袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第九話「暗躍」

 最近有名になってきた袁術の軍勢。意外とやるようね。たった1万5千で10万と互角に戦うなんて。それに見たところ黄巾党もただの賊の集まりではなくかなりの精鋭だったわ。恐らくこの5万の軍勢でも苦戦するくらいには手強かったでしょうね。

 

「皇甫嵩将軍。助太刀感謝します」

「構わないわ。むしろ本来であれば我々がやらなければいけない事をさせてしまって申し訳ないわ」

 

 袁術軍を率いていた周沙と言う少女と皇甫嵩将軍が挨拶をしている横で見ているけど……、なるほどね。かなりの実力者ね。噂通りであるなら武勇は春蘭と戦える程、知略は桂花や凛と同程度。政治に関してもそれなりに出来る。人材としては最高過ぎるわね。本当なら私の部下に欲しいけどあの娘には他者が映っていないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも何時の日か私の部下にして、そしてベッドの上で鳴かせてみたいわ。

 

「それで皇甫嵩将軍はこの後は?」

「我らは豫洲の解放の為に来た。とは言え既に袁術殿が動かれているのであれば豫洲の次にと考えていた兗州に向かおうと思うわ。そちらにも数万規模の軍勢が蔓延っていると聞くからね」

「ではもし我らが豫洲の解放に成功した際には援軍としてそちらに向かいましょう」

「それは有難いわ。その時はよろしくね」

「はい。勿論です」

 

 お互いに進むべき道を確定させたけど今日は既に日が落ち始めている。これ以上の進軍は危険だとして兵の休息も兼ねて今日はここで宿営する事になったわ。そして夜、私は配下の春蘭に桂花と共に昼の事について話し合った。

 

「……周沙と言う者、かなりの強者ね」

「張曼成は南方における黄巾党の頂点と言える重要人物でした。それ以外にもかなりの実力者が多く揃っていた中であの数を劣勢とは言え凌ぎきった。悔しいですが私でも指揮は出来ても防げるとは思えません」

「春蘭はどう? 武人としてどう感じた?」

「はっきり言って強いです。私が勝ちますが苦戦しそうな実力はあるように感じました。それに、兵も一人一人がかなりの練度を持っているように見えました」

「……そう。どうやら都で頭角を現さんとしている内に、南では既に新たな力が台頭してきている様ね」

 

 やはり私の領地が欲しいわ。自分だけの軍を組織する。漢王朝に代わる、私の国を作るには今のような役職だけの身ではいけないわね。

 

「明日から兗州に向かう事になるわ。位置的に最初は陳留の黄巾党を殲滅する事になるわね。そしてその先鋒は私。桂花、軍の指揮は任せるわ」

「はい! お任せください!」

「春蘭。いつも通り先陣を切りなさい」

「はっ! 華琳様に勝利を持ってまいります!」

 

 春蘭に桂花。後、春蘭の妹の秋蘭。皆優秀だけどこれだけでは足りないわ。もっと優秀な者を集めないと。それにはどうしても領地が必要になる。……さっさと黄巾党を駆逐して褒美を得たいわね。諸侯も動いた今黄巾党が勝つ未来はなく、褒美の取り合いになる事は確実。ならば確実な褒美を得られるようにしないといけないわね。

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかる。黄忠殿」

「……」

 

 南陽の一角、宿が立ち並ぶエリアに板垣はいた。机を挟み、目の前には一人の女性がいる。しかし、穏やかに話しかける板垣とは対照的に女性、黄忠の視線は鋭く、まるで今にも射殺さんとばかりに睨みつけている。二人以外にこの部屋にはいないがもし誰かいれば怒りを覚える光景だったかもしれない。この南陽の救世主と言える人物を睨みつけているのだから。

 

「さて、早速だが要件を聞こうか。私はこう見えて忙しい。最近では君の主君、劉表の動きがきな臭くてな。その備えを行わなければならない。分かるだろう?」

「……ならば言いましょう。璃々を返しなさい!」

「それが要件か? ならばこちらは時間を無駄にされただけだな」

 

 璃々。自らの娘の名を口にする黄忠の様子から、板垣が行った事は誰もが察しがつくだろう。しかし、娘の安否を気にする母親の様子など知った事ではないと言わんばかりに板垣は興味を失った表情で椅子から立ち上がるとそのまま扉に向かっていく。

 

「っ! 待ちなさい!」

「……最初に伝えているはずだ。()()()()()()とな。まだまだ時間はあるとはいえ期限は近づいてきている。結論はさっさと出す事だ。出なければ結論を出す前に娘が悲惨な目に遭う事になるだろう」

「……貴方は、市井に流れる噂とは真反対の人ですね。人の心を失った悪鬼のよう……」

 

 怒りの籠った黄忠の言葉、そんな彼女の言葉を板垣は鼻で笑い飛ばすと一度だけ顔を振り向かせる。そこには嘲笑とも取れる笑みが浮かんでいた。

 

「強大な敵を潰すために謀略を尽くすのは当然だろう? 例え今いる何十、何百万の民を犠牲にしようとも、その後の数千万の民が幸せになるのなら俺は喜んでそれを行おう。その結果が俺の無残な死だとしてもな」

 

 それだけを伝えると板垣は本当に部屋を後にした。一人残された黄忠は悔しさからか、怒りからか、はたまた別の感情ゆえか血が出る程に拳を握り締めいていた。

 

 

 

 

 

 

 黄巾の乱終結寸前、劉表は南陽を手にするべく8万という軍勢を率いて出陣した。

 そして、その夜に劉表は矢による狙撃を受けて暗殺された。

 

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