板垣が精鋭兵を作り上げた約半年後、黄巾の乱から凡そ一年半後に朝廷で政変が起こった。元々、漢の大将軍何進と内政を牛耳る十常侍が対立をしていたが遂に十常侍が何進大将軍の暗殺という暴挙に出た。幸いにも何進は逃げ延びる事が出来たが朝廷は完全に十常侍の支配下となった、訳ではなかった。何進大将軍の暗殺未遂を行った十常侍は漢軍の信頼を得る事が出来ず、更に霊帝の要請を受けた董卓が宮中に雪崩れ込むと十常侍を粛清していった。
このような経緯を経て朝廷は董卓の支配下に置かれる事となり、霊帝は董卓を宰相に任命して国政の一切を任せる事となる。しかし、この一連の流れを不服に思う諸侯は多い。特に河北にて独力で勢力圏を作り上げ、自身も三公と言う名門の出である袁紹は反董卓の感情をむき出しにしていた。それゆえに、彼女が諸侯に手紙を出すのも当然と言えた。
「……このように、袁紹様は袁術様を含めた諸侯と共に董卓排除をしたいと願っております。袁術様が参加為されるとなれば他の諸侯も参加をするでしょう。どうか袁紹様への協力をお願いしたく」
南陽袁家に訪れた顔良は主君である袁紹からの言葉と手紙を伝える。宰相としてそれを受け取った板垣は史実の反董卓連合が始まったと感じながら返答する。
「袁術様に代わり宰相の私が答えさせていただきます。我らとしても董卓の専横を見過ごす事は出来ません。袁紹様が大々的に反董卓連合の結成を宣言為される時には我らは喜んで参加させていただきましょう」
「それは有りがたい返答です。早速袁紹様に伝えさせていただきます。……ところで、その」
「何か、ございますか?」
「い、いいえ。なんでもありません……」
顔良は玉座に座りながらも一言もしゃべらずに、一心不乱に蜂蜜水を飲む袁術に恐怖を感じつつ疑問として投げかけようとしたが、それを許さないと言わんばかりに板垣は黒い笑みを浮かべる。場合によっては排除も辞さないという雰囲気を醸し出す板垣に、顔良もそれ以上聞く事は出来ずに城を後にする。
「……さて、そろそろ限界か」
「……」
「袁術様。
板垣が調合した麻薬が含まれた蜂蜜水を飲み続けた袁術は既に思考する能力すら持たず、ただ蜂蜜水の為に板垣の言葉通りに動く傀儡となっていた。しかし、反董卓連合が終わった後には漢王朝の秩序は崩れ去り、群雄割拠の時代が訪れる。そうなれば袁術を傀儡とする今の状況を維持する必要はなくなって来る。板垣は本格的に袁術の排除を考えつつ反董卓連合の為に兵を集め始めるのだった。
「反董卓連合には袁紹と俺らが確実に参加する。そうである以上大半の諸侯は追随するはずだ」
板垣は早速領内の有力者を招集して会議を開催した。この会議には周沙を始めとする武官や軍師、孫策や黄祖などの太守、そして陳珪を始めとする文官が集められていた。その数は100人を軽く超えており、まさに南陽袁家の全ての権力者が集まっていると考えて良かった。
「ここで董卓に与する乃至不参加を決め込むというのは両袁家を敵に回す事を意味し、加えて事実かどうかは分からないが洛陽を暴政で荒廃させている董卓から皇帝をお救いするという大義名分を掲げている以上逆賊になりかねないからな」
「と言う事は宰相は董卓が暴政を強いていないって考えているんですね~?」
「当たり前だろう。董卓はこれまでに暴政を強いていたという情報はない。そんな奴なら最初から皇帝の信頼を得られるわけがない」
「それだけ分かっているのにあなたは袁紹と手を組むのね? これじゃこっちが逆賊みたいじゃない」
孫策の何処か呆れた言葉に板垣は失笑する。正義だ悪だと板垣は考えていない。国家を統治するうえでそう言ったものは不必要だと考えているからだ。
「勝てば官軍負ければ賊軍。そして歴史は勝者が作り上げていくものだ。俺達がここで勝てればそれまでの過程は好きなように出来る。敗者の言葉より、勝者の言葉の方が誰もが聞きやすいからな」
「……そう。貴方はそう考えるのね」
孫策は板垣の思想とも言える本質の一部が見えた事でそれ以上何かを言う事はなかった。彼女の表情からは、板垣の言葉を聞きどのように感じたのかは計り知れなかった。
「我々は豫洲及び荊州半分を手に入れた事で動員できる兵もけた違いだ。恐らく我らが最大兵数を出せるだろう。周沙、お前には主力である5万の兵を任せる」
「はーい」
「孫策や黄祖ら太守は私兵を連れて参加せよ。加えて、5千の兵を貸し与える。兵数の少なさは気にする必要はない」
「存分に使わせてもらうよ」
「任せなさい」
「魯粛、お前は本陣から全体の指揮を執れ。今回は俺も出るが軍の指揮に関してはお前の右に出る者は少ない。重要な立場だがしっかり頼むぞ」
「は、はい!」
「周瑜及び孫家の軍師は散って各陣営の指揮を執れ。魯粛も全てを見れる訳ではない。細かい所を補助せよ」
「……分かった」
軍勢の振り分けを行っていき、南陽袁家は直轄軍だけで10万、太守の私兵を含めれば12万もの大軍勢となった。これは次点で数が多い袁紹の軍勢を大きく引き離す結果となった。
数日後、袁紹が反董卓連合の結成を宣言した。これに南陽袁家が応じると各地の諸侯もこれに追随する事となる。荊州の劉琦を始め、陳留の曹操、涼州の馬超、幽州の公孫瓚、冀州の劉備などの諸侯が参加したこの連合軍は30万を超える大軍勢となった。一方の董卓は漢軍も吸収して10万近い兵で迎え撃つ事になる。
こうして漢王朝の力を完全に消失させる反董卓連合による戦が遂に始まった瞬間だった。