袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第十三話「軍議」

 約2万と言う大軍を失った南陽袁家だが、生き残った1万の兵は戦闘らしい戦闘もしていない為に怪我等はなく、すぐにでも出陣できる状況だった。加えて、劉琮側も追撃するだけの兵はない為に江夏から撤退しつつも義陽はきちんと確保する状態となっていた。

 しかし、周沙率いる1万の兵は北部にて猛威を振るっていた。元々武勇に優れていた彼女は時には前線で、時には後方から指揮をして巧みに劉琮兵を駆逐していき、損害を多く与えていた。彼女の活躍により南郷を完全に制圧し、劉琮側の本拠地である襄陽の攻略に着手し始めていた。

 

「襄陽には撤退して来た兵も合わせて3万5千程がおります。これらは一か所に集まり決戦の構えをとっています」

「一方の我らは1万5千と周沙殿の1万の計2万5千。数の上では劣っているな」

 

 劉琦兵と合流した周沙はこの先で待ち構えている劉琮兵に対抗するべく軍議を開いていたが斥候の情報から敵の方が数が多いことが判明する。元々劉琦2万、劉琮4万で始まったこの戦は途中で3万の南陽袁家が劉琦側で介入したことで数を覆していた。しかし、南方に侵攻した紀霊将軍が敗北し、2万の兵が脱落した事で再び数では劉琮が有利な状況となっていた。

 

「とは言え敵に警戒するような将はいません。精々が蔡瑁と張允くらいでしょう。そして兵も両者の兵が中心となっています。私は西部から敵を突破して本陣を狙います。よろしいですね」

「無論です。我らは中央と東部で守りの構えを」

 

 周沙が槍、劉琦が盾の役割りで合意するが両者は内乱が無ければ争っていた仲である。下手に陣形を組むよりもこの程度の大雑把な話でまとめる方が理に適っているだろう。

 

「では私は先に出立します。騎兵中心の我が部隊の方が足が速いので斥候ついでに敵の様子も確認しておきましょう」

「了解した」

 

 劉琦側についた諸侯に周沙に反論できる者などいない。荊州の刺史の座を巡り二分された彼らは独力では勢力を維持する事すら出来ない。実力も上、国力も上にも関わらずこちら側に付いた南陽袁家の力がなければ劉琦側の諸侯に明日はないのだから。

 そして、周沙が陣幕を出ていった後に諸侯たちは安堵の息をつく。見た目では対等に接していたつもりでも彼らと周沙では格の違いが大きすぎた。それは軍議に参加していながら一言もしゃべれず、ただ黙っている事しか出来なかった劉琦を見れば一目瞭然だろう。

 

「……なんで、こうなっちゃったのかな?」

 

 今年14になったばかりの劉琦はぽろぽろと涙を流しながらつぶやく。元々、劉琮に刺史の座を渡しても構わないと思っていた程の野心の無い彼女はその様に行動を起こしていた。しかし、気づけば漢王朝から劉琦に刺史の座が与えられ、それに激怒した蔡瑁達に劉琮が擁立されて内乱を起した。劉琦はその時でさえ自分の首でおさまるのならと降伏さえ視野に入れていたが実行に移す間もなく隣国の南陽袁家に劉琦の支援を行う様に通達があり、他家を巻き込んだ大戦となってしまった。

 結果的に南陽袁家の力を借りる事で劉琮側を追い詰め始めているがその後の統治では劉琦の荊州刺史の称号はお飾りのものとなるのは明白であった。何しろ、この討伐で活躍しているのは南陽袁家なのだから。既に南郷と義陽を自身の勢力下においているがそこからどれだけむしり取られるのかは分からない。

 

「劉琦様、厳顔殿がお戻りになりました」

 

 勝手にとは言え劉琦側の使者として南陽に向かった厳顔の帰還。黄忠が牢に繋がれた今劉琦側において最上の武の持ち主の帰還を誰もが歓迎した。

 

「厳顔! 何故勝手に南陽に行っていたんだ!? おかげで大変だったんだよ!」

 

 厳顔の顔を見るなり劉琦が涙目で問う。厳顔不在の穴は思いのほか大きく、一部の村や町が劉琮側の攻撃を防ぎきれずに陥落していた。いずれも厳顔がその武勇で支えていた箇所だ。

 

「大変申し訳ございませんでした。ですがその代わりとは言えるかは分かりませんが南陽袁家から更なる支援を約束させてきました」

「それは本当? 貸与だったりしないよね?」

「無償での支援です。内乱後に何を要求されるかは分かりませんが敗北するよりはマシでしょう」

 

 敬語で話す厳顔に劉琦はまるで母を慕う子の様に接しているが上に立つ者として聞くべきことは確認していく。未だ若い劉琦だが数年もすれば立派な刺史として荊州を統治できる器があった。しかし、原石である今の状況においてその数年を待つ余裕はなかった。

 

「武具や弓矢は数日中に到着します。残念ですが劉琮との決戦には間に合わないでしょう。それと食料は兵が数か月は飢えない量を受け取っています」

「そんなにたくさん……。厳顔、本来は僕が命じないといけない事なのに率先して動いてくれてありがとう」

「いえ、私は……」

 

 板垣との密約を話す訳にもいかず、劉琦の純粋な感謝の気持ちを受け取る事が出来なかった。厳顔は友とその娘の為に荊州を売り払ったのだから。

 そんな厳顔の心のうちなど分からない劉琦は不安を感じながら明日の行軍に備えて軍議の終了を宣言し、自身の寝所に向かうのだった。

 

「……すまない」

 

 一人残された陣幕内で悔し気に呟く厳顔のその言葉を拾う者は誰もいなかった。

 

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