袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第三十三話「演技」

「全軍前進! 洛陽を占拠する董卓軍を撃破せよ!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 

 孫策のその言葉に、南陽袁家軍3万5千は一気に洛陽に向けて前進した。すべてがこの日の為にひそかに回り道を通ってきた兵たちである。

 

「迎え撃て! 敵を洛陽に入れるな!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 

 それを迎え撃つのは董卓軍の軍師賈詡が率いる1万である。それ以外の兵は長安で武装解除されているか虎牢関に向かっているためであり、董卓軍には余剰兵力がこれだけしか残されていないという証でもあった。

 

「手筈通りに殺しあう必要はないわ! 適当に撃ち合って相手が逃げる演技をしやすいようにすればいいわ!」

「南陽袁家の兵と殺しあうな! 適当に打ち合って程ほどの所で逃げ出せ!」

 

 孫策と賈詡が出した指示はほぼ一緒であった。そもそもこれは洛陽の市民に見せつけるためのパフォーマンスであり、両軍ともにそれを理解し、きちんと動ける者のみが集められていた。

 両軍が直ぐにぶつかり、戦いが始まるがもともとの数の差と、南陽袁家の士気の高さ故に董卓軍は終始劣勢であり、あっという間に壊走を始めた。武器を捨てて洛陽とは別の方向に逃げていく。逃げていく先は北だが洛陽から見えなくなったあたりで長安に向かうように指示もされていた。

 

「逃げるな! 最後まで戦うんだ!」

「お前が賈詡だな! 投降しろ!」

 

 兵を鼓舞する言葉を発した賈詡を騎乗した孫策が剣を向けて捕縛する。当然ながらこれも演技であり、賈詡は孫策に頷きかけると孫策もそれを理解して頷き返す。

 

「敵の指揮官はとらえた! 今こそ洛陽に攻め入り中華に弓引く董卓を殺すのだ!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 

 無傷の南陽袁家軍はそのまま洛陽へと雪崩れ込む。本来であれば閉じているはずの門は賈詡の仕掛けですべてが開ききっており、孫策達を一切の邪魔もなく洛陽入りを果たさせていた。洛陽内では董卓軍の散発的な攻撃を退けながら宮中に向かっていく。そして、その宮中には火がつけられており、侍女や文官の悲鳴がそこら中から聞こえてくる。当然ながら入るための門も完全に開いた状態となっていた。

 

「……頃合いですね」

 

 孫策が宮中に入り、袁の旗を堂々と掲げたのを見届けた董白は咒可のみを連れて奥の方へと歩いていく。

 

「お嬢様。本当にこれでよろしかったのですか?」

「ええ。どのみち月は今のままでは生きてはいけないわ。諸侯の手によって処刑されて終わり。私たちも運が悪ければそれに巻き込まれて終わり。敗者とは、賊軍とはそういうものです」

「それもそうですね。私も経験者ですので」

 

 元々、咒可は漢民族ではなく、羌や氐といった西方民族の出であったが故郷が襲撃され、男たちの慰み者となっていた時期があった。そして、その後は様々な勢力をたらいまわしにされた末に董卓に救われ、董白の侍女として仕えることとなり、漢風の咒可という名前に変更したのである。

 

「その点今の状況は打てる手の中で最善と言えるわ。後は月を秘密裏に逃がして長安に向かわせるだけね」

「その点はすでに準備を終えています」

 

 咒可がそういうと同時に目的の部屋へとたどり着く。董白は遠慮なくその部屋の扉を開ければそこには董白と似た顔立ちの少女、董卓が座っていた。

 

「月、時間よ」

「光ちゃん……。わかったわ」

 

 どこか悲しげな表情をした董卓を董白は問答無用で連れ出す。彼女たちは宮中における侍女の服を着ており、侍女とともに脱出する手筈となっていた。幸いな事に董卓の顔はあまり知られていない。というのも基本的に他者との面会は賈詡が率先して行ってきており、身内以外で董卓のことを知っているのはそれほどいない。故に、侍女として逃げても何の問題もなかったのだ。

 董卓として処刑される少女は既に用意済みである。先の粛清で処刑された宦官の妹であり、牢につながれていたところを今回の謀に利用したのである。まもなく顔に火傷を負い、声を出せなくなった董卓が孫策の手によって大衆の面前に引きだされ、処刑されることとなるだろう。そうなればだれもが董卓が死んだと思い、それ以上董卓の捜索をしようとは考えなくなる。

 

「長安についたら休息をとって直ぐに南陽に向かうことになるわ。月、覚悟はできているだろうけど私たちは董の姓を捨てることになるわ。月は咒卓、私は咒白と名乗り、咒可のいとこという形をとるわよ」

「う、うん……」

 

 董卓という存在が死ぬ以上それまでの名を使うことはできない。同一人物だと気づかれることはないだろうが何かと注目を集めることは必須。それを防ぐためにも名を変えることは必要な事だった。

 

「(月はこれで大陸に名をとどろかせることは出来なくなったわ。政務や軍務に関しては下級文官や武官よりいい程度。上に立つ者としてみれば人を引き付ける魅力と落ち着かせる話術を持っているけどそれは余計な火種になりかねない。である以上、月はこれから一生ただの侍女として南陽袁家で生きていくことになる。いいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 板垣ならば、本人にその気がなくとも不穏な動きを見せる行為を見逃すはずがない。でなければ南陽袁家には様々な派閥が出来、板垣の座を虎視眈々と狙うやつがいてもおかしくはないのだ。だが、南陽袁家にそのような様子はない。董白はそれを板垣が予めつぶしているか、派閥を作りそうな者たちのそばに息のかかった者が潜み、暗躍していると考えていた。

 

「(月。私たちは命が助かる代償に二度と飛び立てないように翼を、牙を奪われることとなったわ。でも後悔はしていない。最初から分かっていたことだから)……行きましょう。月」

 

 外を見れば孫策が火傷を負った少女を担ぎだしていた。事前に通達したとおりに動きを見せる孫策を見て私たちも早く行動しないと董白は董卓と咒可を連れて歩みだす。その先に待っているのが、檻と、首輪だとしても。

 

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