勝手にするよ、シンドバッド   作:syunin

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 てきとう


踊ろよベイビー2014

 

 2014年5月。

 入学してからひと月が経ち、ゴールデンウイークも過ぎたころ。

 もう同級生がどんな奴らなのか大体解ってくるころだ。

 やれあいつは直ぐ嘘をつく、あいつはキレやすい、とか。

 そんな中俺に与えられた印象は「とにかく陰気な奴」だった。

 最低限受け答えはするが、とにかく無気力で覇気がない。

 そんな奴に好き好んで近づく奴は少ないし、近づいてきてもすぐに飽きて離れていく。

 そもそも自分から友達を作りに行こうとしない奴に、友達なんかできるはずがなかった。

 

 だから、これも放課後の帰宅途中に近くにいた奴らが勝手に喋っていたのを聞いただけだった。

 

 「なあ、さっきなんか変な逆ナン?みたいなのにあったんだけど」

 

 「ああ、お前もか」

 

 「あれだろ?顔もスタイルも飛び切りのいい女の奴」

 

 「そうそう、めっちゃタイプだったんだけど…………」

 

 そう、これぞ運命の出会い、と言う奴だ。

 

 

 

 

 

 「あの子の言ってたサザン、って何だったんだろうな」

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた時、既に俺は走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。

 ただひたすらに走る。

 さっきの奴に胸倉をを掴む勢いでクラスを聞いてから、ただひたすらに走った。

 1-Bにそいつはいるらしい。

 教師が何か言ってくるが、最早耳にすら入ってこない。

 やがてその教室にたどり着くと、ドアを開ける。

 感情のままに力を込められたスライドドアが大きな音を立てて開かれると、ちょうど帰宅途中だったのかその少女が目の前に立っていた。

 その少女は大層驚いた様子で、まるで破れんばかりにその綺麗な蒼い瞳を瞠る。

 しかし、母親譲りと聞いたブロンドのストレートヘアーを少し揺らし、クスリと笑いながら俺に問いかけた。

 

 「君、サザンオールスターズって知らない?」

 

 俺はただ静かに応えた。

 

 「Moon Light Lover」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が通う高校には、やはり前世の頃と変わらず心臓破りの坂が校門前にある。

 どよめく周囲をよそに、俺達はその坂を下っていった。

 

 「ねえ」

 

 彼女がそう呟く。

 

 「一番好きな曲は、さっきの?」

 

 「いや、さっきのは偶々口から出てきただけだ」

 

 そう、と彼女は再度呟く。

 

 しばらく無言で歩いていたが、堪らず今度は俺の方が口を開いた。

 

 「それで、あんたが一番好きだった曲は?」

 

 「涙のキッス、私ももう一度聴きたかったなぁ」

 

 「そうか、俺は蛍。燃え盛り落ちていく戦闘機の様を、よく蛍へと繋げれたと思ったよ」

 

 また無言、しかし周りの騒がしさはすでにない。

 何故なら、俺達は最寄り駅とは反対側に向かっているからだ。

 

 「……あんたは、諦めなかったんだな」

 

 今度も語り掛けたのは俺の方だった。

 

 「どういう事?」

 

 「俺は直ぐに諦めた。俺にサザンを教えてくれた親父も駄目だったし、最後の手段(・・・・・)を使っても望んだ返答は来なかった」

 

 俺が羨望と懺悔の入り混じった顔でそう吐き捨てる。

 

 「だから、さ。正直あんたが羨ましいよ」

 

 自嘲するようにそう呟いた俺に、彼女は語り掛ける。

 

 「一つ、聞いてもいいかな」

 

 「……何だ」

 

 「君が言った最後の手段(・・・・・)って、何?」

 

 その言葉に、俺の足が止まり思わず俯いてしまう。

 彼女が心配そうに前に立って顔を覗き込んできた。

 

 「…………なんか悪いこと聞いちゃった?」

 

 「いや、正直に言うよ」

 

 俺が顔を上げ、覚悟を決め言う。

 

 「二年近く前にさ、期待の若手シンガーソングライター出現!なんてニュース見たことあるか?」

 

 「いや、その頃はアメリカにいたかな」

 

 こう見えて帰国子女だから、と胸を張る彼女に俺は自嘲するような笑みを浮かべながら、こう返した。

 

 「TSUNAMIを歌ってさ、動画として投稿したんだ。そうすればきっと出てくると……いや、出てこないのはわかってた気がする。完全な自己満足だ」

 

 俺の言葉を黙って聞く彼女。

 

 「著作権の侵害で削除されることもなく、桑田佳祐さんもサザンも現れなかった。残ったのは人の曲を盗んだって言う事実だけだ」

 

 気が付くと、今度は彼女が俯いていた。

 

 「軽蔑、するよな」

 

 すまない、と誰に向けたのか分からない謝罪の言葉が出る事はなかった。

 言う前に、彼女の煌びやかに光る青い瞳に見惚れてしまったからだ。

 

 「てことは、貴方があの動画を上げたの!?」

 

 純粋な笑みを浮かべて、俺の瞳を覗き込んでくる彼女。

 俺はただ気圧されて首肯するだけだった。

 彼女は一頻りすごいすごいと騒ぐと、ふと静かに語り掛けてきた。

 

 「さっき、私が諦めなかったって、すごいって言ったよね」

 

 「ああ、とても強いと」

 

 思った、と口に出す前に遮る様に彼女は言う。

 

 

 「それはね、君が歌ったTSUNAMIを聴いたからなの」

 

 その言葉は、もしかしたら俺が本当に欲しかった言葉なのかもしれない。

 

 「君の(・・)TSUNAMIを聴いたから私は諦めずにいられた。君が(・・)出した動画のおかげで、私は一人じゃないんだって、桑田佳祐さんは、サザンオールスターズはまだどこかで生きているんだって思えるようになったのよ」

 

 その言葉に、自然と涙がこぼれる。

 

 「サザンが、桑田佳祐さんが、そして君が私を救ってくれたの」

 

 涙で歪む視界に、はっきりと青い瞳が映った気がした。

 

 「だから、ありがとう(・・・・・)

 

 そう言って頭を下げる彼女に、俺は問いかける。

 

 「名前、聞いてなかったな」

 

 その言葉に、彼女は笑って返す。

 

 「メアリ・リーよ。メアリでいいわ、同郷だもの」

 

 そう言いながら右手を差し出すメアリ。

 

 「平塚 拓哉だ」

 

 まるで泣き笑いのような表情をしながら、俺は彼女の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば、どこに向かっているの?」

 

 再び歩き始めた時、メアリがふと聞いてきた。

 

 「おや、知らないのか。もう直ぐそこに喫茶店があってね、そこで情報共有がしたかったんだ。結構有名な場所だが、知らなかったのか」

 

 「前世ではハイスクールもアメリカだったからね。日本に来たのは、あのTSUNAMIを歌った人を探すためだったの」

 

 ママとパパにはわがままを言ったわ、と笑うメアリ。

 

 ほんと、このお嬢さんは凄まじいバイタリティの持ち主だ、と俺は改めて思った。

 

 そのまま少し歩いていると、やがてお目当ての店の看板が見えてくる。

 

 「喫茶店、イエスダデイ。今回の話によく似合った名前だろう」

 

 「イエスタデイ?名につながりなの?」

 

 「ほら、今回の境遇はイエスタデイに似ているだろう?あの名作洋画の」

 

 そう言った俺に、彼女は首をかしげる。

 

 「イエスタデイ?それってもしかしてだけど、放映したのは2017年より後?」

 

 「たしか2019年放映だった気が……結構知名度あると思ったが、知らなかったのか」

 

 「私、2017年に狂犬病で死んだの。だから知らないのも当然ね」

 

 「ああ、いや、すまない。悪い事を聞いた」

 

 「良いのよ、これは忠告だけど、海外で痙攣しながら倒れる人がいたら近づかない方がいいわよ。それでも悪いと思うなら、貴方の転生経緯を教えてくれないかしら」

 

 「俺は交通事故だよ。2022年の時だった」

 

 「そう……」

 

 重い沈黙。

 言っといてアレだが、聞いといて黙るなよ。

 

 「…………入るか、取り敢えず」

 

 「そうね、語りたい事はいっぱいあるもの」

 

 そう言って、俺達は喫茶店のドアを開けた。

 

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