袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第四十七話「撤退」

 孫家にとって今はまさに波に乗っていると言える時だっただろう。南陽袁家の力を借りて孫堅の代に奪われた長沙を奪還。その太守に返り咲いた。そして、その南陽袁家がかつてない規模の敵に襲われ、風前の灯火となった今こそ独立の機会と南陽袁家を裏切った。

 その結果として孫家の下に旧臣たちが集い始め、増強した兵をもって江夏と襄陽の南半分を奪い取る事に成功した。後は南陽袁家が劉琦か揚州連合軍か、それとも新たに加わるかもしれない包囲網を形成する太守かに滅ぼされた隙を突き更なる領土拡大に動くだけ。だったのだ。後はそれだけのはずであった。

 

「すべては自業自得というわけね」

 

 孫家を抑えるためか旧董卓軍が防衛に当たった。更に揚州連合軍は本陣を壊滅させられ、次いで奇襲に出た周沙により壊滅的な打撃を受けて崩壊した。劉琦に至っては自ら指揮を執った板垣によって瞬殺されてしまっていた。

 気づけば、南陽袁家の包囲網は崩壊し、残るは裏切り者の孫家のみとなっていた。板垣出兵時にはがら空きとなった南陽を落とすべく孫策も軍を出しているが終ぞ旧董卓軍を突破する事は叶わなかった。兵の数はともかく将の面で見れば旧臣たちを中心に豊富な孫家に対して主要な将が呂布と張遼のみであり、苦戦はすれど強引に突破は可能だと思われていた。

 しかし、蓋を開けてみれば呂布の桁違いの武勇の前強者も弱者も関係なく殺されていき、それによって発生した混乱を張遼がついていく。全体としては軍師として同行した魯粛が無難な指揮を執り、突破を防いでいた。孫家はこれらの対処に負われ、突破は出来ずにいたがその中で劉琦軍の敗北を聞くこととなった。

 

「ここまでね。長沙に退却するわ」

「雪蓮……! だが……!」

「最早私たちに勝機はないわ。ならば今のうちに長沙を守る準備を進めないと」

「……すまない」

「良いのよ。最終的に決断したのは私よ」

 

 裏切り者となった孫策を始めとする孫家の者達を板垣が許すとは思えなかった。これがまだ南陽袁家が窮地に立たされるような状況でもなければ可能性は少しはあったかもしれない。しかし、結果として南陽袁家滅亡の危機にまで追い込んだのだ。最悪の場合族滅する勢いで殺しに来る事は明白だった。

 

「明命の報告によれば板垣は損耗の少ない兵を中心に軍を再建して討伐軍を編成中らしいわ。その規模は最低でも10万に上るでしょうね」

 

 それに対する孫家は旧臣たちの合流で数は2万を超えている程度でしかない。更に言えば侵攻時には合流するであろう旧董卓軍や黄祖の軍勢も合わせれば15万は超えてくるだろう。流石の孫策もそれを相手にして勝利する武勇は有していない。

 

「……冥琳、今回の出兵に関わっていない者達を至急集めなさい」

「……わかった。何とか討伐軍の出兵前には終わらせよう」

 

 孫策が言いたい事。それを理解した周瑜は力なく返事をした。それはつまり少しでも孫家の人間を逃がそうとする一手であり、全滅を避ける最後の手段であった。

 

「本当は小蓮も逃がしたいけれど、果たしてそれを許してくれるかしら」

 

 小蓮とは孫策の末の妹であり、齢10にも満たない幼い少女である。当然ながら今回の出来事には一切かかわっていないが孫家の姫という事で板垣に狙われる可能性は高かった。それも当然だろう。生き残った血族が復讐するのはありふれた話であるうえに孫策自身も板垣の手を借りて劉表に復讐し、かつて母が納めた長沙の地を奪還したのだから。

 

「仕方ないわ。そこは流れ次第ってね」

「……すまない。私のせいだ」

 

 こうなって以降周瑜は憔悴していた。それどころではない為に無理を押して指揮を執っているが本当なら休息が必要なレベルであった。

 

「冥琳。何度も言わせないで頂戴。最終的に裏切ると決めたのは私よ。孫家の当主として板垣に剣を向ける決定を下したのは私なのよ」

「だが! それは私たちがそうさせたようなものだ! 雪蓮! お前の気持ちを理解していながら……!」

 

 孫策が板垣に惹かれているのは周瑜もなんとなく把握していた。断金の契りを交わした相手である為に孫策の心を誰よりも理解していた。もし、相手が板垣でなければ、若しくはこのような状況でなければいずれは応援していたかもしれない。

 しかし、それ以上に孫家への繁栄を願っていた為にその思いには気づかぬふりをし、結果的に孫策に辛い決断を迫ってしまった。その結果が孫家の逃れられない破滅とは救われないだろう。

 

「良いのよ。孫家を繁栄させる方法はいくらでもあったわ。それこそ中華の新たな支配者なんて望まなければいくらでも、ね」

 

 そう言いながら孫策は最早あり得ない未来の可能性を思い描く。板垣の指示の元、勇ましく敵と戦う自分の姿。()()()()()()()()()()()()()姿()。どれもこれも実現しない夢幻であった。

 

「とにかく。今は防衛の準備を進めましょう。国境を固め、敵の攻撃に備えるわ。そして、可能なら討って出て敵の勢いを削ぐ。兵力差が絶望的にある以上そうやって少しでも敵兵も削っていかないと」

「……わかった。そのあたりの指示も出しておく。雪蓮はその武をいつでも生かせるようにしておいてくれ」

「分かったわ。……冥琳、いつもありがとね」

 

 そういって笑う孫策はとても美しく、今にも消えてしまいそうな程儚かった。

 

 

 

 

 

 

 

 10日後、軍を再編した南陽袁家は10万の兵を連れて孫家の討伐に動き出した。総大将として板垣自らが率い、その周りを劉琦戦でともに戦った将兵が付き従った。

 更に襄陽では旧董卓軍約3万、江夏からやってきた黄祖軍約1万が合流。2万の兵で立て籠もる孫家に対して7倍の兵力差をもって南陽袁家軍は一気に長沙へと雪崩れ込むのだった。

 最初に発生した反板垣包囲網、その最後の戦いがまさに始まろうとしていたのであった。

 

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