「さぁ! 我が李傕が率いる最強の兵たちよ! 連合の息の根を止めてやるのだ!」
まさに大柄の熊の如き男と呼ぶにふさわしい董卓の配下李傕は敵軍にも伝わる大声で兵を鼓舞して奇襲を開始した。彼の左右には同じく配下の張遼と、呂布がそれぞれ軍勢を率いていた。連合軍から見て右斜め前からの奇襲であり、そこに陣取っていた曹操軍はまともな奇襲を受ける結果となった。
「落ち着け! 今こそ曹操軍の実力を見せるときだ! 敵を返り討ちにせよ!」
「前線には袁紹の兵を配置しなさい! 元々壁として使う予定のやつ等だったんだから失っても問題ないわ!」
前線では曹操軍随一の武勇を誇る夏候惇が得物を振るって敵をなぎ倒し、後方では軍師の荀彧が袁紹軍を盾に立て直しを図っていた。とはいえ端っこであったために曹操軍は李傕、張遼軍からまともに攻撃を受ける状態となっており、かなりの速さで被害が広がっていた。
「董卓軍を迎え撃つんだ! 曹操軍を助けに……っ!?」
「行かせない」
そして、中央に布陣していた劉琦が兵を動かして救援に動こうとするもそれを呂布が止めた。呂布は先頭に立ち劉琦軍を次々となぎ倒していく。たった一人で軍隊規模の損害を与えていくがその後方から呂布軍の兵士が劉琦軍に襲い掛かっていく為に曹操軍並みの速度で追いつめられていた。
そんな中で左翼側に展開ていた為に奇襲を受けずに済んだ劉備軍は多少の混乱はあれど健在であり、隣の劉琦軍の支援へと即座に動いた。その中には当然板垣が貸した1万の兵もおり、呂布軍相手に猛攻を繰り返していた。
「南陽袁家の力を見せてやれ!」
「……前進せよ」
その1万の兵を率いるのは元黄巾族だった周倉と廖化である。二人とも武勇も知略も申し分なく、元賊という事で信用を得るために劉備軍に向かうように言われていたのだ。
「敵は天下の飛将軍、呂布奉先か。中々手厳しい戦いとなるな」
「……問題ない。数で押せばいい」
「そんな状況を相手が作ってくれるとは思えないけどな!」
周倉と廖化は兵の指揮をとりながら自ら剣を振るい敵を殺していくが呂布の兵士だけありその質はかなり高く、南陽袁家の兵も次々と倒れていた。
「しっかし、こうなるとまともに連携を取らずにお互いに独立行動をとるというのはあっていたかもな!」
「同感だ。そもそも、彼女たちとの連携を重視すれば我らの、力は半減する」
出発前に周倉と廖化は劉備軍との顔合わせを行っていた。義勇軍でありながら漢軍や諸侯に負けない活躍をしただけの事はあり、二人から見ても劉備軍は実力者ばかりが揃っていると感じていた。
劉備軍の中では一番の怪力を誇る張飛、力でこそ劣るがそれ以外の面では張飛を抜くどころか劉備軍で一番の実力者と言える関羽。神速の槍使いで、この中では前々より名が知れていた趙雲。そしてそんな武闘派をまとめあげる劉備軍の頭脳たる諸葛孔明と鳳統。成程義勇軍でありながら活躍できたわけだと二人は劉備軍の状況を正確に当てていた。
同時に、そんな実力者をまとめあげる劉備に対しては最も警戒を見せた。何しろ、本人には目立った才能はなく、武は護身術程度、智は話の土俵に立てる程度と一般兵と同程度なのにただ一つ、周囲を引き込むカリスマだけでここまで上り詰めたのである。これを警戒するなという方が難しいだろう。彼女が歩き、話すだけで後ろをついてくる者が増えるのだ。きっちりと止めを刺さないと彼女の周りには人が集まり、大きな勢力となっていくであろう。
とはいえ今の劉備軍は味方であり、板垣によって二人には命令されていた。
-劉備軍として暴れてこい。そして恩を溢れるくらい売ってこい
二人から見ても板垣は劉備を警戒しているようにも見え、そのために彼女たちを縛り付ける為の首輪の一つとして考えているようだった。
そのためには正直に言って劉備軍とは別に行動しつつ旗に劉備軍の物を使うようにする方が得策だった。ただでさえ義勇軍上がりで訓練が足りていない。そんな奴らが南陽袁家の兵についてきて、連携を取れるとは思わなかった。
「あの時の関羽はやばかったな。切りかかられるかと思ったぜ」
「同感だ」
独立して動くと言ったとき、援軍にもかかわらずこちらに従わないとはどういう事だ! と関羽が怒りをあらわにしたのだ。とはいえそれは劉備や孔明、鳳統によって止められた為に大事には至らなかった。しかし、その後も不服だと言わんばかりに関羽の機嫌はとても低かった。
「っ! いたぞ! 呂布奉先だ!」
「お前らは周囲の兵を相手にしろ。呂布と決して打ち合うな」
やがて、呂布軍の中を突っ切り、呂布の真後ろまで接近した周倉と廖化はお互いに得物を握りしめて後方から襲い掛かる。よく見れば劉琦がいる本陣が見える位置まで接近しており、かなり苦々しい表情の劉琦の姿が見えていた。
「呂布! これ以上は進めさせるわけにはいかないな!」
「排除する」
「……邪魔」
この世界において、男性より女性の方が力が強いというのはなんら不思議でも珍しい事でもない。呂布や夏候惇、張飛などのような者は別格としてそれでも男性より力がある女性は結構存在するのだ。
そんな中で周倉と廖化の二人は男性でありながらそんな彼女たちに並ぶ武を持っていた。でなければ黄巾の乱にて兵を率いながら生き残ることなど不可能であっただろう。そして、二人がかりなら大半の武将に負けることはない。それだけの武を持っていたのだ。
しかし、目の前の呂布にそんなものは通じない。二人がたとえ武に自信があろうとも、呂布の前では無力であった。
「死ね」
「ぐっ!? これは……!」
「っ!!??」
横に払う。たったそれだけの事で周倉と廖化は大きく後方に吹き飛ばされた。衝撃を完全に防ぎきれたわけではなく、ガードしたはずなのに腕は痺れが残るほどだった。そんな状態でも呂布は更に追撃を加えていく。片手で軽々と得物を振り回し、周倉と廖化を防戦一方に追い込んでいく。とはいえ一般兵では防御すら出来ない呂布の一撃を防いでいる事が二人の実力を表しているがそれでも防戦一方である以上いずれは呂布に押し負けるだろう。実際、二人の腕は限界に達しており、あと数回防げば腕が使い物にならなくなるだろう。
「天下の飛将軍を侮っていたわけじゃないがいくら何でも規格外すぎるだろ……!」
「俺はそろそろ限界だ」
「……意外とやる。だけどこれで終わり」
呂布はいい加減二人の相手をすることが嫌になったのだろう。得物を両手で持つと先ほどとは比べ物にならない力で二人に攻撃を加える。まず、最初の一撃で矛が砕け、二回目で柄が二つに折れ、三回目で武器として完全に使い物にならなくなった。
「おいおいおいおい! これはまずいぞ……!」
「ここまでか……」
「これで、終わり……」
「させん!」
「させないのだ!」
そして二人にとどめを刺そうと動き出した所で、劉備軍が到着し、関羽と張飛が呂布の前に躍り出たのだ。新たに現れた武将に呂布の警戒はそちらに向き、二人を放置する。
「周倉殿。ここは我らが請け負います」
「……それは助かる。正直、剣を持つのもしんどいからな。悔しいがいったん下がらせてもらおう」
周倉はそう言って廖化を連れていったん引き下がっていく。劉備軍に恩を売るつもりが助けられたことに周倉は「これは宰相に怒られるな」と考え、苦笑いを浮かべた。それでもここまでの間にそれなりに貸しは作れていると判断し、助けられた恩を帳消しにするべく、兵の指揮に専念していく事になるのだった。
呂布軍と劉琦軍の戦いは南陽袁家軍1万を含む劉備軍の介入で膠着の様相を見せていく事になるのだった。