桃の華は鮮血に染まる~人格が変わった時、女桃太郎は血の海で嗤う~ 作:A-3
10話
「桃!このままだとみんな離れ離れになっちまうぞ!」
「気が散る。黙って」
そう言って桃は右に飛んで避け、飛び掛かってきた死人を蹴り飛ばした。少し離れたところでは紬がすれ違いざまに死人を次々と殴り倒していた。燿の姿が見えないのは少し心配だが、青龍が空を舞っているので無事なのだろう。
「こいつら斬っても斬っても起き上がってきやがる。桃だって陰陽師の端くれだろ?一気に倒せる術とかないのかよ」
「斬った方が早い」
「数を考えろ!」
「・・・」
桃は少し考えた後、おもむろに黎の刀を頭上に放り投げた。桃は刀が頭上で回転している間に素早く印を結んで『炎舞の術』を放った。
「やりゃあ出来るじゃねぇか。んじゃあ少し手伝ってやるよ!」
黎は宙に舞ったまま九尾に戻り、口から特大の『狐火』を吐き出した。桃の加減知らずの『炎舞の術』と『狐火』が重なり合って地面を抉る程の大爆発を起こした。桃は右腕を高らかに上げると、刀に戻っていた黎を掴み走り出す。
「いい事考えた」
「あん?」
「刀のまま『狐火』吐いて」
「・・・なるほど。ほらよ!」
桃が死人を斬ると、斬られた所から火が上がった。刀が炎を纏っているようだった。桃は切れ味が鋭くなった刀を無造作に振り回しながら次々と切り伏せていく。
何故こんな事になっているのか。それは一行が黄泉の国に着き、燈子が書いてくれた地図を頼りにようやく死者の入り口を見つけた時だった。いつの間にか死人の大群に囲まれていて、いきなり襲い掛かってきた。そのまま入り乱れの戦闘状態になったが、桃と黎の初共闘は意外に息が合っていた。
「桃が暴れているようだ」
「珍しいわね。あの子が黎と一緒に戦うなんて・・・それなら」
燿は一度青龍を戻し、新しい印を結んだ。目の前に出来た陣を指差すと、光の中から炎と共に深紅の鳥が現れた。
「朱雀、死人を燃やし尽くして!」
朱雀は燿に呼ばれた事がよほど嬉しかったようで、大きく一鳴きした。空高くまで舞い上がった朱雀は死人に目掛けて急降下していく。
地面に着く瞬間に方向転換し、その燃えた身体で死人に体当たりをしていく。朱雀の近くにいた死人は次々と蒸発したかのように煙と共に消えていく。少し離れて戦っていた紬は朱雀が飛び回っているのを見つけ、桃の近くまで死人を殴りながらやってきた。
「おいおいおいおい!桃ちゃん、なんだいあの鳥。次々と屍を燃やしてやがるぜぇ!」
「お姉が朱雀を呼んだ」
「うん。三人で戦うのは久々だからね!ボクも張り切っちゃおうかな!」
「にゃはは。虐殺祭りか!先にいくぜ!」
颯は鎖鎌から猫又に戻り、左右に飛び跳ねながら死人を踏みつぶしていく。紬は袖に手を入れたまま桃と同等以上のスピードで戦場を駆けていき、走り抜けた後ろから爆発が起きていく。袖から落としていくお札が順に爆発しているようだ。『罠式の術・爆破型』だ。途中、空中で颯と紬が交差すると颯は鎖鎌に戻っていた。それを紬は振り回して小さな竜巻を作り上げ死人が空中に舞っていく。そこに朱雀が横切り蒸発させていく。気が付くと三人はお互いの背中を守るように対峙していた。紬は燿に向かって叫んだ。
「燿姉!先に中に入っていいよ!」
「無茶よ!まだ数が多すぎるわ!」
「多分この死人は『イザナミノミコト』様の命令だと思うんだ。だからやめるようにお願いしてきてよ。それまでは桃姉とボクで食い止める」
「お姉、気を付けてね」
「・・・そっか。私達は三人揃っているものね・・・桃、紬の事お願い」
「燿!今俺と悠の意識を繋いだ!何かあったら連絡してやるよ!」
「ありがとう、黎!悠、道を開いて」
「妹二人だけ残して本当にいいのか?」
「自慢の妹達を信じなかったら逆に怒られるわ。急いで!」
「わかった。では黎の真似でもするか」
朱雀の後ろを走っていた燿の手から離れて悠は九尾に戻り、『狐火』を朱雀にぶつけた。前方一帯の死人が蒸発するように消えた隙を狙って燿は、死者の入り口に飛び込んだ。それを見届けた二人は背中を合わせる。
「なんかさ、桃姉と二人で戦うのは初めてかも!」
「楽しそう」
「へへ。そう見える?ボクと桃姉で燿姉の道を作るってなんか嬉しくて」
「・・・うん」
二人は戦場の中で笑いあった。その間にも死人が取り囲んで少しずつ狭まってくる。桃と紬が同時に印を結び出した。死人がその隙を狙って飛び掛かってくるが、黎の『狐火』で消し炭にされ、颯の爪で引き裂かれていく。
「桃は取り込み中だよ。俺に挨拶無しで近寄れると思うなよ?死人風情が!」
「にゃは!手ごたえねぇなぁ!数だけいたって意味ねぇんだよ!」
印を結び終えた二人は同時に叫ぶ。
「滅!」
周囲が氷の世界に変わった。二人同時に『氷城の術』を発動させたのだ。辺り一面は静寂に包まれ、吐く息が白い。ひとまず死人の気配は感じられず桃と紬は座り込んでしまった。
「い、いやー。張り切りすぎちゃったね」
「ちょっと・・・休憩」
二人は手を繋いで深く息を吐いた。