すでに状況は切迫していた。
各地では暴動が絶えず、己の信念に命を懸けた者共が声をあげ続け、ある者は近々予定している決起のために武器の整備を行っている。またある者は自分を人間爆弾とするための準備を着々と行っていた。
しかし、その誰もが勝てないことを悟っていた。
どうあっても今は巨大人型ロボットが戦況を左右する時代だ。たかが人1人が吠えた所で、人間大の爆弾で自爆した所でマトモな装備を持っている海賊には勝てない。それが世界の常識であり、固定概念であった。
『大和・リース』という男は、その状況を変えたかった。このままでは熱い信念を持った人間が、何も考えていない海賊に蹂躙されてしまう。そして生き延びた民が数十年先まで奴隷のように扱われる。
彼は海王星のあらゆる土地を巡って『この状況を打破する何か』、行方不明の皇帝機『ティアレス』を探し続けていた。
「熱っちー」
手で首もとを扇ぐヤマトだったが、手で送れる風なんてあって無いようなものだ。すぐに無駄だと悟ると、彼は黙って進むことに集中した。
ここは海王星の大洋に浮かぶ小さな島。レーダーによって地下に奇妙な空洞を見つけたヤマトは、その調査に来ていた。
見つけたのは偶然だった。
寝こけたヤマトが何も無い海洋でレーダーを起動させ、偶然引っかかった小さな島にたまたま目がいき、本人も分からない何かに惹かれて島を詳しく調べると、明らかに人工的な空洞が地下にあることを発見したのだ。
「熱っちー」
この島は赤道に近いため、先月いた『シースルー』よりも20度ぐらい気温が高い。森を散策するため長袖で来たヤマトだったが、早速裏目に出ていた。
「熱ちー・・・ん?」
フラフラした足取りで歩くこと3時間。空洞の近くまで辿り着いたヤマトは、明らかな人工物を発見した。
外観はプレハブ小屋。だが外からでも分かるぐらいに中は多種多様な機械が並んでいて、さながら何かの研究施設のようだった。
ヤマトは銃を構えて中に入ると、そこには男が1人、機械にまみれた場所で立っていた。
「・・・テメェ。何者だ」
銃を突き付け、脅すヤマト。銃を向けられた男はゆっくりと振り向くと、まだ未成年なヤマトを見て驚きを見せた。
「・・・これは驚いた。どこの刺客かと思ったら、まさか子供だとは」
「質問に答えろ!」
戦場のテンションでヤマトが問うと、男は余裕そうに机に腰掛け、机においてあったコーヒーを啜った。これにはヤマトも驚愕した。
「・・・やはり、撃たないのだね」
得心がいった、とばかりに納得する男。
「・・・アナタは若い。まだ賊として染まりきっていないのでしょう」
「何の話だ」
「・・・私は、死ぬタイミングを待っていた」
「だから何の話だよ」
男は天を仰ぐと、肩をすくめた。
「・・・申し訳ない。私も殿下と同様、俗世から切り離された身だ。こうやって人と喋るのも久し振りでね。こういう時の切り出し方を忘れてしまったようだ」
「殿下、だと?」
「少年」
男は空になったコーヒーカップを置くと、再び立ち上がってヤマトと相対した。続いて男の空気感が一気に冷え込み、鋭い目がヤマトを貫いた。
「君の夢を聞かせてほしい」
「夢・・・」
「何でもいい。富でも、名声でも。言うのは簡単だろう?」
夢。それはヤマトにとって重い言葉だ。
『大和・リース』という男には前世がある。その前世で母国が戦争に巻き込まれた時、彼の親友は民間人でありながら従軍を決意した。それはヤマトにとって驚愕に値するものだった。今まで笑い合い、気心が知れた仲だった男が、遠くの存在となった気がした。そして親友の遺品だけが帰ってきたと後から知り、ヤマトは自分に『勇気』が無かったことを呪った。
転生特典では『勇気』を願い、そして転生した先で海王星の抵抗運動を見た。
海賊の戦車に火炎瓶を投げつける市民。デモ隊の中からランダムに抜き取られ拘束される可能性を知りながら声を上げる市民。
勇気のある人間を尊敬していたヤマトにとって海王星の住民は憧れの存在となり、いつしか『海王星の独立』がヤマトの夢となっていった。
だからこそ。夢を問われたヤマトは宣言した。
「俺は正しいと思ったことをする。それだけだ」
海賊がどこで聞いているか分からないため『海王星の独立』なんて言えないが、しかしコレもまたヤマトの夢だった。
「・・・」
真っ直ぐなヤマトの目には、20年時計が止まったままだった男を動かす『熱量』があった。
「・・・時が、来たようですね」
男は拳銃を取り出すと、
「おい。何してる」
自分の脳天に向けた。
「殿下は小鳥だ」
「は?」
「どこへでも飛んで行けるが、酷く弱々しい。正しいことをしたいと言ったな?ならば、殿下のお気持ちを忘れないことだ。
・・・ようやく行けるよ。同士達よ」
そう言った男は、満足したような表情で引き金を引いた。
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
ヤマトが調べたところ、プレハブ小屋の中にあったのは、大型の3Dプリンター(食物の作成可能)と原子分解装置のみだった。そしてその使用履歴には延々とゼリー飲料の文字が並んでいた。軽くドン引きしたヤマトは気にせず机をひっくり返したりして家を漁っていくと、床板を抜いた所で地下室への通路を発見した。
中に入っていくと中は異様に広く、やがて通路が2つに分岐した。ヤマトは左の道を歩くと、少しして核シェルターに到達した。ヤマトが近づくとシェルターは勝手に開き、現れたのは鋼鉄の扉だった。
「暇暇暇暇暇ひーーーーまーーーーーー!!!」
銃を構えて警戒していたヤマトだったが、突然扉の向こうから放たれた言葉で思わず気を抜いてしまった。
声はその手の人かと思うくらい可愛らしく、またアホっぽい言葉が可愛らしさを助長させていた。
ゆっくりと近づいたヤマトは様子見も兼ねて鋼鉄の扉をノックすると、中から「わひゃあ!?」と声が帰ってきた。
「ビックリした・・・。自分以外の音ってビックリするものだね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
沈黙が流れたので、ヤマトは更なる接触を試みた。
「あー、聞こえてるか?」
「わぃ!?え、人!?ひ、人!?人!?人!!人!!!人!!!」
人と連呼するヤマト。ヤマトはここまで人かと疑われたのは初めての経験だった。
「・・・おう。人だぞ」
「・・・!・・・!」
声にならない叫びを上げているため、ヤマトには何も聞こえなかった。
「・・・とにかく、話できないし開けるぞ」
ヤマトがドアノブに手をかけて扉を開くと、中には美少女が座っていた。俗に言うペタン座りだった。
左目を覆うガーゼとピンク色の長髪が特徴的。小柄ながら全体的にスラッとしていて、非の打ち所が無いくらいの美少女がヤマトを見上げていた。しかも格好が下着に白のカッターシャツが一枚だけというラフすぎる格好だったため、ヤマトは神速で顔を背けた。
「おい!服を着ろ!」
ペタン座りは太ももがシャツを捲り上げるため、白の下着が見えていた。
不思議そうに首を傾げた少女、いや沙耶(男)はある程度察すると、ちょっとだけ笑顔で言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・僕、男、」
「・・・・・・・・・は?」
「・・・・・・」
「・・・・・・そうか」
ヤマトは思考を放棄した。