袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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板垣の出生が明かされますがあまりピンとこないので後で修正するかもしれません


第三十六話「過去」

 20世紀と呼ばれる時代に、その男は存在した。男は中華の中で貧しい家庭に生まれ育った。その日に食べるものを得るために幼少期からなんでも行い、時には窃盗や殺人さえ行った彼だが家族と過ごす毎日に幸せを感じていた。

 しかし、そんな男の幸せは時代の流れの中にはかなく消え去った。男が20を迎える前に中華は内戦に陥ったのである。以前には極東の国の侵略を受けていた中華はその脅威がなくなった途端、二つに分裂したのである。男は義勇兵として赤き軍勢との終わりなき戦いに駆り出されることとなった。幸いな事に男には戦いの素質があり、さらには男が属した部隊には極東人とのハーフが在籍しており、その者より剣術や格闘術を教わり、近接戦闘のやり方も学ぶことができた。

 そのためか男の属する部隊は功績を挙げていったがそれも突如として終わりを迎えた。男が属した勢力が敵の罠にはまり、山岳部にて反抗を受けたのである。彼の属した部隊は散り散りとなり、男に武術を教えた者は男を庇って戦死したが男自身は何とか逃げ延びることに成功した。

 男はこれ以上戦争に巻き込まれたくはないと故郷に帰還するもそこは既に赤き軍隊によって焼き払われていた。村民は皆殺しにされ、男は焼けて更地となった実家の前に積まれた家族の遺体の前で泣き続けた。

 最終的に男は義勇軍に戻ることはなく2年後には政府が変わり、赤き軍隊が属する勢力が中華を支配するようになった。何もかもが変わっていく中で男は様々な事を学んだ。そして男は赤き勢力に憎悪を抱いたまま生涯を終えることとなった。

 

-おめでとうございます! 貴方には転生するチャンスをあげましょう!

 

 しかし、幸か不幸か。男は死後の世界にて神を名乗る人物と出会い、転生した。かつて敵であった極東の国の中流階級に生まれ変わったのである。

 転生前、男は神より聞いていた。次の人生はデモンストレーションだと。全てはその次の転生先で生きるための準備期間であると。転生先はこことは違う世界であり、どのような準備をするのかは男の自由だと。そして、次に転生した時には自分との関係も切れ、その世界の住人として男は固定されるだろうと。

 それを知っていた男はありとあらゆる準備を行った。知識をため込むことは勿論、剣術を学び達人の域にまで磨き上げ、効率的な筋肉トレーニングを欠かさずに行った。無限にため込める異空間をもらい、男は自分が手に入れた物全てをその中に放り込んだ。時間が止まり、中の物が腐らないことを利用し、食品だろうと氷だろうとなんでも詰め込んだのである。

 男はやがて会社を設立し、様々な事業を展開していくと同時にこれまででは手に入れられなった兵器類も集めるようになった。

 周囲から見れば男は奇妙な人物に映り、商人にとっては特大のお得意様となった。男はそうして極東人としての生涯を終え、神の言うとおりに漢王朝時代の中華に転生することとなったのである。

 

 

 

 

 

「男はそこから、神に与えられた中途半端な知識をもとにとある勢力に仕官し、野望の為に仕込みを開始した、というわけだ」

「……」

 

 板垣の長い語りに、賈詡は絶句した。全ては嘘であったと叫びたい。だが、板垣の雰囲気がそれを許さない。200年の自分の歴史を否定させない。そんな圧力が板垣からは発せられていた。

 それと同時に賈詡も嘘ではないという事は理解できてしまった。部隊の謎も、板垣の武の強さも。

 

「……なんで、南陽袁家に仕官したの? 君なら、独立だって……」

「権威というものは馬鹿にはできない。無名の男がいくら力を示してもそれを認める者は少ない。人は知らないモノを恐れるからだ。だが、これが三公を輩出した名門袁家が後ろ盾となった力ならどうだ? 人々は抵抗なく受け入れるだろう」

「それだけの為に、袁家を自分のものにしたって事ね」

「いっただろう? 俺が持つ知識は中途半端だと。この世界は面白いことに知っている歴史とは違う。神がくれた知識にはその人物の人となりしか記されていなかった。経歴は全く分からなかったのだ」

 

 だから南陽袁家にしたと。名門の中で最も取り入りやすいからと。

 

「袁術には悪いが彼女は既に廃人同然だ。まともに思考する能力はなく、俺の言うとおりになんでもこなす存在となった。邪魔な張勲や動かしづらかった紀霊もいない。もはや南陽袁家は俺の勢力となった」

 

 後は袁術を使って袁家を自分の一部にするだけだと、板垣は話す。賈詡はその板垣の言葉が理解できてしまった。板垣とは権威を利用した成り上がりものであると。古きものを切り捨てるのではなく、その価値を最大限に生かして自分の力にする保守的な側面を持った人物だと。

 

「俺が作りたいのはな、俺の故郷を焼き払ったふざけたやつらが生まれてこれない世界にすることだ」

「それが大陸の制覇だというわけね?」

「そうだ。これより1000年以上先の時代に大陸を股にかける勢力が誕生するがそれでは遅い。俺はこの時代に大陸の隅々まで、それも西戎よりも先の先、大陸の端にまで中華の旗を翻す。そして、その地域にいる民族を徹底的に破壊する」

 

 あの時代につながる民族をなくし、あの時代につながる国を消し、あの時代につながる思想が生まれないようにする。

 

「中華人という異物を大いに混ぜてあの時代につながる歴史をすべて壊す。さすれば、良くも悪くも俺の故郷があれらに焼かれる歴史は消えてなくなる」

「……そう。貴方は、そういう人なのね」

 

 板垣の野望。それを理解した賈詡は目の前に立つ男を王にしてはならないと感じた。板垣がやろうとしているのは人生を股に掛けた壮大な復讐であると。全ての人間を引っ掻き回してしまうと。今ならそれも止められると。

 

「……」

「俺の野望は危険だと思ったか?」

「っ!?」

「そうだろうな。端から見れば俺の野望は復讐だ。他人を巻き込んだ壮大な復讐。それを実現させていいわけがない。お前はそう思ったな?」

 

 賈詡が感じたことをしっかりと見抜いてみせた板垣は話を続ける。

 

「だがな、同時に中華は世界の王になることができる。補足しよう。俺が生まれたのはこの長安の近くだ。わかるか? この時代には中華の中心地であるここがはるか未来では貧しい村となっているのだ。それは何故か? 大陸の西よりやってきた者たちに中華は負け、奴隷の如き運命を辿ったからだ。結果として中華は100年にわたる混乱と荒廃を招き、あいつらが支配する国が出来た」

「大陸を制することはその歴史をなくすことにつながるといいたいわけ?」

「ああ、むろん、その時に中華が腐りきっていれば元も子もないがな」

 

 いいわけだ。賈詡にはそう感じたがもし、男の言うとおりならどうだろうか? 賈詡はわかりやすく匈奴などの周辺民族に置き換えて考えてみることにした。

 蹂躙され、養分を吸い取られる中華。そして奴隷のように使役され、貧しい暮らしを送る人々。それを見て笑う周辺民族たち。ああ、いやだと感じてしまった。板垣の言葉に賛同するように心は傾いてしまったと。

 

「……そもそも、復讐に取りつかれているのなら俺は生まれ変わった時点で行動を起こしている。復讐をするのならここで、ではなく時代が同じ前の時にしている。それをしなかったのは復讐なんて考えていないから。ただ、あの悲劇を避けたい。そう思っているに過ぎない」

「……そう」

 

 板垣はいまだ迷う賈詡に改めて問いかける。所詮、今までの話は賈詡の回答を聞くための情報でしかない。

 

「一応聞いておこう。俺が作った部隊の指揮官となるか? それとも、否か?」

「……そんなの、決まっているじゃない」

 

 だが、賈詡は板垣への不信は生まれど覚悟は既に決まっている。董卓を守ると決めたあの時から。

 

「月を守れるのなら何でもやるわ。たとえ貴方が作り上げる世界が最悪のものだったとしてもそれで月が幸せに生きていけるのなら喜んで手伝ってやるわ!」

「……それを聞いて安心したよ。ではこれからよろしく、賈詡」

「詠、でいいわ。板垣宰相様」

 

 この日、賈詡はすべての不安や恐怖を飲み込み、巨大な野望を掲げた男の正式な配下となった。そして、これ以降賈詡は表舞台より姿を消すのであった。

 

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