袁家から始まる中華統一   作:鈴木颯手

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第六話「論破」

「板垣宰相殿。ここからは私が話をさせていただきます」

 

 孫策の目配せを受けて隣にいた周瑜が名乗りを上げた。史実においては断金の交わりと言う友情を持っており、この世界においてもそれが適用されている。孫策にとっては最も信頼する人物の一人と言えるだろう。

 そんな彼女はその信頼に値する能力を持っている。史実では孫策を傍で支え続け、孫権に代が移ってからもそれは変わらなかった。三国志で最も有名と言っても良い赤壁の戦いでも指揮を執った人物である。残念な事にその後の荊州争奪戦において受けた傷が原因で急逝してしまうがもし彼が存命なら孫家は史実とは違った形になっていただろう。

 

「……残念ですが周瑜殿。貴方と話をする気はありません。孫策殿、貴方から話してください。私が考える不利益を覆せるだけの条件を」

「なっ!?」

「……そう」

 

 それ故に、板垣は彼女の発言を許さない。彼女の手にかかれば板垣を丸め込む事は容易かもしれない。しかし、あくまで頼んできているのはそちらであり、当主自ら話す事で誠意を見せろと言外に伝える。そして、これはこういった事が不得意な孫策に話させる事で拒否の姿勢を見せていた。それは孫策にも伝わったようで、観念したように板垣の方を見た。

 

「確かに私達は一生誰かの下で終わる気はないわ。私達についてきてくれた者達の為にもこの中華に孫家の名を轟かせたいもの」

「その為の第一歩として我らの下に来たと?」

「別に誰でも良かったというのが本音ね。ただ、一番近い勢力が貴方達で且つこの中華で一番の勢力であっただけで」

「なら益々仕官を受け入れる訳には行きませんね」

「だからこそ、私達は利益を提供するわ」

 

 孫策はまるで知的な軍師を思わせるように冷静に、そして力強く話す。その姿は()()()()()()()()()()()()()の板垣をして驚愕させるものだった。

 

「まず、近いうちに中華は荒れるわ。元々不作や凶作、重い重税で民は疲弊していた。そこにつけ込むように最近張角と言う者が民衆を束ね始めているわ。近いうちに反乱を起こしてしまいそうな規模にまで発展してきているわ」

「……それが事実であれば貴方達の助けは必要ですね」

 

 もし、この場で嘘だと判断して追い払った場合はどうなるか? 史実通りに黄巾の乱が起きれば安定している南陽でも反乱が発生する可能性がある。そして、今の南陽袁家に突出した武力は無いに等しい。負ける気はないがそう言った存在がいた方が戦いを有利に進められるのは事実だ。

 その点でいえば孫家は悪くはない。孫策を始めとして豪傑の将が多数おり、それらを支える周瑜などの頭脳もいる。武に関して言えばこの中華において最上の戦力と言える。

 孫家を抱え込めば多大なる武力を手に入れられるが、将来の敵を強くする結果となる。しかし、抱え込まなければ近くに起こる黄巾の乱で自力で独立勢力として復興する可能性が高い。無論、それまで現状維持が出来ていればの話にはなるが。

 

「……良いでしょう。ですが、召し抱える以上主従は明確にさせていただきます。そして指示にも従う様に」

「勿論それで構わな……、いえ、構いません。我ら孫家に対し寛大な処置、ありがとうございます」

 

 まるで人が変わったかのようにため口を止めて礼をする孫策。それに倣う様に他の面々も頭を下げた。板垣はしてやられたと感じつつも強力な駒を手に入れたと割り切り、彼女達を戦力に組み込むべく色々と試行しながら面接を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石に疲れたわ」

 

 雇うと決めた以上彼女達には家が宛がわれた。元々大所帯と言う事もあって全員が住めるだけの大きさだが、孫家の面々は戦力を削ぐ意味も兼ねてバラバラに運用される事が決まっている為この家は一時的なものになる予定である。

 そして、板垣を相手に話し続けた孫策は疲労困憊と言わんばかりにベッドにダイブする。そんな彼女を周瑜はお疲れと慰めつつベッドの端に座った。

 

「これでひとまずは安心だ。少なくとも我らが飢えて野に死体を晒す事はなくなった」

「流石に荊州を避けて揚州を通って来たからね。もうへとへとよ」

 

 劉表の執拗な追撃を避けるべく、揚州を通って北上したのだがその結果として余計な消費がかかってしまい、ほとんど着の身着のままに近い状態で南陽にたどり着いていた。もし、板垣が仕官を拒否していれば彼女達はその日の糧を得るために賊となるか、身売りをする羽目になっていただろう。そう言った事を悟らせなかっただけでも孫策の勝利と言える。

 

「でも冥琳、これで本当に良かったの? ここって袁術の町でしょ? 危なくない?」

「そうでもないさ」

 

 いくら南陽が変わったからと言って無能だった袁術もすぐに変わったとは思えない。もしかしたら殺される可能性もと考えるがそれを周瑜は諭すように否定する。

 

「正式に雇った以上使いつぶすような事はしても直接的な危害は加えないさ。それをやれば彼女達の名誉に傷がつく。そして、袁術はおそらく変わっていないが、もう彼女が統治している状態ではないのだろう」

「どういう事? 殺されちゃってるって事?」

「そうではない。だが、この町、いや袁術の勢力はあの板垣と言う男に乗っ取られている。恐らく半年前に起きた張勲の死が決め手だろう。そこから板垣が南陽を好きなように統治している状態が続いているようだ」

「主君を傀儡にして自分の好き勝手に、ね。なまじ能力はあるから厄介ね」

 

 孫策も周瑜の言葉を聞いて理解する。確かにこれまでの噂に聞く袁術ならこのような政策をする事は出来なかったはずだ。精々増税して民を苦しめて終わり。しかし、今ではどうか? 田畑はキレイに耕され賊は一つとして存在せず都市は清潔感と笑顔で溢れる住み心地の良い場所となっている。孫策をして自分がただの民だったのなら一生をここで終えても良いと思える場所だった。

 

「板垣莞爾。恐らく中華の出ではないな。この様な名前の響は西方や北方でもないだろう。そんな彼が突如として中華の中央に位置する南陽に現れた」

「……冥琳。貴方、あの噂を信じているの?」

 

 1年前、エセ占い師として中華に名を広めている管路が新たなる占いを行った。その内容は「これからこの中華を導く人物が現れる。彼と周りの者次第では中華を混沌にも千年に及ぶ安寧にも導ける」と言うものであった。管路の占いと言う事で誰もが知っていても、それを信じる者はいなかった。目の前の周瑜を除いて。

 

「時期的に合致する。彼は1年前に袁術のもとにやってきた。そして、たった1年で袁術の勢力を事実上乗っ取る事に成功している。そしてその領地は中華で最も栄えている場所となっている。これが中華全土に及ぶのなら、確かに千年の安寧も嘘ではないだろう」

「となると千年の混沌が意味するのは一体何なのかしらね。まぁ、そんな事はどうでもいいわ」

 

 孫策はベッドから起き上がり、周瑜の隣に座る。

 

「私達はこれから復興の機会と同時に滅亡の危機を迎える事になるわ」

「ああ、その通りだな。板垣宰相は元々私達の受け入れに難色を示していた。となると我らの力を削ぎつつ駒として利用するつもりだろう」

「そうね。だからこそ心が高ぶるわ。大きな壁だけどそれを乗り越えた先にはきっといい未来が待っているわ」

 

 板垣の妨害を乗り切った先にはより良い未来が待っていると、孫家の復興が待っていると孫策はそう考えていた。周瑜もそれに賛同しつつ今後の動きを予測するべく頭を回らせていくのだった。

 

 

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