袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五十八話「蛮賊」

「うっひゃー。大変な時期に来ちゃったかな?」

 

 南陽袁家に仕える事になったばかりの太史慈は慌ただしいを通り越して大パニックに陥っている洛陽の都を見てそう呟いた。彼女の物おじしない性格は新入りながら南陽袁家に溶け込むことに成功しており、彼女を慕う者も出始めていた。

 そんな彼女に任された役目が司隷の防衛任務であり、漢軍と協力して匈奴等の侵略者から守るように言われていた。無論、3千人将である彼女だけがこの任務に就いたわけではない。将軍史忌を筆頭に軍師として魯粛、太史慈と同じ3千人将の高順が任務に就いていた。その総数は2万であり、漢軍8万と合わせて10万となり、大概の勢力相手なら問題ないはずだった。

 

「3軍連合20万越え、厄介だな」

「これは私達だけじゃどうしようもなくない?」

「それを何とかしないといけないのだがな」

 

 張燕率いる黒山軍10万以上、単于率いる匈奴軍6万、張楊率いる4万の軍勢。計20万の大軍勢は既に司隷に入り、洛陽の北部にある河東の地を荒らしている。早く出陣しないと洛陽が戦場になる距離であった。

 

「ていうか漢軍8万って少なくない? 黄巾の乱の時はもっと軍勢がいたでしょ?」

 

 太史慈の疑問は尤もであり、黄巾の乱の時点で漢軍は20万近い軍勢を保有していたのだ。その後、黄巾の乱の終息後に軍縮したとしても10万を超える軍勢がいるはずであった。

 

「ああ、それは簡単な話だ。うちの宰相が董卓軍として全部引っこ抜いたせいだな。郭汜や張済と言った漢軍の将が数万の兵と共に離脱していなければ漢軍は更に減っていただろう」

「ありゃりゃ」

 

 まさかの経緯に太史慈は何も言えなくなってしまった。流石の董卓と言えど反董卓連合軍の時のような大軍を自前で持っていたわけではない。ほとんど漢軍の兵を率いていたのだ。そして、降伏時にそれを全て接収したことで漢軍の兵力はほぼ消え去ったのだ。

 これは板垣が間接統治を行いやすくするためと漢王朝に武力を有して欲しくない為であった。結果、皇甫嵩が兵を集めるのに苦労し、このような緊急事態を生み出す要因となってしまっているが。

 

「幸い、匈奴討伐に出ていた馬超殿がまもなく合流予定だ。合流後、全軍で河東郡に向かい3軍連合軍を迎え撃つ」

 

 それでも最終的に総数は12万程にしかならず、苦戦は必至だった。しかし、黒山軍が案賊の集まりで軍とは呼べず、群衆としか言いようがない者達である事が幸いだろう。

 

「馬超ねぇ。彼女も災難だよねぇ。討伐に出たら匈奴は動いた後で結局討伐出来ずにこっちで大軍相手に戦う事になったんだから」

 

 一体いつから協力し合っていたのかは分からないものの、3勢力の動きに無駄はなかった。もし、これが板垣包囲網時に起こっていれば司隷どころか周辺の州も軒並み略奪の対象となっていただろう。

 

「向こうの強みは圧倒的な数。こちらの強みは一騎当千の猛者が多い事。それを生かして戦うしかないがそれも皇甫嵩殿次第だろう」

「あー、確か漢軍だから見栄もあるんだっけ?」

 

 かつて、黄巾の乱では漢軍は小細工などしないで真正面から戦う事を強制されていた。今回もそうなるのかと太史慈はげんなりしたがそれを史忌は否定した。

 

「今回は目前まで迫っているせいか誰もが口をそろえて言ったそうだぞ? どんな手を使ってでも、卑怯でもなんでもいいから追い払えとな」

「うわぁ。想像出来るわぁ」

 

 とは言えそう相槌を打った太史慈は腐り切った宦官の想像なんてしたくないなぁと即座に呟いたが。

 兎にも角にも、史忌達司隷防衛の任を受けた南陽袁家軍は漢軍と共同でこの事態に対処するために準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

「ふっはっはっはっ! まもなく! まもなく我が天下がやってくる!」

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 

 黒山軍の頭領である張燕は10万の賊徒相手にそう宣言し、それに応えるように賊徒たちは雄たけびを上げた。

 現在、3軍連合は河東郡北部の城邑にて宴会を開いていた。ここで残りの匈奴と張楊軍と合流する予定であり、その後は一気呵成に洛陽を落とすつもりでいた。この宴はその前祝いという奴であった。

 一国、それも中華の統一王朝の都を攻めるだけではなく、本気で落とせると思っている等正気を疑う所だが張燕は洛陽を落とせると信じて疑っていなかった。

 

「田豊の奴に乗せられた形だがやってみれば以外と悪くないではないか!」

 

 張燕は事の発端となったとある人物の密会を思い出し、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 張燕は黒山軍を率いて併州北部から奇襲北西部にかけて暴れまわっていた。その数は全体で100万とも言える数を持っており、直下の軍だけでも10万という大軍を有していた。

 そんな黒山軍ゆえに諸侯はその対処に頭を抱える事となった。幽州刺史の公孫瓚は雁門郡や代郡に即応可能な騎兵を配備し、襲撃が起こった際には撃退できる準備を整えていた。対する袁紹は意外にも張燕との密会を行ったのだ。

 

『今、司隷方面は手薄となっています。南陽袁家の庇護を受けていますが相次ぐ戦で疲弊しきっており、大規模な援軍を送る事は不可能でしょう』

『とはいえ、貴方がこの提案に乗るのであれば匈奴や張楊軍とも合同で攻めることが出来ます。2勢力はこの話に乗っており、後はあなた次第ですよ』

 

「提案に乗った甲斐があったな! 明日には俺は洛陽の主だ!」

 

 田豊という河北袁家に仕える軍師に乗せられた感じはあったがそれだけのうま味はあると張燕は感じている。黒山軍だけでも10万が集い、そこに張楊と匈奴の軍勢が加わる。総数は20万を超えるが対する相手は漢軍と僅かな南陽袁家の軍勢で精々10万。いくら将の質が高い漢王朝でも倍の差があれば問題ないと考えていた。

 

「まぁ、それは同意するが洛陽の主は3人だという話だろ」

「おお! 張楊殿か! 漸く到着されたか!」

 

 張燕の両隣には二つほど席が空いている。その一つに座った張楊は不機嫌そうな様子で並べられた酒が入った杯を持ち、一気に飲み込んだ。少し前まで1万にも満たない数の軍勢で併州刺史になれるように軍事行動をしていた張楊は白波賊と呼ばれる賊徒を従える事で規模を拡大していた。だが、それも河北袁家の手を借りて行われたもののため、張楊は話には乗ったが不満が募っていたのだ。

 

「はーっはっはっはっ! やっているようじゃな!」

「おお! 単于殿も到着されたか! これで全員が揃ったわけだな!」

 

 そして、張楊に少し遅れる形で蛮族らしい恰好をした初老の男性が姿を現した。その人物こそ匈奴を束ねる単于であった。於夫羅という名のその人物は張燕の隣にドカッと座り、酒瓶事酒を浴びるように飲み始めた。城邑の外では匈奴と張楊軍が宴会を始めており、明日の戦いに向けて英気を養っていた。

 

「これで我らは20万の連合軍となったわけだ。数だけなら反董卓連合軍と同じだな!」

「わっはっはっ! まだ1年も経っておらぬというのに随分と昔のように感じるのぉ!」

「単細胞共が……」

 

 当時の有力な諸侯が団結して集まった兵数と3つの勢力が集まっただけで同数となったことからも彼らの勢力がどれだけ高いかが分かるだろう。

 

「そういえば単于殿は馬超とかいう小娘に追いかけられておったのではないか?」

「ふん! あんな小娘にやられる程匈奴は弱くはないぞ。当然のごとく煙に巻いてやったさ!」

 

 実際、匈奴の軍勢を見失った事で馬超は進路を変更して漢軍と合流することにしていたのだ。でなければ今も匈奴軍と戦っていたかもしれなかった。

 

「ならば明日で決着をつけるといいでしょう! 馬超の相手はお譲りしますぞ!」

「それはありがたないな! 我らは奴らに散々いいようにやられてきたからのぅ。うっ憤が溜まっておる奴が多くてな。是非とも捕え我らの思いを受け止めてもらわねば気が済まん!」

「それはそれは! 俺も漢王朝の美女どもを泣かせるのが楽しみだ! なんでも大将軍となった皇甫嵩は肢体も美しいと聞く! 今から高ぶってしょうがねぇゼ! おい! 捕らえた女の中で一番の上玉を持ってこい!」

 

 賊と蛮族による最悪の宴は夜遅くまで続いた。昼頃に準備を終えた3軍連合軍は士気を高く保ったまま洛陽に向けて南下を開始した。

 一方の漢軍も馬超率いる涼州兵と合流し、朝早くに討伐するべく北上を開始していた。

 

 

 

 両勢力はその日の夜に河北南部の平原にて接敵。互いに陣形を整えつつ日が昇るのを待つこととなった。

 

「漢王朝に仕えし者たちよ! 祖国を脅かす賊徒蛮族共に鉄槌を降せ!」

「いくぞ! 洛陽を落とし、富を奪いつくせ!」

 

 そして翌朝、両勢力は激突した。

 こうして、漢王朝の命運を握る河東決戦が始まるのだった。

 

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