袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五十三話「圧勝」

「敵は混乱して脆い! 一気に駆け抜ける!」

 

 孫策は討伐軍が立て直しを図る前に本陣にたどり着くべく自らが先頭を駆け、敵兵を殺していく。いくら練度が上がったとはいえ雑兵が孫策を相手どれるはずがなかった。部隊は呆気なく崩され、本陣の横をがら空きにしてしまった。

 そんな孫策に応えるように2千の奇襲部隊も敵兵を殺しながら突破する。孫家の中でも最古参で編成されたこの部隊は南陽袁家の兵たちの練度を軽く凌駕していたのだ。

 

「見えた! 板垣の旗! あれが本陣よ!」

 

 孫策の目には板垣の名が記された旗が高く掲げられた陣の姿があった。混乱からは回復したようで孫策たちに対峙するように陣形を整えていた。

 

「逃げようとしないなんて余程の自信があるのかしら?」

 

 確かに板垣本人の武は優れている。それは孫策も理解し、実感しているがここは戦場だ。何が起こるのか分からないからこそ本来ならば逃げるべきだっただろう。尤も、孫策が率いる軍勢を相手に背を見せる事こそ危険だと判断したのなら仕方ないことかもしれないが。

 

「一気呵成に攻め立てよ! 目的の板垣は目の前よ!」

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 

 孫策は自分についてきた兵たちの返事に頼もしさを感じる。士気は高く、武においても自分を中心に精鋭が揃っている。そしてそれを軍師である周瑜が補佐していく。この軍勢ならばたとえ2千程度でも板垣の本陣を崩し、討ち取る事は可能だと自信をもって言えた。

 

「(っ! また……!)」

 

 だが、そんな中で孫策は心の中で不安を消すことが出来なかった。それは開戦してからずっと感じる直感であり、このまま進んでも板垣の首は取れないという思いだった。

 別に目の前の軍勢が何か特別なわけではない。何か策を弄している様子もない。では板垣がいないのか? そんな様子はない。

 

「駄目よ雪蓮。もう、後戻りはできないのだから。今は、ただ進むのみよ!」

 

 しかし、孫策はその直感を切り捨て自分を鼓舞すると板垣の本陣に突入した。本陣は5千の兵で構成されており、数では倍以上の差があった。だが、自分たちを止めるには力不足だと孫策は敵兵をかき分けながら進んでいく。

 周囲の兵が援軍に来ようと動き出しているが到着するよりも先に板垣の首を落とす方が早い。少なくとも手傷を負わせるだけの時間はある。そう考え孫策は立ちふさがる兵を次々と切り捨てていく。だが、板垣の本陣の兵は板垣出陣時には常に本陣を務める兵たちである。当然ながら板垣の近くにいた孫策の顔なじみが複数存在した。

 苦楽を共にした兵たちの敵となり、その命を奪っていく。その行為は孫策の思考を鈍らせ、精神的な疲労感を与えていく。それでも振るう剣の鋭さが鈍らないのは未来の英傑らしいと言えるのか、それとも非常と取れるかは人によるだろう。少なくともこの場において孫策自身は後者と捉えていた。

 

「っ!」

 

 そして、その辛い行為にも終止符が打たれた。ついに板垣がいるはずの場所、つまりこの本陣の中心部に到達したのだ。高々と掲げられた板垣の大将旗。そしてその周りにいる最後の護衛。護衛が囲むはこの軍の総大将……

 

「……えっ!???」

「まさかここまで来るなんて思いませんでしたよ」

 

 そこに板垣の姿は存在しなかった。確かに彼が好んで着ている鎧を着た人物は存在した。しかし、その鎧から見える顔は全くの別人であった。その人物が誰なのか、孫策は正体を知っていた。この本陣にいるはずがない、()()()()()()()はずの存在。

 

「韋、惇……!!!」

「正解です。まぁ、つまり板垣様はここにいないという事です。無駄な突撃、お疲れ様でした」

 

 板垣の鎧を着こんだ女性、韋惇の笑顔で呟かれたその言葉と同時に孫策の後ろからついてきた兵たちが()()()()()()()。それも一度ではなく、二度三度と起こり、2千の孫策軍は瞬く間にその数を減らしていく。

 

「っ!? 何が……」

「……これで終わり」

 

 果たして、孫策軍の中を突き進んできたのはまたしてもここにいるはずのない呂布奉先であった。何時の軽装とは違い、南陽袁家の鎧を着た彼女が動きづらそうにしながらもその中華最強の実力をいかんなく発揮していた。彼女の登場により、ともについてきた孫家の兵たちは半分以下になり、呂布が連れてきた兵たちに掃討されている。全滅も時間の問題だろう。

 

「お。恋ももうついとるか。ならウチも暴れるで!」

 

 更に、韋惇の背後、陣の右側より現れたのは同じく南陽袁家の鎧に身を包んだ張遼だった。張遼は韋惇を守るように前に出て呂布と共に孫策と周瑜を挟み撃ちにした。

 

「……最後に聞かせて頂戴。板垣は私たちの奇襲を読んでいたの?」

「ええ。勿論や。恋……呂布とウチを背後に配置して自らは韋惇殿と入れ替えて入りおったで」

「まぁ、板垣様は後方からの奇襲と考えて二人を配置したようですよ。返り討ちにするために」

「……成程ね。何よ。やっぱり最初から勝ち目はなかったじゃない」

 

 もし、孫策が後方から奇襲を仕掛けた場合、孫策は呂布か張遼の不意打ちにやられていただろう。張遼ならまだしも呂布の不意打ちを受け切れるとはさすがの孫策も思わなかった。そもそも、呂布と張遼は遥か前方にいると思っていたがゆえにいる事さえ気づかないだろう。現にこうして自らは詰みとなってしまった。

 

「さて、残念ですがあなた方はこれでおしまいですよ。本軍も決着の時を迎えているようですし」

 

 そういって韋惇が前方を見れば両翼を砕き、包囲殲滅をしようと動いている自軍の姿があった。孫家の兵は既に1万を切り、全滅するのを待っている状態だ。そして孫策の奇襲も失敗。孫家の敗北は明白だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「一応、板垣様からは捕縛する方向で命令を受けていますが抵抗するなら切り捨てても良いと言われています」

「……それは冥琳もかしら?」

「孫家の将は捕縛しても問題はないと言われていますよ?」

 

 韋惇のその言葉を聞き、孫策は一瞬だが何かを考えたのち、諦めたように剣を捨てた。彼女の後ろについてきた周瑜も悔し気に持っていた剣を地面に落としうつむいた。

 孫策の奇襲は失敗という形で幕を閉じ、捕縛された。そして、孫策の捕縛によって孫権たちも抵抗を止め投降。討ち死にした甘寧を除き、戦場に赴いた主だった将は捕縛される事となった。

 

 

 

 

 

 孫家の壊滅後、長沙の全土が討伐軍に降伏した。各地に散らばっていた呂蒙、張昭、周泰と言った者達も捕縛され、孫家の独立は儚い夢に終わった。

 そして、長沙全土を制圧した討伐軍に荊州南部の太守達も合流。荊州全土が南陽袁家によって統一される事となった。この戦いを持ち、第一次板垣包囲網と後に呼ばれる戦いは集結するのであった。

 

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