10年閉じられていた扉が開いた。手を引かれて外に出た沙耶だったが未だに現実を受け入れられないでいた。このまま売られるんじゃないかとヒヤヒヤすらしていた。
一方、ヤマトは不思議ちゃん(性別不詳、ジェンダーの可能性アリ)の手を引きながら、コチラも状況が飲みめずにいた。
「あー、つまりだ。10年あそこの部屋に閉じ込められていたってのか?」
陰キャすぎて、無言で頷く沙耶。
「あー、なんだ。大変だったな」
ネット小説とかでよくある『閉じ込められた人』を偶然助けるというシチュエーションだが、本人的には勘弁して欲しかった。正しいと思ったことをすると言った以上助けないワケにはいかないが、彼は『自由な船』のクルー集めに忙しいのだ。身元不明の人間を連れて戦地へ向かうのはそれこそ正しくないため、どうしようかとヤマトは思案を巡らした。
海王星の政府に引き渡すにしても、沙耶の顔は(神様が作ったのかと思うほどに)美形すぎる。普通に生きていたら海賊に目をつけられて、ロクな死に方をしないだろうことは用意に想像できた。しかもひ弱そうだ。
少し歩くと、さっきの分かれ道に2人は辿り着いた。
「なぁ。この先には何があるんだ?」
ヤマトが聞くと、沙耶は首を横に振った。
「?何も無いのか?」
すると沙耶はさっきより勢いよく首を振った。
「?どういうことだ?」
「あ、あの、知らない、です。朝起きたら、アソコにいたから・・・」
「知らない?あぁ、閉じ込められてたんだったか。なら行くか。まだ空洞を調べてないしな」
ヤマトがハグレないよう沙耶の手を握ると、また歩き出した。長い長い通路を進み、やがて巨大な下穴に辿り着いた。
ビルくらいある大きな空洞。その中央に、黒光りしている巨大な人型のロボットが立っていた。
「おいおいおいおい!」
ヤマトは驚愕した。
一目で彼は分かった。これが『ティアレス』なのだと。
沙耶の手を引きながらヤマトは走った。通路を駆け、ティアレスの胸部まで伸びる通路を走ってティアレスに近づいた。
コクピットが閉まっていたため開けるためのスイッチを探すが、そういったものは一切無かった。それどころか従来のロボットのような溶接した跡やネジや継ぎ目など、機械としてあって当然な要素が全て存在していなかった。まるでオモチャの人形のような、そんな形をしていた。
「は?え、オモチャ。人形、なのか?アイツが言ってた20年って、こけおどしのために人形を作ることなのか?」
ヤマトが思案する中、海賊の存在すら知らない沙耶は、運命のような何かに引かれるままにティアレスに触れた。するとティアレスが駆動音をあげ、そしてコクピットが開いた。
「・・・お前」
ヤマトの中で、点と線が繋がった。
ここにあるティアレスと、閉じ込められていた沙耶。沙耶は外見的にはヤマトと同じく10代半ば。つまりティアレスが行方不明になった時点で沙耶はまだ幼かったことになる。そして、皇帝機とも呼ばれる『ティアレス』は皇族にしか動かせない。
「・・・そうか」
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とある海賊船の鑑橋(ブリッチ)。退屈な警戒任務に気が滅入っていた彼らが半眼で眺めていたモニターに、とある光点が出現した。同時にサイレンがかき鳴らされ、イビキをかいていた艦長は飛び起き、ネット小説を読んでいた操舵士はスマホを取り落とし、使われていないパソコンでエロゲをしていたメカニックはひっくり返った。
「何事だ!?」
艦長が怒鳴ると、レーダーを見ていた男は驚愕の表情で叫んだ。
「『ティアレス』です!『ティアレス』が起動しています!」
「馬鹿な!?革命はまだ先だろう!」
「ですが、確かにこの反応はティアレスです!」
「クソッ!連絡!連絡だ!本部に連絡しろ!大至急!今すぐだ!」
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「『ティアレス』です!『ティアレス』が起動しています!」
旧『帝国ビル』。今は海王星政府が入っている建物でも、ティアレスが起動したという現実に騒然としていた。ある人間は自分の頬を殴って正気か確かめ、ある人間は神に感謝を述べ、またある人間は皇帝の一族がみんな処刑されたにも関わらず動いている事実に思案を巡らせた。しかし誰もが、考えていても仕方がない状況だった。
「誰か!報道陣に連絡しろ!動かせるヘリは全部使え!現場に行くぞ!」
「総理!何故総理自らが・・・」
「馬鹿者!!その場所には皇族の方がおられるのだぞ!私が直接出向かなくてどうする!」
「総理!関係各社、軒並み出るようです!」
「よし!我々も行くぞ!」
「しかし総理!」
「くどいぞ!20年だ!20年間時代が動かなかったのだ!その意味が分かっているのか!?」
「総理!」
「今日が!『革命の日』となるのだぞ!!!」
「「「っ!!!」」」
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「すげーな。本物のコクピットだぞ」
コクピットに入った沙耶とヤマトは、何も分からないままコクピットにあるボタンを押して遊んでいた。
「沙耶はコクピットに入るの初めてだよな」
「ん」
頷く沙耶。
「俺もだ。男のロマンだよな、こういうの」
沙耶がコクピットの座席に座ると、モニターが一斉に映像を映し出した。
「・・・やっぱ沙耶の命令しか受け付けないみたいだな」
ヤマトが沙耶の隣にある小さな座席に座るとコクピットの扉が閉まり、360度の映像が映し出された。
「歩いてみてくれよ」
ワクワクした表情でヤマトが言い、シミュレーション通りに沙耶が操縦桿を傾ける。するとティアレスが一歩踏み出した。胸部まで伸びていた通路やティアレスを止めていた拘束具を砕き割ったのはご愛嬌だ。
人型のロボットに乗っているという事実に2人が感動していると、頭上から爆音が響き渡った。遅れて爆発の音だと気づいたヤマトは険しい顔をした。
「・・・もう感づかれたのか」
首を傾げる沙耶。沙耶は海賊も海王星という名前も知らないで育ったため、一切の判断材料を持ち合わせていなかったのだ。
<そこにいるのは分かっている!今すぐ出てきて投降しろ。さもなくば戦略爆弾を使う!>
男の声が、再び頭上からした。少し考え込んだヤマトは不安げな沙耶と目を合わせ、恒例の『熱』が籠もった瞳を沙耶に向けた。
「沙耶。俺の『船』に乗らないか?」
「・・・ふね?」
沙耶の発音がおかしかったが、ヤマトは続けた。
「あぁ。『船』だ。このくそったれな世界で自由に人を助けまくって、理不尽を踏み砕く『船』だ。・・・まぁまだ操舵士しかいないんだがソコは追々やっていくとして、今はお前だ。どうだ?一緒に世界を荒らさないか?」
『熱』の籠もった瞳にしっかりと見据えられ、沙耶は心の中に熱が生まれた気がした。
この10年は怠惰に過ごす日々だった。その前は家に監禁される生活だった。前世では肉壁になることに意味を見出した。どれもこれも、つまらない人生だった。ならいっそ破裂するぐらいの熱に乗っかるのも悪くないなと、沙耶は思ってしまった。
「・・・うん」
ニヤッと笑ったヤマトは、天井を指差して言った。
「沙耶は操縦するの初めてだよな。コクピットに入るのが初めてみたいだったし」
「シミュレーターなら、・・・少し」
少しどころではない。睡眠と食事と風呂と洗濯と歯磨きと掃除、それ以外は大体シミュレーターを使って鍛えていた男だ。プレイ時間で言えばニート並みである。
「分かった。じゃあ時間を稼いでくれ。母艦は俺の『船』がやる」
「『船』?」
「まぁ見てろって」
<10秒待ってやる!直ちに出てこい!!!>
「おーおー。上はお怒りのようだ。沙耶、天井ブチ破れるか?」
「武器・・・・・・・・・・・・無い。無い、みたい・・・」
「はぁ?・・・そうか。隠す時に武器を持ってこられなかったのか」
「・・・」
出れないで詰んだ瞬間、ティアレスのモニターが全て白色に染まった。沙耶とヤマトは死を悟った。そして強烈な爆発音。ティアレスが土砂と一緒に吹き飛び、コクピットがとてつもないぐらい揺れた。
「ああああああ!!!???」「!!!???」
ティアレスのモニターが土で埋まり、やがて真っ暗になった。とてつもない爆発であったが、しかし2人は無傷で生き残っていた。
「・・・・・・・・・大丈夫か、沙耶」
「ん」
「・・・・・・生きてる、よな?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・生きてる、な」
2人とも死を覚悟したが、どういうワケか生き残っていた。考えられる可能性としては、ティアレスが異様に頑丈であった可能性か、爆弾が言っていたより弱いものだったか。とにかく2人は生き残った。
「沙耶。ティアレスは動くか?」
「・・・」
沙耶が操縦桿を動かすと、とてつもない抵抗を受けた。しかし動く。まるで何かが全身にのしかかっているような・・・。
「埋まってる、のか?沙耶。フルパワーで頼む」
操縦桿を一気に傾ける沙耶。すると地震のような振動とともに、ティアレスは土を押し返しながら起き上がり、ゾンビのような動きで地表に出ることに成功した。
カメラにまとわりついていた土が落ちると、モニターに現れたのは青空と、空に浮かぶ無数の艦隊だった。足元を見れば巨大なクレーターがあり、さっきの爆弾の威力が伺い知れた。
「て、敵?」
「あぁ。敵だな」
沙耶が聞くと、ヤマトはとびきり悪い笑顔で答えた。
「もう一回言うが、時間稼ぎを頼めるか?」
「時間稼ぎ・・・」
沙耶はシミュレーターに無かったボタンを全て押して武器を探すと、何かの紙が挟まっていることに気がついた。その紙を取り出して見ると、そこには『流体金属』の文字が書かれていた。
<抵抗するなよ!そのまま回収班を待て!>
「沙耶。頼む」
「ん」
紙を膝の上に置いた沙耶は、シミュレーターと同じように高速で手を躍動させた。それに続くようにティアレスの瞳が光り輝き、直後光のように一瞬で敵の戦艦の1つに接近した。
「は?」
あまりの速さに素通りさせてしまった『巨大人型ロボットに乗る兵士たち』が驚愕の声をあげた瞬間、戦艦の1つがティアレスのパンチ一発で轟沈した。
「は?」
ティアレスを知らない全員が、この奇天烈な戦果を見て間の抜けた声を上げた。やった本人である沙耶でさえ、ここまでできるとは思っていなかったぐらいだ。
戦場に沈黙が訪れた。敵味方双方が、現実を受け止めるのに時間を要したからだ。
「・・・次」
先に動いたのは沙耶だった。再び腕や指を高速で動かすとティアレスも反応し、次の瞬間には別の戦艦にティアレスの拳が突き刺さっていた。
「次」
再びティアレスが疾駆し、3隻目が轟沈した。
それを見ていた海賊達の全員が、自分達が捕食者ではなく狩られる側だとようやく悟ったのはそのタイミングだった。
<全艦隊、全速前進!敵は1機だ!全速で突っ込んで、通り過ぎるぞ!仲間の死を今は考えるな!とにかく逃げろ!>
展開していた戦艦と人型ロボット達が一斉に前へ進み、濁流となってティアレスを巻き込んだ。
あるパイロットは突進してすぐ離脱し、あるパイロットはティアレスにしがみついて時間を稼ごうとした。しかしさっきの爆弾にすら耐え切ったティアレスにそんな攻撃は一切効果が無く、多くがティアレスの鉄拳でコクピットを潰されていった。
まさに蹂躙。
すでに爆弾が効かなかったという事実が海賊の心を奪った上で、戦艦を一発で沈める攻撃力を見せた。その2つは、海賊の頭の中から『戦う』という選択肢を奪い取るには十分だったのだ。
驚愕するヤマト。必死に探し続けていた身だが、彼も正直これほどまでとは思っていなかった。もはやスーパーロボットの域じゃないかと、笑うしかなかった。
対して沙耶は海王星のロボットがどれくらいの性能があるかすら知らないため、凄さを良く分かっていなかったりする。
蹂躙劇は数分続き、追うことはしなかった沙耶は敵が見えなくなると、一旦陸地にティアレスを立たせた。そしてコクピットを開き、椅子から立ち上がって10年ぶりに見る本物の青い海と空に目を輝かせた。
「・・・・・・綺麗」
潮風でピンク色の長髪が揺れる。病的なまでに白い肌が太陽の光を受け、短パンにカッターシャツという装いが海と良くマッチしていた。
ようやく十分な光の下で沙耶を見たヤマトは、彼の笑顔が何故か死んだ親友の顔とカブった。しかし首を振って否定すると、いつも通りの顔で沙耶に言った。
「・・・・・・沙耶。絶対に俺の『船』に乗れよ」
沙耶はヤマトに微笑むと、小さな声で「元からそのつもり」と言った。
ニヤッと笑うヤマト。笑顔を返す沙耶。すると遠くからヘリコプターの音が聞こえてきた。
慌ててコクピットの扉を閉めようとする沙耶だったが、ヤマトが「まぁ待て」と言って制した。
「あれは味方のヘリだ」
ヘリコプターはティアレスの手前に着陸すると、中からスーツ姿の男がゾロゾロと出てきて、一斉に膝をついた。そして、先頭にいる男が声を張り上げて言った。
「お待ちしておりました!皇帝陛下!!!」
沙耶がヤマトの方を見ると、ヤマトは「沙耶のことだぞ」と茶化すかんじで言った。
「・・・え?」
「よろしく頼むぞ。皇帝陛下様」