陰キャが皇帝になった   作:不知火勇翔

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第9話

 転校生が来るらしい。

 夏休み前のこの時期に?と同級生が疑問を口にすると、耳敏く聞いていた担任教師は説明を始めた。

「なんでも、今まで自宅の屋敷に引き籠もっていたらしい。だから皆、彼には優しくしてやって欲しい」

 何だ、坊ちゃんなのか。

 興味を失った私が窓の外を眺めていると、「入って来てくれ」という教師の声とともに、ピンク髪の美少女が教室に入ってきた。

 背丈は私と同じぐらい。髪は長めでピンク色。右目が翡翠のような翠色で、左目はガーゼで隠していた。制服が背丈よりも大きいものだっため、なんだか彼氏の服を剥いで着た感が出ていた。

「『沙耶・アルモンド』君だ。ほら、自己紹介」

 君?

「は、はい!その・・・(記者会見ができて自己紹介ができないハズないだろ!やってみせろよ僕!!!)・・・・沙耶、です・・・・」

 物凄く小さな声で、沙耶、です・・・・、と転校生が言うと、教室が盛大に湧いた。その歓声に震える沙耶とやらの表情が小動物のようで、クラスの男子連中は更に湧いた。

「ほら。君の席はアッチだよ」

 担任教師は親のような顔で沙耶の背中を軽く叩き、席につくように促した。うせやろ?あの人、学校の中でもダントツの鬼教師なんだよ?

 沙耶はキョロキョロしながら私の後ろの席、最後尾の窓側に移動し、座った。そして何かをブツブツと言い始めたが一切聞き取れなかった。

「じゃあ、HRを始めるんだが、その前に。御影」

 御影、というのは私のことだ。

「はい?」

「はい?じゃない。はい、は簡潔に言え。それで御影、お前は沙耶に学校を案内しろ」

「は?」

「は?じゃない。やれ」

 この担任は私の叔父なのだが、私の扱いが雑すぎて困る。いきなりソレは普通にクソだろ。

「教師なら自主性を尊重するべきでしょ」

「少なくともお前に自主性はいらない」

「どうしてですか?」

「グラウンドをバイクで突っ走って登校した自分の胸に聞いてみることだな」

 今朝の話だ。

「まだ言ってるの?私は遅刻しそうだったから走った。以上。っていうか校則に『校内をバイクで走ってはいけません』なんてルールはどこにも無いよ?」

「そりゃあ常識だからな。とにかく、頭を下げるのは俺がするから、お前は沙耶さんを丁重に扱え」

「先生!俺、案内しますよ!」

「先生俺も!」

「お前らはダメだ。沙耶が怖がってるだろ?」

 クラスの全員が沙耶を見れば、確かに手を挙げた2人には良い顔をしていなかった。

「御影。頼んだからな」

 

 

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 天王星には国が無い。

 惑星1つで1つの衆であり、海賊によって地球との通信手段と交通手段を失った今でも『宇宙政府の1衆』を続けている真面目な星だ。そんな場所のために天王星には明確な指導者が立たず、延々と内側で争い続けている。

 醜い争いはやがて第2第3の粛正と悪政と不信感を呼び、国民の心は行政府から離れてしまっていた。

 政争に巻き込まれたTear Less『ローズクイーン』はやがて、『誓いの心』が無ければ私は動きませんので、と言い残して自らの機能の全てを停止させた。

 動かなくなったローズクイーンを天王星の人間はどうすることもできず、やがて『誓いの心』なるものを持つ人間を探し回った。しかし見つけられず、自力で探すのを諦めた行政府はローズクイーンを中学校の庭に起き、起動できるならやってみろ中学生、とでも言うように中学生に触らせた。

「それがコレ」

 私が指を指す先には20m弱ほどの深紅の巨人がいて、下を向き片膝を地面に付けていた。

「これが・・・」

 沙耶はローズクイーンに興味があるのかフラフラと近寄ると、そのままローズクイーンに触れた。するとローズクイーンが謎の駆動音を響かせ始め、少しして瞳の部分が緑色に光った。

 ・・・起動、したのだ。

「・・・あなたって・・・」

 『誓いの心』があるの?そう聞こうとしたが、それより先にローズクイーンが電子音で声を作って喋り始めた。

「おはようございます、高貴なお方」

「・・・うん」

 まるで分かっているかのように、沙耶は頷いた。

「・・・まさか、『アスガルド家』のお方にこうしてお会いできるとは」

「・・・うん」

 アスガルド家、というのは私も知っている。

 たしか旧宇宙軍の総司令の家名だ。

「その・・・私を動かしに来たのなら諦めてください」

「え?」

 ローズクイーンは沙耶に対して断りを入れた。

「アナタには『誓いの心』がありませんので」

「『誓いの心』って・・・?」

 沙耶が聞く。するとローズクイーンは手を沙耶に翳した。

「言うなれば覚悟です。アナタにはソレが無い」

「・・・そっか。・・・残念」

 スッと沙耶が退くと、「では」と言ってローズクイーンは再び下を向いて動かなくなった。駆動音が止まり、やがて静かになった。

 

 

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 宇宙軍の天王星支部。その中核は新型の人型ロボット『ガリア』であり、そのガリアには致命的な欠点があった。

 それは設計の都合で足を細くしすぎたことによって足の機能を失っていることだ。つまり地上では自重を支えきれないということであり、地上でも空中戦を余儀なくされるという無駄に非効率な戦いを強いられるということなのだ。

 天王星の周りをウロウロしている海賊が今まで宇宙から攻めてきたためガリアは弱点を突かれることはなかったが、今回は違った。

「・・・嘘、だろ?」

 海から上がってきたのは、漆黒の機体。海賊の一般兵が登場する『グーラ』だ。このグーラはガリアとは対照的に、徹底して重装備になるように設計されているため宇宙ではガリアに機動性で一歩劣るが、地上に上がればガリアは立てないため圧倒的なアドバンテージを得ることとなる。

 そんなグーラが上陸している。

 展望台で海を眺めていた観光客はひっくり返り、そしてすぐに行政府に通報した。

 それを知った行政府はすぐにガリアを送ったが全機が帰って来ず。

 全機撃墜したグーラ総勢8機はゆっくりと陸を歩き、真っ直ぐにローズクイーンの置かれた都市へ向かった。

 

 

 

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 ローズクイーンが動いたため色々聞かれた沙耶だったが、彼は本当に何も分からないの一点張りで通し、少しして解放された。

「・・・災難だったね」

 私は一応案内役を任された立場なので、囲まれて質問される沙耶を見ていたのだが、言語化できない気苦労が沙耶から感じ取れた。

「・・・ん」

 小さく頷いた沙耶はさっきまで囲んでいた彼らを見て、ポツリポツリと話し始めた。

「・・・皆、ティアレスを待っている、んだね」

「・・・そうかもね」

 私が産まれる以前から動かないロボットだったが、生で見た老人どもは今でもTear Lessが平和の象徴であることを信じている。その熱が無意識に若者にも伝播しているのは私も感じていた。

「・・・アンタはどう思う?」

「?」

「動かないロボットに、延々と期待するっていうの。見てて辛いでしょ?

「・・・僕は、皆が笑っていたら、それでいいかな・・・」

「は?」

 素で聞き返してしまった。だってソレはアイツの言葉なのだから。

「笑顔は人を救うからさ」

 またアイツの言葉。

「・・・アイツみたいなことを」

「アイツ?」

 聞いてきたので、知られても良いかと思ったので私は話した。

「私を置いて死んだ大馬鹿者がいたのよ・・・」

 私には前世がある。その時の私は今じゃビックリするぐらいの陰険で、好きな男のためなら全てを捨てるし壊すし殺す女だった。

 そんな私だがアイツには正直でいられず、戦争に行くアイツを止めることができないどころか、初めてのキスに惚けてアイツが戦争に行ったことすら気付かなかった。

 それからしばらくして、アイツの遺品(遺体は誰も持って帰らないし誰のかも分からないため放置される)だけが帰ってきた。

 私はすぐに、後を追って自殺した。

 少しでも早い方が地獄への列で近くに並べると思ったからだ。

 そしたら今世で目が覚めた。

 すぐに天王星を探し回ったがアイツには会えず、今でも私はアイツを探している。

「・・・変、でしょ?転生とかさ。ほんと、どうしてアンタに話したんだろ私」

 真剣な顔をして聞いていた沙耶は、何かを恐れるような顔をしながら私に聞いてきた。

「・・・ちなみに、そのアイツってのの名前は?」

「ん?■■■■■■■だけど?」

 沙耶が口元を両手で覆い、顔を青ざめた。そしてすぐに後ろを向くと、何もない場所へ向かって走り出そうとした。

 まるで私から逃げるように。

「ちょっと待って」

 私が腕を掴む。

 異常なくらい細い手首だったがソレより。

「何か知ってるみたいだけど、もしかしてアイツのこと知ってるの?」

 私が聞くと、沙耶は私と目を合わせずに言った。

「し・・・知らないから!そう!転生とかヤバコイツと思っただけ!」

 沙耶の声色から察するに、私に対して酷く怯えていた。

 そしてこの反応には、途轍もなく見覚えがあった。

「・・・・まさかさ、アンタって■■■■■■■?」

 分かりやすくビクッと反応する沙耶。それを肯定と見た私の心は、一気に燃え上がった。

「・・・・へー?私から、『また』逃げるんだ?」

「ち、違う!僕は君に対して責任を取れないと思ってただけだから!」

「責任なんていらないよ?全部私が仕切るんだから」

「流石に子供とかはムリ!!!」

「えー?だって若い男女の同居だったんだから、それが自然じゃないの?」

「君の全てが異常だからね!!?分かってる!?」

「愛を育む男女なんだから普通だと思うけど。■■■■■■■■だって私が嫌いなワケじゃないんでしょ?」

「・・・・それは」

「キッパリ否定しないでくれるなら、私は■■■■■■■■から全部を奪うからね?」

「完全に悪役のセリフじゃん・・・・」

 こんな可愛い容姿になっちゃって。これはこの後が楽しみだ。せいぜい良く鳴いてもらおう。

「だから悪役の発言だから!!!」

「ありゃ。口に出てた?」

 とにかく、もう私はコイツ、沙耶を離すことは絶対に無いだろう。これにて一件落着だ。

 私が沙耶を監禁すると固い決意をすると、聞き覚えのある起動音とともに、近くにあったローズクイーンが突然立ち上がった。

 唖然とする私と沙耶の前まで歩いてきたローズクイーンは、私達の前に跪くと、私を見て言った。

「・・・・お待ちしておりました。我がマスター、『御影・ラーゼフォン』様」

 ・・・・私?

「アナタは今『誓いの心』、途轍もない『覚悟』をなされました。その覚悟に私は付いていきます」

 言葉を失う私と沙耶。数十年動かなかったローズクイーンが突然動き、跪いたのだ。これがどういった意味があるのか、2人はまだ理解できていなかった。

 

 

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 メンヘラの固い意志にローズクイーンが心を動かされる事件が発生したのと同時刻。行政府は陸上を進むグーラにただ慌てていた。

 このグーラ8機は陸上戦力を蹴散らしながら、すでに大陸のローズクイーンのある都市から1kmを切った位置を走っており、すでにローズクイーンを移動させるのは不可能。核爆弾も不可。残存兵力では連携するグーラを1機も破壊できないと誰もが諦めかけたその時。

 とある大男が声を挙げた。

「私が行こう」

 彼の名前は『サンダー』。彼と彼の部隊は天王星の抑止力とまで呼ばれている英雄だった。

 

 

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「紐ないかなー」

「当然のように縛ろうとするな。あとこの手をどけて」

 沙耶は御影を蹴っても御影が嫌いにならないことを知っているため、陰キャをカマさず普通に喋っていた。

「だって、すぐ逃げるでしょ?だから首に何か巻いとかないと」

「僕はペットじゃないんだよ?人間だよ?分かってる?」

「もう私に飼われることは決定してるんだから、慣れてね?」

「いや慣れる前提なの?というかプレイのレベル上がってない?」

「そりゃあ、アンタに対する欲望は15年分だからね」

「こっわ・・・・」

「骨の髄まで味わい尽くすから覚悟して」

「人に対して味わい尽くすって言うのは多分君だけだよ・・・・」

 2人が言葉のプロレスをしていると、ローズクイーンがアラート音を鳴らして2人の会話を中断させた。

「お二方。敵です」

「敵?」

「北西1000m先、汎用人型兵器『グーラ』8機が接近しております」

「軍は?」

「どうやら、突破されたようです」

 沙耶の顔が冷たいものに変わると、御影も燃え上がる心を一旦胸の奥に押し込め、ローズクイーンに話しかけた。

「・・・・ねぇ。私は君を動かせるってことだよね」

「はい」

 肯定するローズクイーン。

「じゃあさ、私と沙耶を乗せて。私達だけは絶対に生き残りたいから」

「御影様、すでに逃走は不可能です」

「じゃあ潰そうかな」

「見捨てるのが最初の選択肢なんだね・・・・」

 沙耶の言葉は無視。彼の手を引いてローズクイーンの胸部にあるコクピットに乗ると、ローズクイーンのコクピットにあるモニターが一斉に起動し、周囲の景色を映し出した。

 こういうロボットの操縦経験はあったので私はテキパキと設定を終わらせ、ローズクイーンを方向転換させて迫ってくるグーラ8機と相対した。

 グーラ8機はローズクイーンの前で止まると武器を手にとり、銃を向けてきた。

「降参しろ!コッチは8機だ!もし降参した場合パイロットも身柄の安全は保障しよう!!」

「いやだね」

 海賊の口約束なんて信じられるか。

「ローズクイーン。武器は?」

「私の手を動かしてみてください」

 私がローズクイーンの腕を動かすと、ローズクイーンの腕から火炎が巻き起こった。

 何故だか分かる。この炎が、空気を燃やしながら燃え広がるのだと。

「ローズクイーン?」

「はい。この炎は、空気を伝って広がります」

「なら結構」

 腕を更に動かすと一気に炎が大きくなり、本当に空気を燃やしながらグーラ8機に襲いかかり、その全身を火で包んだ。あれでは内部の温度上昇でパイロットは耐えられまい。

 グーラ全機が動かなくなると私は緊張を解き、隣で座席にしがみついていた沙耶に目を向けた。そして何か言おうとした所で、クサいオッサンの声が水を差した。

「よくやった。ローズクイーンのパイロットよ」

 通信を通して上から目線で言ってきた男はダサい人型のロボットに乗ってやって来ると、通信モニターに映る私を見ていやらしい顔をした。

「・・・・ふむ。どうやら私の嫁に十分な顔だ。それに隣の子も。纏めて私の側室にならないか?」

 私はローズクイーンを操作して、思いっきりクソ野郎の機体を蹴飛ばした。吹き飛んだ機体はその辺に転がり、中からさっきのクソ野郎が飛び出してきて、またコッチに寄って来た。

「貴様!貴族の、しかも最上位である私の求婚は最上級の栄誉なのだぞ!それをあろうことか、蹴る(二重の意味)など!死罪だ!死罪だ!!!」

 天王星は今でもこういう前時代的な奴が多くて困る。恐らく私はローズクイーンのパイロットとして殺されることはないが、沙耶は分からない。

 少し考えていると、沙耶が話しかけてきた。

「・・・・ねぇ。『惑星を自由に行き来する自由な船』に興味ない?」

 

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