リコリコ・チャイルド(完結)   作:とりなんこつ

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9.いずれ咲く花のために

 千束とたきなは連れだって街を歩いていた。

 千束曰く、『お得意様回り』というやつで、朝から保育園で子供たちと顔を合わせる。

 

「あ、千束だー!」

「たきなお姉ちゃんもー」

 

 フェンス越しの子供たちの声。

 

「おお、みんな元気だなー」

 

 笑みを浮かべて挨拶を返す千束に、子供たちの反応は今日は違った。

 

「あれ? どうしたのその赤ん坊?」

「んふ♡ 聞いて驚け、私とたきなの子供だ!」

「えええッ!?」

 

 子供たちだけでなく保育士まで驚いていることに、たきなは気恥ずかしさを覚えている。

 リコリコで常連たちに結婚宣言をしてから、千束は赤子であるアオイを連れて出歩くことが多くなっていた。そのたびに、自分たち二人の子供と説明するのはまだいい。

 問題は―――。

 

「そんでね、たきなは私のお嫁さんになるのだ!」

「そうなの!? たきなねーちゃんは千束のお嫁さんになるの?」

 

 純粋に、目をキラキラとさせて訊いてくる子供たち。

 

「え、ええ…」

 

 曖昧に頷くたきなの前で、アオイも大人気である。

 

「うわーちっちゃい! 可愛い―!」

 

 結局、保育士が見兼ねて間に入ってくれるまで、アオイともどもたっぷり子供に弄繰り回されるたきなであった。

 

 

 

 

 そして、二人と赤子は次に訪れたのは日本語学校。

 

「リピート・アフターミー!」

 

 黒板の前で、アオイを抱え上げた千束が高らかに言う。

 

「赤ん坊! おぎゃあおぎゃあ!」

「ア、アカンボウ。オギャアオギャア」

 

 続いて千束はたきなを指さし、

 

「お嫁さん! ぽわああああ」

「オッヨメサン! ポワアアアア」

 

 頬を染めうつむきながら、たきなは思う。

 ぽわああってなんの擬音ですか。

 

 

 

 

 

「ほう、千束が結婚とは目出てえなあ!」

 

 絞田組の事務所にて。

 組長がゲラゲラと笑う。

 

「それにもうボンまでいるたあ、こりゃいっちょご祝儀を弾まねえと…」

「いやいや、私の嫁のたきなは17歳なんで、正式に結婚するのはまだ先なんですよねー♪」

「なるほど、そうかい。なら、来年あたりを楽しみにさせてもらうかな」

「そんときまでたーくさんご祝儀を積み立てておいてもらっていいですから!」

「分かった分かった。期待しとけよ」

「思いっきり期待させてもらいまッす!」

「はははは」

「ぐへへへ」

 

 なんか後半の絵面は東映ヤクザ映画の手打ち式みたいになっていた。

 

 

 

 

 

 

「さあて、次はどこに行こうかなーっと」

 

 事務所を出て、アオイを抱え上げるついでに千束は伸びをしている。

 

『なんでアオイを急に連れ回そうと思ったんですか?』

 

 出掛けのたきなの質問に、千束はこう答えていた。

 

『アオイのことをみんなに知ってもらための根回しは大切なんだよー』

 

 アオイ自身、捨て子で本来の戸籍は持たない。基礎的な個人情報を持ちえない。

 でも、二人の子供ということを周知して回れば、少なくとも近隣のコミュニティではその属性が定着するはず。

 

 要は、浸透的な情報操作か。

 たきなはそう解釈するも、千束はこうも付け加えていた。

 

『それに、いざとなれば、知っているみんながアオイを守ってくれるだろうから』

 

 言われたときは意味を把握し損ねたが、今なら理解できる。

 実際に千束は街の人々のために働いてきていた。

 恩義に感じた彼らは、きっと千束のためなら色々と骨を折ってくれるはず。

 

 見返りや利害関係といったドライなものとは違う。

 コミュニティの中でただ相手を思い遣る善のサイクル。

 

 時にはそれは偽善と呼ばれるかも知れない。

 しかしDAという鉢植えを飛び出したリコリスは、確かにこの街でも根を張って、その花を咲かせていた。

 死人花という不吉な由来を『情熱』の花言葉で燃やして。

 

 …なるほど。だから文字通りの『根回し』なんですか。

 

 感心するたきなだったが、目前で赤子を抱く千束にどうしても別の不信感が沸きあがってくるのを止められない。

 それはどういう化学変化か、かつて所属していた京都支部の同僚リコリスの京都弁となってたきなの脳内でアナウンスされている。

 

 

 ―――ひょっとして千束って、ウチのこと『私の嫁』って紹介して回りたいんだけちゃうん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そういってくれるな。千束も嬉しいんだろうよ」

 

 リコリコに戻ってミカに愚痴ったところ、慰めるようにコーヒーを淹れてくれた。

 

「なにせしっかりと役所に登録されるような“家族”が出来るんだからな」

 

 しみじみ言うミカに、たきなは赤面してコーヒーを啜る。

 何も入れてないはずなのに妙に甘い。

 

「少し真面目な話をすれば、リコリスの将来性がなあ…」

 

 戸籍を持たない孤児が集められ、エージェントとして教育を仕込まれた存在がリコリス。

 一般常識と年相応の学力は教えられるが、いわゆる世間知や社会知識には乏しい傾向にある。

 なにせ、かのファーストリコリスは自販機の使い方を知らなかったほどだ。

 リコリス棟で女子同士で生活し、ほぼ同年代の男性との接触はない。

 恋愛禁止とか以前に、異性と交流する機会すら認められていない。

 

 そんな彼女らが、リコリスとして()()()を迎えたらどうなるか?

 大半がDAの後方支援部署に再配置されるとのデータが示されているが、もっとも多感な青春期をエージェントとして活動した彼女らに、一般人のように恋愛をして結婚、家族を持つことは困難であるとのデータもまた明確であった。

 

 ミカの説明に、たきなは「なるほど」と頷く。

 

「…ちょっとたきな、なんで今あたしの方を見た? 怒らないから言ってごらん?」

 

 笑顔でコメカミに青筋を立てるミズキに首を竦めつつ、たきなは座敷へと視線を送る。

 そこには興奮してカメラのシャッターを切りまくる歴代最強のリコリスが居た。

 

「うおおおおッ! アオイ、可愛い!可愛いすぎる! ほら、目線こっち!」

 

 千束が興奮するのも無理はない。

 リコリコに保護されてはや数か月。最近のアオイは首もすっかり座り、身体に筋肉もついてきたのか自在に寝返りを打てるようになってきた。 

 そして今日。

 とうとう自力で床の上に座っていることが可能となったのである。

 

 ちょこんと座敷に座り、視線を彷徨わせるアオイ。

 無意味に手を叩いたり、何がおかしいのかケラケラと笑い声を上げたり。

 今まではただ見てくるだけだった瞳にはっきりと意思が感じられるのは、育て親の贔屓目だろうか?

 

 ともあれ、以前と違ってと自己主張してくる様子に、『アオイ』という人格が育ち始めたことは明白。育ててきた千束としては、文字通りの感無量といったところだろう。

 その感情はたきなも共有していて、可愛いのはもちろんだが、何か胸に込み上げてくるものもあった。

 

「まったく、子供の成長は早いものだな…」

 

 ミカがそっと目頭に指を当てている。

 ここ最近、彼の涙腺は緩化の一途を辿っていた。

 アオイの身体付きがしっかりとしてくきたのは前述した通りだが、すなわちそれは遠慮なく高い高いなどが出来るようになったということ。

 営業中にも関わらずその大きな手で高い高いを繰り返し、喜ぶアオイに感涙にむせぶミカは、目撃した客を存分に怯えさせている。

 

「親二人で育てているんだから成長の早さも二倍じゃないのか?」

 

 座敷のテーブルで珍しく工具を弄り回しながらクルミがいった。

 頭脳労働専門を明言する彼女は、普段も自前のPCのメモリを追加する程度しか作業はしない。

 

「ま、実際のところ、ボクも含めてお母さん四人みたいなものだけど」

 

 言われてミズキが、千束、たきな、クルミ、自分と指さし数えてニンマリしている。

 その姿を冷笑し、クルミは最後のナットを締め終えた。

 

「よーし出来たぞ!」

 

 彼女が袖余りの手に持ったのは赤子用のハーネスみたいなもの。

 

「んー、なにそれ?」

 

 カメラを構えたまま首を捻る千束に、

 

「いいから見てろって」

 

 クルミはアオイにハーネスを装着。

 そして、それにドローンを接続すると、ラジコンプロポを操作する。

 

「ほら、高いたかーい」

 

 無音のドローンが天井近くまで舞い上がり、宙に釣られたアオイは手を叩いて大喜びだ。

 しかし。

 

「やり方が雑ぅーッ!」

 

 千束がズビシとクルミの額にデコピン攻撃。

 

「し、仕方ないだろ! ボクの体格じゃできないんだから!」

 

 思わずプロポから手を離して額を押さえるクルミに、ドローンは傾いて失速。

 

「危ないっ!」

 

 すかさずたきなが空中でキャッチしてのけたのは、見事な反射神経としか言いようがない。

 

「今後、ドローンを使った高い高いは禁止!」

「はい…」

 

 千束に詰め寄られ、正座をしてシュンとするクルミ。

 

「でも、いっつもアオイの面倒を見てくれているのには感謝していますよ」

 

 たきなのフォローは実に素直な気持ちの表れだ。

 図らずもそれは千束のムチに対する飴の役割を果たしていた。

 

「そ、そうか?」

 

 顔を輝かせるクルミに、

 

「おまえの本業は電脳戦じゃろがーい」

 

 あたりめを咥えながらミズキ。

 そんな彼女は、スンスンと鼻を鳴らす。

 

「うーん、なんか美味しそうな匂い。今日の賄い当番はたきなだっけ?」

「あ、そういえば忘れてました」

 

 パタパタとたきなは厨房へと走る。

 火にかけた鍋は緩やかに煮えていた。

 

「今日から離乳食を始めるんだったか?」

 

 訊ねてくるミカに、

 

「ええ。ですから一番出汁を取ってみました」

 

 鍋の中をゆっくりとかき回しながらたきな。

 

「だからか、このいい匂い! アンタの料理はめっちゃ手が込んでいるから楽しみ~」

 

 やっぱ和食には日本酒よね♪ とウキウキで真昼間から四合瓶を開けるミズキの前に、ぽんとプラスチックの容器が置かれる。

 

「…なにこれ?」

「今日の賄いですよ。プロテイン」

「う、そ…」

「あ、チョコバナナ味の方が良かったですか?」

 

 御猪口片手に硬直するミズキを横目に、たきなは小皿にアオイ用の料理を盛りつけた。

 根菜を柔らかく出汁で煮込み、手作業でペースト状に伸ばした離乳食だ。

 

「きっと美味しいよ! ほっぺた落ちちゃうぞ~?」

 

 うりうりと頬っぺたを弄りながら千歳が涎掛けをセッティング。

 ふーふーと良く冷ましてからプラスチックスプーンを口に運ぶのはたきなの役目だ。

 赤ん坊特有のクリクリした瞳がじっとスプーンの先を見る。

 ふっくらとした唇がパクリと先端を咥え込み、舌がペーストを飲み込んでいく。

 果たして浮かんだのは満面の笑み。

 同時に、ドキドキとその様子を見守っていた母親たちの笑顔も満開となる。

 

「…しまった! 今の写真を取り損ねた! もう一回! もう一回だよ、たきな!」

「駄目です。赤ちゃんは消化器官が未発達だから、最初は一口だけ」

「え~! そんなこと言わず、もう一口…!」

「駄目なものは駄目です!」

 

 

 千束が甘やかし、たきなが締める。傍目にもいいコンビに見える二人に、クルミが恐る恐る問い掛けた。

 

「あの、な。アオイが喜んでいるのはいいが、ボクたちのご飯はマジでプロテインなのか?」

「そんなわけないでしょう。せっかく良いお出汁を取れたんですから、おじやでも作ります。それともおうどんでも湯がきましょうか?」

 

 ひゃっほーと歓声を上げるクルミに、たきなはカウンターを振り返った。

 ミズキさん、さっきのは冗談ですよ、今から作りますから。

 そう伝えようとしたのだが、カウンターで一人気まずそうなミカと目が合う。

 

「ミズキなら、たったいま泣きながら「外で食べてくる!」って出ていってしまったぞ…」

「あ…」

 

 

 

 

 

 奥の座敷で千束とたきなが並んで横になっていた。

 二人の間には、アオイがスヤスヤと寝息を立てている。

 外回りに初めての離乳食、ドローンを使った高い高いといったイベントもあったせいか、無事体力を使い果たしたようだ。

 

「飽きないな~」

 

 アオイの寝姿を眺めて千束はニヤケ通しだ。

 眠りながらパタパタと手足を動かす様子に目を細め、時折頬や背中を擽っている。

 

「ね、ね。赤ちゃんってこの手首のくびれのとこがチャームポイントだと思わない?」

「そうですね」

 

 千束ほどハイテンションではないが、気持ちとしてはたきなも準じていた。

 こうやって寝かしつけていると、赤ん坊の成長は良く分かるというものだ。

 

「いや~、もう毎日が楽しくて仕方ないよ、私は~」

 

 何気なく千束は呟いているが、たきなにとっては受け取り方が異なる。

 千束のモットーである『やりたいことが最優先!』は、決して短気に由来するものではない。

 人工心臓の耐久年数で20歳過ぎまでしか生きられない身体。

 残された寿命のうちで少しでも人生を豊かにしようとする、ある意味での刹那主義だ。

 

 もし、自分が千束と同じ立場だったら?

 

 たきながそう自問したことも一切ではなかった。

 きっと世界そのものの見方が変わっているだろう。

 間違いなく刹那主義、下手をすれば自暴自棄になっていると思う。少なくとも千歳ほど感情豊かではいられない。

 だが、しょせんは仮定のシミュレーション。

 現実は決して個人の主観は共有できず、本来的にそんな千束に共感しようとすること自体が傲慢なのかも知れなかった。

 

 紆余曲折を経て、千束の心臓は新しいものへと換装された。

 常人に準じた寿命を踏まえての発言だとすれば、たきなも十分に共感できる。

 

 決められたゴールまで歯を喰いしばり全力で走るのではなく。

 見えない行き先へ向かい、気ままに歩き、時には一生懸命に走る。

 おそらくそれこそが普通の人間の生き方というものだ。

 長い人生、何も短絡的な成果など求めなくてもいい。

 だが、近くに確実に時間を刻む慈しめる存在がいるのなら、それはきっと最上のことで。

 

「本当に、元気で、健康で…」

 

 たきなもアオイの頭を撫でる。

 人は成長していく生き物だ。

 だが、こと幼少期ほどそれを強く意識させるものはない。

 あんなに小さかった赤ん坊は、確かに一回りも二回りも大きくなっていた。

 手も足も大きくなって、これからはハイハイし、伝い歩きをし、やがて自分で走り回るようになるだろう。

 それはとても楽しみで、自分たちをどう呼んでくれるかはちょっぴり不安。

 だけど、その程度の不安は余裕で無視できるものだ。

 なぜなら―――。

 

「先生もすっごくアオイを可愛がってくれるし!」

 

 千束は嬉しそうに言う。

 何かとキメ細かいミカは、赤ん坊の世話もお手のものだ。

 知識も豊富で、自分たちが不在時でも何不自由なく任せられる抜群の安心感がある。

 色々と買い与えて甘やかそうとするのが珠に傷だが、それでいて二人がいるときはあまり出しゃばろうとしない奥ゆかしさをたきなも感じていた。

 もっとも常連の見る限り、あれは孫バカを越えた何かだとの認識が一致している。

 

「ミズキも何気に手伝ってくれるし!」

 

 確かに彼女は育児のセンスというものがない。

 それでも育児系情報誌を買い込んで店内にそっと置い

てくれたり、親子三人で外出して急な雨に降られてきたときなど、こちらが言う前に車で迎えに来てくれる。

 基本的にお人よしで気が回るミズキなのに結婚相手が見つからないのは、果たして彼女だけの責任だろうか。

 

「あれでクルミも意外と世話焼きだよねー」

 

 最初の頃こそおっかなびっくり赤ん坊に接していたクルミだったが、いまや積極的に構うようになっている。今日のドローンの件からも明らかで、母親二人の不在時にはタブレットで音楽を流してやったり、おんぶ紐で背負おうとしてやはり背負いきれず亀のように潰れていることもあると、ミカとミズキが笑いながら報告してくれている。

 

 そう。みんながいる。

 リコリコの全員が、この子を可愛がってくれている。

 

「なにより、たきなもいるし!」

 

 千束の台詞に、たきなは目を丸くしてしまう。

 

「そ、そんなこといったら、わたしにも千束がいましたし…」

 

 そもそもの育児は大変だ。世のお母さん方には、いわゆる育児ノイローゼを発症するケースもある。

 基本的に体力おばけとされるリコリスといえど、自分一人で子育てなど出来たかどうか、たきなには全く自信はなかった。

 それがこのリコリコという環境に加えて、労力も全て千束と分担している。

 DA支部としての依頼を果たしながら、どうにかこうにか育児を全うしてこれたのは、実はすごいことなのではないだろうか。

 

 千束の手が真っすぐ伸びてくる。

 僅かながら赤子の乳臭さを漂わせた手が、自分の髪の毛を撫でるのをたきなは感じる。

 ゆっくりと撫でてくる手に、自分もお母さんがいたはずだとたきなは思う。

 

「今、幸せだよ、私は。本当に」

「はい…」

 

 なぜか眠気を催してきた。

 目を瞑るべきか? 瞑るべきだろう。

 千束の手が頬を撫でる感触。

 好きにさせながら、何となく千束の顔が近づいてくるような気配がする。

 されるままに身を任せ、たきなの意識はゆっくりと薄れていって―――。

 

「あ、これ、アオイ目を覚ましちゃうね」

 

 千束の声に目を開ければ、ぱっちり開いたアオイの大きな瞳とかち合う。

 

「あぶぶ」

 

 意味不明の発語は、ひょっとして挨拶?

 

「さーて、そろそろリコリコの仕事に戻りますかッ! と、その前にアオイも寝汗びっしょりだからお風呂に入れてー…」

 

 ミカの好意で奥で昼寝させてもらっていたが、確かにそろそろ午後の開店時間だ。

 立ち上がった千束が腰を伸ばしていると、座敷の襖が開く。

 

「なんならボクがお風呂に入れてやろうかッ?」

 

 バイザーを跳ね上げてクルミが自分を指さす。

 この天才ハッカーは妙に義理堅いところがあり、先ほどのドローンの失点を取り戻そうとする意気が感じられた。

 千束とたきなは顔を見合わせる。

 

「それじゃ、お願いしていい? 私たちは浴室の準備と着替えをしてくるかさ」

「おッ! よーし、よーし! あとはウォールナットに任せろ!」

 

 そこでウォールナットは関係ないでしょーと笑う千束。

 たきなは先に浴室へと向かい、ぬるめのお湯を貯め、ついで浴室自体も温める。

 それから千束と一緒にリコリコの仕事着に着替え、アオイを抱えて浴室に向かう途中。

 

「…おい。ちょいとお待ち?」

 

 廊下で、スッポンポンで浴室へ向かおうとするクルミを呼び止める千束。

 

「おぬし、その手に持っているものはなんぞや?」

 

 クルミは入浴道具と一緒に何かメカメカしいものも引きずっていた。

 

「これか? 水中ドローンを改良したやつで、これにアオイを乗せれば浴槽の中でも実にスペクタクルな入浴体験が可能に…」

「風呂の中でもドローンは禁止じゃい、このバカチンがッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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