「くそっ!」
隊員の一人が銃を構えて発砲する。しかし、それを太史慈は発砲する直前に隊員の前に突撃し、発砲と同時に首を切り落とした。頭部を失った胴体はそのまま崩れ落ちるがその際に銃が発砲され天幕に穴を開けた。
「わぁっ!? 君たちの持つ武器ってすごいんだね! やっぱり全員生きて帰せないよ!」
「退避! 退避!」
ここにいるのはわずか8名ほどの隊員である。全員が武に自信がある者ではなく、ただの一般兵程度の力しかない。太史慈を相手にするには全員力不足であった。それを補うための武器である銃も太史慈の動きの前には無意味であり、一人、また一人と殺されていく。
「う、うわぁぁぁぁっ!!!」
「ほいっと!」
そして太史慈に恐怖を抱いた一人が闇雲に発砲するがそれを隊員の死体を利用して盾代わりにされてしまい失敗に終わる。それどころか玉切れのタイミングを待つことなくそのまま突貫して死体事突き刺して殺して見せた。
「馬鹿な……!」
「うーん。弩を改良したっぽいけど威力はこっちの方が大きいね。いったいどうやって作ったのかな」
たった一人生き残った隊員に目を向けることなく太史慈は無邪気と呼べる雰囲気で銃を手に取って確認する。相手にされていない。そういう状況であるがだからと言って逃がしてくれると考えられるほど甘くはない。太史慈は銃を手に取ると生き残った隊員に向けた。
「多分だけど南陽袁家の人間でしょ? となると噂の板垣宰相が作ったのかな? 噂通りならやりかねないと思うし」
「……くそ!」
たとえ無理だとわかっていてもこれ以上はまずいと隊員が発砲しようとする前に太史慈の持った銃が発砲されてしまい、そのまま崩れ落ちた。
「玉切れかな? でもどうやって球を入れるのかわからないしこれはもう使えないかな~?」
「……!」
無造作に投げ捨てられた銃を見ながら、隊員は最後の力を振り絞ると腰に付けた丸いものを投げる。それは太史慈に向かっていったがあっけなくはじき返されて隊員の近くに落ちた。
「最後に何をしようとしたのかわからないけどいい加減n……」
太史慈がそこまで行った時だった。隊員が最後に投げた丸いもの、手りゅう弾がさく裂し、天幕を吹き飛ばした。至近距離にいた太史慈はその爆風をもろに受けて吹き飛び地面にたたきつけられた。発砲音に気づいて外から様子をうかがっていた兵たちが慌てて太史慈を保護し、天幕から離れていくのだった。
「周沙様! 劉繇の本陣で何やら煙と爆発音が響いています!」
「あれは……」
劉繇軍の混乱は周沙からも把握することが出来た。突如として本陣の方から爆発音と煙があがり、それに伴って敵兵が混乱状態になったのだ。周沙には何が起きたのか理解することは出来なかったが好機であるという事は理解できた。
「全兵に通達! これより劉繇軍に夜襲を敢行する! 今が敵を倒す好機だ!」
「はっ!」
「いいえ、この際本陣の兵士だけでもたたき起こせ! それ以外の兵を待っているのが惜しい! 私たちだけでも出陣する!」
周沙は即座に命令を出すと改めて劉繇軍の方を見る。本来であれば混乱が収まる気配を見せてもいいのだがその様子はない。たとえ劉繇に何か起こったのだとしても太史慈あたりが難なく兵を抑えていそうだと思うのにそれがない。周沙は太史慈も劉繇も死んだか兵の統率が取れない状況に陥ったのだと判断した。そして、タイミング的にそれを行った可能性が高いのは板垣だろうことも。
「全く。うちの宰相は本当に規格外ですね。どうやって本陣にまで行かせたのやら」
「周沙様! 準備が整いました! また、新たな情報ですが同様の混乱は厳虎と王朗の軍勢にも広がっているようです!」
「分かったわ。これは揚州連合をこの地で、この夜の間に降すことも可能だわ! そのことも伝えて兵を動かしなさい!」
「了解です!」
周沙は馬に乗ると準備を整えた本陣の兵と共に夜襲を開始した。混乱していた劉繇軍は更に大混乱に陥り、まともな戦闘が出来ずに討ち取られていった。そこに周沙軍全軍が襲い掛かり、劉繇軍は統制も取れないまま勝手に逃げ出していった。
崩壊した劉繇軍を執拗に追いかけることはせずに周沙は軍を半分に分けると厳虎と王朗軍に襲い掛かった。同様の混乱が広がる両軍もまともな抵抗も出来ずに逃走を開始した。
朝を迎える頃には揚州連合は瓦解しており、約9万のうち1万近くが討ち取られ、3万が投降。残りは散り散りとなって逃亡し、揚州連合が復活する可能性はなくなった。更に敵本陣にて劉繇と王朗の死体を確認。太史慈と厳虎が重傷で捕縛され、南陽で治療を受けることとなった。この一連の戦いで周沙軍は夜襲の混乱と同士討ちで千名近い死傷者を出していたが敵との差を見れば圧勝と呼べる形で幕を閉じたのだった。
『宰相様。隊員より成功との報告が入ったわ。突入した24人の隊員のうち死者は21名。2名が重傷よ。死んだ隊員の装備は味方によって回収されているわ。既に通達しているから装備は戻ってくるはずよ』
「分かった。報告ご苦労」
詠からの通信を聞いた板垣は短く返答すると通信を切り、目の前のことに集中する。現在、彼は5千の兵と共に劉琦と相対する南陽袁家軍のもとに向かっている。もう少しすれば南陽を抜けて最前線となっている南郷に到着するだろう。
「20人。やはりほぼ全滅という形になったか。理解はしていたとはいえこれだけの消耗か」
せっかくそろえた部隊もこの消耗では意味がない。ただでさえ現代兵器を扱うという事で慎重になっているのに、と板垣は改めて部隊の運用について考える必要があると感じていた。
「それについては今後だな。先ずは余計な事をしてくれた劉琦にお礼をしないとな」
劉琦は自分の勢力圏内から大量に徴兵を行っており、数を増やしていた。南陽袁家軍3万と相対した時点で劉琦軍は2万だったが僅か数日で5千人を増強している。このままいけば南陽袁家軍を上回る事さえ可能だろう。烏合の衆とはいえ数で負けるというのはよくはないと板垣は早期の決着を決めていた。
「2万5千対3万5千。よほどのことがない限り敗北はないだろう。だが、確実に劉琦軍を弱体化しておきたい。厳顔め、一体何をしているんだ……」
劉琦側に残り、裏工作をしているはずの厳顔からの連絡がないことに板垣は不信感を覚えつつもそれに頼り切らないように策を考えるのだった。