袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五十話「開戦」

 ついに討伐軍14万は孫家の兵2万と接敵した。場所は長沙北部にあるとある城邑の前であり、ここは地形が特殊であった。北部には切り立った断崖が左右にそびえたち、北部での軍の展開を阻害する地形となっていた。更に断崖はかなりの高さまであり、上り下りは不可能と言える程だった。

 一方で南部は山らしい山が存在しない代わりに沼地が広がっており、軍の移動は困難を極める地となっている。ここはまさに大軍が戦うには不向きすぎる場所だった。

 

「少しでもこちらの軍勢の動きを阻害するつもりか……」

 

 この地を見て板垣はそう判断し、陣容を変更した。部隊を細かに再配置し、小隊ごとに動けるようにしたのだ。そして韋惇を副将に添えると同時に全体の指揮を任せ、自らは半数の兵と共に後方に待機した。

 そして何よりこの陣容で変化したのが旧董卓軍と黄祖兵だ。彼らは板垣の手前、韋惇の陣を後方から守るように展開したのである。一方で孟端や史忌と言った南陽袁家の将軍たちは前線に展開し、板垣の号令を今か今かと待っていた。

 これ以外にも旧董卓軍全体が後方に展開されているのは孫家をここまで抑えてきた彼らに休息を取らせる意味もあったが兎にも角にも板垣は南陽袁家の兵を前面に押し出してきたのである。

 それに対する孫家はというと正面に甘寧、両翼に黄蓋と程普と言った古参が軍を率いており、本陣には孫策ではなくその妹である孫権が入っていた。軍師としても周瑜ではなく陸遜がついており、二人の姿は一切見えないがその一方で城邑には孫策の旗印と周の旗が掲げられており、城邑にて待機しているのが見て取れた。孫策たちは気が熟すまで城邑で戦況を見極めるのだろうと南陽袁家の兵たちは思っていた。無論、そう思わない者もいたがここからでは判断は出来ない事であった。

 

【挿絵表示】

 

 

「さて、こちらの準備は出来たが向こうはどう戦うつもりなのか……」

 

 板垣は隊の中心部より展開する孫家の兵を見ながらそう呟いた。まもなく隊の布陣が終わり、板垣が号令すれば一気に開戦となる状況まで来ていた。向こうはあくまで迎え撃つつもりのようで動きはなかった。

 

「……まぁいい。どちらにせよ孫家は最早終わりだ。この盤面を覆す力は孫家にはない」

 

 全軍で展開する孫家が何か策を用いるならば目の前の兵はもっと少ないはずだ。城邑の兵を除けば展開する兵は凡そ1万8千。ほぼ全軍であった。それでは何かを成す、それこそ奇襲のような事も出来ないだろう。加えて、この地形では崖の上からの奇襲も難しい。

 つまり、孫家に出来る事はただ殺される事になるべく長く抵抗する事しか出来ないのだ。

 

「……では、始めるか」

 

 ふと、全軍の様子を見れば布陣は完了し、板垣の号令を待っている状態になった。孫家も布陣を終えたことでこちらが仕掛けてきているのを警戒しているのか先ほどよりも感じる気が強くなっていた。板垣は一呼吸すると鋭い視線で孫家を見た。

 

『全軍に告げる! 我は南陽袁家宰相、板垣である!』

 

 その言葉は遥か彼方の孫家にも聞こえる程の声量であり、後方の陣から聞こえてくる声に討伐軍ですら驚いていた。

 

『この戦いは我ら南陽袁家に対し反逆した愚か者共の討伐が目的である! だが、ただ討伐すればいいだけではない! 諸君! 思い出せ! 我らがいかなる存在かを!

我らは南陽を拠点に荊州のほぼすべてに豫洲全土、そして揚州の統治を任された袁術様配下の兵である! そしてそれは何を意味すのか!? それはつまりこの漢において最高の統治者であるという事である!

そんな我らに奴らは弓を引いたのだ! 何故か!? 我らは舐められているのだ! 三公を輩出する名門袁家であること! 漢の半分を統治する事を許されている事を! 奴等は忘れておるのだ!

諸君! 今一度思い出せ! 我らは何者か!? 我らに弓を引くという事が何を意味するのか! そのうえで目の前の愚か者共に思い知らせるのだ! 我らに歯向かう愚かさを!』

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 

 板垣の声に兵たちは雄たけびを上げて答えた。ここに来るまでは何処か慢心すら感じていた兵たちに侮る気持ちは消えていた。彼らは敵に命をもって歯向かった事への愚かさを教えてやると闘志を高めていく。そしてそれは孫家を更に追い込む形となる。

 

『余裕だと、圧倒的だと侮ることなかれ! 全力をもって倒せ! 殺せ! 奴らに教えてやるのだ! 我らは中華に冠たる南陽袁家だとな!』

「「「「「袁家! 袁家! 袁家!」」」」」

『諸君! 見せつけろ! 思い知らせろ! 我らの力を!

前衛より! 突撃開始ィ!!!!』

「「「「「ワァァァァァァっ!!!!」」」」」

 

 それはまさに地滑りであった。14万の大軍が一斉に行動を開始し、城邑前にて防陣を敷く孫家に向かっていく。

 

「行くよ! 僕たちの! ひいては南陽袁家の力を見せつけるんだ!」

 

 そして、そんな中で一足先に飛び出したのが孟端軍であった。今回、先陣3万の兵の指揮官となった彼女はいつも通り小細工無しの正面攻撃を敢行した。この盤面において下手な小細工は不要且つ万一の時に備えて副将として史忌が配置されている。余程の事がない限りこれで問題はなかったのである。

 

「はぁっ!!!」

 

 孟端は自身が先頭に立つ形で鋒矢の陣を形成。突撃を開始した。正面との戦いでは最強の攻撃が繰り出せる代わりに左右や後方が脆いこの陣形を史忌は自らが率いる兵で補強する。更にこの状況で中央の孟端軍が左右や後方を抜かれるはずもなく、相対する甘寧軍に押し入った。

 

「行け! 敵を押し崩せ!」

「孟端の動きに注意せよ。常に左右を守る事を意識するのだ」

 

 孟端の強力な一撃を史忌が見事に補強する。それにより第一撃は成功に終わったがそれで崩れるほど孫家は軟ではなかった。

 

「孫家の意地を見せつけよ!」

「孟端軍を左右から打ち崩せ!」

 

 甘寧の両翼に展開した黄蓋と程普が即座に孟端軍の左右を狙わんと動き出したのだ。この動きに孟端軍の左右に展開する史忌達は目の前の敵との戦いを行わないといけなくなり、援護をする事が難しくなってしまった。

 

「いまだ! 孟端を狙わず、周囲の兵を殺すのだ!」

 

 両翼の活躍により左右の守りを失った孟端軍。その隙を逃す程甘寧もまた愚将ではなかった。彼女は賊の棟梁であったが孫権に王の資質を見出し下った経緯がある。自身の後ろに孫権がいる本陣がある以上、彼女はこれまで以上の力を発揮していた。そしてそれは彼女が率いる兵たちも言える事であった。

 

「も、孟端様! 左右から攻撃されています! このままでは……!」

「くっ! さすがに甘く見すぎたか……! いったん下がるよ! そのあとに陣形を立て直す! 急いで!」

「はっ!」

 

 とはいえ孟端もただの猪突猛進な将ではない。戦場の様子に過敏に反応し、自らがするべき事を最低限ながら理解し、行動する事が出来た。今回もまたそれにより敵の中で孤立する未来をつぶし、先陣としての役目を全うする事に成功するのだった。

 14万対2万という圧倒的戦力差で始まったこの戦いはある意味では予想通りの孫家の奮戦という形で初戦は流れていくのだった。

 

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