袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第二十九話「待伏」

 話は一日前に遡る。二日間にわたる第二陣の攻撃は確たる成果を残せないままとなっていた。初日こそ攻城櫓や攻城槌による攻撃が行われたが二日目には攻城櫓に油がつけられ火あぶりとなり一台が破損。攻城槌も壁上からの落石で破壊されて動かすことさえできなくなっていた。つまり、事実上門から侵入することはできなくなっていたのだ。それをするには壊れた攻城槌を後方に下げるしかない。敵の攻撃を搔い潜りながら。

 

「何をしているんですの!? 今日も虎牢関の攻略に失敗するなんて!」

 

 その結果、袁紹は第二陣の面々に対して怒りをあらわにしたのだ。ただでさえ第一陣が敵の奇襲を受けて使い物にならなくなったのにそこへきて第二陣の体たらくである。袁紹は汜水関を攻略してからうまくいかない状況にいら立ちが募っていた。

 とはいえ本来であれば攻城戦とは時間がかかるものであり、一日、さらに言えば一瞬で決着をつけた板垣が普通ではないのだ。しかし、そんなことは袁紹には関係のないことであり、汜水関で出来たのだから虎牢関でもできると考えてしまっていたのだ。

 

「袁紹様、本来であれば城攻めは時間がかかるものです。彼らは十分にやってくれていますよ」

「だから何ですの!? わたくしは彼らに虎牢関の攻略をお任せしたのですよ! ならばそれにこたえてさっさと落とすべきでしょう!」

 

 板垣のなだめる声も怒りの袁紹の前には意味がない。とはいえこのままでは延々と軍議が終わらないために板垣はさっさと切り上げることにした。

 

「では何か策を出しましょう。実は虎牢関の裏手に抜けるけもの道を発見しました。これで敵を後ろから奇襲するのです」

「……何ですかそれは。華麗ではありませんね。却下ですわ」

「そうですか。……ではこの策はあきらめましょう」

 

 板垣の策は袁紹によって却下されたが不思議なことに板垣はあっけなく引き下がり、策を取り消した。しかし、板垣の話を聞き、一部の人間がピクリと反応を示すこととなった。そして、その後にはその諸侯達が板垣の天幕を訪れた。

 

 

 

 

 

「これはこれは皆様方、どうされましたか?」

「白々しいわね。軍議の時の話についてよ」

 

 曹操を筆頭に劉備と公孫瓚、馬超を迎え入れた板垣は恭しく話を始めたが曹操によってあっさりと要求を伝える。

 

「先ほど言っていた獣道、教えなさい」

「構いませんが……、まさか裏手に回るつもりですか?」

「当り前じゃない。ここで虎牢関を落とすことができれば後は洛陽に向かうだけ。董卓に止めを刺すことができるわ」

 

 そう言う曹操だが板垣の目には彼女が焦っているように見えた。それもそうだろう。陳留の太守こそ務めている彼女だがそれで終わるわけがなく、漢を降し、自分の国を持ちたいという野望を持っている。その野望をかなえる第一歩としてこの反董卓連合に参加したのに蓋を開けてみれば何一つ活躍できず、逆に奇襲を受けて損害を出すだけで終わっている。

 このままでは戦後の褒章でそれほどもらえるとは思えなかった。そのため、彼女は多少危険でもここで功績をあげておきたいと考えていたのだ。

 

「(桂花は止めたけど賭けに出てでも功績を上げなければ私の野望は遠のいてしまうわ……!)ダメかしら? あなただってせっかく相手の裏をかける方法をみすみす逃したいとは思わないでしょう?」

「曹操殿の言いたいことはわかります。ですがお教えしたからと言って確実に敵の裏手をかけるとは限りませんよ? すでに敵も知っている可能性だってあります」

「それは理解してのことよ。やるのはここにいる私たちだけ。あなたたちには迷惑をかけないわ」

「……」

 

 曹操の言葉にほかの面々は頷いて見せた。ここに来る前に話を合わせていたようで全員の心は一緒であったようだ。

 板垣は目をつぶり、悩みに悩んだ末に口を開く。

 

「……わかりました。ですが、たとえ失敗しても私には関係ありませんよ? あなた方が勝手に行うだけなのですから」

「それでいいわ。私たちが見事虎牢関を落としてあげるから」

 

 自信満々ともいえる曹操の言葉に板垣は普段の顔を崩さずに獣道の場所と詳細を教える。場所を把握した曹操たちはお礼を言って天幕を出ていき、自軍へと戻っていく。板垣はその後姿を見送ると、用意していた文に曹操や劉備などの奇襲に参加する勢力の名前を加え、それを矢文に括り付けた。そして、朝日が昇ると同時に降伏勧告の矢文として射て、董卓軍に伝えた。

 奇襲のことと、する勢力の情報とともに。

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃、開始!」

 

 虎牢関攻略3日目の夜、曹操のその言葉とともに虎牢関の裏手に兵が躍り出た。その数は凡そ1万人。曹操と劉備の軍勢であり、公孫瓚と馬超の軍勢は狭すぎる獣道のせいで第二陣として待機していた。

 

「奇襲を受けた借りを返すぞ! 李傕! 出てこい!」

「我らも行くぞ! この関雲長に続け!」

「鈴々も行くのだ!」

 

 曹操・劉備の武将たちが一斉に飛び出し、虎牢関へと向かっていくがそんな彼女たちを出迎えたのは現れた両軍を反包囲の陣形で迎え撃つ準備を整えた董卓軍であった。

 

「フハハハハハ!!! やはり来たか! 全軍! 敵を返り討ちにせよ! 董卓様に仕える我ら涼州兵の恐ろしさを教えてやるのだ!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 

 李傕のその言葉に従い、董卓軍3万5千が曹操・劉備軍に襲い掛かった。数の差もあり、奇襲の効果は完全になくなっていた。

 

「っ! 華琳様! 敵の待ち伏せです!」

「まさか!? 私たちの行動が読まれていたとでもいうの!?」

 

 本来であればありえないまさかの事態にさすがの曹操も驚きで固まるがすぐに頭を回転させるがこの戦いの勝利は難しいと悟った。

 

「(敵の数は見るからに3万を超えているわ。対するこちらは劉備の所も併せて1万ほど。後方には公孫瓚や馬超が控えているけど現状ではこの数で戦うしかない。でも相手は反包囲しているうえで準備が万端。これは無理ね……)桂花、今すぐ全軍撤退を指示しなさい。劉備にも伝えて」

「はい! すぐに!」

 

 荀彧に指示を出した曹操は悔しい気持ちで心がいっぱいになる。功を焦った結果、敵に見透かされて奇襲すらできなかった。だが、これは同時に新たな事を曹操に教えることでもあった。

 

「(董卓軍の動きは明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なことだわ。それが意味するのは連合内に董卓軍と通じている者がいる。そして、その可能性が一番高い人物は……)」

 

 曹操の脳裏に通じているだろう人物の姿が思い浮かぶ。そう、南陽袁家の板垣宰相の顔を。

 

「ほんと、でかい勢力だからって好き勝手にしてくれるわ」

 

 曹操は董卓と板垣が笑顔を浮かべながら盤上遊戯である軍棋をしている様子が思い浮かんだ。お互いに駒を調整しながらまるで弄ぶように動かすその姿を。

 

「板垣、悪いけど私はこれ以上駒になる気はないわ。そして、この曹孟徳を駒にしたことを後悔させてあげるわ」

 

 曹操は殿を務める夏候惇に敵兵が引き寄せられているのを確認しながら通ってきた獣道を戻っていくのだった。

 

 

 こうして、曹操・劉備による奇襲はあっけなく失敗に終わった。

 そして、この結果を受けて袁紹はついに自らの兵を動かすことを決定した。

 ここから、董卓との戦いは急加速を見せることとなる。

 




想像以上に長くなっているので反董卓連合をそろそろ終わらせたい
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