陰キャが皇帝になった   作:不知火勇翔

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感想、誤字脱字ありがとうございました。この作品はお二人によって再び着火しました。本当にありがとうございます。


第6話

 朝。沙耶とヤマトは例の宮殿を抜け出し、新都『シースルー』の街を歩いていた。沙耶は道が分からないためヤマトが手を引きながらズンズン歩き、沙耶はその後ろをピッタリとくっついて歩いていた。

「今頃大騒ぎだろうな。なにせ前代未聞の、皇帝の誘拐だ」

「あはははは・・・」

 久し振りに感じる人の手の感触を気にしながら、沙耶は得意の愛想笑いを浮かべた。

 昨日の夜、ヤマトは沙耶に、記者会見では自分の言葉で語るべきだと説いた。しかしイマイチ沙耶に伝わらなかったため、ヤマトは今日の朝宮殿の外に沙耶を連れ出した。政府の顔を潰す行動な上に、そのまま沙耶が暗殺されでもしたら海王星は終わりなのだが、ヤマトにとっては『皇帝が自分の考えを持たない』ということの方が気に食わなかったのだ。

「総理大臣とかひっくり返ってるんじゃねぇか?」

「ははは・・・」

 沙耶は愛想笑いをしながら街を見渡していると、路地裏で2人の男が袋叩きにあっているのを目にした。

「あー、アレか?」

 ヤマトも気づき足を止めると、沙耶に説明した。

「新都じゃ報道を見た奴らが海賊狩りをしてんだよ」

 海賊狩り、というフレーズに沙耶は驚き、ヤマトを見た。

「俺は大丈夫だ。『海賊らしいこと』を一切しなかったからな。顔を覚えられてないんだよ。ほら、さっきまで誰も絡んでこなかっただろ?」

 沙耶が周囲を見渡すと、確かに誰かを探す人は多くいたが、ヤマトを見て表情を変える人は1人としていなかった。

「・・・まぁ日頃のツケが回ってきたんだな」

 

 

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 海賊『大和・リース』による皇帝の誘拐。

 外出してきます、という沙耶の書き置きが発見されたがそれで収まる話ではない。大統領はその情報を聞いた瞬間膝から崩れ落ちそうになり、仮メイド長である『ルナ』は自ら死んで罪を償おうとした(周りから止められたため未遂に終わる)。

 そして各々が各々の最善を尽くし、沙耶を探し始めた。

 

 

 

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「サチだ」

「よろしくね」

 ヤマトに連れられて町外れの廃工場まで来た沙耶は、そこで『サチ』という少女から自己紹介を受けた。

「あ、お、おはようございます!ぼ、僕の名前は、その・・・」

「知ってる。『沙耶・アルモンド』でしょ?」

「は、はい!」

「ん。よろしく」

 沙耶が状況を飲み込めず首を傾げると、サチ、と呼ばれた少女が説明した。

「何があるか分からないって顔だね。大丈夫。今から君は、私達革命軍について知ってもらうだけだから」

「革命、軍・・・」

「そ。革命軍。付いて来て」

 サチが手招きし、その後ろにヤマトと沙耶が続く。そのまま廃工場に入るとサチは地下室への通路に入り、やがて血生臭い空間に出た。

 そこは病院だった。

 看護婦が走り回り、医者が叫ぶ。包帯を身体に巻いた人間がそこら中に転がっていて、多くの人間の呻き声が空間をコダマしていた。

「一昨日、戦闘があったのよ。怪我人は少なかったけど、それでもコレ。あ、病気とかは最大限気をつけてるから気にしないで」

 沙耶にとっては前世で見慣れた光景だったが、それでも酷いものは酷い。昨日の夜、幸せな気持ちでご馳走を食べていた自分を思い出して、心の中で後悔した。

「みんな~!例の皇帝陛下だよ~!」

 サチが声を張り上げると、その場にいた全員が動きを止め、ヤマトの後ろに隠れている沙耶を見た。中には立ち上がっただけで動かなくなる人や、死んだ目をした人間が生気を取り戻したりもした。そして動ける怪我人の多くが沙耶を囲んだ。

「皆。ちょっとだけ時間を貸してほしい」

 ヤマトが言葉を発すると、集まった全員が表情を引き締めた。

「今日、沙耶は記者会見をして正式に革命を宣言する。ただコイツは外の世界に出たばかりで何にも知らないんだ。お前らのことを、聞かせてやってくれ」

「じゃあ俺から」

 ヤマトの言葉に、松葉杖の男が声をあげた。

「俺は海賊に足をちょん切られた。俺の背が高いからだそうだ」

「次は俺だ」

 また別の人間が声をあげた。

「俺は母親を目の前で殺された。理由は覚えてないが、酔っ払いの成り行きみたいなものだったと思う」

「俺は家族を3人殺された」

「私は弟を」

「俺は兄を」

「メッタ打ちだった」

「略奪」

 沙耶は呪詛を浴びせられ、陰キャという心理的性格を越えた言葉を放った。

 

 

 

「止めて」

 

 

 

 その声が酷く冷たいものだったため、呪詛が止まった。

「そんなのは聞きたくない」

「・・・ガキかよ」

「復讐に拘るのが『大人』じゃないよ」

「バカにしてんのか!!!」

 輪の中にいた少年が沙耶を突き飛ばした。そして両肩を掴み、絶叫した。

「俺らは海賊に復讐できるなら死んだって良い!その覚悟をバカにすんじゃねぇ!皇帝なら、ちゃんと聞け!」

「いやだ」

「甘えてんじゃねぇ!」

「甘えてない!」

 沙耶は両肩を掴む少年をしっかりと見据えて、言い返した。

「防衛戦、ゲリラ戦、塹壕戦。色んな戦場を経験した!どれこもれも、どうして戦ってるか分かんなかった!」

 それは前世の従軍時代。エースと呼ばれた男の顔だった。

「殺し合いに意味なんてない!笑ってこその人間だよ!恨みは人を救わない!」

 強烈な光は、呪詛を吐いていた彼らには毒でしかなかった。ほとんどの人間が沙耶に対して怒りを覚え、そして一瞬で暴発寸前まで高まった。しかし沙耶も全てを忘れるほどに怒っていた。

「僕は皆に笑ってほしい!!!!」

 沙耶は何故戦争が起きるのか、個人間の闘争が起きるのか不思議で仕方なかった。それが余裕のある人間の考えと分かった後は、どうすればその余裕が平等に渡るか考えた。しかし1人では結論なんて出なかった。

 しかし沙耶の中には『熱』だけが残った。

 闘争に対する、『熱』。

 沙耶もまた、『熱』を持つ1人だった。

 そして『熱』は、目の前の少年にも伝わった。

「ならやってみせろよ皇帝!ティアレスで!」

 魂の絶叫。沙耶は正面から受け止め、目を見開き、極度の集中状態の中で『皇帝の言葉』を告げた。

「!?・・・・・・分かった。一瞬で終わらせる」

 戦争なんて沙耶はどうでもいい。しかし止まらないのなら、止めようが無いなら早く終わらせるという結論に沙耶は至った。

 

 

 

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 記者会見が始まって10秒。

 政府閣僚がカメラの前に立つ中、皇帝の姿が無いことに記者はザワついていた。

「あ~、ごほん」

 

 

 

「ちょっと待った~!!!!」

 

 

 会見する部屋にはカメラが通る用の大きな扉があるのだが、その扉を開け放ちヤマトと、その後ろから沙耶が登場した。カメラが一斉にヤマトと沙耶を映し、その映像は海王星中のテレビに映った。

 ヤマトはズンズン進み、ビクつきながらもシッカリとした足取りで沙耶が続いた。

 総理大臣は昨日までの沙耶と顔付きが変わっていることに気づき、少し微笑んだ。

 ヤマトが総理大臣の隣に立ち、閣僚が慌てる中で沙耶はコッソリ(ぜんぜん隠れていない)と真ん中に立った。

 総理大臣は頷いて司会進行に合図を送ると、察した司会が記者会見を始めた。

 司会の言葉とともに総理大臣がまず前に立って話し、革命を宣言した。革命の瞬間には記者も興奮のあまり騒いだため騒がしくなったが、司会が『代表質問』を始めた瞬間、場が静まり返った。

「・・・はい。ではそこの方」

「鳥野新聞の加藤です」

 勿論『鳥野新聞』とやらは政府寄りの会社だ。

「・・・皇帝陛下を保護された経緯をお聞かせください」

 沙耶が不要の質問。しかし国民が欲しいのはソレじゃない。

「皇帝陛下!一言お願いします!」

 記者の1人が、今までの人脈や記者としての人生すら捨てて叫んだ。

「皇帝陛下!どうか!どうか!」

 また1人が叫んだ。それがまた1人と続き、会見は沙耶の声が無いと進まなくなってしまった。すると沙耶はおもむろに一歩前へ出ると、陰キャなためキョロキョロしながら、マイクを口元に近づけた。そして無言。沙耶の言葉を待っていた記者が唇を噛むぐらいの勢いで押し黙ると、沙耶はガクガクと震えながら、震える声で宣言した。

「皆が、・・・皆の笑顔を・・・取り戻したいです」

 100%の善意で放たれた言葉は、記者だけでなく潤いを求めていた『テレビを見ていた聴衆』の胸すら打ち抜いた。

 

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