袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五十二話「粉砕」

「はぁぁっ!!!!」

「も、孟端だ! 孟端が再び出て来たぞ!」

「一人で相手をするな! 死体を増やすだけだ!」

「武器を! なんでもいい! 投げ込んで気をそらせ!」

 

 孫家の命運をかけた一戦、その戦いにおいて南陽袁家側の先陣を任された孟端は機は熟したと感じ、再び突撃を開始した。この状況において孟端軍を左右から襲い掛かる勢力はない。孟端軍は孟端自身を戦闘にその力を十二分に発揮していた。

 

「ここまでか……!」

 

 その結果、孫家中央の甘寧軍は総崩れ一歩手前まで追い込まれてしまった。孟端を何とかしないといけないのにその兵がおらず、孟端の突撃で乱れたところに敵兵が入り込んでくる。最早この状況において孟端を討つ以外に軍を立て直すことは不可能だろう。

 

「前に出る! 本陣が崩れない事のみを考えよ!」

「はっ!!!」

 

 その結果、甘寧は自身が前に出る事を選択した。無論、彼女とて孟端を相手にできるとは考えていない。だが、彼女を止められる兵もいない事も理解していた。甘寧自身ならば少しだけでも足止めは可能だと。

 

「(一瞬で良い! 討ち取るなどは考えず、孟端の動きを止める事のみに全力を注ぐ!)」

 

 本陣から飛び出して直ぐに彼女の目の前に孟端が現れた。既に軍の半分以上を突破してきた彼女は既に本陣付近にまで到達していたのだ。もし、甘寧の決断が少しでも遅れていれば彼女の本陣は戦いに巻き込まれる事となり、軍の立て直しは出来なくなっていただろう。

 

「はぁっ!」

「っ!!??」

 

 そして、甘寧は今まさに目の前で大暴れをする孟端に渾身の一撃を込めた剣を振り下ろした。だが、咄嗟に気づいた孟端はその一撃を難なく受け止めて見せた。武器同士が触れ合う事で甘寧は最悪の事実に気づいた。

 

「(くっ! やはり私では力不足か……!!!)」

 

 孟端の腕にそれほどの力はかかっていない。にもかかわらず甘寧は全ての力を出した一撃を防がれた上にその位置から剣を下げる事が出来なかった。甘寧の全力は孟端にとって危なげなく対抗できる程度でしかなかったのだ。

 

「その辺の兵よりは強い。ああ、貴方がここの指揮官ね」

「っ!」

 

 不味い。そう感じた時には甘寧の体は吹き飛んでいた。慌てて空中で体勢を立て直すがその時には孟端は接近しており、斧を振り上げていた。慌てて剣平を向けて防御姿勢を取り、来るであろう痛みと衝撃に備えた。

 瞬間、甘寧は地面にたたきつけられ、体全体に衝撃が走った。そしてそれを追いかけるように全身に激痛が走り、体中が悲鳴を上げる。幸か不幸か剣が折れる事はなく、相手の斧が直接甘寧を切り裂く事はなかったものの、その代償として両腕はへし折れ、右手の腕と手の付け根から骨が露出した。

 腕以外の部分にも受け止めた代償が存在した。頭部は鼻から出血し、目は血走っている。背中は全面に渡って痣が広がり、背骨は粉砕されていた。激痛により股からは血が混じった尿を垂れ流し、足は痙攣していた。

 誰がどう見ても瀕死であり、戦うどころか立ち上がる事さえ不可能だろう。むしろ、孟端の一撃を諸に受けて死ななかっただけ凄いというべきか。だが、この場面において甘寧の離脱は致命的過ぎた。

 

「よし! これで中央は終わり! 一気に本陣を落とすよ!」

「っ!!!!! ざ、ぜな、い……!」

「え……!?」

 

 しかし、孟端が孫権の本陣へと向かおうとしたとき、甘寧は最後の力を振り絞り、抵抗を見せた。それは瀕死であり、動く事すらできない、死にゆく運命の甘寧を見たために起きた慢心であり、孟端はその抵抗に対して何のアクションも起こすことが出来なかった。

 そのため、甘寧が最後に行った剣による突きは力が入らないために対し体力がないはずなのに孟端の左足を裏から深々と突き刺して見せた。中央部を貫き、骨を砕いたその一撃は孟端を崩れさせるには十分であった。

 

「っ! くそ! やってくれたなぁ!!!!」

「……ぁ」

 

 だが、同時にその一撃は孟端の怒りを買った。劉琦軍との戦いでは大した武功も得られず、活躍する事が出来なかったが今回は先陣を、それも中央を任される大役を得た。それなのにこの重症である。孟端は倒れこむ姿勢を利用し、斧を限界まで振り上げると一気に振り下ろした。目標は甘寧の頭部であり、確実に殺すための渾身の一撃であった。

 甘寧にはその斧が自分に向けて振り下ろされる様を見ている事しかできない。最後の力を振り絞った甘寧は最早身動き一つ動かすことが出来ないどころか意識を保つことさえ難しかった。

 そんな中で、甘寧は薄れゆく意識の中で自らの主君である孫権の姿を幻視していた。自らに微笑む孫権の姿に甘寧は涙を流し、笑みを浮かべた直後、孟端が怒りのままに振るった斧によって頭部を両断されるのだった。

 

 甘寧の死は瞬く間に伝えられることとなり、討伐軍全体の指揮は急上昇し、攻勢を強めていくことになるがその発端である孟端軍と甘寧軍はともに鈍い動きしかできなかった。指揮官を失った甘寧軍は言わずもがなだが戦えない程の負傷を負った孟端が下がったことで孟端軍の攻勢は弱まり、結果的に一進一退の攻防が続いていくことになった。

 だが、これにより一気にケリをつけるべく中陣の韋惇や張遼、呂布と言った者達も前進し、大攻勢を開始した。既に孫家はボロボロであり、総崩れとなるのも時間の問題であった。

 

 

 

 問題であったがゆえに、孫家はついに動き出したのだ。

 

 

 

 

 

「冥琳、良いわね?」

「無論だ」

「全軍! 突撃!」

「「「「「ウオオォォォォォッ!!!!!」」」」」

 

 突然としてその声は上がった。板垣の本陣から見てちょうど真横、左側の崖上より孫家の旗が並んだかと思えば崖を転げ落ちるかの如く孫策率いる2千の軍勢が奇襲を仕掛けてきたのである。本陣周りにはほぼ兵がおらず、前に出た軍勢も直ぐには戻ってこれない奇襲には絶好の機会。それを待ち続けていたのだ。

 

「雑魚にはかまうな! 狙うは板垣莞爾の首ただ一つ!」

「雪蓮につづけぇ!」

 

 そして、上り下りは不可能と思われた崖を孫策たちは見事おり切った。事前に足場となる場所を作り上げていたようで全員が一定個所を降りていたがそれでもこの奇襲は完全に予想外であった。それは孫策軍と真っ先に接敵した本陣横の部隊がまともに対応できていないのが証拠と言えるだろう。

 

「さぁ、私達最後の戦いよ」

 

 孫策はまるで自分に言い聞かせるようにそう呟くと板垣の首を目指して馬を走らせるのだった。

 

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