リコリコ・チャイルド(完結)   作:とりなんこつ

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16.その先を見据えて

 

「…東映任侠映画の見過ぎじゃねえのか?」

 

 千束の口上に対しニヘラとした笑みを返した真島だったが、その頬を一筋の汗が伝う。

 最強リコリスの隣ですでに油断なく銃を構えている黒髪の狂犬―――もとい、たきなの放つ殺気が尋常ではなかった。

 

「マジで殺る気満々…てなッ!」

 

 ボルサリーノを被り直し、間髪入れず真島の長い足が跳ね上がる。

 床に置かれていたウイスキーの小瓶が垂直に飛び、天井の照明灯を打ち砕く。

 倉庫内は暗闇に閉ざされた。

 真島の口元が歪む。これで完全にこちらのフィールドだ。

 

 銃声が轟く。

 放たれた弾頭は地面に着弾して火花を散らす。

 たきなが勘のままに発砲し、半瞬遅れて暗闇に彼岸花が咲いた。

 

「ぐはッ!?」

 

 うめき声は真島の上げたもの。

 

 ―――着弾の火花が照らしだした一瞬で、こちらの位置を把握しやがった!?

 

 即座にそう理解し、戦闘の継続を真島は断念する。

 以前の対戦による経験値を得て装備も整えてきた二人相手では、さすがに勝ち目が薄い。

 となれば、倉庫内という限られたフィールドが逆に仇となる。

 一刻も早く外へと出なければ。

 

 すかさず壁際に後退し、深い闇に沈み込んで脱出を図ろうとした真島を、強烈なライトが炙り出した。

 

「!?」

 

 見上げた先には複数のドローン。

 ご丁寧に徹底的な静音仕様のドローンは、強烈なルーメンの光を注いでくる。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

 思わず呟いた真島の右腕を灼熱した痛みが貫く。

 続いて左腕。

 右足。

 左足。

 

 撃ち抜いたのはたきなの正確無比な射撃。

 糸を断ち切られた操り人形のような動きで床に倒れ込む真島。

 血塗れの男に、愛銃をぶら下げたまま千束が近づいた。

 

「千束」

 

 たきなの声。

 

「うん」

 

 頷いた千束の手に、たきなはそっと自分の銃を握らせる。

 

「…俺ァ、そこまで恨まれる真似はしたっけか…?」

 

 ボルサリーノの庇の下から、真島が見上げてきた。

 この期に及んでもまだ、ふざけた表情と口調だけは変わらない。

 その様子に冷たく目を細め、千束は一言だけ吐き捨てて狙いを定める。

 

「…この、ハム助がッ!」

 

 引き金が引かれた。

 ボルサリーノがはじけ飛び、衝撃に真島の顔は首ごと後ろへ反り返る。

 後頭部から溢れた血が、脱力した痩身を肩から濡らしていく。

 

 くるりと千束は踵を返す。

 たきなが後を追い、倉庫の入口を潜ったところで入れ替わりに中へと入っていく男たち。

 掃除夫のような格好の彼らは、見掛け通りの『クリーナー』だった。

 

 しばらく歩いたのち。

 港の端で黒い海の方向をむいたまま、千束の足が止まる。

 

「…千束?」

 

 たきなが声をかけるも返事はない。

 赤い背中が震えているのは、怒りのためか、それとも―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――千束とたきなが真島を襲撃する少し前。

 

 

 

 

「アラン機関の連中は、支援した者同士を意図的にぶつけ合っている可能性がある」

 

 クルミが語る。

 それは10年前の旧電波塔事件然り。昨年の延空木事件然り。

 

 世界に遍く天性の才能を届ける。

 時として天稟の持ち主たちが衝突することはあり得るだろう。

 だが、仮にそのことを愉しんでいるとすれば、またアラン機関の見え方が変わってくる。

 

「確かなのは、アラン機関が支援者同士のぶつかり合いを禁忌としていないこと。

 これは仮定の話だが、千束が真島の排除に成功すれば、なんらかのリアクションか、もっと具体的に接触してくる可能性は高い」

 

 アラン機関の全容は判れど、組織の所在地などといった具体的な情報は未だ不明。

 こちらから攻勢をかけたくとも、本部の場所すら分からないのであれば手も足も出ない。

 

「つまり、真島を殺すことが出来れば、アラン機関を手繰り寄せる糸を得られるということですか」

「…そういうことになる」

 

 クルミの歯切れが悪い理由を、たきなも承知している。

 

 クルミが口にしているのは、例の【プランナー】から齎された計画書の指示を解釈したものだ。

 そしてそのプランナーの正体も不明である。果たしてどこまで信用していいものか。

 

「だからって、他に手はないんでしょ?」

 

 難しい表情でタブレットの計画書を呼んでいた千束が顔を上げた。

 

「まあ…それはそうだな」

 

 敵は強大だ。おそらく世界各国の政府レベルまで影響力は持っているはず。

 日本政府はおろかDA自体も宛てには出来なかった。

 

 そっと千束は自分の胸の上を撫でる。

 

 向う十年以上未来を先取りした技術の人工心臓。

 そんなものをリコリスに埋め込まれたのに特に問題視するわけでもなく、千束の活動を認めている。

 先の真島への銃の供与事件があったにも関わらずアラン機関に対する捜査の動きが奇妙に鈍いのも、その証拠となるだろう。

 

 対するDAの一支部としての存在でしかないリコリコ。

 戦闘で前線に立てる人間は三名で、残り二人は後方支援。

 立ち向かうにはあまりにも寡兵に過ぎるのではないか?

 

 不意に訪れる沈黙。

 その重苦しい雰囲気を切り裂くように、赤ん坊のけたたましい泣き声が響く。

 

「ど、どうしたのアオイ!?」

 

 すかさず抱き上げる千束だったが、表情は困惑に染まる。

 赤子の僅かな表情の変化や、微細すぎる全身の筋肉の動き。

 持ち前の目の良さでたちまち看破してしまう千束をしても、アオイが泣いている理由が理解できない。

 

「オムツもさっき交換したばかりだし、食事だって…」

 

 慌てる千束に対し、たきなの方は幾らか冷静だった。

 

「ひょっとして、自分もいることを忘れないでと泣いたのではないでしょうか?」

 

 指摘され、千束は胸元へ視線を落とす。

 すると、さきほどの泣き顔を一転、晴れ渡った笑顔を見せるアオイの姿が。

 丸い頬を膨らませ手足を上下にワキワキと動かす仕草は、まさに本当に戦おうとしているみたいで微笑ましい。

 

「もう、この子ったら!」

 

 千束も笑顔で抱きしめる。

 どんな重い空気も浄化し、皆に笑顔をもたらす力を赤ん坊は持っているのだと思う。

 

 誰もが笑みを浮かべ、温かい声を漏らす中、ただ一人クルミだけはギュッと手を握っていた。

 それから、何かを決心したように毅然と顔を上げる。

 

「この機会だ。ボクについてもみんなに知ってもらいたいことがある」

「え?」

 

 リコリコ内の全員の視線を集めてから、ゆっくりとクルミは掌を開く。

 そこから、フクロウ型のチャームが零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「…クルミ、あんたアランチルドレンだったの!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたのはミズキだ。

 驚きに絶句したのは千束もたきなも一緒で、あのミカですら露骨に動揺している。

 

 そんな爆弾発言をした張本人はというと、ゆっくりと首を左右に振ってみせた。

 

「いや。ボク自身がアランチルドレンなわけじゃない。…ボクの産みの親が、どうやらそうだったらしい」

「つまり、どゆこと?」

 

 産みの親という表現にひっかかりつつ、ミズキが斬り込む。

 

「ボクの身体について、みんな疑問に思ってないか?」

「そりゃ、クソ生意気なチビガキだとは思っているけれど?」

 

 即座に答えるミズキに、少しだけクルミは頬を綻ばせる。

 

「そうじゃない。ウォールナットはネットの黎明期から活動していたという話は聞いたことがあるはずだ」

「だったら、クルミは何代目かって話で…」

 

 千束の指摘にもクルミは首を振った。

 

「まさか…!? で、でも、とてもそんな年齢には見えませんよ!?」

 

 仮にウォールナット=クルミの活動時期が重なるのなら、彼女の見た目と実年齢があまりにも伴わない。

 目を丸くするたきなに向かってクルミは苦笑。

 

「まあ、正確に言えば、ウォールナット自体はAIの名称で、ボクはそのユニークユーザーみたいなもんなんだけどな」

「するってーとなに? アンタ、サイボーグがなんかなの!?」

 

 すかさずミズキがクルミの頬っぺたを左右に引っ張っている。

 「ひゃめろぉ!」とトレーナーの袖をバタバタするクルミ。

 

「ボクは見た目通りの人間の身体だ! 機械の身体なんて要るもんか!」

 

 残念ながらこのネタは不発だった。

 一番年長のミカでさえ軽く首を傾げる中、クルミは解放された頬を撫でながら憮然とする。

 

「…古代から、富と名声を得た権力者が、最終的に求めるものはなんだと思う?」

「そりゃあ娯楽でしょ! 演劇とか! スポーツとか! 最終的に映画に帰結するはずだよ!」

 

 ドヤ顔をする千束の独断と偏見に基づく意見は、速やかに無視された。

 

「ひょっとして、不老不死…?」

「たきなの言う通りだ。秦の始皇帝の話が有名だな。不老不死の霊薬を求めて、徐福を日本へ派遣したという」

 

 幾多の歴史上の英雄、権力者が求めたもの。同時に、それは絵空事で決して得られることはないモノである事は、歴史自身が証明している。

 

「…紀元前の頃は伝説としても、それは人類の飽くなき夢だ。今この瞬間も延々と研究は続けられている。ボクはその過程で()()()()

 目覚めたのは羊水に似たもので満たされたカプセルの中。排出されたポッドに掲げられていたプレートの№は963番。安直だが、ボクの名前の由来だ」

「そんな映画みたいな…」

「実際にそうだったから仕方ないだろ? 事実は小説より奇なりとは良くいったものだな」

 

 コンピューターに支配された仮想現実社会を題材にした映画のワンシーンを思い浮かべて呻く千束に、自虐的な笑みで応じるクルミ。

 

「だけどボクの産みの親は、人体を切り刻んだりするマッドじゃあなかった。だけど真っ当に日の当たる場所を歩いてきた人間でもなかったみたいだな。

 ある日、研究所が襲撃された。そんな中で、アイツはボクを必死に逃がしてくれた。

 地下の隠し通路に白衣を被せて放りこまれた。どうにか逃げ延びて白衣のポケットを探ったら、出てきたのがコレさ」

 

 小さな手の先で、鎖につながれたフクロウのチャームが揺れている。

 

「それからクルミは、ウォールナットとして活動を?」

 

 急にチャームが忌々しいものに見えてきたかのように、たきなの表情は渋い。

 

「ここからは少しややこしい。力尽きて倒れていたボクを助けてくれたのが、育ての親だ。もっとも顔すら見たことがないんだけど」

「??」

「気づいたら、温かい部屋にいた。部屋にはベッドもあって、トイレもバスもあった。ワンルームマンションの一室だった。そして、デスクの上では、パソコンのモニターが点いていた。そこから音声が流れてきて、ボクは彼に助けられたことを知った」

 

 そのディスプレイに表示されていたアイコンこそ、今のクルミの象徴ともいえるウォールナットのマーク。

 

「じゃあ、その人は初代の?」

「初代というより、『ウォールナットAI』の開発者だな。当然ハッカーとしても超々ウイザード級だ。ボクの腕は彼仕込みさ」

「だから育ての親ってことね」

 

 クルミの謎だったプロフィールが矢継ぎ早に開示されて行く。

 

「彼に教えられ、ネットで情報を収集し、色々なことを学んだ。狭い部屋の中だけで暮らしていたけど、ほとんど不便を感じたことはない。頭を捻ればいくらでもクレジットの残高は増やせたし、食べ物とかは全部デリバリーや通販で問題なかった。けれど―――」

 

 クルミの表情が翳る。どこか遠くを見つめるように睫毛が瞬く姿は、幼い容姿に反して大人びていた。

 

「十年前くらいだ。突然、彼が音信不通になったのは。

 当時のボクは焦ったよ。ウォールナットも駆使してどうにか連絡を取ろうとしたけれど、全て無為に終わった」

 

 当時から最強AIを使いこなしていたクルミは、ウォールナットを名乗りインターネット界を席巻していた。

 そしてそんな最強ハッカーが、十年以上かけて未だ育ての親の消息はつかめていないという。

 

「…! だからアラン機関のことを!?」

「ああ。ウォールナットをもってしても見通せない世界の暗部。もう探す場所はそこしか残されていない」

 

 強く頷くクルミは、自身がアラン機関に固執する理由も説明している。

 同時に、リコリコに居座って千束らに力を貸している理由についても語っていることを、皆は気づいただろうか。

 細かいディテールこそ異なるが、アラン機関絡みで生を得て、恩人を探し求めている姿は千束とよく似ていた。 

 

「もちろんボク自身が不老不死ってわけじゃない。

 …遺伝的に弄られたボクの身体は、老化がとても遅いんだ。老化しないってことは成長も遅いってことになる」

「んじゃアンタの実年齢ってナンボなのよ?」

「おやおや、それはレディに対してする質問じゃないぞ?」

 

 澄ました表情でミズキをいなすと、クルミはこう締めくくった。

 

「要は、ボクにも事情があるってことだ。だからこそボクはおまえたちと一緒にいる」

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、千束たちが真島を襲撃した少し後―――。

 

 

 

 

「…どうしました、千束?」

 

 不意に足を止めた赤いリコリスの制服の背中に、たきなは呼びかける。

 そんな彼女に腕には赤ん坊であるアオイが抱えられていた。グリーンのクマさんを模したキルティングジャンプスーツを着せられていて愛らしい。

 

「ごめん、たきな!」

 

 くるりと振り返ってきた千束は、パチンと両手を合わせると、

 

「ちょっと用事思い出したんだよね! だから、悪いけど、アオイと先に戻ってて!」

「また買い物ですか?」

 

 たきなは、はあ、と気の抜けた溜息とも取れる返答。

 今日も今日とてお得意様回りをしてきた帰り道。千束がこのようなことを言いだすのも良くあること。

 

「新作BDですか? それとも…」

 

 訊ねるたきなの頬はやや赤い。

 以前、『たきなに似合うと思って!』とランジェリーセットを買ってこられ、半ば無理やりお披露目会をさせられたことを思い出している。

 

「ん~、そこはナイショってことで!」

 

人差し指をピンと立てて、笑顔で決めポーズ。

 

「早く戻ってきてくださいよ?」

 

 不承不承で応じつつ、たきなは安堵している。

 真島の件から早一ヵ月以上が経過していた。

 千束も何かしら変わってしまうのか―――たきなの懸念はまだ心の奥底に残留したまま。

 しかしいつもと変わらない溌剌としたノリを見せてくれるのは、たきなにとってのこれ以上にない安心材料となる。

 

「OKOK。それじゃ、あとで! あ、夜ごはんは筑前煮がいいかな!」

「はいはい」

 

 まるで新婚夫婦のようなやり取りを交わした後。

 笑顔でたきなを見送った千束は、くるりと踵を返す。

 

 上機嫌のにへらぁとした笑顔を浮かべつつ、足を向けたのはビルのカフェ。

 出迎えてくれた店員に「あ、待ち合わせなんで♪」と応じた千束の行先は窓際の席へ。

 

 既にそこには黒いイブニングドレスを着てマダム帽をかぶった人物は着席していた。

 その4人掛けの向かいの席に千束も腰を下ろす。

 

「あら? 相棒はどうしたのかしら?」

 

 謎の先客が手の中で小さなスプーンを弄びながら言う。マダム帽の下のサングラスが千束を映す。

 

「まどろっこしい真似はやめてくれない?」

 

 千束の突き放した物言いは当然だ。

 離れた喫茶店から、一瞬だけ顔を照らした三点レーザーサイト。

 その光に気づくだけでも千束の感覚は常人離れしているが、そのポインターの仕様がSF映画に出てくる狩猟大好きエイリアンの武器のモノと理解したのも彼女ならでは。

 となれば、相手がコンタクトを取りたいのは、たきなではなく自分でしかない。

 これが、突発的に千束がたきなと別行動をとった理由だ。

 

「そうね。時間は有効に使うべきだわ」

 

 ふっと笑う気配。マダム帽を脱ぎ、サングラスを取ったその顔に、千束は絶句した。なぜなら。

 

「な…!?」

 

 そこには見慣れた顔―――自分の顔をした人物が座っていたのだから。

 

「なるほど。変装がアンタの特技ってわけね」

 

 千束は呻く。まるで鏡を見ているような錯覚に襲われるほどだ。

 同時に、色々と得心も行くこともあった。

 もし自在に誰にでも化けられるとしたら、DA本部での活動も容易いだろう。

 

「否定はしないわ」

 

 そう答えたニセ千束はサングラスをかけ直している。ちょうどウエイトレスがやってきて二人の前に水を置いた。

 そのまま二人ともホットコーヒーを注文。

 

「とりあえず、初めまして、かしら?」

「アンタが石花ミナミ―――石南花(しゃくなげ)なの?」

「あんな陳腐なアナグラムで呼ばれるのは趣味じゃないわね」

 

 対面のニセ千束は面白そうに唇を綻ばす。

 

「そうね、ティファって呼んでちょうだい。通称、プリンセス・ティファよ」

「プリンセスだぁ~?」

 

 そんな風に自称する子ってのは大抵イタイ子なのよね! 

 嫌味の一つもいってやりたかった千束だったが、相手が自身と全く同じ風貌をしているだけに躊躇して結局お冷ごと飲み下す。

 

「そんで? そのお姫様は、私だけを呼び出して何のようなワケ?」

 

 テーブルに片肘を突いて顎を支えながら千束。

 

「ん。禊は済ませたようね?」

 

 サングラスをかけたまま自称プリンセスは笑う。

 

「ハッ」

 

 と鼻息一つで応じる千束は、このやり取りが茶番であることを承知していた。

 禊というのは先日の真島を排除した件だし、自分だけを呼び出した理由なんてとっくに見当もついている。

 

 ちょうど注文したコーヒーが運ばれてきた。

 ありがとう、とウエイトレスに応じたのはお姫さまの方で、千束は憮然とした表情のまま無言。

 千束の三白眼に軽く肩を竦め、ティファを名乗る女は一枚の封筒を差し出してくる。

 

「それじゃあ、はい」

 

「…これは?」

 

 訊ねたのはもはや社交辞令の何ものでもない。封蝋に押されているのは、見まごうことなきアラン機関のフクロウのマークだ。

 

「招待状よ。アランチルドレンたる貴女にだけの」

 

 艶然と告げて来るプリンセス・ティファと名乗る人物を、千束はしげしげと見つめ返す。

 

「やっぱ、アンタはアラン機関のエージェントなの?」

「さあてどうかしら? 姉は正真正銘のエージェントだったけれど」

 

 ―――姉?

 

 千束の頭に一瞬クエスチョンマークが浮かんで、すぐに当座の人物に思い当たる。

 

「ひょっとして、アンタ、あのプランナーの?」

「プランナー?」

 

 今度はティファが首を傾げる番だった。しかし間もなくこちらも何かに思い当たったらしい。

 

「もしかして、姉さんは貴女たちに名乗ってなかったり?」

 

 千束が頷いて見せると、ティファは溜息をつきながら天を仰ぐ。

 

「あの人ったら、割かしそういうところが適当なのよね…」

「ってゆーか! 姉? アンタたち姉妹なの!?」

「だからそういったでしょ?」

 

 実に不思議そうに返されるも、今の彼女は千束に変装しているわけで。

 本当の顔が分からなければ、似ているかどうかすら判断はつかない。

 

「取り合えず、姉さんのコードネームは『姫蒲』ね。下の名前は知らないけど」

「アンタもたいがい適当じゃん!」

 

 憤然とする千束にいなす千束。

 口調や仕草までそっくりで、知り合いが見たらさぞ混乱を来したことだろう。

 

「とまあ、この変装術はワタシの天稟? ギフトってヤツよ」

 

 ティファがそう説明して、山盛りの砂糖をぶち込んだコーヒーを優雅にかき回している。

 

「つまり、アンタはアランチルドレンでもあるわけね? そして姉妹は揃って今回の計画に絡んでいるってことでいいんでしょ?」

「絡んでいるというより、姉さんの計画書を見てるんでしょ? だったらある意味ワタシが主役でしょ」

「…どういう意味?」

「ワタシにはもう一つのギフトがあるの。貴女と同じね」

「え?」

 

 驚く千束に、指先をピンと立てて不敵に笑う姿は、まさに彼女と瓜二つ。

 

「そう。人殺しの才能よ。ハアッ♪ 」 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 





大変間が空きました。申し訳ありません。
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