袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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お久しぶりです。風引いて寝込んでいました


第三十七話「揚州」

 董卓を討ち取り、漢王朝に平和が戻った事で諸侯たちは自分の領地の帰路についた。目的が達成された以上何時までも洛陽に留まっているわけにはいかないからだ。みんな自分の領地があり、統治を任せている以上早く戻らないといけないと感じるのは当然といえた。

 特に劉備は陶謙が治める徐州に移封となるために他よりもやるべきことが多く真っ先に帰国している。ちなみに、劉備が平原を離れる時には彼女を慕った民衆たちがついていき、平原は数万単位の人口を失うこととなった。

 そして、南陽袁家軍を率いた板垣も様々な事後処理を終えると南陽へと帰還した。既に帰還した周沙達によって政務は滞りなく行われていたがそれとは別の準備に追われてもいた。

 

「先ほど、返答の使者が訪れた。揚州刺史の劉繇は揚州の引き渡しを拒否した。更に厳虎や王朗といった揚州の太守達も従わない姿勢を見せている」

「つまり討伐する必要があるというわけですね!」

 

 漢王朝より命じられた揚州刺史の任を全うするべく劉繇に使者を送っていたが彼女は拒否しており、更に厳虎や王朗といった揚州の太守も同様の姿勢を見せていた。それを受けて板垣は南陽袁家の主だった将を呼んで軍議を開いていた。

 

「敵の数は具体的には不明だが劉繇が4万、厳虎が1万、王朗が1万5千ほどと推測している。むろんそれ以上に兵を集めてくる可能性はあるだろう」

「6万強。反董卓連合が終わったばかりで兵はいつでも出撃できる準備を整えています。下知があればすぐにでも出立できますよ」

 

 6万という数字に対して周沙は強硬的な姿勢を見せる。彼女の言うとおり南陽袁家軍約12万はほぼ無傷であり、いつでも出撃が可能な状態であった。これは揚州の勢力が素直に従わなかったときに即座に行動にできるようにと考えていたためであった。そしてそれが現実となったわけである。

 

「だが劉繇には太史慈という優れた武将もいると聞く。厳虎も山越の長として相応しい武を持っているとか。油断することは出来ないぞ」

 

 一方で慎重論的な発言をしたのは周倉であった。武を信じて行動した結果呂布に惨敗した彼はその傷のせいか尻込みすることが多くなっていた。とはいえ現状では物腰が落ち着いた程度の影響しかなかったが。

 だが、彼の言うとおり揚州には太史慈を始めとした優れた武将が数多く存在する。それを無視することは出来ず、すればこちらが損害を被るというのは周沙も理解しているところだった。

 

「それは私もわかっていますよ。ですが数の差を生かさないのも問題でしょう? 宰相、私は南陽袁家軍10万を用いた戦術を提案します。先ずは軍勢は3つに分けます。一つは主力と定める5万の軍勢です。これには精鋭兵を中心に配置します。この軍勢は豫洲から淮南に侵攻させます。そうすれば劉繇や厳虎が反応するでしょうからこれを叩き、進みます。

その一方で残り二つをそれぞれ3万と2万にして荊州から侵攻させますそうすれば揚州南部に位置する王朗はこれに意識を割かれます劉繇も同様に意識を割かれて兵を半分に分けざるを得ないはずです。そうなれば敵など各個撃破して揚州を手に入れられます」

「ふむ……」

「宰相! 俺の意見も聞いていただきたい!」

 

 周沙の案に対して周倉も負けじと自分の策を話し始めた。

 

「刺史である劉繇はともかくほかの太守は自分の領土を奪われる可能性があるから反対しているだけです! なればこそここで兵を進めるのではなく彼女らの懐柔を行うべきです!」

「確かに懐柔できるならするべきでだろう。無駄に敵を作る必要もない。厳虎に関しては山越を丸ごと保護すると約束すれば頷くだろうし王朗に関してもこちらにつく利を伝えることが出来れば抵抗することはないでしょう。噂に聞く限り時世を見誤る御仁でも無いようですから」

 

 周倉は懐柔案を出し、それに対して周瑜が賛同した。彼女の言うとおり太守が反発する理由が領土を奪われるかもしれないという不安からであり、それが解消されれば南陽袁家に従う者が出てもおかしくはなかった。そもそも、彼我の戦力差を見て南陽袁家に勝てると思うような者はなかなかいないだろう。

 

「……」

 

 板垣は何かを考える素振りをした後、一瞬だけ賈詡の方を見た。つい最近まで敵対していたという事で旧董卓軍の面々は軍議に参加していても発言権はないような末席に集められていた。

 賈詡は何かを察したのかわずかに頷き返し、板垣は口を開いた。

 

「周沙。5万の精鋭を率いて豫洲の沛に迎え。先ずは揚州の各太守に再度降った場合の約束事を提示し、反応を見る。期限は軍が沛に到着してからひと月とし、それまでに従属の返答をしない勢力を敵とする。孫策、黄祖。お前たちも侵攻が始まったら適当に暴れて構わん。揚州南部にその力を示せ」

「分かったわ」

「おや? いいのか? 派手にやらせてもらうぞ?」

「構わん。どうせお前らの州境は全て劉繇の勢力圏だ。降りたいというのなら即座に使者を立てるだろう。その場合は受け入れるように」

「はいよ」

 

 相変わらず黄祖はつかみどころのない性格をしており、南陽袁家において異物かの如き雰囲気をまとっているがさすがの彼女もこの大勢力にちょっかいをかけるつもりはないのか大人しく従っていた。板垣も何かをしない限り彼女を使うことはあっても排除に動くことはないだろう。

 

「では各々準備を進めてくれ」

 

 そのまま軍議をスムーズに終わらせた板垣は賈詡に目配せをして執務室に呼びつけた。

 

「で? 何をすればいいわけ?」

「察しがよくて助かるな。王朗および厳虎。この二人を懐柔して欲しい。条件は彼らの領土である呉と会稽の安堵。厳虎については山越を漢民族と同等に扱うと断言してもいい」

「ま、妥当なところね。一応聞くけど僕に頼むってことはきちんと諜報員は存在するんでしょうね?」

「一応はな。まともに情報を持ってこないか戻ってこない程度の人材ばかりだがな」

 

 密かに部隊を作った際に諜報を専門とする組織も作っていたがこちらの出来は酷かった。そもそも一からの作成だった為にきちんと育てる余裕も時間もなく、中途半端な素人に任せた結果商人から話を聞く方が精度が良い、早い、確実という結果となっていた。

 

「まともな人材が出来上がるのは半年は先だ。詠、お前にはそちらの指揮も任せる予定だ」

「そりゃやると言ったからにはやるけどこれじゃ……。はぁ。仕方ないから知り合いの商人に頼んで接触させてみるよ。うまくいく保証はないけどそれでもかまわないでしょ?」

「無論だ。俺がやったのではそもそも劉繇の勢力圏を突破できるかさえ怪しいからな」

 

 そういう意味では諜報員として申し分ない周泰という少女を使うのもアリではあったが彼女は彼女で致命的な欠点を持っているうえに彼女の主は孫家であった。それも板垣とは親しい間柄となってきている孫策ではなく現状では全く接点がない孫権が主であった。そんな人物に南陽袁家の機密を任せるわけにはいかなかった。

 

「どちらにせよ失敗したところで劉繇共々叩くことに変わりはないのだ。そも、12万対6万の戦いだ。不測の事態さえなければ負けるはずがない」

 

 板垣はそう言って笑みを浮かべたが、これより数日後、彼が言った不測の事態が突如として発生することとなる。

 そして、半月後。劉繇が全軍を率いて南陽袁家に侵攻を開始した。更に、荊州刺史の劉琦が軍勢を率いて挟み撃ちをするように南陽袁家に侵攻してきたのである。

 





【挿絵表示】


現状の勢力図(本編に登場した勢力のみ記載)
紫:南陽袁家(事実上板垣の勢力)→豫洲全土及び荊州6郡、司隷(事実上南陽袁家領)
黄土色:黄祖(南陽袁家勢力範囲)→荊州江夏
薄紫:孫家(南陽袁家勢力範囲)→荊州長沙
青:曹家→兗州陳留及び済陰
橙:劉琦→荊州西部
茶:陶謙→徐州全土
緑:劉備(陶謙勢力範囲)→徐州東海
深緑:馬超→涼州全土
白:劉岱→兗州東及び山陽
藍:王匡→兗州泰山
黄:袁紹→冀州全土
灰:公孫瓚→幽州西部
水色:孔融→青州全土

最近思い出したんですけど荊州の零陵と桂陽って黄祖が降伏したときに南陽袁家に降ってたんですけどここでは表向きは降ってという事にしときます
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