彼岸花が如く 作:お湯を切る!
福岡県某所、とある駅にて。
「忘れ物は無いか?」
駅のホームで一人の男性が惜しむ様に口を開く。男性はショートリーゼント風のオールバックの髪型をしており、服装はライトグレーのスーツにワインレッドのシャツ、白いヘビ柄のエナメル靴を身に付けており、何処か厳つく威圧感を感じさせる装い。だがその口調は穏やかで、優し気で、何処か少し哀愁が漂っていた。
「うん、大丈夫。全部持っているよ。」
駅のホームでは老婆の他にもう一人の少年が存在していた。少年はクラシックな黒色のスーツをぴしっと着こなし、黒色のネクタイを締めており、艶の有る黒髪や整った顔立ちから清潔感のある好青年に見える。
すると男性は少年の頭に手を置き、まるで子供をあやす様に撫で始めた。
「ちょ…おじさん。恥ずかしいって…」
「…いや…いつの間にかデカくなっちまったな…って…思っただけさ。…ベソかいていたお前が、あっという間に独り立ちなんてな…もうこうして頭撫でてやんのも最後だな。」
「おじさん…」
少年は込上げる感情が抑えられないのか、男性に抱き着く。男性も少年の想いに応えて背中をポンポンと優しく叩く。抱擁を交わす男性と少年。
しかし線路の奥から列車の音が聞こえ、二人は別れの時が近い事を悟り、体を離し互いに向き合う。少年の瞼には涙が溢れており、本気で別れを惜しむ気持ちを表していたが、涙をぐっと堪え、男性と別れの言葉を交わす。
「達者でな…辛かったり、困った事が有ったら何時でも頼って来い。いいな?」
「うん、おじさんも元気でね。…今まで色々有難う。」
そして列車が駅のホームに停車し、扉が開く。少年はキャリアケースを引き摺りながら男性を一瞥すると列車に乗り始め、列車は車内放送を流すと線路の道へ進み始める。
だが二人は互いの姿が見えなくなるまで手を振り続け、遠く離れ、互いの姿が見えなくなるのと同時に、これまで堪えていた何かが噴き出すように、少年は涙を流し、お互いに別れを惜しむのだった。
◇
数日後。東京都某所にて。
「やっぱり大都会なだけあるな…」
俺は東京の街を散歩しながら感嘆の声を漏らす。福岡も建物が多かったけど、東京は桁違いだな…日本の首都なだけある。きっと夜にライトアップされる夜景は綺麗なんだろうな…
散歩は良い。町の事を良く知る事が出来るし、東京に来てからは毎回のように散策に出かけている。まだ上京してから数日も経っていないが、この街は本当に飽きない。下手をすれば一生散策しても飽きないんじゃないかと思ってしまう。
左右の建物をキョロキョロと見ながら俺は東京の街を歩く。だがすぐ近くの曲がり角を進もうとした時―――
「話くらい聞いてくれたって良いじゃん。ねぇ? お金、好きでしょ?女の子だからイイ仕事紹介するよ?」
「あ、あはは…私そう言うの興味ないので…」
道の端でそんな男女のやり取りが聞こえる。どうやら赤服の女の子を3人の男が寄ってたかってナンパしているらしい。正直目障りだ。女の子の方も嫌がっている様だし、まったく…この街は本当に退屈しないな。
俺は内心溜息を吐きながらも男女の元へと向かい、男たちに声を掛ける。
「おい。」
「あ? んだテメェ?」
するとチーマーの様な外見をした男性3人は俺の言葉に反応し、こちらを向いて睨みつける。
「その子、嫌がってんの見えないのか? 目障りだ、失せろよ。」
「あぁん?! んだとコラァ!」
俺の言い方にイラついたのか、赤いジャージを着た男がシャツの胸倉を掴んでくる。あー…やっぱりこうなるか…
「女の前でカッコつけ――――ぐふぅっ!」
俺は胸倉を掴まれたまま、男の台詞が言い終わる前に赤いジャージの男の鳩尾目掛けて右足の前蹴りを放つ。だが蹴りの威力が思ったより強かった様で15m近くの電柱まで吹き飛ばし、激突させてしまった。
…軽く蹴り飛ばすだけのつもりだったんだけどな…
周りの男たちは蹴り飛ばされた奴の飛距離が予想以上だったのか、驚きを隠せないでいる。…と言うか赤服の女の子からも小さくだが「嘘ぉ…」なんて言葉が聞こえて来た。
「…終わりか?」
俺は残りの2人に両手を広げて軽く挑発してみる。どうやら相手は尻込みしてしまっている様で、「お前行けよ。」「イヤお前が行けよ。」の要領でお互いに順番を押し付け合っているらしい。
「クソッ! 舐めやがって!」
だが痺れを切らしたのか、青色のジャージを着た男がこちらに吠え、ポケットから折り畳み式のナイフを取り出す。
あー、刃物出しちゃったか…
「お、オイこれ以上以下づくんじゃねー! ぶっ刺す―――え? ぐへぇっ!」
だが再び俺は男が台詞を言い終わる前に握られたナイフを蹴って弾き飛ばし、右拳で相手の顔面を殴り飛ばして頭部をコンクリートの壁にめり込ませる。
仲間が全員倒れ、残り一人となった黄色いジャージを着た男は完全に戦意を喪失した様で、俺が近付くなり両手を地面に着いて土下座の要領で謝り始めた。
「ご、ごめんなさい…す、すいません…」
流石に俺もやり過ぎた所も有ったよな…内心男3人に申し訳なく思いながら、俺は土下座する男を見下ろす。
「た、頼みます…許してください…」
「……こいつらを連れて行け。」
「は、はい!」
男は震えた声でそう言うと、辺りで伸びている他の二人を叩き起こし、何処かへ去っていく。
「………大丈夫? 何かされたか?」
「う、ううん! 私は平気、助けてくれてありがとう。」
良かった、どうやら変な事をされた訳でもなく、女の子は無事の様だ。…しかし随分可愛い子だな…白髪のボブカットに白い肌、赤い瞳も合わさってまるでウサギの様な愛らしさを感じる。…正直こんな可愛い子が居るならナンパしたくなる気持ちも分かる。
だが下手に恩着せがましくするのも良くないので、俺は女の子の無事を確認すると、そのままこの場を去ろうとする。
「そっか、この辺人が多いから気を付けなよ。じゃ、俺はこれで……」
「あ! 待って!」
しかし何を思ったのか、女の子の方は俺を引き留めてきた。
「…どうしたの?」
「私喫茶店でバイトしていて今行く所になんだー。この後って時間有る?」
「うん。暇だけど…」
「ならさ、お店までおいでよ。助けてくれた御礼にご馳走するからさ。」
心の何処かで期待していたやり取りがドンピシャで行われた事に少し驚きながらも、俺は丁重に誘いを断る。
「いや、別に御礼目的で助けた訳じゃないし、俺も気が立っていたから…」
確かにこんな可愛い女の子に誘われたら迷わず乗ってしまうのが普通だろう。だが、今この状況だと俺が気に入らない人を殴っただけで礼を言われているのが少し腑に落ちなかった。
「でも、私が助かったのは本当だよ? 君が来なかったら色々面倒な事になってただろうし…それに、単純に私が君にお礼したいっての有るからさ。」
「う、うん…でもな…」
そこまで言われると義務感でお礼したい訳じゃ無いなら良いんじゃないかな?なんて甘い考えを思ってしまう。
「もしかして…迷惑?」
お互いの身長差から必然的に上目遣いになる女の子。正直こう言った事には慣れていないため、どうもドキドキしてしまう。それに、これじゃあ礼を受け取らない俺が悪いみたいだと考えてしまい、ここまでの厚意を無駄にするのは勿体無いと思ってしまった。
仕方ない、この際はしっかりと礼を受け取るか。……こんなチョロい俺を許してください、おじさん。
◇
「そうなんだ、
その後、俺は助けた少女ーーー錦木千束に案内されながら、彼女がバイトしている喫茶店へと向かっていた。
でもバイトか…一応おじさんから学費込みで仕送り貰っているけど…やっぱりできるだけ親に頼らず金を使いたいし、俺も何処かでやろっかな…
そんな事を考えていると、錦木は少し関心した様に訊いてくる。
「でも一翔君って喧嘩強いんだねー。3人相手にあっという間に倒しちゃうなんて。」
「あ、あー…出身が結構治安の悪い所で……身を護る為に色々勉強したんだ。」
うん…あながち嘘は吐いてない。一応福岡で古牧さんの所で武術も習っていたし、良く輩に絡まれたりしていたし、それで喧嘩慣れしているのも確かだろう。
「へぇー、何処出身なの?」
「ん? 福岡県だよ。」
「九州かー。随分遠くから来たんだね。でも福岡県って治安悪いんだー。」
「いや、別に何処も悪い訳じゃ無いよ? でも…俺が居た所が悪かっただけ…」
そんな事を話していたら、どうやら目的地に到着した様だ。錦木と俺は『喫茶リコリコ』と書かれた看板の前で足を止める。しかし、良い外観だな……ステンドグラス調の窓やよく手入れされた花々で飾られた木造の店構えは俺の好みだ。
「君のバイト先って此処?」
「うん、ささ中に入って。ホラどーぞどーぞ。」
ここまで来た以上、お礼を断る訳にも行かない。この際思いっきり楽しむとしよう。俺は錦木が明けてくれた扉から喫茶店の中に入ろうとする。だが次の瞬間―――
「イケメン、捕獲ー!」
喫茶店の店員と思われる女性の一人が俺の顔を見るなり、そんな事を言いつつ飛び掛かって来る。それを察知したのか錦木は凄まじい反射神経でドアを閉めて、店員から俺を守ってくれた。
「あ、ゴメン。ちょっと待っててね。」
錦木はそう言うと、一人店の中に入って行く。俺は言われた通りに店の外で少し待つことにした。
「イケメンッ! イケメンが消えたッ! さっき居たイケメンは何処ッ!」
「ちょちょ、ミズキ! ほら、今外に人居るから。 お客さん怖がっちゃうから暴れないでって!」
…店内が妙に騒がしい。だが待っている様に言われたんだ。中に入らないで待っていよう。ポケットからスマホを取り出し、適当に弄って時間を潰す。
そして30分ほど経った事だろうか。
「ごめんごめん。お待たせ―! どーぞ入って。」
扉が開かれ、錦木がそう促して来る。結構長かったな…
「じゃあ、お邪魔しまーす。」
「はーい! いらっしゃいませー!お客様ー!」
店内に入ると、千束は元気の良い挨拶で俺を出迎えてくれた。おおう…元気いっぱいだな。こんなに明るく迎えてくれたら、来る側の人間も爽やかな気分になるだろう。
「空いている席にどうぞー! 誰も居ないけど。」
千束の冗談に苦笑しながら俺は、適当なカウンターの席に座る。
喫茶店の店内は木造で何処か和風さを感じるデザインだ。フロア自体はあまり大きくないものの、ステンドグラスから差し込む日当たりは良好であり、加えてカウンターや小上がりの座敷席、階段を上がった中二階にあるテーブル席など、さまざまな客層に対応している。
和風さが味を出しており、喫茶店というより甘味処と言うイメージが強い。だが、和風好きな俺にとって雰囲気はドンピシャだった。
「こちらメニューでございまーす!」
ひょっこりとメニューを横から差し出される。やっぱりここは和風スイーツを主に扱っている様だ。しかしどれも旨そうだな…何を頼もうか…
何を注文すべきか迷いながらメニューを眺めていると、突如何者かが一杯の珈琲を俺の手前に置く。
「あ、あの…俺まだ注文…」
「これは私からのサービスだ。」
顔を上げて見れみれば和服を着たダンディな黒人の外国人男性が朗らかな笑顔を浮かべていた。
「千束から聞いたよ。不良達に襲われている所を助けてくれたそうだな。…私からも礼を言うよ、有難う。」
「い、いえ…当然の事をしただけです。」
「ははは、謙虚なんだな、君は。此処の店主のミカだ。ゆっくりしていなさい。…君は何て言うんだい?」
「俺は一翔。桐生一翔です。」
お互いに自己紹介を済ませると、俺はメニューへ視線を戻す。そして暫く悩んだ後、俺は羊羹と団子を注文した。
……そう言えばさっき俺に襲い掛かって来た店員はどうしたんだろ? 店の奥から物音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
◇
「ご馳走さま。美味しかったよ。」
「にひひー。そう言ってくれて良かったよー。」
そして食事を終えて珈琲を啜っていると、千束は嬉しそうに笑う。
「お会計頼むよ。幾らかな?」
「あー!良いよ。 もともと私のお礼のつもりだし、今回は私の奢り。」
「本当?じゃあ今回はご馳走様。…ありがとうね。」
何かこんなやり取りをしていると、自分が甲斐性なしだと思ってしまう。だが今回は彼女の厚意によるものだ、しっかりと受け取らないと不味いだろう。
「また来るよ。」
「うん! 待ってるよ!」
俺は千束から見送られながら、扉を開き、店を後にする。
「ありがとうございましたー!」
…喫茶リコリコか…いいお店見つけちゃったな。家までの帰り道を歩く中、俺は再びこの店を訪れる事を決意するのだった。
◇
「ねぇ…もう出て来ていいかしら?」
千束が一翔を見送った直後、店の奥からミズキがのっそりと出てくる。
突如容姿の整った若者が現れて、テンションが限界突破してしまった為に千束の手によってキッチンに封印されていた彼女だったが、既にクールダウンし、今では理知的なイメージを感じさせる程の女性に戻っていた。だが表情から見るに彼と話せなかったことが不服の様だ。
だがミカはミズキの言葉に反応せず、腕を組んだまま何か思い詰めている様な表情をしている。
「アレ? おーい。」
「あ、ああ…千束の気も済んだ様だし、もう出ても大丈夫だろう。」
漸く反応するミカ、だがやはり何か気になる所が有るのか、表情は悩まし気だ。
「桐生…一翔‥‥桐生…一馬‥‥まさかな…」
小さく二人の名前を呟くミカ。だがその声は誰にも聞こえる事は無く、喫茶リコリコでは何事も無かった様に、いつも通りの日常が展開されるのだった。
大学や就活が忙しく、更新は遅くなると思いますが…頑張って執筆して行こうと思います
再び求める甘味
龍が如くのカラオケで一番好きな曲は?(回答によって物語のラストが変わります)
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24時間シンデレラ
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MachineGun Kiss