袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第十五話「密談」

 時間は荊州内乱の決戦の前、黄祖が紀霊将軍を討ち取った直ぐ後にまで遡る。魯粛が率いる残党軍を義陽で受け入れると板垣も現地に入った。軍の再編成と義陽統治の準備を兼ねてのものであったが板垣はそこで思わぬ人物と出会う。

 

「お前が南陽袁家を事実上乗っ取っている板垣とか言う男か」

「……そう言うお前は黄祖だな?」

 

 義陽のとある町に滞在した板垣は高級宿に宿泊していたのだがその部屋には一通の手紙が置かれていた。まるで板垣がここに泊まると分かっていたかのように板垣を名指しで指名し、とある時刻に近くの酒場で会いたいと書かれていた。そして、板垣はそれに応じて酒場の端の席で黄祖と出会ったという訳であった。

 

「……何の用だ?」

「ふぅん? なんで手紙を置けたのかは聞かないんだね?」

「聞く意味があるか? お前は何らかの手段で以て俺との連絡を取った。ただそれだけだ」

 

 自身の周りに内通者や買収された者がいるのかもしれない。若しくはこの周辺の情報をくまなく集め、精査して自身が宿泊する宿を予測したのかもしれない。しかし、それは既に過ぎ去った過去であり、気にするべきことではないと板垣は考えていた。加えて、黄祖から理由を聞いたところで本当の事を言うとは限らない。敵である将の言葉を信用できない以上聞いたところで混乱するだけである。

 

「へぇ、噂通りと言えば噂通り、いやそれ以上だね。お前とは仲良くできそうだ」

「仲良くしたいと? お前は敵。それも紀霊将軍を討ち取った怨敵とも言える相手だ」

「怨敵? 本気で言っているのか?」

 

 黄祖はずっと感じていた違和感が板垣と話す事で解けていた。何故、紀霊将軍が簡単に罠に嵌ったのか? 紀霊将軍が余計な事を考えない性格と言われればそれまでだが魯粛と言う軍師がついているのは黄祖も確認していた。軍師がさせるとは思えない軽率な行動に黄祖はずっと違和感と疑問を持っていたのだ。

 

「あんただろ? 紀霊将軍が死ぬように仕向けたのは」

「何の事だ?」

「ここでとぼけるのか? 紀霊は袁術側の人間の中で最も権力と実力を持った将だ。私に紀霊を殺させる事で南陽袁家を完全に自分の物にするつもりだったのだろう? いや、()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

 黄祖の予測を聞き、板垣は無言を貫く。しかし、その瞳には警戒が浮かんでおり、必要とあらばここで始末するという気配さえ感じてくる。そして、それが自身に向けた警告である事も黄租は理解できた。それゆえに、関係を壊しかねない考察は終えて本題へと入る。

 

「ではこんな与太話は終えて本題に入ろう。私はお前に降伏したい」

「土産は?」

「桂陽群太守趙範と零陵群太守劉度の恭順。それと劉琦陣営における諸侯の情報」

「悪くはないな」

 

 お互いに不必要な会話はいらないといわんばかり要点のみで話を進めていく。板垣は警戒こそ解いていないが殺そうという意志は鳴りを潜め、黄祖も自らを積極的に売り込んでいく。

 

「……どうだ? 少なくとも今の私に出せる全てを出したつもりだが」

「良いだろう。少なくともお前でなければ既に要職付きで登用している土産だった」

「それは嬉しいねぇ。なら私はどうすればいい?」

「劉琮側が決戦を仕掛けるべく襄陽に兵を集中させているという情報が入って来た。お前が現時点で降伏してはこの決戦が出来ない可能性がある。確実に決戦に持ち込むために劉琮側が決戦で敗北してから降伏せよ」

「へぇ? 決戦で負けるとは考えていないんだね」

「当たり前だ。将は周沙。南陽袁家において俺の後釜を任せられる優秀な部下だ」

「知っているさ。私としては是非とも部下に欲しいと思える逸材さ」

「お前ごときには勿体ない者だ」

 

 お互いに要件を終えると二人はさっさと酒場を後にする。誰が見ているのか分からないという事もあり、長居は無用だった。

 

「黄祖、か。アイツを味方に引き込むのは危険だが敵にいるのはもっと危険だ。やはり長沙を孫策に与えて抑えとするか。母親の仇だ。暴発するかもしれないが孫家の力が落ちると考えれば悪くはないか」

 

 豫洲刺史となった為に豫洲全土を領土としたが未だ東部においては独立の動きを見せる諸侯が蠢いている。その抑えと鎮圧を孫策に頼んでいるが荊州内乱で最も出陣したかったのは彼女だろう。敵側に母である孫堅の仇の黄祖がいるのだから。とは言え紀霊将軍を排除する目的の為に孫策の要望を無視した結果、彼女は豫洲でストレス発散をするが如く反抗的な諸侯を次々と鎮圧していく。

 主要な孫家の面々は軍師として同行した周瑜以外にいない彼女だが黄巾の乱の際に村を守るために奮闘していた許褚と言う少女を配下に入れつつ兵の信頼を得て周沙の親衛隊に勝るとも劣らない力を手に入れていた。その気になれば豫洲で独立出来そうな程今の孫策は力を付けてきている。長沙の太守にする事でかつての領土に戻れたという安堵と貸しを作りつつ、黄祖と隣同士にさせる事でお互いに牽制乃至戦をして力を削ぎ落す事になれば板垣にとっては申し分ない結果と言える。どちらかが倒れた際には板垣が介入する事で力を増やす事を阻止する。

 三国志に登場する英雄の一人である以上孫策及び孫家に警戒を解く事はない。必要とあらば排除する事も常に考え孫策を扱う。彼女達は板垣にとってもそれほど警戒し、慎重に挑まねばならない相手と言えた。

 その結果であろう。史実では袁術の力すら吸収して急速に力をつけた孫策の力は史実程には至らず、南陽袁家の者達で彼女達について行こうとする者はほとんどいない状況が今後も続く事になる。

 

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