袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五十一話「困惑」

「……どういうことだ?」

 

 板垣は自軍から見える孫家の動きに困惑していた。既に戦いが始まり数時間が経過した。戦況は予想通り討伐軍の優勢であり、孫家を大きく押し込みつつあった。特に孫家左軍を分断し、一部の兵を包囲殲滅しようと動き出しており、左から孫家は崩されつつあった。

 一方で孟端の動きが止められたことで中央部は一進一退の攻防が続いているがもともと数の差があるために徐々に孟端の相手をする甘寧は押されていた。

 だが、それは相手もわかっていたことであり、孫家側はこうして戦場を選んだ以上何かしらの策を張り巡らせていると思っていた。しかし、実際にこの場にきて戦闘が始まっても何かしらの策があるようには見えなかった。それでも何かしらはあるだろうと思っていたがこうまで何もないと板垣は軽く混乱してしまう。

 

「……ここまでくれば罠の可能性は低い、か。全軍に攻勢を強めるように通達せよ」

「はっ!」

 

 板垣は近くに待機していた伝令兵に命令を伝える。最早この状況において敵の罠はない。若しくは罠が機能できない状況にあると判断し、孫家に対して速攻で勝負を決めるべく攻勢を強めさせた。この後、罠が発動しようとも孫家の本軍が壊滅してしまえば罠の意味もない。

 

「孫策……。三国志の一角故に最大の警戒をしていたがいらなかったか?」

 

 残念ながら板垣は三国志に関してそこまで知識はない。精々が有名どころの名と活躍、大まかな歴史を知っているくらいだ。だが、それもこの世界ではあまり意味がないものになっている。本来なら反董卓連合軍時には存在しないはずの孔明がいる事に加え名ばかりできちんと集まれなかった反董卓連合軍が集結している点などから板垣は早々に歴史の流れは当てに出来ないと判断していた。

 そのために歴史の偉人に頼り切らないように地に埋もれて見つからなかった素質のある者を集め、鍛えるようにしていたのだ。その結果が韋惇や史忌と言った将兵たちであり、孟端と言った武将たちであった。南陽袁家にはまだまだ活躍の機会を今か今かと待っている未来の英雄候補が数多く存在する。

 

「どちらにせよ孫家はこれでおしまいだ」

 

 そして、そんな輩によって歴史の一角に存在した勢力が羽ばたく前に倒れようとしていた。

 

 

 

 

「強い……」

 

 本陣にて全軍の総大将として座する孫権は南陽袁家の兵の戦いぶりを見て簡潔にそう判断した。かつて、南陽袁家に苦汁を飲んで仕官に赴いた際にはここまでの実力はなかった。板垣が内側を完全に支配下に置いていたとはいえ改革が進んでいなかったために南陽袁家の兵はその時点において最弱だった。

 だが今の彼らはどうだろうか? 板垣を頂点に周沙や魯粛等の将軍に軍師、そして孟端を筆頭する剛勇無双の将。彼らによる改革は僅か1年足らずで兵を精強に育て上げ、最弱の汚名を返上し、最強へと至ろうとしていた。

 だが悲しいかな、孫権は基本的に文官として南陽袁家に仕えていた為にその身を以て実力を上げていく兵たちを間近で見れた孫策と違いその力量を完全に見誤っていた。もし、孫権が南陽袁家の兵の実力を少しでも知っていれば孫家の独立を強固に願う事はなかっただろう。しかし、結果は現状である。古参の家臣と離され、情報が行き届きづらかった孫権は最悪の道を歩んでしまった。もはや後戻りはできない地獄への一本道を。

 

「孫権様! 左翼が崩れました! 程普様が抑えていますが陣形を保てなくなるのも時間の問題と思われます!」

「分かった。本陣の兵を半数程普の下に向かわせるのだ。今は()()()()()。一刻も長く時間を稼ぐように」

「了解しました!」

 

 かつて、孫堅の下で武勇を誇った孫家の兵たちは劉表との戦いや南陽袁家への士官に伴い新たな道を見つけ歩んでいく者が数多く存在した。2万の軍勢の内、孫家古参の兵は5千も満たない数しか存在しない。他が全て孫策が長沙太守になって以降に徴兵した者達だ。そして、古参の兵は孫策と共におり、この場にはいない。そのためか数で劣るとは言え防衛すらままならない状況に陥っていた。今は程普や黄蓋等の古参の将に加え、陸遜や呂蒙と言った軍師によって崩壊は免れているがそれも時間の問題だった。

 だが、孫家はなんとしてもその時間を稼がないといけなかった。孫家最後の策のためにも。

 

「くっ! 中央の圧がすさまじい……! あれをなんとしなければ……!」

 

 特に最も重要な中央の崩壊が近かった。自身の側近であり、南陽袁家によってバラバラな場所に配属された際にも唯一ついてきてくれた最も信頼する甘寧が守りを担当しているが相手が悪すぎた。そもそも水軍の長である彼女に陸での戦いを求めるのがお門違いだが現状はそうもいっていられない。

 一方で中央、孟端は自身を戦闘とする突撃を得意とし、その状況下で幾度となく勝利を収めてきた歴戦の武将である。いくら搦手に弱いとはいえ正面同士での戦いなら負けなしの実力者であった。

 

「孟端め……。ただの猪武者ではなかったのか」

 

 そして、孟端をよく知らない、その武名と闘い方のみを知っている者も含まれるが実際に戦うと驚愕する事が多い。そもそも、孟端は突撃が得意でそれ以外の戦い方が出来ないとはいえ策を練り、陣形を整えるくらいの事は出来る。でなければ兵を率いる立場に置かれるはずがないのだから。

 結果、彼女の突撃さえ何とか出来れば簡単に勝てると思い込む者が多くあらわれる結果となり、予想外にも普通に戦える彼女に面食らう事になるのだ。最悪の場合突撃時に備えた罠で倒そうとして突撃することなく孟端が普通に戦った為に負けた者さえ存在する程だった。

 

「姉上……。私たちはそろそろ……!」

 

 孫権は遥か彼方の空を見ながら策の為に機をうかがっている姉に焦りの声色をしながらつぶやくのだった。

 決戦の、決着の時はすぐそこにまで近づいていた。

 

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