「前衛は後退! 中衛は前進して前衛の後退を支援! 騎兵は左右から回り込んで敵の陣形を乱せ!」
周沙は吐血しそうな程の叫び声をあげながら指示を出す。目は血走り、髪は手入れがされていないのかぼさぼさになりつつあった。それでも彼女も含めて誰もがそれを気にすることはない。できない。
揚州の刺史、劉繇が攻めてきてすでに
「ワハハ!!! どんどん攻め込めぇ!!!」
「我ら王朗軍の力を見せてやれ!」
厳虎軍1万5千、王朗軍2万と予測を上回る兵が追加されたことで周沙は一斉に劣勢となった。3日間戦い続けていたところに3万越えの新手である。とてもではないが対処は難しかった。結果、周沙はじりじりと後退を余儀なくなれ、豫洲は少しずつ奪われていた。
「くそ! 宰相からの援軍は!? 来ないの!?」
「そ、それが。劉琦が予想以上に手ごわく、そちらの対応で精いっぱいとの事で……」
「劉琦! あいつ!」
劉琦と直接会ったことのある周沙は彼女の思いがけない行動に発狂したように大声を上げた。あの時は宰相の策で勢力を割かれた上にその対処を策を弄した者に頼むしかない現状に憐れみを感じていたがこうなれば話は別であった。
「こうなったら豫洲で徴兵をして数の差を少しでも埋める! 今から使いを出して兵を募って!」
「で、ですがそれを勝手にするのは……!」
「いいから! このままじゃ豫洲は遅かれ早かれ陥落するよ!」
訓練を受けていない一般人を戦闘に参加させるのは避けたい事であったがこのままではジリ貧だと周沙は独断で徴兵を決定した。後から処罰は免れないだろうが板垣宰相ならわかってくれると周沙は豫洲を守ることを優先した。
とはいえそれまでに劉繇達、揚州連合の猛攻を何とか防がないといけなかった。ここまで追い込まれていなければ周沙も前に出て敵兵を倒すのだがこの状況では難しかった。しかし、劉繇には虎の子の太史慈と呼ばれる猛者がいる。彼女は劉繇軍の兵として周沙軍の前衛相手に暴れている。これを相手にできる猛者が周沙側には周沙しかいない。後からくるはずだった旧董卓陣営の武将は劉琦の侵攻のせいでそちらに駆り出されていた。呂布や張遼が向かった為に劉琦の陣営はすぐに降るだろうがそれまでに豫洲が失いかねなかった。
「くっ! 早く前衛を下げなさい! 今はまだ私たちで戦わないといけないのだから!」
その後、周沙は徴兵した兵を前線に出すことで辛うじて軍の崩壊と豫洲の陥落を防ぐことに成功するが揚州連合に豫洲深くまで入り込まれてしまった上にそれを押し出す力をなくし、劣勢のまま防衛せざるを得ない状況になっていくのだった。
一方、本来ならば揚州に入って周沙を助けるはずだった孫策はどうしているかというと……、
「雪蓮! この好機を逃すべきではない!」
「姉さま! 決断してください!」
「……」
周瑜と孫権によって独立するべしという声に身動きが取れないでいた。本来ならば軍を率いて揚州と戦うつもりだったが周瑜がそれに待ったをかけたのだ。
-この機会を逃すべきではない。今すぐ独立するべきだ。
この声に妹の孫権は賛成し、家中も大半が独立を支持したのだ。そして、後は孫策が独立するといえばいいだけの状況となっていたが孫策は首を縦に振らなかった。
「(私は、私はどうしたいのだろうか……)」
孫策は迷っていた。孫家の旗を中華に翻したいという気持ちはあれどそれよりも板垣と共に歩みたいという気持ちが大きくなっていた。
「(私はどうやら彼の剣となって、彼の敵を倒しながら中華の統一を一緒に見たいと思っていたようね。でも、それに気づくのが遅すぎた)」
自覚したのがつい最近であり、独立の機運が高まった後だった。今、ここで孫策が板垣の家臣として彼と歩みたいといえば孫家は大混乱に陥り、最悪の場合崩壊するだろう。
「(……駄目ね。私は、私についてきた冥琳たちを見捨てられないわ。板垣、貴方のもとで過ごした日々はとても楽しかったわ。もし、機会があれば私を受け入れてほしいわ)……わかったわ。冥琳、蓮華。みんなを集めて」
「っ! それじゃ……!」
「ええ、私たちは独立をするわよ」
孫策は決断した。板垣との決別を。孫策は自分の心を奥深くにねじ込むと孫家の当主としての意識を前面に出した。そうしないと、心が持ちそうになかったから。故に、孫策の目から涙が一筋垂れていたことに誰も、本人でさえ気づくことはなかったのだった。
揚州連合の侵攻より凡そ10日。長沙太守の孫策は南陽袁家からの独立を宣言。劉琦や揚州連合と連携して南陽袁家に侵攻を開始した。それを受けて江夏太守の黄祖は孫策に備えるためと言って江夏にひきこもってしまう。それによって南陽袁家は南部における防衛能力を一時的に喪失し、そちらの対処にも追われることとなるのだった。
曹操が作り出した板垣包囲網は思わぬ拡大を見せ始めていた。