袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

44 / 60
短いです


第四十二話「捕縛」

 劉琦軍が南陽袁家に攻め入る前夜。劉琦は突如として家臣を集めると宣言した。

 

「僕たちは南陽袁家に、板垣に対して攻撃をする。荊州全土を奪い返し、本当の意味で僕が荊州の刺史になる!」

 

 そう宣言する劉琦の表情は覚悟で決まっており、反対意見は許さないといっていた。突然のことに誰もが驚くがその中で真っ先に声を上げた人物がいた。

 

「某は劉琦様の意思に賛成です」

「私も同じく」

 

 声を上げたのは王威と文聘であり、劉表時代からの臣だが内乱時には劉琮側についていた者たちだ。内乱後に劉琦に許されて将軍として復帰していたが実は彼らは既に司緒の手にかかっていた。つまり、彼らが賛成したのは予め司緒から話を聞いていたためであった。

 

「私も賛成します」

「俺も!」

「わ、私も賛同しますぞ!」

 

 そして、当然ながら後に続く者たちは司緒と通じている者たちであり、あっという間に開戦する方向に空気が流れていた。そうなればほかの者たち、司緒の手が入っていない者たちも困惑しつつ賛成に靡くこととなる。……一部を除いて。

 

「劉琦様! まさか我らだけで板垣と戦うわけではありませんな?」

 

 その筆頭と言えるのが厳顔であった。彼女は同僚である黄忠の代わりに板垣に劉琦陣営の情報を流していた。それゆえに板垣と敵対することを嫌がったのだ。ただでさえ黄忠は娘を板垣に取られて以降情緒が不安定になっているときに南陽袁家との戦争を聞けばどう出るかはわからなかった。しかし、その黄忠はこの状況において不自然なほど落ち着き、無言を貫いていた。

 

「板垣の力は今や中華に比肩する者がいないほどの大勢力となっています。漢王朝とて彼を無視することは出来ず、事実上中華を統べる存在となっています。その相手に、我らだけ挑むわけですか?」

「さすがの僕もそこまで無謀ではないよ。これを見てよ」

 

 そういって劉琦が見せてきたのは劉繇より送られてきた書簡であった。互いに南陽袁家を挟み撃ちにしようというものであり、劉琦はこれに乗ったからこそ今回の発言をしたのだと厳顔は理解した。だからと言って賛成するわけではなかったが。

 

「つまり、劉琦様は板垣との戦いはどうあっても行うつもりであると?」

「そうだよ。僕はもう二度と失いたくないんだ。だから、僕は板垣を倒して真の意味で荊州の刺史になるんだ!」

 

 厳顔には劉琦の今の姿が正気には思えなかった。これまでは野心もなく、成り行きで刺史となってしまった少女という印象だったが今の彼女は違う。目は曇りきり、周囲が見えずに疾走しているようにしか見えなかった。その先に崖が広がっていようとも。

 

「劉琦様! 劉繇ごときで板垣と戦えるとは思えません! 今一度再考を……!」

「厳顔殿、劉琦様の決定にケチをつけられるおつもりか!」

 

 厳顔の諫言に対し司緒は遮るように怒鳴る。それと同時に指を鳴らすと諸侯が集まった部屋に兵が押し入ってきた。突然のことに諸侯が驚くがやはり司緒の手がかかった者に驚きはなかった。

 

「司緒! 貴様……!」

「厳顔殿。貴殿はどうやら板垣と通じているらしいではないですか。なんでも、内乱時に荊州を板垣に売り渡したとか」

「っ! なぜそれを……!」

「あなたのお友達が全て話してくれましたよ」

 

 クスクスとおかしそうに笑う司緒に対して厳顔は何故? 何処から? と疑問でいっぱいだったがその答えは司緒のお友達という言葉と黄忠が立ち上がったことで理解した。してしまった。

 

「紫苑!? おぬし……!」

「ごめんなさい。私は、駄目な母親よ……」

 

 そういって剣を厳顔に向ける黄忠の表情は今にも泣きそうであった。その顔は内乱時にも見た顔であり、黄忠に何が起きたのかが理解できてしまった。

 

「司緒! お主瑠璃を!」

「ご安心ください。黄忠殿の娘、瑠璃は劉琦様の親衛隊として遇します。そのために母親とは引き離してしまっただけですよ」

「白々しい嘘を……!」

 

 司緒の言葉が本当とは思わない。本当であれば黄忠がこのような顔をするわけがない。人質にされているんだと厳顔は察することが出来たがこの状況で何かができるわけでもなかった。

 

「残念ですが明日にも我らは行動を開始します。厳顔殿、貴殿の処遇については全ての決着がついてからという事になるでしょう。それまでは自分がしたことに後悔しながら牢で過ごされるとよろしいでしょう」

「……そのような時が訪れればいいがな。むしろそうなるのは劉琦様や司緒、お主かもしれぬぞ」

「なんとでも言いなされ。もはや今のあなたは逆賊、誰も耳を貸しませんよ」

 

 そうして、厳顔は牢につながれることとなり、劉琦は南陽袁家に侵攻を開始したのであった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 厳顔は牢の中で一人腕を組み瞑想をしていた。脱獄防止のためか足首には枷がはめられ、先には巨大な鉄球がつけられている。そんなことをしなくても彼女は逃げるつもりなどなかったが素直に受け入れていた。

 

「(紫苑。お主と瑠璃が睦まじく暮らせる世はいつ来るのであろうな)」

 

 娘を二度も人質に取られた友のことを心配する厳顔だが彼女はそれとは別に不安な事があった。

 

「(焔耶が暴走していなければいいが……)」

 

 自身の配下にして弟子と呼ぶべき魏延のことを心配する厳顔。魏延は騙されやすい性格をしているうえに猪突猛進なところがあり、それが最大の欠点と言えた。もし、自分が捕まったという事を彼女が知れば劉琦を殺さんと暴れかねないが司緒に言いくるめられれば板垣との戦いに身を投じていくだろう。

 

「(焔耶、紫苑。死ぬでないぞ)」

 

 厳顔は一人、牢の中で友と弟子の無事を祈りながら決着の時を大人しく待つのであった。

 




実は途中まで魏延の存在を忘れていました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。