袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第三十五話「部隊」

 賈詡にとって板垣という存在は良くも悪くも自分たちの生き方を変えた存在となった。彼がいなくとも反董卓連合は結成され、同じように勢力としての破滅を迎えていただろうと予想できたからだ。そのため、こうして自分たちを保護した彼には借りがあるものの、彼の様子を見ていると反董卓連合すら彼がそうなるように仕向けたのではないかとさえ感じてしまっていた。それほどまでに彼は、南陽袁家は今回の戦いで多くの利を手に入れていたのだ。

 

「(彼が南陽袁家の宰相に留まっているのが不思議なくらい、彼は野心的な行動をしている。なんで袁術に仕えたのかが理解できないくらいだ。彼なら劉備のように義勇軍から成りあがることも可能だったはずなのに)」

 

 賈詡はそう考えながら板垣がいる部屋に続く廊下を歩ていく。彼女のほかに兵士はおらず、不用心にも無人の廊下が続いていた。暗殺でもされたらどうするのか? と賈詡は一瞬思うが即座に汜水関で見せた武勇を思い出す。張遼から聞き、華雄を一撃で葬った事実に最初は信じられなかったが自分よりも武に優れている張遼の言葉である以上真実なのだろうと頭で納得させていた。彼ほどの武の持ち主ならば直接害を与える暗殺など返り討ちにできるだろう。

 

「(それにしてもなんで僕だけ呼び出されたんだろう。特に何もしていないし、問題も起こしていない。まさか、情事の為に? 確かに誰かと付き合っているなんて話は聞かないけどさすがにそんなわけないわよね?)」

 

 理由が不明、無人の廊下、夜という事も合わさって賈詡は変な事を考えてしまうがそれにしてはあからさますぎる上に板垣はそういう事で呼び出すような人物には見えなかった。それどころか本当にそういうことに興味があるのかさえ分からない不気味さがあった。

 

「……よし」

 

 そして、板垣が待つ部屋にたどり着いた賈詡は意を決して扉をノックする。数秒後に板垣の声で「入れ」とだけ聞こえてきたために賈詡が中に入れば板垣が一人、書簡を手にしながら政務を行っていた。

 

「少し早くきちゃった?」

「そんなことはない。少し策を思いついたためにその準備を行うための書簡を書いているだけだ」

 

 板垣がそういう事は再び謀略の嵐が起こるのだろうかと賈詡は想像した。次は一体どこに手をかけるつもりなのか。そんなことを考えているとひと段落したのか筆をおき、改めて賈詡の方に視線を向けた。

 

「今回、お前を呼んだ理由だが単純な話だ。とある部隊を率いてほしい」

「部隊? 降ったばかりの僕に?」

「その通りだ。お前ほどこの部隊、いやいずれは組織にしたいと考えているこれを率いるのに相応しい人物はいないと考えている」

「……やけに持ち上げてくるわね。それほどその部隊は危険なのかしら?」

 

 懲罰部隊のようなものなのだろうか? 賈詡にはその部隊がどういうものなのか理解できなかった。そもそも、板垣がそういった部隊を保有している事さえ知らなかった。袁紹でも曹操でも董卓でもそういった公にできない部隊を持つ者はいてもそれを完全に隠しきることは不可能だ。何かしら影や形が見えてくる。

 

「危険という意味なら危険だ。この部隊の価値は呂布の武にすら勝る代物だ。当然外部に漏らせばそれ相応の処罰を受けてもらうことになる。もちろん、処罰が本人にだけ被るとは限らないがな」

「……確かに、僕には適任かもしれないね」

 

 賈詡は自分が選ばれた理由の一つを察した。もし、自身が外部に情報を漏らせばその時には董卓が罰を受けるといっているのだ。自分よりも董卓を大切に思っている賈詡には大きな人質と言えた。

 

「次にこの部隊を率いるには保守的な考えではだめだ。臨機応変に対応できる知略と柔軟性が必要だ」

 

 軍師ならばそれらは持っていて当然のスキルである。特に賈詡や荀彧、周瑜といった名が知られた軍師ならば特に。

 

「その点は董卓軍を支えた軍師であるお前は適していると判断したわけだ」

「それはわかったわ。で? その部隊はどういったものなの?」

 

 ここまで来た以上賈詡に残された返答ははい、かいいえであった。そして、いいえと答えた先にあるのは自分か董卓の死であろうと。

 

「それは今から案内しよう。すでに部隊は動き出している。ただ、指揮官を務められる人材がいないために規模を拡大することは出来ていないがな」

 

 そういうと、板垣は賈詡だけを連れて長安から抜け出し、近くの森へと向かう。道から外れた上に夜という事もあり手元すら見づらい状態になっていた。

 

「(こんなところに部隊がいるというの? いえ、こんなところにいるという事は今回の戦いにも参加していたはず。でもそんな部隊がいる気配なんて一切なかったわ)」

「ついたぞ」

 

 賈詡がまだ見ぬ部隊について考えているとようやく目当ての場所についたようで板垣の足が止まった。賈詡がそちらの方を見れば滑らかな絹の如き小さな天幕が張られた野営地が存在した。天幕の大きさと数から30人程の部隊というのが想像できた。

 

「総員、集結!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 板垣の言葉に従い、暗闇から複数の男たちが姿を見せた。森に擬態できる迷彩柄を着込み、見慣れぬ弩のような武器を装備したその姿に賈詡は驚くと同時にその異様さに恐怖を抱いた。

 

「諸君、これより君たちの直属の上司となる人物を紹介する。元董卓軍軍師の賈詡だ。武に関してはともかく指揮官としての能力は保有している。わかったな?」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 まるで一個の存在のように一糸乱れぬ動きをする彼らは少数精鋭と呼ぶにふさわしかった。恐怖で若干顔が引きつっている賈詡に板垣は振り返る。

 

「これからお前にはこの部隊を指揮してもらう。まだ無名の、功績すらないがいずれは俺の野望の手足となるであろう部隊だ。よろしく頼むぞ」

「っ! 予想以上ね。……一つ聞いてもいいかしら?」

「ああ、なんだ?」

「あなたの野望って? 南陽袁家に取り入り、内部から蝕み、こんな部隊を用意する君の野望が具体的に見えてこない。君は、いったい何をしたいの?」

 

 賈詡がずっと感じていた疑問、それを問われた板垣は隊員たちを下がらせると微笑する。しかし、その笑みには深く重たい野望を持った覇王の如き重厚さが存在していた。

 

「野望は簡単だ。俺を頂点とし、中華を中心とする大陸統一国家の建国だ」

 

 そして、板垣が持つ野望はどこまでも広く大きなものであった。

 

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