一言で言えば、海賊のボスは無能だった。
記者会見の日、必ず沙耶がいると分かっていながら攻めなかったのは海王星中から兵士をかき集めていたから。そして兵力が十分貯まったと判断した海賊のボスは、正面から新都を攻めると決断した。作戦も何も無い物量戦。それが彼の立てた作戦だった。
海賊内部ではティアレスを知る人間の多くが作戦に反対していたが、海賊のボスはこの作戦を押し通した。いわく、これ以外の作戦が思いつかないから。
勝てる根拠の無い戦い。ティアレスの戦果は未知数という中での一大決戦。海賊の多くが、少なからず不安を抱えていた。
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新都『シースルー』は静寂に包まれていた。
市民の多くがすでに地下のシェルターに避難しており、シースルー上空にはティアレスを含め、海王星にあるほとんどの人型ロボットが海賊を待ち構えるように展開していた。宇宙戦艦もシースルーの周辺に広く展開して警戒している。
そして正午。雲を突き破って数十隻の艦隊が姿を現した。
「全軍撃てぇ!!!」
総理大臣の号令。展開していた艦隊の砲門全てからビームが放出され、ミサイルパックからは大小さまざまなミサイルが発射された。海賊も応戦して打ち返し、浮き足立っていた兵士を置いていくように決戦の火蓋が切って落とされた。
沙耶も凄まじい動きで操縦を始め、目で全てのミサイルを避けながら敵の戦艦に突っ込んだ。
ティアレスの手元にはトンファーが一振り。
これはティアレスの動きが味方にも追えないため、飛道具を禁止されたためだ。刀だと折れるので、トンファーで殴ることになった。ちなみに沙耶は、トンファーが折れたら近くの敵の足を掴んで振り回す予定でいる。
流星のようなティアレスの進軍に海賊の多くがバタつくが、冷静な人間は当たらずとも退路を防ぐつもりで火器をティアレスに向けた。
目を疑うような十字放火(前後左右上下で6方向から放たれているため正確には違う)。その全てを沙耶はシミュレーション通りに避けきり、手にあるトンファーで戦艦を叩き割った。同時にトンファーが折れ、トンファーを放り投げたティアレスはさっき割った戦艦を蹴り落とし、下にいたもう一隻にぶつけた。これで2隻。
「化け物かよ!!!」
見ていた海賊の1人が叫んだ。
沙耶があと4隻潰してから休憩にするかと考えていると、沙耶の周りを黒塗りの機体が取り囲んだ。その数20。全てがティアレスと同じ造形をしていた。
沙耶が首を傾げると、一瞬で20機が連携した動きで沙耶を攪乱し、ティアレスには及ばないもののほど同等のスピードで攻撃を開始した。
沙耶が経験したシミュレーション以上の連携。沙耶はここで、初めて被弾した。
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海王星の希望『ティアレス』が同じような機体20機に翻弄されている。
テレビで応援していた人は両手を組んで神に祈り、シースルーにいて見上げていた兵士はただただティアレスの勝利を望んだ。
そんな中、生身の状態でロケットエンジンと爆薬を背負う者達がいた。彼らは沙耶に『笑ってほしい』と言われた人達だ。
彼らは苦戦している沙耶を見上げ、1人が叫んだ。
「ちょっと待ってろ!!今助ける!!!」
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沙耶は驚愕し、そして天狗になっていた自分に気が付いた。
AIが最強と思っていた。しかし現実は違った。AIは人間よりも高速で計算できるが、それは経験というデータを元にしている。そしてそれは人間も同じ。無意識下の思考も合わされば数倍考えている人間の経験則は、沙耶の知るAIの連携を軽々と凌駕していた。
退けばそこにミサイルが置いてあり、踏み出せば逃げられ別の相手が背後を突く。完全に1人ではどうしようもない状態だった。
他の人型ロボットに乗る兵士達は海賊に足止めをくらっていて助けには行けないでいるため、沙耶は敵陣の中で完全に孤立していた。
「ぐっ・・・」
また被弾。あの爆弾にも耐えたティアレスだが限度はある。このままでは擦り潰される。
「ん?」
沙耶は視界の端に、生身の人間が紛れ込んでいるのに気づいた。
「は?え?」
接近してみると、数日前、記者会見の日に沙耶が笑ってほしいと言った人達だった。彼らは笑顔で親指を立てると敵の1機に近づき、そして自爆した。
あまりの状況に付いていけない沙耶。するとワラワラと沙耶の知る人達が続き、そして自爆していった。
不意打ちの爆発で連携が崩れた。沙耶はその一瞬で3機を殴り倒したが、未だに思考が追いついていなかった。
「馬鹿野郎ども!!!」
通信越しに、ヤマトの絶叫が響いた。沙耶が下にある海を見ると、海から巨大な戦艦が姿を現した。
従来の設計とはかけ離れた造形。羽が付いておらず、そして全体的に筒状の形をしていた。また本来なら戦艦1隻につき2,3体の人型ロボットを載せるのだが、その船は6機ぐらい載せれる大きさだった。
名前は『ジーニアス』。天才の意味だ。
その鑑橋(ブリッジ、司令室)でヤマトが叫んでいた。
「クソ!クソ!あの馬鹿野郎が!」
肘置きを殴りつけ、叫ぶヤマト。
ヤマトの夢は『理不尽を砕き、自由をバラまく船』の艦長になること。その理不尽、というのがまさに彼らのような境遇のことで、『ジーニアス』は彼らを助けるために神様からオマケとして貰った船なのだ。なのに特攻を許してしまった。
ヤマトは特攻の件を知らなかった。知っていたら確実に止めていた。だからこそ知らなかった自分と、そして特攻を選んだ彼らを罵倒した。
「馬鹿野郎!!!本当に馬鹿野郎!!!」
今も多くの人間が、次々と自爆特攻で命を散らし続けている。
今世のヤマトの、最初の失敗だった。
「全速全身!全部巻き込め!」
ヤマトが叫び、操舵士である鉄仮面(無表情)の女性が「了解」と応えた。同時にジーニアスが猛進。逃げ遅れた人型ロボットを跳ね飛ばしながら進み、戦場を荒らした。
多くの鑑砲にさらされるジーニアスだったが、耐久力はティアレス以上なため無傷で進路の障害となるロボットや戦艦を跳ね飛ばしていく。
まさに蹂躙なのだが、ヤマトの顔が晴れることはなかった。
「沙耶!お前は・・・沙耶?」
ヤマトが沙耶の名前を呼ぶが、ディスプレイに沙耶の顔が映ることはなかった。ヤマトが通信を確認すると、通信が向こう側から切られている表示になっていた。仕方ないので目視でティアレスを見ると、ティアレスが変貌していた。
身体の端々が液体のような流動性を持ち、脈打っていた。そして瞳の色も赤と緑のオッドアイとなり、複数の機体から攻撃を受けても微動だにせず、直立して固まっていた。
「沙耶!おい!どうしちまったんだよ!」
ヤマトが叫ぶが、聞こえるハズはない。歯噛みしながらメッタ打ちにあっているティアレスを見て「助けるぞ!」と叫んだが、操舵士は断った。
「・・・いえ。恐らく大丈夫だと思われます」
「は!?攻撃されてるだろ!」
「よくご覧になってください。全ての攻撃が、水のようになった腕部によって防がれています」
ヤマトがティアレスの腕部を見ると、確かに五指だったものが今は触手のような状態となっていて、あらゆる攻撃を触手で弾いていた。
物理法則を無視したような現象。戦時下で極限の集中状態にあったヤマトは、あることを思い出していた。
「・・・流体、金属」
それはヤマトがティアレスのコクピットに乗った時。沙耶が見つけたプリントには『流体金属』の文字があった。流体、つまり液体状の金属。そして触手。
「・・・あれがティアレスの機能なのか?」
ティアレスの両腕が元の五指に戻ると、今度は手のひらを合わせた。
すると周囲を舞っていた機体の全てが、突然停止した。そして動かなくなった機体の脇をすり抜ける形で包囲から出たティアレスは、敵の攻撃を回避しながら戦場を横断し、そのまま敵の最高司令官がいる船すら通り過ぎ、そして海賊が展開している部隊の端にまで飛び去った。するとどうだろうか。沙耶が通った道筋の近くにいた機体や戦艦が次々と動かなくなり、戦場の真ん中で何もせずボケーッと突っ立っているだけのカカシに変貌していった。まるで戦う意志を強制的に奪われたような、そんな動きだった。
「・・・おいおいおい・・・」
ティアレスは足を止めず、今度は影響の及んでいない部隊へ近づき、次々とカカシにしていった。
「・・・逃げるぞ『燐火(リンカ)』!あれはヤバい!」
「了解!」
燐火、と呼ばれた少女が舵を思いっきり回し、ジーニアスが全速力で回頭を始めた。
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かつて『宇宙軍総司令』であった男は神になるため8機の『Tear Less』を作った。それらは1つの特別な機能と別個の機能を有しており、海王星に派遣されたティアレスは別個の機能として『流体金属』を持っていた。そして8機の『Tear Less』の全てに搭載された特別な機能というのが、『人類から強制的に争いという概念を奪う』という機能だ。これは『宇宙軍総司令』とその血族にしか使えない機能として設定されていたため、やがて血族狩りが始まったのだがそれは別の話。