陰キャが皇帝になった   作:不知火勇翔

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感想、ありがとうございます。嬉しかったです。


第8話

 まだ慣れない朝日に肌を焼かれ、沙耶はようやく目を覚ました。まぶたを開けると見慣れた天蓋があり、ここが例の宮殿の、寝室にあるキングサイズのベットの上だということを遅れて認識した。

 ガンガンと揺れる頭を気にしながらベットから出ようとする沙耶だったが、ふと右手の感触に気づいて起き上がるのを断念した。

 寝たまま右を見るとルナがおり、沙耶の両手を握りながら(座ったまま)寝落ちしていた。その姿が自分の母親と重なり、しかし首を振って雑念を吹き飛ばした。

「・・・あの」

 か細い声で沙耶がルナに声をかける。すると突然ルナが目をかっぴらき、沙耶の目が開いているのを見て滂沱の涙を流し始めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・グスッ・・・・・・・・・・・・うぇぇぇぇん」

「・・・あの」

 沙耶がたまらず声をかけるが、ルナは泣くばかりでマトモに会話できる状態ではなかった。どうしたものかと考えていると、ルナとはベッドを挟んで反対側にいたヤマトがベットに腰掛け、沙耶に話しかけた。

「よう」

「・・・ん。ヤマト」

「身体は大丈夫か?」

「身体?」

 沙耶は首を傾げながら、空いている左手を掛け布団から引き出す。そして手のひらをクルクルさせるが、いつも通り死体のように白い肌だった。

「あー、昨日のことは覚えてるか?」

 ヤマトが訪ねると、沙耶は天蓋を眺めながら昨日の記憶を掘り起こした。

「・・・たしか。皆が特攻を、仕掛けて。ムシャクシャして・・・・・・・・・あと何だっけ」

「覚えてないのか?」

「・・・うん」

「・・・ってか、普通に喋れるじゃねぇか」

「!?」

 言われて、沙耶は自分が『J』と話すような気軽さでヤマトと会話しているのに気づいた。・・・寝起きというのもあるが、ほとんど奇跡のようなことだった。

「この調子で頼むぞ。ウチのクルーになるんだからな」

 ヤマトはポケットから携帯を取り出すと、昨日の画像を見せた。

「それでだ。沙耶。・・・お前、本当によくやったな」

 映像ではティアレスが戦場を飛び回り、海賊機を次々と無力化していく映像が映っていた。

「普通、戦争ってのは討ち漏らしがあるものだ。シンガリが頑張って本隊を逃がすからな。ただ、沙耶のアレはシンガリに一切の妨害を許さなかった。まぁ近づいただけでヤラレるんだから当然なんだが、結果で言えば昨日の討ち漏らしは0だ」

 その意味が分かるか?とヤマトは聞いた。

「海王星の海賊のボスは、全兵力を集めての一大決戦に望んだ。そして帰ってきた兵士はいなかった。つまりもう海賊は再起不能ってワケだ・・・勝ったんだよ、俺達は。まぁ沙耶が途中でぶっ倒れなかったら完全勝利だったな」

「・・・(そっか。途中で寝落ちしたんだった)」

 沙耶は昨日の自分を思い出し、今の状況に納得した。

「あとは海王星の兵による残党狩り、それが終われば海王星にいる海賊以外は全滅だな」

 沙耶は目を見開き、ヤマトを見た。

「ただ、ここからが本題1なんだがよ」

 ヤマトはスマホを操作すると、怯える人間の動画を沙耶に見せた。

「コイツは沙耶の不思議パワーにヤラレて、そのまま捕虜にされた海賊だ。コイツは、何故か争うという選択肢が頭の中からスッパリと抜け落ちていた」

 動画では尋問官が机を叩き、海賊がそれに怯えて泣く様子が映っていた。ヤマトがフリックするとまた別の海賊が涙を流しながら謝っており、また別の男は靴を舐めながら服従を叫んでいた。

「横暴な海賊だからギャグのような『改心』に収まっているが、俺から見ればアレはもう廃人寸前の状態だ。沙耶。あれはもう二度と使うな。アレは人類から『争うという選択肢』を奪い去る、ひいては『自由を奪う』ものだ」

 沙耶は頷くと、自分の左手を見た。

「・・・大和、さん、は「ヤマトでいい」、は、『争い』が好き?」

「・・・まぁ、嫌いじゃないな。殺し合いはどちらかが一回こっきりだが、高め合う場合は違う」

「・・・そっか。分かった」

「・・・あぁ。そうしてくれると助かる。なにせウチのクルーになるんだからな」

 沙耶が微笑むと、ヤマトもニヤッと笑った。

「でだ。本題2なんだが・・・・・沙耶。海賊が普段何を食ってたか知ってるか?」

 首を振る沙耶。

「なんとな。『地球』から送られてきた食料だ。正確に言えば、地球の方から、だな」

「地球・・・」

 海賊は惑星間の通信ケーブルを切断し、また制空権ならぬ『制宙権』、宇宙の交通を支配し遮断している。そのため海王星からは地球もそうだが、一番近い天王星の情勢すら分からない状況だ。そのため海王星の人間は海王星のことしか知らないまま生きているのだが、ヤマトは違った。

「そこから分かることは1つ。海賊が海王星以外にもいるってことだ」

 沙耶は目を見開いた。

 海王星は太陽系の辺境。ヤマトの話が本当の場合、太陽系の辺境などより多くの海賊が地球付近に集まっていることになる。

「で、だ。俺の『船』はこれから地球へ向かう」

「!」

「順を追って説明するとだな。まず、海賊ある所に不自由在り。それを踏み砕くのが俺と俺の『船』。ただ今は戦力が足りない。だろ?少なくとも、そんな海賊の本部みたいな所に乗り込むには戦力不足だ」

「・・・・・・」

「俺は悩んだ。自由にするってことは、それだけ武力がいるってことだ。だが俺は大所帯になることを望まない」

 ヤマトはニヤッと笑った。

「だから俺は決めた。沙耶。ティアレスみたいなのが、惑星1つ1つに配られてるんだが、それを集めた船なんてカッコ良くないか?」

 色とりどりのティアレスが並ぶ姿に、沙耶は胸を高鳴らせた。

「海賊を蹴散らしながらティアレスを集める。楽しい旅になりそうじゃねぇか?」

「・・・うん」

「だろ?なら出発だ」

 ヤマトが立ち上がったため、流石の沙耶も驚く。

「え。ティアレス、持ち出して良いの?許可、とか・・・・」

 ティアレスは別名『皇帝機』。海王星の希望であり、次代の抑止力でもある。沙耶はあの総理大臣が手放すとは到底思えなかった。

「許可?俺の信条は『自由に生きること』だぞ?ってか、皇帝サマの勝手を誰が止められるんだ?」

「えぇ・・・」

 ヤマトはまた、ニヤッと笑った。

「今日の夜。あの戦場で俺達は待っているから、早めに来いよ」

 言い終わると、ヤマトは部屋から出ていった。

 

 

 

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「なりません!!!」

 沙耶の頭を膝に乗せながら、沙耶の説明に対してルナは速攻でNoを叩きつけた。

 ルナはあの皇帝誘拐事件の際、腹を斬って詫びる覚悟をした。それは周囲の人間に止められたワケだが、結果沙耶の身体の一部に触れていないと安心できないレベルの心配症となっていた。膝枕もその一環である。

「・・・ヤマトが呼んでるし」

「確かにヤマトさんは陛下にとって恩人かもしれませんが、それとコレとは話が違います!」

「どうしても?」

「どうしてもです!」

 ちなみに沙耶は、家族レベルの人間とは普通に話せる内弁慶(良い意味で)だ。なのでルナや『J』とは普通に話せたりする。

「・・・そっか。なら、『眠って』」

 沙耶が呟くと、ルナは突然意識を失った。

 

 

☆☆

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 通り過ぎる人に対しては普通に挨拶し、警備員などは『会得した超能力』で無力化させながら歩くこと3時間。沙耶は1人、王宮を抜け出してロボットの格納庫へ辿り着いていた。

 そのままティアレスのコクピットに乗り込んだ沙耶は、操縦桿を倒してティアレスを起動させた。

 慌てながら立ちふさがる人達も超能力でどかし、沙耶は外壁も命令で開けさせると、そのまま格納庫から飛び出した。

 少し飛び、ようやくヤマトの船に辿り着いた時には深夜の時間帯だった。

 ティアレスを格納して沙耶が降りると、船の格納庫で待っていたヤマトが沙耶に対して両手を合わせた。

「悪い!!普通にティアレスを運び出す算段とかつけてなかった!!」

 沙耶は苦笑すると、「・・・なんとかなったし、別に・・・」と気にしていないことを言った。

「本当に悪かったな・・・。とにかく沙耶も来たし、『ジーニアス』出航だ」

 ヤマトがスマホで操舵士の少女に言うと、その少女は凄い複雑そうな顔をして言った。

「・・・その。年頃の女性が、本鑑にへばりついているのですが・・・」

 スマホの画像に写されたのは、カブトムシのように『ジーニアス』の壁に張り付いたまま動こうとしないルナの姿だった。

 

 

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