袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第三話「警戒」

 張勲はこの日、何度目かの袁術への直訴を行った。内容は板垣に対する警戒を持ってほしいというものである。張勲は別に板垣がどれだけ台頭しようが気にする事はない。ただし、袁術に害となる可能性があるのなら別だ。張勲は仕官すると言ってやって来たあの日、板垣が袁術を操り人形にして乗っ取る姿を幻視した。それが何だったのかは分からないが、それからというもの彼女は板垣を警戒せずにはいられなかった。

 実際、既に袁術陣営の半数は彼の味方である。紀霊将軍との仲も悪くはなく、袁術に反旗を翻しでもしないかぎり板垣の味方に付くだろう。

 無能と称して追い出そうにも彼は軍政問わずに能力を発揮している。一部では彼の指示がないと出来ない政策もある程で、彼を排除するには遅すぎた。

 そうである以上閑職に回しつつその能力だけを吸い取るようにすればいいのだが、袁術は頑なに同意しなかった。

 

『袁術様。私を廃そうとする者がいるようですが、そうなれば私は失望のあまり蜂蜜水の提供を止めてしまうかもしれません』

『それは嫌じゃ! 妾はそなたを冷遇したりしない! だから蜂蜜水を!』

 

 どこか狂気すら感じる袁術の蜂蜜狂いは日を追うごとに増している。何故袁術がそうなってしまっているのかは張勲には分からなかったが、板垣が持って来る蜂蜜水に原因があるというのは一目瞭然だった。

 そこで彼女は蜂蜜水を少しだけ分けてもらい、それを囚人に飲ませて実験を行った。

 

『あの蜂蜜水をくれ! あれを飲まないと心が落ち着かないんだ!』

 

 結果として毒が仕込まれている可能性があると判明した。選んだ囚人は甘いものが苦手であったにもかかわらず、蜂蜜水を求めるようになったのだ。何かしらの依存させるものが含まれている可能性が高いと張勲は睨んでいた。

 しかし、いくらそれを袁術に伝えても「この蜂蜜水はそれだけ美味しいという事じゃ!」と聞き入れてもらえない。全幅の信頼を寄せているはずの張勲ですらこの話を持ち出すと最近では機嫌が悪くなるほどで、袁術の中で張勲の言葉より蜂蜜水の方に傾いているのがはっきりと理解できてしまった。

 

「私としても彼を何とかしないといけないのにそれが出来ない状況にある。……こういうのを八方塞がりと言うのですかね~」

 

 いっそ袁術を連れて逃げ出そうかとも考える。南陽はかなりの離反者を出しながら板垣の勢力となるかもしれないが、袁術を魔の手から救い出す事は出来る。後は不承不承だが異母姉の袁紹を頼れば何とかなるかもしれない。

 

「お嬢様には悪いですがこれもお嬢様の為。実行する方向で考えていきますか……」

「張勲様」

 

 逃げ出すための準備に入ろうとした時、後ろから声をかけられた。そして、その声に先ほどまでのほんわかした雰囲気を消して警戒心マックスの雰囲気で振り返る。

 

「どうしましたか? 板垣殿」

「少し、お話をしませんか? 内容は()()()()()()()()()()()()()()()()

「……良いでしょう」

 

 逃げる原因となった板垣の言葉に、張勲は警戒を解く事なく話の内容から彼を政務室に案内した。いざとなれば殺す事を覚悟して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ……」

 

 袁術は自室にて落ち込んでいた。と言うのも全幅の信頼を寄せる張勲に対して怒鳴りつけてしまったからだ。

 

『お嬢様! 板垣殿は危険です!』

『七乃……。またその話か』

『軍政統括官と言う職を解き、小さな役職に移して飼い殺しにするべきです!』

『くどい! 板垣は美味い蜂蜜水をくれるのじゃ! これ以上話などききとうない!』

『お嬢様……』

『出ていくのじゃ!』

 

 最近、怒りっぽくなった袁術は感情のコントロールが出来ずにそう怒鳴りつけて張勲を追い出してしまった。そして、冷静になった時に酷い事を言ってしまったと落ち込んでいたのだ。

 

「七乃に悪い事をしてしまったのじゃ……」

 

 今日は既に夜である。今から行っても寝ているだろう張勲を起すのは悪いと袁術は明日謝ろうと考えて眠りについた。

 その日、彼女は久しぶりに張勲と楽しく過ごす夢を見た。まるでもう会えないかのように幸せな夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朝、政務室にて張勲は血だらけの状態で、物言わぬ死体として見つかった。

 

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