袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第五話「孫家」

 張勲の死から半年、つまり板垣が袁術に仕えてから一年が経過した。この一年で袁術の拠点である南陽は著しい程の大発展を遂げた。農地改革により収穫量は倍に、領内の賊は一つ残らず駆逐され街道は大きく凹凸の無い歩きやすく馬車が通りやすい道に整備された。

 都市も区画整理され、スラム街は根絶。大通りを中心とする整備された街へと生まれ変わりつつあった。交易は盛んに行われ、商人は決められた税さえ払えば様々な商売を行えるようになっていた。見るからに変わり、良くなっていく暮らしに民の表情は明るく、これを成し遂げた袁術と板垣に称賛を送り、忠誠を誓う様になっていた。

 

 しかし、そんな南陽も決して平和だったわけではない。豊かになればそれを羨み、奪おうとする者が出て当然である。

 南陽の南、荊州北部一帯を支配する劉表は朝廷から荊州の刺史に任じられており、それを理由に南陽の平定を目指して兵をあげたのだ。その数は5万。北部の諸侯すら合流しての大軍であったが一年で鍛え上げた兵と紀霊将軍の武勇によりたった1万の軍勢で以て追い払っていた。それだけでなく、義陽や南郷に兵を進めて一部町や村を占領した。これらは後に劉表との話し合いで返還されたが、それまでの間に南陽袁家お抱えの商人が商売に来たことで活気づいており、袁家撤退後は劉表に対する反対運動が起こるようになっていた。

 占領地からの撤退の代わりとして受け取った莫大な資金を、板垣は領内の発展や軍資金に割り当てて更なる国力の増加を図る事に成功していた。

 

 そして、板垣が最も力を入れていた人材登用では無能から優秀な人物まで様々な人物が集まる結果となっていたがこれは理由がある。春秋戦国時代に実際あった登用方法を応用した結果であった。先ず、板垣の息のかかった人物が仕官に訪れる。男は能力もなく、兵士としても役立たずと言ってよかったが、集中力だけは人一倍存在した。

 板垣はその男に書物の写しの仕事を与えた。それも重要書類を含む書類を、である。当然、明らかな才能を持たなくても仕官できると聞き一芸に特化した者から全てにおいて並みだがそつなくこなせる者まで様々な人々が南陽に集まった。急速に発展する南陽だからこそ仕官できるかもしれないと思わせられたという理由もあった。

 結果的に板垣は一定数の実力を持った武官、文官を多数登用する事が出来ていたが、その中でも掘り出し物と言えるのが魯粛と言う女性である。史実においても袁術に仕えていた時期がある彼女だが、孫家に仕える前に見事袁家で雇う事に成功していた。軍師よりで上昇志向が強いうえに失言も多いが、そこに目をつぶれば優秀な彼女は紀霊将軍の下で軍師として活躍する事となった。

 

「それで? 孫家の一族が一体何の用だ?」

 

 魯粛を登用したためであろうか? 孫策を始めとする孫家の一族及びその家臣が南陽へと訪れていた。正確には逃げ延びて来た。

 

「はっ! 話によると我らが劉表を敗北に追い込んだ事で孫堅が劉表の領土に侵攻。しかし、返り討ちに遭い孫堅は戦死。領土も劉表に奪われたとの事で我らに保護を求めてきています」

「成程……」

 

 正直に言って孫家を保護する事は可能である。むしろ彼女達を身動きできない状態にして手駒とする事さえ可能だが、勇猛果敢な孫策や曹操と渡り合った周瑜などが健在であり、失敗すればこちらも大きな被害を受ける可能性があった。そもそも、彼女達がいなくとも南陽袁家は盤石であり、時とともに巨大化していく事は確定していた。態々不確定要素を組み込む必要など存在しなかった。

 

「……一応話だけ聞こう」

 

 とは言え南陽袁家は仕官する気がある者なら誰であろうと話は聞く様にしている。それを貫いているからこそ今でも仕官にやって来る者は後を絶たないし、同時に他国の回し者も多くやってきていた。

 板垣は宰相として孫策に会おうと彼女達を謁見の間へと通す事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 江東の虎と呼ばれた母が死んでから我が孫家は一気に没落した。袁術に大敗した隙をついて北上したものの、母上は戦死して太守を務めていた長沙は劉表に奪われた。生き残った私達はついてきてくれた家臣たちと共に放浪する事となったけど、最終的に南陽にたどり着いた。

 元々、この地を治める袁術の評価は最悪だったけど一年くらい前からその名声は上がり始めて最近では洛陽すら上回る活気を持っていると聞くわ。そして、誰でも仕官出来るという状態で今の私達には丁度良い場所でもあった。劉表ですらまともに近づけないここでなら孫家を復興させる事も出来るかもしれない。

 その為に仕官したいと言ったのだけど結果的に通されたのは謁見の間。そして私の他に妹の孫権と周瑜、黄蓋の4人だけ。明らかに仕官を許されるとは思えない状況だけど、少なくとも殺されるという心配はなさそうね。だって謁見の間に通されるという事は公の話をすると言っているに等しいんだから。

 

「待たせたようだな。南陽袁家宰相板垣莞爾だ。字はない為板垣と呼んでくれればいい」

「孫家当主孫策よ。こっちは妹の孫権。軍師の周瑜に宿老の黄蓋よ」

 

 互いに自己紹介を交わしたけど……。どうやらこの男が南陽が発展した理由のようね。確かに宰相の案でここまで発展してきたらしいし。それに、仕官したのは一年前。もし、彼が私達の仲間だったら……。いえ、こんな事を考えてもしょうがないわね。母は死んで孫家は崩壊した。事実はそれだけなんだから。

 

「それで? 孫家の方々が一体何用かな?」

「家臣に話はしてあるわよ。仕官しに来たのよ」

「……」

 

 そう言えばとたんに顔をしかめる板垣と言う男。明らかに私達を邪魔者として見ているわね。気付いているのかしら。南陽袁家の力を使って孫家を復興させようとしている事に。そして、時が来たら独立する予定でいる事も。だとすると仕官は失敗かしら。でもここ以上に居心地のいい場所はそんなに無いし、これ以上私達についてきてくれた家臣たちに不自由な思いをさせたくはないわ。

 

「あら? 嫌だったかしら?」

「本音を言えば嫌となるでしょう。我々としても明らかに南陽袁家を盛り立てる気がない者達を雇う程切羽詰まっている訳ではありませんので」

 

 やっぱり気付いているみたいね。となると何か交渉するべきなのかもしれないけど私はそう言う事は苦手だし、冥琳に任せましょうか。彼女ならきっといい成果を出してくれるでしょうからね。

 

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