【完結】世界を救ったヒーローの二週目特典である完璧美少女ボクがライバル全員TSしてるせいで負けヒロインな件 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
カフェ・ドミノ。
遊全市の外れ、その一角に居を構える古民家カフェだ。
古民家を改造した室内スペースと店主自ら整備をした小さなビオトープに面したテラススペースがあり、自然と調和した隠れた名店である。
そのテラスにて、
「ふぅ……やっぱここで飲むここのコーラは格別だな。」
黒の春用ジャケット、黒シャツ、黒ズボン、黒のスニーカーに、黒のサングラスという全身黒尽くめで、ドミノ自家製のクラフトコーラを味わい、
「あらあら。シロウさんはほんとに炭酸が好きですねぇ」
頬に手を当てた美女――シャーリー・B・田中は柔らかく微笑んだ。
薄いブルーのワンピースに、日の光に輝くはちみつ色の髪をショートカットにした令嬢。
女性にしては長身でありながら、肉付きが豊満なのはアメリカの血なのだろう。
ランチを終えたシロウとシャーリーは春の陽気に包まれながら、二人で穏やかな時間を過ごしていた。
「シャーリー」
「はい」
「最近はどうだ?」
「ふふっ。楽しくやらせてもらっています。事業も順調ですし、妹も大学を卒業したばかりで、新入社員として頑張っていますしね」
シャーリーはアメリカを本社とし、遊全市に支社を構えるブレイス財団の若き女社長である。遊全市は都市全体で様々な遊び、ゲームを作り販売する会社が群雄割拠しているが、その中でもブレイス財団は最大手。
彼女もその美貌を活かし、自身が広告塔にもなりながら社長業にいそしんでいる。
「シャロンも会いたがっていました。もちろん私も」
「忙しい身だろうに。仕事はいいのか?」
「社長にも休息の時間は必要でしょう? 身体も、心も」
それにと。
シャーリーは青い目を微かに細め、ぺろりと舌を舐める。
「シロウさんとの時間であれば、最優先にしていますわ」
囁くような声は男の理性を溶かすようなものだった。
街の産業の最前線を走る女が、しかし他の何よりも貴方を優先するべきだという言葉。
並みの男であればその視線だけで骨抜きになり、声の質だけで腰が砕け、その言葉に魂すらも囚われるだろう。
だが、
「ふっ……まぁ当然だな」
長谷川シロウという男は一切揺らがなかった。
「…………ふふっ。流石ですねぇ」
それを解っていたかのようにシャーリーは微笑む。
彼はそういう男だと、彼女は良く知っている。
そうでなかったら、出会って1年以上立つのにも関わらず、自分のものになっていないはずがないのだから。
だからこそ、燃えるというもの。
シャーリー・B・田中は、欲しいものを独占したがりなのだ。
さぁ、次はなにをどうしようか。
そう考えたその時、
「いやー、はっはっは。振られたのぉ、シャーリー!」
快活な笑い声がテラスに響く。
「……」
「おや」
知っている声にシャーリーは振り返る。
シロウもサングラス越しに店内へと視線を向ければ、
「よぉーよぉー、シロっち! 一昨日ぶりやのぉー。元気してたかぁー?」
黄色のスポーツウェアに身を包み、茶髪をサイドテールにした糸目の女。
首筋にネックバンド型のワイヤレスイヤホンがあり、ランニングか何かの途中のような様子だ。
彼女のことをシロウもシャーリーも知っている。
「風か、その一昨日のフットサル振りだ」
「おー、シロっちのおかげで大勝利やったわー、ありがとさん!」
飄々と笑う糸目の美女、市松風。
一周目の世界では軽薄な詐欺師の男はこの世界では活発なスポーツ美女となっている。
シロウとはよく何かしらのアクティビティをする仲であり、彼女自身パーソナルジムのトレーナーをしている。
彼女はシロウの左側の席に自然に座り、
「よっ、シャーリーも。奇遇やなぁ」
「……えぇ、全く」
にへらと、風は笑い。
あらあらと、シャーリーも笑う。
目だけが笑っていなかった。
シロウは日々誰かに誘われて何かしらに出かけているが、別に二人きりと決めているわけではない。むしろ、二人で始まって、途中で誰かが参加することも珍しくないのだ。
例えば、シャーリーとのランチの後に風が現れたり、
「―――早めに注文をしたほうがいいと思いますよ」
音もなく、黒髪の少女がシロウの右側の席に座ったり。
姫カットの艶やかな長髪に、セーラー服の上に紫色のカーディガンを羽織っていた。
表情は無に近く、冷たささえ滲ませていた。
「撫子、学校はもう終わったのか」
「はい、お兄さん」
「…………撫子さん」
「おーおー。バイトガールやんけ」
シャーリーの頬がひくひくと引きつる。
十六夜撫子。
一周目では親友の復讐に燃える少年。
今では現役女子高校生であり、シロウを兄と慕う美少女だ。
ちなみにこのドミノのアルバイトでもある。
「まだお昼過ぎですけど、もう終わったのですか?」
「テストで半日でした」
「結果はどうだった、撫子」
「もちろん、問題ありません。学年一位の自信があります。お兄さんに教えてもらいましたから」
シロウにしか見えない角度で、撫子が小さくはにかむ。
学校では全く笑わず表情を変えない『新月の姫君』と呼ばれる彼女は、シロウの前では妹のような、けれど妹では全く満足していない少女でもある。
「わははは、集まるなぁ」
「……はぁ。となれば」
「いやぁ、皆お揃いだねぇ」
「はーっはっはっはっは!! 1人おらんが! まぁよい!!!」
響き渡る低い声と喧しい高笑い。
しかし最早誰も驚かず、苦笑するか、動じないか、ため息を吐くだけだった。
1人はオーバーサイズの白衣と眼鏡の女。
緑のカッターシャツに黒のスキニージーンズ。目の下の隈はひどく、姿勢は悪いが顔立ちそのものはシャーリーたちに負けない美女だ。胸元あたりまでの濃い茶色の髪は緩くウェーブが掛かっていた。
1人は子供らしい赤のワンピース姿の十になったかどうか幼い少女。
幼いながらも器量の良さは尋常ではなく、どこか浮世離れしている。
プラチナブロンドのツインテールの毛先が赤く染まっているのも、彼女の年齢不相応の雰囲気を生み出すのに一役買っていた。
「くひひ、シロウ君だけではなくこうまで集まっているとどんな化学反応が起きるのか興味が尽きないねぇ」
「フッリツ参上! で、あーる! 妾を差し置いて会合とは全く笑えんの! わははは!」
水門蓮とフリッツ。
科学者とゾディアック・キングの娘。
蓮はふらふらと、フリッツは尊大な足取りで近くの席から椅子を運び、当然のように同席する。
ほんの数分前まで静かだったテラスがあっという間に人でいっぱいであり、全体的に尋常ではない顔面偏差値だ。
これから撮影か何かが始まると言われても不思議ではない。
「……」
シャーリーが思わず額を抑え、
「くひひ。目論見が外れたという顔をしているねぇ」
「ここで会おうとするのがミスやったなぁ」
「わはは、居候の身としては助かるがのぅ」
「ですが、ついつい来てしまうのは分かります。お兄さんのお気に入りですから」
「当然だな、この店は最高だ。飲み物も食べ物も。
「良き御仁であるのは間違いのぅ。行き場のない妾に、何も聞かず引き取ってくれたり」
シロウが目を細め、静かに笑う。
≪ゾディアック≫を壊滅させ、身寄りのないフリッツをこのドミノに紹介したのは他ならぬシロウだった。
この店のマスター、彼が「おやっさん」と呼び慕う人ならばフリッツを受け入れる度量の持主だと知っていたから。
なにせ、一周目の自分がそうだったのだ。
「へいへーい、シロっち。こんな美人たちに囲まれておやっさんの話とは贅沢なやつやなー。ぶっちゃけさ、なんのかんのこうして皆集合っての……1人いないけど、まー珍しいし」
へらへらと風は笑う。
けれど細い目を僅かに開き、
「実際、このメンツで誰が一番魅力的だと思うん?」
そんなことを言う。
反応は様々だった。
シャーリーはにっこりと笑い、撫子は表情を変えず目を細め、蓮は興味深そうに眼鏡の位置を直し、フリッツは胸を張った。
そして、
「ふむ……簡単だな」
シロウはただ、肩を竦めた。
「決まっている――――俺だろう」
●
「虫みたいにわらわらと集まって……!」
シロウのナルシスト発言に場の空気が弛緩し、途中参加の面々がそれぞれ注文をし始める様を、少し離れたビルの屋上からクロエは見ていた。
手にした大型のスマートフォンのカメラをそのまま望遠鏡の様に使っている。
『スマートボードフォン』というプレイヤーシステムのスマートフォン型サポートだ。折り畳み型のスマホで、無駄に装飾がゴテゴテとしてどう見ても携帯しにくいのだが、色々便利なものでもある。
おまけに下らない質問に、下らない答えを。
あんなの、
「シロウが一番に決まってるじゃないですか」
長谷川シロウはナルシストであり、実際に顔が良い。
一周目の世界で、いつの話だったろうか。
世界で一番イケメンの皇子様と世界中で人気な某国の皇子が遊全市に来たことがあったが、なんとシロウにうり二つだった。街を歩いてたらモデルや俳優にスカウトされることもしょっちゅうだし、遊全市内にちょっとしたファンクラブだってある。サングラスを付けているのは単なるファッションではなく、ちょっとした変装でもあるのだ。
おまけに前世と一周目と人生経験が豊富なために知識や能力も高い上に、世界を救った実績と自信も相まってちょっとした完璧超人なのだ。
そして普段はナルシストらしい気障な言動を取る。
クロエと家の中では気を張らない――――というよりも、もう1人の自分なのだから張る必要がないので全力のオフではあるが、人前だと自意識過剰ともいえるような、自身にあふれた大胆不敵な男になる。
それが、彼自身が定めたヒーローとしてのペルソナであることを、クロエだけは知っている。
二周目の世界で、人生を変える惨劇を救われた彼女たちは、どれだけ想ったとしてもそれに気づくことはできない。
それだけはクロエの特権であり、僅かな優越感でもある。
最も、実際にシロウを囲んでいる彼女たちの輪に混ざらず、遠くから覗いていて勝手に優越感に浸るのはある意味で惨めかもしれないけれど。
『或いはそうだな』
望遠拡大したスマホの画面でシロウは言葉を紡ぐ。
彼はサングラス越しにゆっくりと周りの美女美少女を見回し、
『お前たちとこうして、このカフェで、飲み物を楽しむことが俺の魅力を上回るものかもしれないな』
そんなことを言う。
そしてクロエは思い返す。
一周目。
あの場の全員が男だった頃、あぁして全員で同じテーブルを囲むことは一度もなかった。
6人のプレイヤー。
彼らが共闘したのはただの一度きり。
そしてその後は加速度的に全てが崩壊した。
それをシロウは覚えている。
本来、笑い合うことがなかったはずの者達が、性別は変われど笑い合っている。
それはシロウにとって救いであり――――だからこそ、クロエもあの光景を邪魔することはできなかった。
あの女性陣5人はわりと仲がいいのだが、クロエは妙に嫌われているのも悲しい。
見よ、いまいち褒めているか褒めていないのかよく分らない、或いはその言葉の意味をシロウとクロエしか理解できないセリフになんかいい感じに喜んでいる女たちを。
「頼むからそこで満足していてください―――――」
そんな戯けたことをクロエが喚いた瞬間だった。
『PIPIPI――!!』
クロエの、そしてシロウのスマホからけたたましいアラートが鳴り響く。
それはこの街に散らばらせている情報収集用のプレイヤーサポートドローン『ダイスロイド』が危険な存在を発見した際の通知だった。
二周目の世界でそれを使っているのは街の治安の為―――そして、クロエがシロウのデートを監視するためでもあるのだが。
アラートが鳴るということゾディアックの怪人、或いはそれに近い存在が出現したということ。
この平和なはずの二週目の世界で。
それに対してクロエは驚き、動揺し、
『――――釣りは要らん!』
長谷川シロウは万札をテーブルに叩きつけ、飛び出していた。
ブレイス財団
B財団
財団B
危険に対して真っ先に飛び出せるのはヒーローの資質の一つかなと思います。
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