◎このままじゃタイトル詐欺になるのでは?と思ったので『水星の魔女』の二次創作も作りたいなと考えています。
朝日が差し込まない地下室。『沙耶・アルモンド』は5475回目の朝を迎えた。
長い睫毛を細い指でこすりながら上体を起こすと、彼はぽやーっとした目で周囲を見回した。そして何も無いと分かると、ため息をついた。ちょっと期待した自分に呆れながらベットから這い出すと、そのまま洗面台へと向かった。
一歩踏み出すごとにピンク色の長髪が揺れ、肌は一切日焼けしていないため吸血鬼のように白く、小柄なためフローリングを歩く音はやけに小さい。下着1枚の上からブカブカなカッターシャツを着ているため彼シャツを着る女の子の図になっているが、沙耶は男である。
洗面台で顔を洗った沙耶はふかふかのタオルで顔を拭く。お日様のような匂いがする(気のせい)タオルに酔いしれてニヤニヤ。次に洗面台の鏡に映る自分を見て再度ニヤニヤした。
パッチリとした瞳、存在を主張しない眉毛とピンク色の唇、肌はブツブツが一切無い、美形な自分。
前世では鏡を見る度に自分に悪口を言って平常心を保っていた。自分の顔を再認識してしまうからだ。それが今世では美形。それだけで沙耶は幸せだった。
自分の顔を見てちょっとだけ自信をもらった沙耶はタオルを置き、今度はキッチンへ移動して冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中はゼリー飲料しか無く常識を疑うラインナップだった。気にせずに沙耶はその1つを掴み、数十秒で朝ご飯を終えた。空になったゼリー飲料のケースをゴミ箱に投げるが、外れ。拾って入れ直した沙耶は、今度は玄関に向かった。そこには箱が3箱積んであり、ため息をつきながら沙耶は箱の1つを持ち上げた。
「・・・いつもいつも寝てる内、なんだよね」
靴が一足も無く、何もかもが鋼鉄でできている玄関は沙耶のいる場所を良く表していた。
箱をキッチンまで持って行った沙耶は静かに置くと、箱を開けて中にある大量のゼリー飲料を冷蔵庫に詰め込んでいった。それが終わると箱を畳み、そして今日のやることが無くなった。
「・・・」
沙耶は部屋を見回した。部屋にあるのは冷蔵庫と空箱。強いて言うなら照明。時計も窓も無い閉鎖的な部屋に沙耶は三度目のため息をつくと、隣の部屋に向かった。
隣の部屋には操縦桿が付いた椅子が1つ、部屋の中央にドンと鎮座する以外何も無い部屋だった。沙耶がその椅子に座ると、特徴的な起動音とともに部屋の壁6面が宇宙空間の映像を映し出した。
<おはようございます>
電子音で挨拶してきたのは、沙耶が座る椅子に搭載されているAIだ。名前は『J』。今の沙耶の、唯一の友達だった。
<今日も不機嫌ですね>
「・・・ん。眠気覚ましに付き合って」
沙耶の小さい声をちゃんと拾った『J』は<分かりました>と答えた。同時に映していた映像が地球の青空に変わり、沙耶は肘置きに付けられた操縦桿を握った。
<敵のレベルはどうしますか?>
「MAXで。じゃないと眠気覚ましにならないじゃん」
<了解しました。では、シミュレーションを始めます>
『J』の声と同時に沙耶の指が高速に動き回り、直後右のモニター(壁)が緑色に染まった。
<流石ですね>
「うぅん。ちょっとカスった」
沙耶は周囲を見回すと全ての敵を視界に収め、そして蹂躙が始まった。行動パターンの全てを沙耶は読み切り、ビームを置く形で撃墜していく。回避行動も最小限で、現役のパイロットでも発狂するような敵のAIMを沙耶は軽々と避ける。そのまま直撃すること無く100体の敵を倒し終えると、『J』が終了を宣言してシミュレーションが一旦終了した。
普通の戦場で100体以上から集中放火を受けることなんてまず無い。味方が援護するからだ。そのため沙耶の体力を気遣った『J』は100体で打ち切ったのだが、十字砲火すら生ぬるい猛攻をしのぎきった後でありながら沙耶はあくびをした。
<・・・まだ眠いですか?ちょっと自信が無くなりますね>
『J』が自虐を言うと、沙耶は微笑んだ。
「『J』は十分強いよ。僕が慣れきってるだけ」
沙耶はシミュレーターのペダルから足を離して体育座りになると、そのまま目を閉じて「おやすみ」と言った。
<また寝るのですか?眠気覚ましに私を使ったのでは?>
「言い方・・・」
目を閉じて頭を下げたまま、沙耶は『J』に言葉を返した。
「だって眠たいし。起きててもシミュレーションしか無いじゃん。起きようと思ったけど、やっぱムリ・・・」
そう。沙耶の住む空間には娯楽と呼べるものが一切置かれていない。ゲームやテレビどころかトランプも無く、あるのは軍用のシミュレーター1台のみ。窓すら無いため外界がどうなっているの分からず、全てが鋼鉄でできている玄関は沙耶の力では一切の破壊が不可能。一度壁を壊して外に出ようとした沙耶だったが、壁を壊すと奥から鋼鉄の壁が出てきたため沙耶は脱出を諦めた。
ちなみに沙耶のご飯はゼリー飲料のみで、沙耶が寝静まった時間帯に何者かが玄関に置いていく形になっている。勿論沙耶は何度か待ち伏せしたことがあるが、待ち伏せした日に限って誰も来ないため接触は早々に諦めていた。
「・・・ねぇ、『J』」
<何ですか?>
「お母さんだよね、僕を閉じ込めてるのって」
<何度も言いましたよね?私はただのAIです。何も聞かされていませんよ>
「本当に、外と繋がってないの?」
<はい>
「・・・本当に?」
<・・・どうして今更そんなことを聞くのですか?>
顎と膝をくっつけた沙耶は、か細い声で言った。
「・・・夢を、見たんだ」
<夢、ですか?>
「うん」
それは10年前の優しい記憶。毎日のように沙耶の髪色とオッドアイの瞳を悪く言う母親が、ふと見せた優しさ。病気にかかった沙耶の手を握って励ます姿は今も沙耶の脳裏に焼き付いていた。
「・・・早く出たいなぁ・・・」
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水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の全てに人間が住んでいる世界。太陽系の辺境にある惑星『海王星』は海賊の植民地となっていた。
海賊はいくら略奪しようが罪には問われず、海賊の気晴らしによって街1つが火の海になることもしばしばあり、その上で海賊は定期的に『海王星』政府に対して食糧を要求する。そんな上下関係が20年続いていたため人々の不満は限界にきていた。
もし行方不明の皇帝機『ティアレス』が戦場に立ったのなら、確実に革命の鐘が鳴るであろうことは『海王星』の誰もが考えていた。
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「いや、海賊は純粋に悪党だろ」
海王星第2の都市『シースルー』。水を象徴する海洋都市として多くの芸術家が心血を注いで設計した新しい都である。『街を駆け回る水路』と『淡い光で照らす街灯』と『中世ヨーロッパのような街並み』がベストマッチしており、海王星で一番美しい都市として人々に認知されている。この都市で海賊が略奪を行おうものなら、海賊の内部から叱責の声が上がる程と言えばその凄さが伝わると思う。
そんな大人気な街の一角。お洒落なカフェが立ち並ぶ大通りを歩く男女が一組。
1人は男。紙コップになみなみと注がれたコーヒーを啜りながら器用に歩く、大学生ぐらいの青年。スカジャンにGパンという地味に目立つファッションをしているため周囲からチラチラと盗み見られているが、本人は気にする素振りを見せずにズンズンと歩いていた。
1人は女性。隣を歩く青年より少し背が低く、常に無表情。黒髪ロングで顔は美形。歩くスピードを青年と完全に合わせることによってピッタリと離れない動きは、まるで機械の様。
「過去に人類が『悪』と断じたものが悪だとするのなら、その認識で間違っていないと思われます。ただ・・・」
「・・・ただ?」
「ご自身が一切関わりの無いように発言なさる点については非常に引っ掛かります」
「分かってるよ。俺だって悪党の身だ。実際に行動していないにしても、そこは変わらない」
男はコーヒーを一気に飲み干すと、近くにあったゴミ箱に紙コップを放り投げた。しかし外れ。わざわざ拾い直した彼はゴミ箱に怒りのダンクシュート(八つ当たり)をキメた。
「だから俺は、海賊を抜けようと思う」
「はい!?」
唐突に打ち明けた青年は女性の手をとると、本気の目で見据えた。その『目』には強い熱があり、表情には確固たる自信が見て取れた。
「俺の『船』に乗ってくれ。俺はお前が必要だ」
「え、えっと、・・・」
「俺の夢は、このクソッタレな世界を踏み砕く『船』の艦長になることだ。その夢のためには、お前というクルーがどうしても必要なんだ!」
「ですが!あの船にはまだ鑑砲以外は・・・」
「確かにロボとパイロットは必要だが、今はお前だ!」
「うぇえええ!?」
鉄仮面をどこかへ投げ捨てた女性の慌てる様は、彼女が首を縦に振るまで続いた。