「劉琦軍2万がわが軍3万と交戦を開始! 戦況は五分という状況です!」
「豫洲はほぼ全てを喪失! 揚州連合軍約9万は周沙軍5万と対峙! わが軍劣勢との事!」
「孫策によって襄陽陥落! 江夏も半数が落とされています! 黄祖殿から救援要請!」
「旧董卓軍が襄陽に到着! 準備ができ次第孫家と戦闘に入ります!」
開戦より凡そひと月。ついに板垣が最初に決めていた揚州侵攻の日を迎えたが実際には南陽袁家はその存在を危ぶまれていた。孫家の独立による新たな戦線の発生により劉琦を速攻で倒すことは出来なくなり、そちらに兵を割かざるを得ない状況になった。孫家には孫策を始めとする剛勇無双の兵が多い。更に周瑜を筆頭とする軍師も多く、手ごわい相手と言えた。
それを受けて板垣は董卓軍の派遣を決定した。更に軍師として魯粛をつけて余程のことがない限り問題はないと判断した。
しかし、それでも兵の数が足りておらず、このままでは近いうちに揚州連合によって豫洲を超えて本拠地である南陽まで失うことになるだろう。そうなれば南陽袁家は終わりであり、何としても避けたい出来事であった。
「……」
板垣は政務室にて戦況をまとめ終えると文官に退席を促すと同時に賈詡を呼ぶように伝えた。暫くすると賈詡が姿を見せた。
「何? ついに部隊を動かすことにしたの?」
「ああ。本当は劉琦にしたいところだが劉繇にした。このままではここは落ちかねない」
「……劉琦ならともかく劉繇だと全滅もあり得るわよ?」
「だから本音はやりたくはない。だが仕方あるまい」
板垣の表情は暗く、怒りすら浮かんでいた。それが何に対する怒りなのかは賈詡にもわからないがこれが覚悟を決めての決断だという事は賈詡にもわかった。
「なら直ぐに部隊を動かすわ。目標は劉繇の命でいいわね?」
「できれば厳虎と王朗もだ。その三人が揚州連合の頭だ。それを一斉に失えば揚州連合は大混乱に陥る。そうすれば周沙が対応してくれるだろう」
周沙がこの部隊のことを知っているわけではないが何かあれば即座に気づく。そうなればすぐにでも兵を出して攻め入ると予測していた。
「劉琦の方はどうするの?」
「仕方ないが俺が出る。劉琦はこれらの中で最も弱い上に仕込みもしてある。即座に叩いて東に集中できるようにする」
「そ。だけど気を付けた方がいいわよ。南陽袁家はあなたがいて成り立っている勢力なんだから」
「無論だ。こんなところで死ぬつもりはない。敵対したことを後悔する程に徹底的にたたく。そして、二度と慢心するつもりはない」
先ほどの怒りは自分に対してであったか、と賈詡は板垣の様子を感じつつ部隊を動かすべく政務室を後にするのだった。
この日の夜、月は雲に隠れ、暗黒の世界が広がっていた。曇天とも言える天気によって日差しが昇るまで空が明るくなることはないだろう。闇に乗じて動き出す者たちにとってはこの上ない最適な夜であった。豫洲の汝南と汝陰の境に展開した揚州連合は明日の攻勢に向けて皆が寝静まっていた。起きているのは見張りの兵と明日の攻勢に興奮して眠れない者のみであり、本陣には篝火の中で気が燃える音以外何もしていなかった。
そんな中を足音を立てないようにゆっくりと動く影があった。全身黒い服装に身を包み、鉄兜をかぶって顔には絡繰りを付けたそれらは中華の人間には見慣れない筒状の武器を構えて本陣内を進んでいた。
「……」
ふと、先頭を行く男が軽く手を挙げた。それを受けて後続は止まり、次の指示を待つ。先頭の男が天幕の陰からゆっくりと覗けば見張りをしている兵がおり、巡回を行っていた。しかし、その顔は眠そうであり、ふらふらとした足取りからいやいややっているのがまるわかりであった。
先頭の男は見張りが背を向けたタイミングを狙い口に手をやり首をナイフで描き切った。鮮やかなその動作に見張りの男は声を上げるどころか何が起きたのかさえ分からずに絶命する。先頭の男は見つかりにくい天幕の陰に見張りの男を隠すと再び歩み始めた。
彼らは板垣が作り上げた現代武器で武装した特殊部隊である。実戦こそ初めての彼らだがこの日に備えてあらゆる準備と訓練を行ってきた彼らは何のミスをする事もなく劉繇の本陣に侵入を果たしていた。しかし、予想以上に時間がかかっており、既に日付は変わっている。ほかの目標である厳虎と王朗のもとにも隊員が向かっているとはいえこのままでは暗殺するのが難しくなっていくだろう。
「ここだ」
そして、ついに劉繇がいると思われる天幕に到着したほかのものよりも豪華なそれは誰が見ても総大将の天幕だとわかる様相をしていた。とはいえ本当にそうかはわからないため、隊員の一人がスネークカメラを用いて中の様子を確認する。カメラには劉繇らしき女性が娼婦と思われる女性と抱き合っており、何かを耐えるような息遣いをしていた。
「劉繇か?」
「おそらくな。今まさに情事の真っ最中だ。数は2。この天幕に敵はいない」
「よし。入口の見張りを倒してさっさと終わらせるぞ」
隊員は入口方面に向かい、即座に見張りを始末すると中にゆっくりと入っていく。中ではまさに最後の瞬間を迎えようとしており、こちらに気づく様子はなかった。それを受けて隊員は銃をしまうとクロスボウを取り出す。板垣が前世において通販で大量購入したそれは現代の工夫がされており、この時代の弩よりも強力であった。それを劉繇及びそれと抱き合う女性に向けると一気に発射した。大した音も出ることなく劉繇は一瞬で命を刈り取られることとなった。
「目標完了だ。これより脱出する」
「了解だ」
目的を達した隊員は即座に本陣を離れようとしたが最初に天幕を出た隊員の首が突如として吹き飛んだ。
「「「「っ!!??」」」」
突然のことに驚き、銃を構える隊員たちの前に一人の女性が姿を現した。ほぼ服としての機能をはたしていないような煽情的な格好をしつつもその体から湧き出る武の気配を抑えることなく漂わせる人物。
「全く……。劉繇様を殺したからには、生きて帰れるわけないじゃない」
劉繇配下において、板垣ですら警戒した剛の者、太史慈が隊員たちの前に立ちはだかった。軽い雰囲気とは似つかない、確かな怒気を溢れさせながら。