに、気づいたんだ。それでも彼と付き合いを続けたのは上下関係が確立されていたから。
「おい!! 答えろ。なにぼーっとしてやがる。」
と左之助。
「はっ。……わかってる、それは勿論わかっています。」
「わかってんならなんでやったんだよ。」
「ちょっと佐之助やめなさい。」と恵。
「あなたは、上下関係、というものを、ご存じでしたら理解がお早いかと。」
「そうやって逃げる気かよ。」
「たしかに、逃げる気……かと言われても否定も肯定も出来かねます。ですが、」
__私は貴方がたを殺しはしません。……私はもう、二度と、人を殺めたくはありませんから_。
その姿はとても凛々しかった。
「というわけで、私は一件一件謝りに家を回りますね。では。」
「は!? アホかよお前。」
「なぜです?? 」
「お前一人でいったって補導されんだろ。みんなで行った方がはやいと思うぜ。それに、刀はおいていった方がいい。」
「ですが、俺は殺そうとした身。貴方がたと行動することは容易くはありません。」
「いーよいーよ、気にすんな。俺と弥彦が着いてくから。」
「じゃ、行くぞ。」
「そ、そういう問題では……っ。……仕方ありませんね。」
それから私たちは一件一件回って謝罪の旨を伝えた。そして気づけば、神谷道場にて。
「たーんと食べて?? 」
「え、あの……。」
なぜかご飯をご馳走して貰っていた。
「申し訳ありません。恵さん。すぐに出ていきますから、い、いりません。」
人殺しがここに居座るわけにはいかない。みんなに迷惑をかけてしまうから。だから出ていこうと立ちあがった。だが_。
「お前行くとこないんだろ?? じゃあここに住めよ。」
「で、ですが……。」
「あー、もうめんどくせえ、みんなお前いても気にしてねえから、な、薫、」
「え、ええ。気にしてないから大丈夫よ。恵さんも、でしょ?? 」
「ええ。私も気にしてないわ。佐之助も。」
「ああ。」
「拙者も、大丈夫でござるよ。(名前)殿。」
「どうして。どうして、私に構うのですか!? 」
「え??そんなの、決まってるでしょ?? 」
_仲間、だからよ。_
薫はそう言って、太陽のように笑った。
「なか、ま……。 でも人殺しがここに居座るわけには……。」
「さっき言ってただろ、お前。俺たちを殺さない、と。これ以上人を殺したくない、って。」
そう言われた(名前)はみんなを順番に見る。この温かさに、なぜか涙が溢れてきて。泣いてしまった。まさかここに住んでくれ。だなんて言われるとは思わないだろう。私は今も人殺しだからそうやって他人の家に寝泊まりすることがあってもたいていすぐに罵声を浴びせられ、追い出される。でも彼らは私を追い出さなかった。追い出さずにこうして置いてくれた。はたしてそれが実花か、(名前)どちらの感情なのかはわかりしれないが。正直、どっちがどっちだかわかりにくいのである。だから実花には声をかけてほしいのだが。いっこうに気配がない。困ったものだ。
「今日、この日。私は居候します。みなさんよろしくね。」
「……よろしく。おい、お前。お前はそう言えば誰なんだ。見た感じだと男にも女にも見える。」
十くらいの少年に話しかけられた。
「(苗字)(名前)。一応女。」
その言葉に薫は机を蹴りあげる勢いで立ち上がり、「え、男の人じゃなかったの!? どういうこと剣心!! 」
「あははは。その場に合わせるしかなかったでござるからなあ。」
「あの、ごめんなさい。みなさんのことはこれからなんと呼べばよろしいかと。」
それぞれみんなは名前を告げる。
「……身長が小さな君は、弥彦くん。」
「恵さん。」
「薫ちゃん、さん?? どっちで呼べばいいですかね?? 」
「敬語はやめてって言ってるじゃない。どっちでもいいわよ。」
「わ、わかった、薫ちゃんで。」
こうして(名前)、(男装時の名前)の居候生活が始まった。
同時刻。国会議事堂の広い一室にて_。
「不味いな。また同じことの繰り返しになってしまう……。」
「満さま。東条英機が参りました。」
召し使いが言う。
「ああ。通せ。」
「よお、満。元気か。」
「兄さん。元気だよ。」
そう言えば東条英機は笑う。
「そういえばあの女に命じた指令はどうなった?? 」
「残念ながら……。」
「そうか。やはりお前には頭領の座は無理だな。」
そう言って、満に近づき耳元でささやいた。
「兄さん、なにを……?? 」
「お前の代は、終わりだ。死ね。」
と言って鈍器で殴ったのだった。
「終わりましたか。英機さま。」
「ああ。コイツを火葬場へ。やはりコイツより俺が適任だ。明治政府はこれにてロシアへ領土を拡げる。そのためには賛同しない人間全てを排除する必要がある。」
殺ってくれるな??
「はい、あのものを呼びますか?? 」
「あの者、ああ、(名前)か。アヘンと覚醒剤を飲ませれば人間の心は消える。その薬を用意し、呼び寄せろ。いいな。あいつは今度こそ俺の手駒にしてみせる。」
第三話へと続く。
「そういえば、(名前)さん、何歳なの?? 」
「え?? 剣心と同じだよ?? 」
「え゛!? 剣さんと同じなのあなた!? 」
見えない、だの若すぎるだの色々言われた。それはまだ良かった。だが誰かのある一言で、(名前)の逆鱗に触れたのである。
「(名前)さん、身長小さいじゃない!?
」
薫だった。
「えーと確か……四尺六寸(140㎝)だわね……。」
といった瞬間、空気が変わった。それに気づいているのは彼女(名前)以外だ。
「なあ、おい。不味くないか……。」
そう言ったのは誰だったか。
「薫。絶交ね?? 」
「え゛。」
この出来事でしばらく薫と(名前)の間に緊張状態が続くのであった。
これはまた別のお話で。