「おーっほっほっほっ!!!! 華麗なる袁紹軍、前進ですわ!」
虎牢関攻略に手間取った上に曹操が勝手に奇襲を仕掛けたうえで失敗したことを受けて、袁紹は我慢の限界を超え、自軍を動かすことに決定した。黄金の鎧を着こんだ袁紹軍10万が第二陣、第三陣を押しのけて前に出ていく。その中には第二陣が用意した攻城兵器など貧相に見える豪華絢爛な攻城櫓があり、それも計10個にも及んだ。それだけでも袁紹軍の豊かさを示しているがさらに巨大な床弩もそろえてあり、完全に城攻めの準備が整っていた。
これらは袁紹軍の軍師である田豊によって設計・生産がされており、彼女の奮闘により弱軍たる袁紹軍をカバーしていた。
「はぅ! ここまで揃えたのは戦のためだってわかっているけどもし壊されたりしたら……」
一方で、田豊は戦い次第ではこれらが破壊される可能性を考えてお腹が急激に痛くなっていた。渋る袁紹を辛うじて説得し、やるからには豪華にと主君から言われたために20倍近いコストと手間暇がかかり、何とか形にできたこれらが破壊される。その場合の作り直しを考えた結果、田豊の胃は限界を迎えたのだ。
「心配すんなってあたいと斗詩に任せておけって!」
「そううまくいくとは思えないけど精一杯やるよ」
袁紹の二枚看板と呼ばれる文醜と顔良も自分の兵を率いて出陣する。まさに袁紹軍総力を挙げた攻城戦が始まったのである。
「ええい! こうなったらやけよ! 床弩をありったけ放ちなさい! 壁上の敵を一掃するのよ!」
覚悟を決めた田豊の指示のもと、床弩が発射され、壁上に降り注いでいく。放たれる矢は兵士が持つ槍の三倍の太さはあろうかというものであり、それが人の力ではなしえない力で放たれる。当然ながら当たった兵は体を吹き飛ばされて絶命していく。攻城櫓から乗り込んでくる敵を迎え撃つために密集していたのが仇となっており、董卓軍の兵士たちが面白いように死んでいく。
「続けて火矢を放て!」
ある程度の損害を与えたと判断した田豊は続いて矢の先端を油が入った陶器に変える。放つ前に表面に火をまぶせたそれは壁上を越えて奥の董卓軍の陣地に落下し、火災を生み出していく。中には壁上に落ち、兵士たちを燃やすものもあった。
「さすがは袁紹! 金持ちらしい闘い方だな!」
これだけの油を用意し、次々と惜しみなく投入するやり方はなかなか真似はできないだろうと李傕は感心する。実際、こんなことは董卓軍ですら不可能であり、辛うじて同じ一族の南陽袁家なら可能であろうといえた。
「兵を半分下すぞ! このままでは敵が来る前にやられてしまう! 呂布も張遼も使えない以上兵の数は戦況にそのまま影響するぞ!」
怪我でもされてはたまらないと呂布と張遼は虎牢関防衛時より後方に下げており、李傕は三軍の実質的な総司令として指揮を執っていた。そして、三人の中では、いや董卓軍の中では最も卑怯と呼ばれるような事も平気で行う李傕である。この状況においても李傕に焦りはなかった。
「壁上についた火は放置して構わん! どうせそこには敵も近寄れんからな! 後方に落ちたものに関しては砂でも土でもかけて消せ! 水は使うなよ。余計に燃え上がるぞ!
では、こちらも反撃といこう! 攻城櫓は直接ではなく引いている兵士を狙え! さらに壁の近くにいる兵には岩を落としてやれ! 攻城槌も同様に引いている兵を殺せ!」
李傕は即座に指示を出し、対策と反撃を行っていく。攻城櫓や槌は引いていた馬や兵に次々と矢が刺さっていき明らかに動きが遅くなっていき、ほとんど動くことはなくなっていた。
「フハハハハハッ!!!!! この俺が指揮をし、守っている虎牢関を落とそうなど千年早いわ! ただ数で押すことしか能がないお前らに落とせる虎牢関ではないわ!」
その後も、床弩は董卓軍に少なくない損害を与えつつも袁紹軍は最重要目的である虎牢関の攻略はほぼ失敗と言っていい状態となった。
結局、その日は袁紹軍はそれ以上の成果を出すことはできずに終了した。董卓軍の士気は大いに上がり、連合軍の士気はさらに下がり、一部には厭戦気分が出始める始末であった。
しかし、そんな中にあった一番の怒りを見せたのが袁紹である。虎牢関がいつまでも落とせないからと自軍を率いたのに結果を見れば第二陣以上の失態と言える。何しろ攻城櫓や槌は一つとして虎牢関にたどり着くことはできなかったのだから。
「このままでは終われませんわ! たとえ最後の一兵になったとしても虎牢関を攻略しなさい!」
翌日より袁紹は董卓軍相手に一歩も引かない無制限攻撃を開始した。絶え間なく床弩から矢は降り注ぎ、虎牢関の眼下は袁紹軍で埋め尽くされた。攻城櫓や槌には次々と兵が群がり少しでも前に進めようと力を入れて引き、押していく。当然ながら李傕はそれらの兵を中心に攻撃するが袁紹軍は数にものを言わせて前進させた。
そして、この恐るべきところは夜になっても止まる気配がなかったところにある。袁紹は自軍に対して文字通りの昼夜を問わない無制限の攻撃を指示したのである。これには余裕の表情を浮かべていた李傕の顔も険しいものとなった。
「うそだろ? 袁紹は全滅覚悟で兵を攻撃させてきているのか!? あいつは阿呆か!」
当然ながら夜になれば壁上からの攻撃はあまり届かなくなり、日付が変わるころに攻城櫓のほぼ全てが虎牢関に到達した。そして、その時を待っていたのが文醜と顔良率いる精鋭兵である。この状況にあり英気と体力を温存していた彼らは待ちわびたとばかりに躍り出たのである。
「行くぜ! ここまでの犠牲を無駄にするな!」
「虎牢関を落とすわよ!」
二枚看板はそれぞれの得物を用いて董卓軍の兵士を薙ぎ払っていく。夜になっても続く攻撃で眠気に襲われつつあった彼らに二枚看板を止める術は存在していなかった。さらに、暗闇という事もあって同士討ちも起こり、虎牢関の壁上は大混乱に陥った。
「おのれ……! いや、ここは袁紹の馬鹿さ加減を見誤った俺の落ち度! お前ら! 火を焚き同士討ちは避けろ! そしてこれ以上敵を登らせるな! あの女どもは俺が相手をする!」
ここにいたり李傕は覚悟を決めると自分の得物である矛を手に持ち二枚看板の前に出た。明らかに周りの兵士とは違ういでたちの李傕に二人は警戒するべきと判断して構えた。
「猪々子! この人はかなりの強敵だよ」
「んなもん見ればわかるって! 行くぞ! おらぁっ!!!」
「ぬんん!」
先手を取った猪々子の大剣による振り下ろしを李傕は矛を振り払うことで迎え撃つ。重力と遠心力が乗ったことで猪々子の大剣が有利だが李傕はその状態から猪々子ごと吹き飛ばして見せた。
「文ちゃん!? ならば!」
「無駄だ!」
同僚である文醜が吹き飛ばされた事でお返しと言わんばかりに顔良が巨大な大金槌を振り回すがそれすら李傕は矛で弾き飛ばして見せた。
「この李傕、伊達に呂布や張遼、華雄とともに董卓軍を担っていたわけではない! 彼女たちに負けないように武に力を入れてきたつもりだ!」
そういって力んで見せる李傕の腕は大木の如く太く、卑怯な手を好んで使う将には見えなかった。だが、ここまでくれば二人も李傕が豪勇の武将であるとは理解させられている。今まで以上に慢心も油断もなくなっていた。
「一斉に行くぞ!」
「うん!」
そして、力ではかなわない以上二人がとる行動は連携による同時攻撃である。前後左右から挟み込むことで李傕の死角を突こうというものだった。単純な策だがそれゆえに効果は絶大である。よほどの超人や化け物でもない限り、後方からの攻撃を防ぐことなどできないのだから。
「ここでこいつを討ち取って虎牢関を落とすぞ!」
「そうだね! 私たち袁紹軍の手で!」
「ふっ! そんなこと、この俺がさせるわけないだろうがぁぁっ!!!」
斗詩と猪々子の大金槌と大剣が李傕の矛とぶつかり大きな火花を挙げた。三人の戦いは、そして袁紹軍と董卓軍の戦いはまだまだ苛烈さを増していくのであった。