リコリコ・チャイルド(完結)   作:とりなんこつ

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13.もう言い訳はしない

 

「あなたは…!」

 

 銃を構えつつ、千束の額に汗が浮かぶ。迂闊にも自分が罠に飛び込んでしまった可能性に気づいたのだ。

 

「ご安心を。こちらに敵対する意思はありません」

 

 姫蒲が慇懃に頭を下げる。

 

「もっとも、信用して頂けるとは思っていませんが」

 

 人工心臓を破壊され、旧電波塔で対立したことを念頭に置けば、千束が警戒するのも無理はない。

 

「じゃあ、なんで私たちの前に姿を見せたのさ?」

 

 延空木への大規模テロに先立つ、真島に対する千丁もの銃の享由。

 その重要参考人として、姫蒲と吉松の二名はDAの捜索対象となっている。

 隠密に襲撃をしかけてくるならともかく、無防備に姿を晒しているのは意味不明だ。

 

「………」

 

 沈黙する姫蒲に、千束は呆れたように溜息を一つ。

 

「するってーと、まーたアラン機関が何か企んでいるわけ?」

 

 姫蒲は胸へと手を当てて、神託を受けた神官のように答える。

 

「アランは神のギフトを祝福するものたち。その代行者は世界のあらゆるところに」

「はいはい、まともに答える気はないってわけね」

 

 軽い口調とともに、何気ない仕草でストッキングに包まれた素足のまま間合いを詰める。

 そして発砲。

 真正面に放たれたゴム弾は赤い彼岸花を咲かせ、姫蒲の姿を粉々に粉砕した。

  

「鏡ッ!?」

 

 金属片の飛び散る音を耳に、千束は姫蒲を見失う。

 素早く周囲に銃口を向けて警戒。

 気配はまだ近くにある。

 

「アオイ、というのですか」

 

 出し抜けに姫蒲の声。

 どこから聞こえてきたの分からなかったが、千束の表情が変わった。眉が鋭く跳ね上がり、危険な角度を描く。

 ついで、胸に抱えていた疑問が口から飛び出すのを止められない。

 

「アオイをリコリコの前に置いていったのは、あんたなの? あんたたちなの?」

 

 今日、ミカがBARへ赴くのをクルミから聞き出した時に、一緒に色々と吐き出させている。

 ミカとクルミがこっそりとアオイの母親の行方を捜していたこと。

 なのに、一切痕跡が見つけられないこと。

 どうやらアラン機関絡みではないのか、との予想も含めて一切合切。

 

 たきなと結婚してアオイを養子にしようと考えているのは本気も本気だ。

 けれど、本当の母親が戻ってきて、切々と事情を訴えてアオイを返すように求められたときは、そこは素直に従おうとも思っていた。

 その時、多分、自分は泣く。号泣するだろう。たきなだって泣くはず。

 だが、子供が本当の母親の腕に抱かれるのならと、きっと笑顔で見送れるはずだ。

 

 ―――それが、アラン機関?

 

 あのわけの分からない機関が、わけのわからない理由でアオイを置いていったのならば、千束としてはとことんまで追求せずには居られない。

 

 焦がれる千束に対し、返ってきたのはまったく予想だにしなかった台詞。

 

「失うことで得られるものもある、でしたか」

「ッ!?  …ずいぶんと私のことに詳しいみたいだね?」

「調べさせましたから」

 

 あ~、もう、と千束は頭を掻いて、

 

「そんなのどうでもいいから! さっきの質問に答えてくれない? アオイを置いていったのはあなたなの? それと目的はなに?」

「あなたはこれからも生き方を変えないつもりですか?」

「質問を質問で返す、そこ?」

 

 周囲を睨みつける千束に、姫蒲は平坦な声で続く。

 

「ならば、一つ忠告を。この先、もうあなたの『言い訳』は通用しませんよ?」

 

 一瞬、虚を突かれたような千束だったが、すかさず言い返す。

 

「はいはい、忠告どーも。それよりこっちの質問にも答えなさいってば!」

 

 しかし、やはり姫蒲は答えない。

 ならばと千束は新たな疑問の矢を弓へと番えた。

 呼吸一つ分の間をおいてから、ある種の覚悟を決めて放つ。

 

「…ひょっとしてアオイは、ヨシさんとあなたの子供なの?」

 

 この状況をひっくるめての千束の予想。

 対する姫蒲の反応は。

 

「生憎と、私は子供を産んだことがありませんので…」

 

 その声には、初めて感情が籠っていたような気がする。

 どこかホッとする千束を前に、姫蒲の気配は闇の中に溶けていく。

 

 遠ざかる気配を敢えて千束は追わない。

 少なくない情報が得られている。同時に姫蒲の指摘は、まるで遅効性の毒のように千束の心の奥を揺さぶっていた。

 銃を胸に抱くようにして動揺を沈め、千束はしばし立ち尽す。

 

「千束! ここにいたのか!」

 

 探して機械室までたどり着いたミカの声。

 千束が銃を抜いていることに色々と察したものの、恐る恐る尋ねてくる。

 

「ところでシンジは…?」

「えーと、ヨシさんはいなくて、変装だったみたい。ほら、ヨシさんとずっと一緒にいた秘書みたいな女の人がいたじゃん?」

「あいつか…」

 

 我知らずミカの杖を握る手に力が入る。

 その様子を知ってか知らずか、千束は明るい口調で告げた。

 

「別にドンパチはしてないよ。色々と話は聞けたし」

「ああ、こちらも収穫があった。いや、貰えたと言った方が正しいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閉店後の喫茶リコリコには、未だ明かりが灯っていた。

 別にこの店名物のボードゲーム大会が催されているわけではない。

 響いてくる喧噪は、制服姿の少女たちが一人の赤ん坊相手に奮戦している音だ。

 

「こ、こら! 痛いっす! さっさと離すっす!」

 

 サクラが抱えた赤ん坊を引き離そうとする。

 ところが赤ん坊は彼女の髪をしっかりと引っ張ったまま、盛大に泣き声を上げていた。

 

「う゛ー! あ゛ー!」

 

 その様子に、珍しく手を(こまね)いているたきなが。

 

「おいおい、どうしたんだこりゃ? 夜泣きってレベルじゃねえぞ?」

 

 隣に立つフキも、あからさまに披露困憊した様子で呟く。

 

 時刻はもうそろそろ真夜中の12時になろうとしていた。普段であれば赤ん坊はとっくにぐっすりの時間。

 確かに一旦は寝付いたアオイだったが、21時過ぎころに覚醒。

 さてはオムツかとたきなが素早く交換し、ミルクも与えるも、それ以降もずっと起きたままで眠る気配がない。

 その上で何が気に入らないのかギャン泣きを繰り返している。

 『遊び』に来ていたフキとサクラにも手伝ってあやしてもらったが、一向に寝付こうとしないアオイに、たきなも困惑仕切っていた。

 

「…もしかして、どこか具合でも悪いんじゃないのか?」

  

 フキの声に、たきなは一気に青ざめる。

 

「そんな! 厚着もさせてないしお肌かぶれもないしお昼寝もそんなにしていないし熱もないしうんちも正常だしおっしこも十分に出ているし室温も適温なのに!!」

「お、おう」

 

 ワンブレスで言ってのけるたきなに、フキも若干青ざめていた。

 

「ひー! あたしの眉毛は取り外し不可っすよー!?」

 

 サクラの悲鳴を横に、フキは再度たきなへと忠告。

 

「だからこそ、私らには分からない病気の可能性もあるんじゃないのか?」

 

「どうするたきな。救急車を呼ぶか?」

 

 これはクルミの声。

 リコリス全員が車の運転は出来るものの、ミカと千束の迎えにミズキが社用車で出払っていた。

 

「…そうですね」

 

 たきなが考え込んでいた時間は決して長くない。

 

 万が一のことを思えば、やはり救急車を呼ぶべきだ。

 山岸医院へと搬送してもらい、そこで何もなければ笑い話で済む。

 

「よし。クルミ、いますぐ救急車を…!」

 

 たきながそう顔を上げたのと、リコリコの前に車が停車してのはほぼ同時。

 そして間もなく、

 

「たっだいま~! アダルティな千束さんのご帰還だよ~♪」

 

 ノースリーブの真紅のドレスで千束がドアを開け放つ。

 途端にアオイがピタッと泣き止む。

 思わず固まってしまうたきなたちに頓着せず、千束はサクラからアオイを取り上げて抱き寄せた。

 

「ん~、アオイ、寂しかったでちゅか~?」

 

 そのまま頬っぺたに頬ずりとキスを繰り返す。

 上機嫌でアオイがきゃっきゃと笑い声を上げる姿に、サクラは呆然、フキはげんなりとなる。

 

「千束、お帰りなさい」

 

 出迎えたたきなも、千束の登場でアオイがすぐに泣き止んだことにちょっと悔しそう。

 

「じゃあ私らはもう帰らせてもらうぞ」

 

 もう用は済んだとばかりにさっさとリコリコを出て行こうとしたフキだったが、ちょうど入ってきたミカとご対面。

 

「せ、先生…!?」

「おう、フキ。遅くまでご苦労さん」

 

 顔真っ赤に染めて立ち尽くすフキは無理もない。ジャケット姿のままのミカは得も言われぬ色気があった。 

 

「…どうした?」

「そ、その格好、凄く似合ってます!」

「そうか。ありがとう」

 

 二人のやりとりをニヤリと眺めていた千束は、アオイを抱えたまま片手でスマホを構える。

 

「はいはい、二人とも、そこでハイ、チーズ♪」

「う、うへぉあ!?」

 

 狼狽するフキに構わずシャッターを切る。

 

「てめえ何を撮っているんだコラぁ!」

「まーまー。ツーショット写真はあとでフキのスマホに送ってあげるから」

 

 真っ赤な顔で詰め寄ってくるフキをいなしつつ、千束は反撃するように彼女の耳に顔を近づけると、

 

「フキ。楠木さんに伝えて―――」

 

 小声で、何事かを耳打ち。

 

「―――マジかよ、それ」

 

 一瞬で真顔に戻ったフキに、千束はにっこりとする。

 

「じゃ、お願いね」

「…ちッ」

 

 舌打ちをし、フキはサクラの襟首を掴まえてリコリコを出て行く。

 「お疲れ様でした」とたきなが見送り、車を置いたミズキも戻ってきた。

 

「さて。何がどうなったんだ?」

 

 クルミが偉そうに腕を組む。

 ミカと二人だけの秘密を、千束にとっちめられてみんなの前で洗いざらい喋らせられたというのに全く悪びれていない。 

 ミカは苦笑しながらクルミに向かって何かを手渡す。

 

「こいつは?」

 

 極小のメモリスティックを摘まみ上げ、矯めつ眇めつするクルミ。

 同じく疑問に思っている千束に、ミカは説明。

 

「カクテルグラスの底に仕込まれていたんだ」

「あの時のかー…」

 

 唸る千束。

 

「結局、誰が店長を呼び出して、それを渡したんですか?」

 

 たきなの質問。

 ミカと千束は顔を見合わせて、千束が説明。

 

「えーと、旧電波塔でヨシさんと一緒にいた女がいたでしょ?」

「……アイツですか! 生きていたんですね!?」

「いやいやいや! 敵意とか全然なかったし!」

「だからといって…!!」

 

 狂犬の牙を煌めかせるたきなの気持ちは、ミカにはよく理解できた。

 あの女は千束の心臓を壊した張本人だ。

 落とし前をつけるように散々痛めつけはしたが、命まで奪ってはいなかった。

 てっきりクリーナーたちに始末されたとばかり思っていたのだが。

 ちなみ吉松の死体のみ、彼だけが知る墓へと葬られている。

 

 気を落ち着かせるように、ミカは軽く咳払い。

 

「その思惑も何もかも、クルミに渡したデータが解析されればある程度は分かるだろう」

「先生の言う通り! さあて、私も着替えよ! 着替えてアオイも寝んねしましょうねー♡」

 

 腕の中のアオイは実に眠たそうにしている。

 さっそく身を翻そうとした千束だったが、むんずと肩を掴まれた。

 

「千束。今日、何があったのか、もっと詳しく」

 

 たきなの目は完全に座っている。

 

「え~? 先生と一緒にしばらくカウンターでお酒なんかを嗜んでいただけで…」

「そろそろ帰るかと思ったら、バーを出てていく怪しい風体のヤツを見つけてな。千束が追いかけたら例の女だったわけだ」

「ちょ、先生! それは言わない約束でしょ!?」

「やっぱり何かあったじゃないですか!」

 

 詰め寄られ、千束は観念したように腕の中の赤子へと視線を落とす。

 

「この子は、ヨシさんの子でも、あの女の子でもないみたい…」

 

 言われて、緊張が解けたように脱力するたきな。

 今日の成り行きを聞いて、そう考えてしまったのは千束と一緒だ。

 

「じゃあ誰の子よ?」

 

 ミズキの質問。

 

「別に誰の子でもいいじゃない。私たちはただ育てるだけ」

 

 アラン機関の思惑なんて知ったこっちゃない。

 私たちの子供だ。手放すなんて論外だ。

 

 声音だけでそう語り、千束は店の奥の座敷へ。

 やや複雑な表情を浮かべたまま、たきなが「手伝います」とそのあとを追う。

 

 座敷に敷かれた布団に丁寧アオイを横たえ、千束は両腕を広げた。

 

「たきな、お願い」

 

 コクンと頷いて、たきなはドレスを脱がせるのを手伝う。

 構造上、下着を付けられないため、脱がせれば何もつけていない千束の上半身が露わになる。

 

「ん~、解放感♪」

 

 足元へバサリとドレスを落とし、ストッキングにショーツ姿でグーっと伸びをする千束を直視できないほど、たきなもウブではない。

 

「それで千束。まだ何かを隠してますね?」

「はっはー、やっぱたきなにはお見通しか」

 

 えへんと胸を張れば、はち切れそうな果実が大きく揺れる。

 腰のくびれからの曲線は、同性でも羨ましく思えるくらい綺麗だ。

 豊満な胸の中心の薄らとした手術痕を視線で撫でてから、たきなはストレートに訊ねる。

 

「あの女に、何を言われたんですか?」

「んー? 私の心臓は新しくなってもっと生きられるようになったじゃない?

 だから、人を殺さないって言い訳は出来なくなったって言われたよ」」

 

 おどけるように答える千束だったが、たきなは絶句した。

 

 千束が立てた不殺の誓い。

 この誓いの根源にあるのは、かつて自分の命を助けてくれた救世主に倣ったものであり、同時に自分の限られた寿命に由来する。

 

 自分だけの人生で、楽しいことを見つけてやりたいこと行うべき。

 私は自分のやりたいことを最優先なのは、二十歳過ぎまでしか生きられないから。時間が限られているから。

 

 ―――だから私は他人の人生を奪うのは気分が良くない。

 

 他者からは傲慢かと思われるかも知れない。

 しかし、千束の才能を鑑みれば、決して大袈裟なことではなかった。

 吉松シンジが称した《殺しの才能》は伊達ではない。

 彼女がその気になれば、一瞬で数人の命を刈り取ることが出来る。

 

「『言い訳』だなんて勝手な言い草です!

 千束がどういう気持ちでゴム弾を使っていたのか全然知らないくせに…!」

 

 自分の時間は限られている。時間はとっても貴重なもの。

 だから人の時間も奪いたくないんだ。

 

 リコリスとしては異端の考え。

 たきなは、千束のその運命を受け入れた生き方を理解できなかった。

 そんなの綺麗ごとだ、と今だって思っている。

 なのに、千束の在り様の全てを侮辱されたように感じてしまい憤慨。

 自身の矛盾に気づかぬまま、たきなは怒りの声を上げ続ける。

 

「ありがとう、たきな」

 

 そんなたきなを千束は優しく抱きしめた。

 

「でも、やっぱり言い訳なんだよ。私は自分のエゴを人を殺したくない理由にしていたんだ」

 

 身も蓋もなく言ってしまえばリコリスは殺人集団だ。

 いかに日本の平和を維持するという建前はあっても、たきなも幾人もその手にかけてきている。

 そんな組織の中で優秀すぎる能力ゆえに見逃されていた千束のワガママ。

 

「でも、今度からは、その言い訳を口にしたくない」

 

 きっぱりと告げて来る千束を、たきなは胸の中で見上げる

 相変わらず鼓動を刻まない心臓。

 けれど、新しい人工のそれは、一般人とも変わらない寿命を約束してくれている。

 限られていた時間という縛りからの解放は、姫蒲の言った通りに『言い訳』の口実もなくなったということで。

 

「だったら千束は…」

 

 これから積極的に人を殺すのですか。

 そう言いかけたたきなの台詞を、千束は最後まで言わせない。

 胸の中に黒髪をいっぱいに抱きしめるようにして囁く。

 

「別にDAの仕事は今まで通りだよ? だけど、こっちに危害を加えようとするなら、もう遠慮はしないつもり」

 

 たきなも千束をぎゅっと抱き返す。

 こっちに危害を、と敢えて抽象的な表現を千束をしたけれど、それはアオイであり、たきなであり、リコリコのメンバーであり、常連客であり。

 今の二人の日常の平穏を脅かす相手には容赦しない。護るためなら殺しの才能を発揮することもためらわない。

 そう千束は静かに宣言しているのだ。

 

 先日のリリベルの襲来は、相手も訓練という名目の非致死性装備だったため、誰も殺さずに済んだ。

 だが、今後、別の襲撃を受けたときには―――。

 

「たきなと先生の手だけを汚させない」

 

 ね? という風に微笑んで見下ろしてくる千束の腕の中で、たきなは気まずそうに視線を逸らす。

 

「…実はアオイは、吉松の呪いかもと思っていました」

 

 吉松シンジは自分を殺させることによって千束の不殺を撤回させようと目論んでいた。

 あの静かな狂気を、たきなは旧電波塔で目撃している。

 

 そして赤ん坊であるアオイが、アラン機関によって差し向けられたものだとしたら。

 その赤子に心酔した千束が、守るために人殺しを是としたとき、それは吉松の目論見と同じではないのか? 

 

 涙ぐみながらのたきなの説明に耳を傾けたあと。

 

「似ているかも知れないけど、それは全然違うよ、たきな」

 

 花が咲くように千束は笑った。

 

「私は、命じられても誰も殺さない。これまでも、これからも」

 

 すべては自分の意思のままに。

 その実、何かを守るためならば相手を害することも辞さないという宣言。

 

「この子は呪いなんかじゃない。私たちにとっての祝福だよ。だからね、たきな―――」

 

 互いにしっかりと見つめ合い。

 永遠の約束を科すように、千束は新たな誓いを口にする。

 

「君たちを守るためなら、私は何もためらわない」

「―――千束ぉッ…!!」

 

 たきなは益々抱き着く力に手を込めた。

 千束はその黒髪に静かに顔を埋める。

 そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…千束?」

「わ、たきなうごひゃないで…はにゃが…!」 

「ちょっ!? 何やっているんですか!?」

「ひゃだかで冷えたんらって……ふが…ふが…、ぶぇっくし!」

「~~~ッッ!? か、髪に何かがべっとり…!?」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ騒々しい」

 

 がらりと襖が開けられた。

 

 データ解析に四苦八苦していたクルミの目前に展開される光景は、すやすやと熟睡する赤ん坊。

 それを足元に、何やら悶えているたきなと半裸の千束だ。

 

「…邪魔したな」

 

 ぴしゃりと襖は閉じられた。

 が、すぐにまた少しだけ隙間が開けられると、

 

「老婆心から忠告するが、そういうのは赤ん坊の前でしない方がいいと思うぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「ク、クルミ!? これは違うんです! そんなんじゃないんです!」

「ひっしゅひっしゅ……ぶえっくしょい! あ゛ー」

 

 

 

 

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