袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第十一話「動向」

「おのれ……! 何故このような事に……!」

 

 劉琮側の家臣で最も有力な蔡瑁は自らの勢力である襄陽を拠点に劉琦勢力との争いを開始していた。最前線と言っていいここには劉琮を始めとして主要メンバーが集まっていた。そして、彼らは大急ぎで軍議を行っていたが、その理由が朝廷の命を受けたとして侵攻してきている南陽袁家に関してだった。

 劉琦の倍の兵力を持つとはいえ互いの戦線は広大である。その全てに兵を配置した影響で直ぐに動かせる兵は少ない。精々がここに居る5千と各諸侯の私兵数千が限度と言えた。それだけを以て計3万の軍勢を追い払う必要があった。

 

「敵の将は紀霊、そして周沙と言う小娘だ。どちらも武に優れた武将だ。とてもではないが数で劣る状態で相手できる者達ではない」

「だがこのままでは挟み撃ちにされる我らが不利だぞ」

「単純計算で劉琦側に3万の援軍が来たようなもの……。数の差はひっくり返ってしまっている……」

 

 既に義陽や南郷が陥落しているという情報は彼らの耳に入ってきている。しかし、そこはかつて劉表が南陽を狙い侵攻した際に占領の憂き目に遭っている場所。その日の統治を忘れられない民たちからの反発が強かった事もあり、これほどまでの早い陥落も想定内であった。しかし、それは同時に更に奥深くまで敵が迫ってきている事も意味しており、早く何とかしなければ彼らは勢力の維持さえ困難になるだろう。

 

「……とにかく先ずは南部に兵を進めてきている紀霊に対してだ! 本来は南郷で敵を食い止めて劉琦と領地を接するのを防ぎたいが、それが出来ない以上主力とみえる紀霊を何とかするべき……なのだが、そのための黄租は何処に行ったぁ!?」

 

 主要メンバーの中で唯一顔を見せていない黄租に蔡瑁は怒鳴る。義陽を攻略した紀霊が次に攻め込んでいる江夏の太守であり、かつて同じように攻め込んできた孫堅を返り討ちにした現状で最も期待できる存在の不在に怒鳴らずにはいられなかった。しかし、その隣で軍議に参加する張允が恐る恐ると手紙を出す。

 

「蔡瑁、実は軍議が始まる直前に黄租からの手紙が届いてな……」

「それを早く言わんか! 貸せ!」

 

 張允から手紙をひったくった蔡瑁は手紙を確認する。最初こそ怒りで顔を真っ赤にしていた蔡瑁だが手紙を読むにつれて怒りが収まったのか神妙な顔になっていく。そして、手紙を読み終えるころには怒りが完全に収まった様子で息をついた。

 

「何と書いてあった? 軍議が始まる故に私も中は見ていないんだ」

「……黄租は既に江夏に入っている。私兵の2千と()()()()()()()3()()()()()迎撃に出ているそうだ」

「成程……。ん? 3千をここから?」

「そうだ! あいつ! 実力があるからと見逃してきたが勝手に兵を持っていくなど……! これで失敗した際にはその首切り落としてやる!」

 

 蔡瑁は決して怒りを静めた訳ではなかった。あまりにも怒り過ぎて一周回って冷静になっていただけだった。そして、蔡瑁の怒りは暫く続き、軍議らしい軍議も出来ずにその日を終える事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、劉表様も面倒な形で亡くなってくれたの」

 

 劉琦側についた厳顔はそう言いながら徳利に入った酒を飲み干す。常に酒を飲む彼女は酔っていない時の方が珍しい方であり、荊州一の酒豪と言えた。

 

「……」

「ん? どうした紫苑よ。お主も飲まぬか」

 

 そんな彼女の相手をしているのは同じく劉琦側についた黄忠であり、最近暗い表情している事が多い彼女を気遣いついでに最近感じる()()()()()の為にこの場を設けていた。

 

「それはそうとお主、璃々はどうした?」

「っ! ……親戚に預けているわ。今の荊州は危険が多いもの」

「……」

 

 付き合いの長いからこそ分かる明らかな嘘。しかし、それを問い詰めるような事は出来なかった。明らかに苦し気な様子であったために。同時に黄忠のこの様子をみて確信した厳顔は徳利に酒を注ぎながら問う。

 

「劉表様を殺めたのはお主であろう?」

「……」

「劉表様は出陣中に後方から矢を頭に受けて死んだ。それだけならただの暗殺だが大軍がいる中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは大陸広しと言えどおぬしくらいであろう」

「……」

「そしてなぜそのような暴挙に出たか? 簡単じゃな。璃々を人質にとられたのじゃろう」

「っ!」

 

 ここまで無言を貫いてきた黄忠が見せた明らかな驚きの感情。厳顔は自分の予想が当たった事で最悪の事態を想定する必要があり、悲し気な表情で続ける。

 

「おそらく劉表様の暗殺が璃々の返還条件じゃろう。だが、それがなされていないという事はこの内乱をその者の()()()()()()()()()を新たな命令とされたか?」

「わ、私は……」

「……それほどまでに恐れる相手か? ()()()()()()()()

「っ!!!!?????」

 

 その名が出てきた瞬間、黄忠は自らの得物である弓を手に取るが矢を取り出す暇もなく厳顔に組み敷かれる。力では上の厳顔が黄忠をうつ伏せにするとその上に乗り、身動きを封じた。

 

「やれやれ。少しは落ち着いたらどうじゃ?」

「っ! 離して!」

「訳も話さずに儂を攻撃する。それほどまでに強く脅されておるのか……。黄忠、済まぬがお主を殺す事も説得する事も儂には無理じゃ。せめて、終わるまでは大人しくしておいてくれ。璃々に関しては儂も動こう」

 

 この日、黄忠は厳顔の手によって地下牢に入れられた。罪状は劉琮側への情報の漏洩であり、内乱終結までの拘束とされた。黄忠の下を訪れられるのは厳顔以下限られた者のみであり、黄忠がどうなってしまっているのかを民たちが知る事は出来なかった。

 そして、南郷を通じて劉琦側と接触が可能になった事を生かしてか、厳顔は劉琦側の使者と言う名目で南陽に一人向かうのだった。

 

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