陰キャが皇帝になった   作:不知火勇翔

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第5話

 沙耶は絶望していた。

 手元の資料には『記者会見』の文字。そして沙耶の両隣には黒服の大男が座っていて、机を挟んで反対側には現海王星政府の『総理大臣』が座っていた。

「・・・お分かりいただけたでしょうか」

 沙耶は絶望していた(二回目)。

「・・・」

「・・・」

「・・・もう一度ご説明いたしましょう」

「・・・・・・(ごめんなさい)」

 沙耶は心の中で謝った。総理大臣は微笑むと、沙耶の手元にあるものと同じ資料を見せながら説明を始めた。

「本来なら真っ先に『戴冠式』を執り行うのですが、事態は急を要しています。あなた様に対する説明を含めた時間の都合上、先に『記者会見』を執り行い、正式に海賊に対する宣戦布告とします。ここまではお分かりになられましたか?」

 勢い良く頷く沙耶。

「ありがとうございます。それで会見なのですが・・・その、殿下は非常に内向的な性格のようですので・・・宣言などは私どもが全て行う予定で考えております・・・」

 陰キャなのを最大限配慮して話す総理大臣。沙耶はそれだけで頭が下がる思いだった。・・・ちなみに、沙耶はさっき曲がり角でぶつかりそうになって頭を下げたのだが、その時は総理大臣自らのお説教が始まったりした。

「・・・よろしいですか?」

 頷く沙耶。会見で(何も読まずに)マトモなことを言える陰キャなんて世界中探しても多くはいない。そういう人は陰キャと言われてるだけで陰キャではなく『少数派』、ハグレモノの類がほとんどだ。

「・・・では、今日はもうお休みになられてください」

 総理大臣の一声で両脇に立っていた黒服の大男が勢い良く立ち上がり(沙耶はビクッとした)、サッと道を空けた。沙耶が怯えながらスッと立ち上がると、黒服の大男は扉を開け、沙耶に退出するよう促した。沙耶が出ると黒服の大男2人も部屋から退出し、総理とその側近が部屋に残った。

「・・・・・・どんな皇帝陛下かと思ったが、宝石のようなお方だったな。神の宝物だと言われても俺なら信じるぞ」

 立っていた男が沙耶のいた椅子に座ると、冗談混じりに言った。

「・・・・・・あぁ。あの容姿なら国民も納得するだろう。それで?・・・どっちだった?」

 総理大臣は真剣な表情で、『沙耶の性別』を聞いた。

「・・・・・・どっちだと思う?」

「早くしろ。ティアレスの武威があるにせよ、今すぐにでも海賊が攻めて来るかもしれないのだぞ?」

「へいへい。あれは男だった。入り口のスキャンでツイてることは確認できた」

「・・・そうか。男か」

「良かったじゃねぇか。これで男系を通せるぞ」

 海王星の皇帝は、必ず男系でなければいけないという決まりがある。男系というのは初代皇帝の息子、その息子と後世に引き継いでいく過程で必ず『父が皇族、その父も皇族』という風に、皇帝になる人間は父親を辿っていけば初代皇帝に辿り着かなければならいという条件があるのだ。これで『母が皇族』となると一定数が即位に反対したりして少々モメるのだ。もし皇族唯一の生き残りである沙耶が女だった場合、その子供は女系になる必ずモメていた。

「・・・あぁ。即位もすんなりと進むだろう・・・まぁ海賊の親派どもはうるさく反対するだろうがな」

「そこは今更だろう?お前は公約通りに反海賊を叫べばいいんだよ」

「分かっている」

 総理大臣は手元にある資料を見直し、ある点に注目した。

「・・・・・・沙耶様が喋らない件、お前はどう思う」

「・・・・・・まぁ、良くはないだろうな」

 側近は沙耶が置いていったプリントを拾い上げ、会見で予想される応答の欄に目をやった。

「沙耶様は俗世のことなど一切知らないようだし喋らせても問題ないんじゃないか?」

「上手く喋れるかが問題なのだ」

「・・・俺に陰キャの考えは分からねぇんだがよ、そんなに喋れないものなのか?」

「分からん。分からんが、話し方を見る限りあのお方は筋金入りだ。喋らせる方が志気を下げると私は判断した」

 肩をすくめる側近。

「もったいないよな。あれだけの容姿。しかも男。人気が出ないワケがないというのに」

「そこは教育係に任せよう。明日の会見では、申し訳ないが静かにしていただくとしよう」

 

 

 

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 続いて沙耶が連れて行かれたのは、新都『シースルー』にある、今は観光遺産となった皇帝の別荘。豪奢な門を抜けると広大な庭園が広がっていて、遠くの方に宮殿のような建物があった。

「陛下。お乗りください」

 入ってすぐの所には黒塗りの、見るからに高級そうな車が待機しており、沙耶はその車に乗るように勧められた。言われるままに沙耶が乗ると車は走り出し、数分で宮殿に到着した。

 すでに沙耶の目は点になっていたが周囲の人間は呆けることを許さず、そのまま沙耶を連れて中に入ると、スーツ姿の女性が足を揃えて立っていた。

「お待ちしておりました、皇帝陛下」

「彼がこの宮殿のメイド長です。用事があれば、彼女にお伝えください」

 黒服の大男2人はそれだけ言うと沙耶から離れ、スーツ姿の女性が沙耶に歩み寄った。

「はじめまして。『ルナ・ティーナス』です。母に代わってこの宮殿を任されることとなりました。至らぬ点が多いかと思いますが、精一杯勤めさせていただきます」

 明らかな陽キャの波動。しかも戦闘力(コミュ力)は陽キャの中でも高めな部類。沙耶のキャパは言葉を発する前からすでにオーバーフローしていた。

「さ、さ、さや、です」

 フルネームを言うのは諦めた沙耶。ルナは微笑むと、半歩下がって奥へ入って休むよう勧めた。

「今日は孤島からここまでの長旅でお疲れでしょう。僭越ながらお風呂をご用意いたしましたので、ゆっくり休まれてください。上がられましたら、ここのシェフが心血を注いで料理した品々を用意して待っております。その・・・1人でお入りになるのがお嫌いなら人を呼びますが・・・」

 沙耶は猛烈な勢いで首を横に振った。

 

 

 

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 風呂はテルマエだった。

 沙耶も自分で言ってみて意味が分からないなと思ったが、確かに風呂はテルマエだった。

 古代ローマの様式であって、広さは市民プール並み。床は大理石で湯は白く、バラの花弁が浮いていた。

「・・・」

 長い髪を丁寧に洗い、体を洗い終えた沙耶はテルマエの端の方にちょこんと入り、2分浸かってから湯を飛び出した。

 

 

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 赤い絨毯が敷かれた巨大な廊下を護衛と歩き、やがて食堂の扉の前に辿り着いた沙耶。沙耶は自分で扉を開けようと近づくと、素早く護衛が割り込んで護衛が扉を開けた。

 中には巨大な円卓が中央ドンとあり、展示にはシャンデリアが吊されていた。円卓の上には色とりどりのご馳走が並び、床は当然のように赤い絨毯が敷かれていた。

「よう」

 沙耶が軽く絶望していると、よく知った声が沙耶の耳に届いた。沙耶が円卓を見ると、ヤマトが堂々と座ってご馳走を食べ漁っていた。

「・・・あの、沙耶様。この方は本当に沙耶様のお知り合いなのですよね?その、宝石のような沙耶様とは不釣り合いな、その、下賤な・・・」

 ルナが最大限沙耶を気遣いながら聞いた。沙耶は頭の中で話を纏める前に説明を諦めると、ルナに一度頷いてからヤマトの隣の席に座った。

「食ってみろよ、旨いぞ」

 ヤマトが差し出したのは、油の乗った骨付き肉。小さな手でそれを受け取った沙耶は、小さな口で肉をかじった。唇に油が付き、大変幼いかんじになるとルナがハンカチで沙耶の唇を拭った。沙耶が一礼するとルナは顔を背けた。沙耶は首を傾げたが、気にせず食べ続けた。

 ちなみにヤマトだが、彼は海賊だが沙耶とティアレスを発見したという計り知れない功績と、エンペラー沙耶による養護(ジェスチャー)により一時不問となっている。

「沙耶のお袋さんが全ての発端みたいだな」

 ある程度食べた所で、ヤマトが切り出した。

「お袋さんは、産んだは良いが守りきれないと悟ってティアレスと同じ場所に沙耶を隠したらしい。その後でティアレスと沙耶の居所を知ってる2人がどっちも死んだみたいで、誰も居所が分からなくなったらしい。んで、俺が見つけたと」

 頷きながら話を聞く沙耶。

「10年沙耶は閉じ込められてたんだろ?暇じゃなかったのか?」

「・・・シミュレーター、あった」

「だからティアレスを動かせたのか。なるほどな」

 シミュレーター、で沙耶はある重要なことを思い出した。

「『J』は・・・?」

「J?」

「シミュレーターの、AI」

「・・・友達だったのか?」

 頷く沙耶。

「分かった。用事のついでに探してきてやる」

 沙耶の顔が明るくなった。その表情だけで、ヤマトは少し良い気分になった(美形の能力、無自覚魅了)。しかし咳払いをして真剣な顔をすると、沙耶をしっかり見据えて言った。

「話は変わるが、沙耶。お前記者会見するらしいな」

「うん」

「お前は絶対に、皇帝として自分の言葉で語らなきゃならない」

 

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