袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第三十二話「道連」

「斗詩! 大丈夫か!?」

「文ちゃん……。ちょっと無理そう」

 

 李傕を倒した文醜は倒れた顔良に駆け寄った。顔良の傷はかなり深かった。まず、右腕は完全につぶれており、特にひじから先は長さが半分になるほどつぶれている。肩には大金槌の持ち手が食い込んだことによりその辺が少し凹んでおり、青くなっていた。足を見れば膝が砕かれており、あらぬ方向に曲がっていた。唯一無事な左腕も矛の刃部分を掴んだために手の内には深い切り傷ができていた。

 はっきり言って顔良の容体は全治出来ればいいというレベルの重傷だった。この状態で意識を保ち、文醜の問いにきちんと答えているあたり、顔良の精神力の高さがうかがえた。

 

「仕方ねぇな。ほら、抱っこしてやっから」

「ありがとう、文ちゃん……」

 

 立ち上がることさえ出来ない顔良を文醜は抱っこする。顔良程ではないが文醜もここまでの戦闘でそれなりの怪我を負っている。これ以上の戦闘は難しいと判断し、後は自軍の兵に任せることにした。全体を見れば袁紹軍が押しつつあり、このままいけば虎牢関は近いうちに袁紹軍が制圧することになるだろう。呂布や張遼が出てこないのが不安定要素だったがこの状態では自分たちではまともに戦えないと文醜は判断した。

 

「よし、やぐらを通って一旦下に降りるぞ。いいな斗詩?」

「うん……。文ちゃん! 後ろ!」

「え? ……っ!!??」

 

 顔良の慌てたような声に気づき、文醜が振り向こうとした時だった。文醜のわき腹に何かがぶつかってくる感触が走ると同時に体が持ち上げられて壁の端まで動かされたのである。

 

「な!? 何が……!?」

「ふ、ふふ、ははは……。こんな、ところで……」

「お、お前は……!?」

 

 文醜を持ち上げている人物。それは何と倒したと思っていた李傕であった。彼は左の腹部からとめどない血を流しながらも文醜を持ち上げ、そのまま虎牢関から落とそうとしていたのだ。最悪なことに文醜は顔良を持ち上げるために大剣を置きっぱなしにしていた。顔良の武器も同様に離れた場所にあるため二人は丸腰であった。

 そうこうしている間にも李傕はゆっくりと端まで進んでいく。慌てて顔良だけでも助けようとするが文醜と李傕の間に挟まれて抜け出すことができなくなっていた。

 

「こ、この野郎……!」

「離して!!!」

「董卓様、も、しわけ、ありま、せん。華雄、ともに、あな、た、さまの、お、つやくを、いのり……」

「くそ! くそぉぉぉぉっ!!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 意識がもうろうとする中、李傕は最後まで董卓のことを思いながら、袁紹の二枚看板である顔良と文醜を抱えたまま、虎牢関の壁より落下した。二人はかなりの高さから落下しながら悲鳴を上げ、僅か10数年の命に幕を閉じることとなった。二人が落ちる姿は下の袁紹軍からよく見えた。奇しくもその姿は日の出により明るく照らされ、誰かも確認することができてしまっていた。

 二人が死んだことで袁紹軍の士気は下がった。更に二人を失ったと知った袁紹がパニック状態になったために田豊は袁紹軍の後退を命令。自分たちの上官を失い、怒り狂う董卓軍の追撃を受ける壁上の兵も回収し、袁紹軍は大打撃を受けながら虎牢関の攻略に失敗した。この戦いにおいて袁紹軍の死傷者は3万を超え、文醜と顔良という二枚看板を失った。一方の董卓軍も総司令を務めていた李傕と1万5千もの兵を失うこととなり、お互いに大きな被害を受けることとなった。

 反董卓連合はその後、立て直しを図るためにその日の攻撃がなくなり、次の攻撃者を決めるべく軍議が開かれた。

 

「……申し訳ありませんが袁紹様は現在軍議に出られる状態ではありません」

「それは理解しています。袁紹様にとって大切な二枚看板を失ったのです。その悲しみは計り知れないものでしょう」

 

 袁紹軍を代表して出席する田豊に対して板垣はそう返した。反董卓連合に漂う空気は重い。第一陣の損害と第二陣の攻略失敗。そして今回の袁紹軍の大打撃である。汜水関時に存在した士気の高さはここにはすでに存在していなかった。

 

「とはいえこのままでは虎牢関の攻略は難しいでしょう。ですので今後虎牢関の攻略は我ら南陽袁家で行わせてもらいます。よろしいですね?」

「私は構いませんが……」

「お待ちください!」

 

 袁紹軍に代わり南陽袁家が攻略を引き継ぐといったとき、劉岱が声を上げた。

 

「虎牢関の攻略は我ら第三陣にお任せいただきたい! 我らなら必ずや虎牢関を落として見せましょう!」

 

 功を望む劉岱は南陽袁家が攻略してしまうかもしれないとそう声を張り上げたのだが同じく第三陣に属していた公孫瓚と馬超の表情は硬い。

 

「私は反対だ。わが軍は騎兵が主力。城攻めと同等の今回の虎牢関攻めには活躍できない」

「あたしも同じ考えだ。涼州兵は平野では強いが城攻めは苦手でな」

 

 何の事前相談もされていない公孫瓚と馬超は当然ながら反対の意見を出す。そもそも第三陣はおまけ程度の扱いで城攻めには期待されていない。彼女たちは参加することで今後自分たちが不利な立場にならないようにしただけなのだ。他の諸侯とて戦力としては考えていない。

 

「なっ!? 貴様ら、なぜそこまで臆病なのだ! 今こそ董卓軍を倒し、漢に平和を取り戻すときであろう!」

「そういわれても騎兵じゃ城攻めは無理だぞ?」

「ならば降りて戦えばいいだろうが!」

「騎兵をそろえるのがどれだけ大変かわかっていっているのか!?」

「その通りだ! それではなんのための騎兵かわからないじゃないか!」

「お三方、そこまでです」

 

 劉岱と公孫瓚、馬超は言い争いを始めるがそれを板垣が止めた。鋭く、射殺さんばかりの殺気を乗せたその視線に三人は一斉に口を閉ざした。

 

「まずは劉岱殿。貴殿の覚悟はわかりました。では次の虎牢関攻めは劉岱殿にやってもらいましょう」

「なっ!? まさか一人でか!?」

「ご安心ください。わが南陽袁家も助勢します。わが軍は劉岱殿の後ろに展開します」

「馬鹿な。それでは……」

 

 それでは逃げることも出来ないと言いそうになったがさすがにそれ以上は口にはしない。板垣が後ろにいる理由は督戦隊の如き動きをするためであろうことは劉岱にも理解ができてしまった。

 

「……いや、私も熱くなりすぎていたようです。今一度冷静になるべく今回は南陽袁家にお任せします」

「そうですか? ではお言葉に甘えさせていただきましょう」

 

 劉岱は渋々と引き下がり、板垣はシレっとそれを受け入れる。そんな茶番の如き軍議の結果、南陽袁家が攻略することとなり、すぐに陣変えが行われた。そして、その次の日には南陽袁家による攻略が始まるが諸侯はここで反董卓連合結成から一番の衝撃と驚愕を受けることとなる。

 攻略より半日後、洛陽も含めた全ての董卓軍が南陽袁家に降伏したのである。

 反董卓連合の目的は、この日をもって達成されたのであった。

 

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