袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第三十一話「一撃」

 袁紹軍が急速に数を減らしながらも虎牢関の確保寸前までいっているとき、南陽袁家もこの戦いに終止符を打つべく行動を起こしていた。

 実は汜水関を落としてから兵を少しずつ移動させており、それらは虎牢関をぐるりと回り、長安へと到達していた。その時点で南陽袁家の兵数は3万を超えており、最後に到着した孫策は長安に掲げられている“袁”の文字に呆れを感じていた。

 

「まさか本当に長安を手に入れてしまうなんてね。板垣の行動力はすさまじいわね」

 

 あの時、董白との話し合いを聞いていたために長安方面の別動隊の総大将に任命された孫策はそんな言葉を零しながら長安へと入った。中では進軍準備を行う南陽袁家の兵とそれを手伝う漢の兵の姿があった。先遣隊が入ったのは2日前の事であったが多少の混乱はあれど無事に長安の鎮圧に成功していたらしかった。

 

「孫策殿ですね?」

「その通りです。貴方は、皇甫嵩将軍ですね? 早速ですけど準備はどこまで進んでいますか?」

 

 孫策を出迎えた女性、皇甫嵩に訪ねる。南陽袁家で過ごすうちにすっかり慣れてしまった敬語での会話。士官前の自分が知ればどう思うのかしらと思いつつ皇甫嵩の説明に耳を傾けた。

 

「準備はほぼ完了しています。後は予定通りに明日の朝にここを出発し、洛陽へと向かいます。そこで董卓軍と()()()()()()()、民衆の目をごまかします。それ以降の動きについてはご存じですよね?」

「もちろんです。それまで私も休息をとらせてもらいます」

「構いませんよ。あちらに専用の部屋を用意しています」

 

 皇甫嵩の案内で部屋へと入った孫策は自身の軍師である周瑜を呼んで今後の話を始めた。

 

「明日には洛陽に向かい、董卓軍と戦闘をしたのちに洛陽を開放。そのまま虎牢関に向かってそこにいる守備兵を投降させるわ。流石に一日では終わらないでしょうから二日に分けて行われると思うわ」

「私もそう思っている。しかし、雪蓮はいいのか?」

「? 何がよ」

 

 周瑜のどこか不服そうな態度に孫策は不思議そうに首をかしげる。この戦いにおいて何か必要な物がそろっていなかったのだろうか? 孫策は周瑜の次の言葉を待った。

 

「この戦いが成功すれば南陽袁家は更に巨大化するだろう。次点の袁紹すら対抗できないほどの、漢を飲み込む大勢力にな。そうなれば孫家が天下を取ることは不可能になるぞ? ただでさえ現状のままでは南陽袁家の臣下と変わらないのだから」

「あー、そうね。確かに、そうね……」

 

 正直に言って孫策はすっかりそのことを忘れてしまっていた。南陽袁家の居心地の良さに。南陽袁家の庇護下に入って以来、孫策は自由気ままという言葉がふさわしい日々を過ごした。好きな時に闘い、好きな時に酒を飲み、好きな時に好きなことをする。太守になってからは政務に忙しくなったがそれも予想していたほどではなかった。

 その理由は後から知ったことであるが大まかな政策は南陽袁家、つまり板垣があらかじめ決め、それに沿った統治が行われているからである。太守に必要な事は現場からの不満や意見をまとめ、南陽袁家に送り、送られた指示を現場に通達するという中間管理職のようなものとなっていた。加えて、孫策の補佐をするために複数の文官が配置されていたために孫策はかなり自由にできる時間が存在したのだ。

 

「(それだって私に太守として活動させないためっていうのはわかるけど実際長沙は発展しているし文句なんてないわね。でも確かにこのままじゃ臣下と変わらない。……板垣の、臣下。板垣の……、臣下……)」

「雪蓮? どうかしたのか?」

「ッ!? な、なんでもないわ!」

 

 前々より感じていた感情、それが一瞬見えてきそうになるも周瑜の声掛けによって現実に戻されてしまい答えが見えることはなかったが、これがヒントになるだろうとは孫策にも理解できた。

 

「今はこのままでいいわ。どちらにしろ私たちが今反旗を翻してもうまくはいかないわ。兵の大半は南陽袁家の兵なのよ? それに皇甫嵩将軍も最悪の想定はしているはずだわ」

「それもそうだな。しかし、独立するなら早いうちがいいぞ。このままでは差が開くばかりだ。そのうち、独立すらできなくなる」

「分かってるわ。それも、近いうちに決めるわよ」

 

 どこか不貞腐れたような態度を見せる孫策に周瑜は呆れたようなため息をつくがそれ以上何かを言ってくることはなかった。しかし、この周瑜の言葉が孫策の中で気づかないうちに目をそらしていた天下を取るという野望を蘇らせることとなり、これ以降孫策の中でくすぶり続けることとなった。

 

 

 

 

 

「おらぁっ!」

「やぁっ!」

「フハハハハハッ!!!!! 何のこれしきぃ!!!」

 

 一方、虎牢関では顔良・文醜対李傕の熾烈な戦いが続いていた。二人は全身に傷を負い、服は汚れてしまっていたがそれでも尚闘気は衰えていない。一方の李傕は傷こそないものの日が昇り始めた現状に至るまで二人を仕留め切れていないことに焦りを感じ始めていた。

 

「(ぬぅ……! やはり俺では呂布や張遼、華雄の如き武は手に入らない、か。あいつらならこの二人を倒すことも出来たであろう……)」

 

 李傕は自分が南陽袁家に呼ばれないはずだと自嘲する。董卓が太守のころより仕え、卑怯と罵られ続けた兵法を賈詡に認められ、張遼には旦那と呼ばれて慕われ、華雄とは互いにライバルのように切磋琢磨し、呂布を武の頂点と定めて訓練をしてきた。そんな李傕だからこそ董卓が洛陽に呼ばれた時には誰よりも喜び、反董卓連合が結成された時には誰よりも怒りをあらわにした。そして、今董卓の勢力が消えゆこうとしている現状には涙を流した。

 

「(全てはこうなる前に手を打てなかった我ら臣下の罪! そして、保護の条件である彼女たちはなんとしても守る!)ふん!」

 

 李傕は覚悟を決めると矛を振り上げて一気に決着をつけるべく動き出した。それをみた二人は頷き、行動に出た。顔良は前に出ると李傕の全力の振り下ろしを大金槌で受け止める。全力で防ごうとするが当たった瞬間に顔良の全身に耐え切れないほどの衝撃が走る。もし、大金槌が不良品であったならへし折れていただろうその一撃に顔良は崩れ落ちる。そんな彼女に李傕の矛がそのままめり込んでいく。

 

「ぎ!? あ……!」

 

 顔良の右腕が粉砕され、大金槌の持ち手が肩にめり込む。あまりの激痛に顔良は大きく目を見開き、口からは声にならない悲鳴を上げる。

 

「一人目! 次は……!?」

「くらえ! 斗詩の仇だ!」

 

 しかし、その顔良の捨て身の防御をもって文醜が自慢の一撃を与える隙を作った。文醜は李傕の左側に躍り出ると自身の大剣を力いっぱいにふるう。横薙ぎに払われたその一撃を李傕は飛び跳ねて回避しようとしたが持っていた矛が何かに引っ掛かり一瞬動きを止めた。見れば顔良が激痛に耐えながら左手で矛を握っていたのだ。

 

「文ぢゃん! 今、だよ゛!」

「おう! 斗詩! 愛してるぜ!」

 

 顔良の犠牲は無駄にしないと文醜はすべての力を込めて李傕の腹部に大剣をめり込ませた。その一撃は李傕の左わき腹をたやすく引き裂き、内臓を押しつぶしながら背骨に激突した。そこまで来てようやく李傕の体は吹き飛び、真っ二つになることはなかったが李傕の体は大きく吹き飛ばされることとなった。

 

 李傕と袁紹の二枚看板による戦いは焦りのあまり勝負を急ぎ、隙を見せた李傕と自らの犠牲をもって隙を作りだした顔良によって李傕の敗北で幕を閉じたのであった。

 

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