逃亡海兵のルフィとウタ 短編集   作:Nines star

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ルッチ書くの難しい。


逃亡海兵ストロングワールド⑪─2

 

第十一話 “海災”VS“殺戮兵器”

 

 

 

 

 

 その戦いの始まりは、静かだった。

 無言のまま、構える二人。互いに無手。信じるのは鍛え上げた己の肉体のみ。

 

「“嵐脚”」

 

 開幕の合図はそれだった。初手は“殺戮兵器”ロブ・ルッチ。相手の出方、そして実力を測るための一撃。

 しかし、並の海賊ならば視認さえできぬまま真っ二つになるその斬撃を、“海災”アルキディクスは正面から受ける構え。

 金属音。

 彼がアッパー気味に放った拳が、その斬撃を弾いたのだ。

 

「いい音だ。──次は私の番である」

 

 そして、大王イカの魚人である彼は足を振るった。しかしそれはルッチの放った“嵐脚”のような振り抜く一撃ではなく、爪先で虚空を突くような動き。

 彼の足から、槍のような斬撃が放たれた。

 

「“鉄塊”」

 

 また、金属音。

 ルッチの放った横薙ぎの斬撃とは違う、貫くような一撃。だが、今の技は間違いなく“嵐脚”だ。

 

「世界中で殴り殴られ、殺し合いを続けておると色々な武術を見ることができる。今のは貴殿らが言う“六式”を我流にアレンジしたものだ」

「その割には様になっていたが」

「何度も見たのでな。見たら後は鍛錬で習得するのみよ」

 

 笑いながら言うアルキディクスに、なるほど、とルッチは納得のようなものを覚えた。

 この男の思想には善も悪もないのだろう。あるのは闘争本能のみ。

 たまにいるのだ、こういう手合いは。生まれながらにして社会に適合できない、どうしようもない生物が。

 

「さて、殺し合おう」

 

 構えるアルキディクス。右半身の、前に出した右足の踵を上げた状態。その両手は僅かに開かれており、どんな状況にも対応できるようにした構えだ。

 対し、ルッチも構えた。同じく右半身。

 しかし。

 次の瞬間には、ルッチはその場からアルキディクス目掛けて移動を開始している。

 彼が収めた体術、“嵐脚”と“剃”の合わせ技。不規則な軌道で宙を行き、アルキディクスに迫る。

 

「“指銃”」

 

 側面、沈み込むような体勢からの突き上げるような一撃。人体を容易く貫く技だ。

 しかし、ルッチの右手で放たれたそれをアルキディクスは上に飛び上がって避けた。宙を貫くルッチの一撃。そこへ、空中で回転させた自身の体の勢いを乗せてアルキディクスが踵落としをこちらへと叩き込んでくる。

 避けるか、受けるか。選択は一瞬だ。ルッチは右腕を戻しながら左腕を上に出し、腰を落とす。

 轟音。

 アルキディクスの踵落としを受けた衝撃で、ルッチの足元の床に亀裂が走る。だがそのようなことに意識を向ける暇もなく、ルッチは受けた足を右手で掴んだ。

 

「ぬうっ!」

 

 掴んだ瞬間、アルキディクスがもう一方の左足を動かす。ルッチは即座に全身を捻りながらアルキディクスを投げ飛ばした。

 廊下の側面の壁に叩きつけられるアルキディクス。そこへ追撃の一撃。

 

「“嵐脚”」

 

 振り抜いた一撃が、廊下の壁を完全に吹き飛ばした。

 天井にまで切り込みを入れたその一撃により、瓦礫が降ってくる。だが。

 

「魚人空手」

 

 瓦礫が上げた白煙の中から、その男が飛び出してきた。ルッチも前に出る。

 

「“四千枚瓦正拳”!!」

 

 拳と拳の衝突。拮抗は一瞬だ。

 周囲に衝撃を撒き散らし、二人は後方へと吹き飛ばされる。

 共に、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 居城が大きく揺れた。断続的に続く揺れとはまた違う、建物そのものの揺れ。

 島が断続的に揺れているのは、シキが何かをしているからだろう。だが、建物は。

 

「どうやら、誰かが大暴れしているようだ。貴殿の仲間か?」

「おれは世界政府の直轄だ。奴らとは偶然居合わせただけ、たまたま目的が近かっただけに過ぎない」

 

 ルッチの返答に、ほう、とアルキディクスは応じる。

 

「組織というのは複雑なものだな。だがまあ、私としてはそこまで興味があることでもない」

 

 正直なことを言うと、と彼は続ける。

 

「シキ殿の目的についてもどうでもいいのだ、私は。東の海にシキ殿は大層な思い入れがあるようだが、私は行ったこともない。まあ、“最弱の海”になど興味はないな。“英雄”と拳を交える機会があるならばともかく」

 

 パンパンと乾いた音を鳴らしながらズボンの埃を払うアルキディクス。

 

「“最弱の海”か。故に必要ないと?」

「うむ。私の目的は強者との殺し合いのみ。かつて“海賊王”を産んだ海であり、“英雄”を産んだ場所であるが……結局のところ、彼らとて偉大なる航路で名を上げた。故に私はここにいる」

 

 遠くから、何かが崩れる音が響く。

 

「そういう意味では、シキ殿のマリンフォード襲撃は実に心躍る。海軍にはまだ見ぬ強者が無数にいるのであろう? 貴殿と拳を交えて確信した。──世界は広い! 貴殿もそう思うだろう!?」

 

 どこか興奮した様子で語るアルキディクス。ルッチは一度、息を吐いた。

 ロブ・ルッチは冷徹な人間とされており、それは彼自身も自覚している。彼の『任務』の邪魔をするのであれば、たとえ味方であろうとも殺戮する。そうして彼は、いつしか“殺戮兵器”とまで呼ばれるに至った。

 

「見解の相違だな」

 

 戦闘が好きであり、殺人に興じることに喜びを覚えるという部分についても自覚がある。

 だが、それだけではない。

 余人には理解されにくいが、彼には彼なりの“正義”がある。

 

「東の海は“平和の象徴”だ」

「──ほう?」

 

 力なき者、弱きは罪。それがルッチの考え方だ。それ故に海賊に人質に取られたとある王国の兵士たちを皆殺しにし、海賊たちをも皆殺しにすることで一件を収めたことからも窺える。そしてその事実から、彼は味方である世界政府からも恐れられてしまっている。

 しかし、そこからは一つの事実が抜け落ちている。

 彼が殺戮したのは兵士だ。力なき者を守るべき者たちがその役目を果たせないのであれば生きている価値はない。だが、そうでない者は?

 

「お前たちのような無法者が少ない海。それをおれたちは“平和の象徴”としている」

「……なるほど、確かに見解の相違だ」

 

 アルキディクスが笑う。ルッチは上着を脱ぎ捨てた。

 

「ならば争うしかないな。理由がまた増えた」

「元々、こちら側の目的は一つだけだ」

 

 力を持つ者がその責任を果たすことは義務である。だが“力”とは何も、戦う力だけを示すわけではない。

 世界は何も、戦いだけで成り立っているわけではないのだから。

 

「ほう、それは何だ?」

 

 笑みを浮かべて問うアルキディクス──“ならず者”。

 それに応じるは、世界政府の“殺戮兵器”。

 

 

「“正義”」

 

 

 あまりにも単純、しかし絶対的な目的。

 その言葉に、アルキディクスが大いに笑う。

 

「いいな……! それはとてもいい! 羨ましいほどに!」

「ならばお前もこちらに来るか?」

「それは不可能だろう“世界政府”!」

 

 彼もまた上着を脱ぎ捨てた。その上半身には、夥しいほどの傷跡が刻まれている。

 

「私は人魚だ! 貴殿らがかつて魚類と分類し、未だ差別を続ける存在! それが光の道を歩けるとでも!?」

 

 さあ始めようとアルキディクスは言う。

 

「何かが違えば、私も“正義”を背負っていたかもしれん。だがこれが現実だ。もしもはない。そんな都合のいい話はないのだよ、“殺戮兵器”」

 

 ルッチは無言。

 そして、二人が激突する。

 開幕はアルキディクスの、先程の貫くような“嵐脚”だった。それをルッチは“紙絵”で避ける。

 だが、避けた先に既にアルキディクスが移動している。

 貫くような正拳突きを、ルッチは蹴りによって迎え撃つ。轟音が響く中、しかし両者一歩も引かない。

 幾度となく拳と拳がぶつかり合う。重い打撃の音が幾度も重なるが、互いに有効打はない。

 至近距離における乱打戦の均衡。それを崩したのはルッチだ。

 突き出されたアルキディクスの拳を左手で弾くように逸らす。そして空いた胴に右の連撃を叩き込んだ。

 

「“指銃・黄蓮”!」

 

 片腕での、“指銃”による連続の打撃。普通なら肉体に無数の風穴が開くところだが。

 

「ぬうっ!」

 

 アルキディクスは“武装色の覇気”によってそれを堪える。

 鮮血が舞う。連打のうちの一発が、彼の左脇腹を貫いていたのだ。

 

「ッ、ミスだな。……こちらの押し負けか」

 

 直後、ルッチの左頬が浅く避けた。彼が弾いたと思っていた拳が僅かに掠めていたのだ。

 その血を右手の親指で拭うルッチの口元には、笑みが浮かんでいる。

 

「さて、続きだ」

 

 構え直すアルキディクス。

 もし第三者が見ていれば、この戦いを見てどう思っただろうか。

 恐ろしいほどに鍛えられた基礎能力、体術、それを裏付ける精神。この戦争における頂上の戦いの一つが、確かにここでは起こっている。

 浮かべるのは、互いに笑み。

 信念も、所属も、理由も、所属さえも違う二人はしかし、この戦闘を楽しんでいる。この二人の精神性は、どこか似通っているのだ。

 

 一体、この二人の現在の在り方は。

 何が、違ったが故なのだろうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 この男の実力について、ある程度は把握できてきたとルッチは思う。腹立たしいことであるが、その実力はこちらが全力を出さねば打倒が難しいほどに極まっている。単独の存在でありながらあれだけの懸賞金が懸けられているのは伊達ではない。

 魚人空手をベースに、おそらくアルキディクスが言う通り戦いの中で数多の技術を習得してきたのだろう。その中には“六式”も含まれているようだ。かなり荒いが、きっちりこちらの速度にはついて来ている。

 このままこの状態で戦闘を続けても消耗戦だ。この後のこともある。故にルッチは手札の一つを見せる決断をした。

 

「ほう、なるほど。これが貴殿の切り札か」

「ネコネコの実モデル“豹”。ただの手札だ。……だが」

 

 構える。

 

「先程までとは何もかもが違う。──“剃”」

 

 高速の歩法。“動物系”の悪魔の実は、文字通り能力者の身体能力を強化する。先程までと比べて数段階上がった速度に、アルキディクスが驚愕する。

 

「おおう!?」

 

 放たれた蹴りにより、アルキディクスが大きく吹き飛ばされた。壁の奥へと吹き飛ばされるアルキディクス。だが彼は即座に反応してくる。

 飛んできたのは先程の貫く“嵐脚”。それをこちらも“嵐脚”で応じたところで、眼前にその男が迫ってきた。

 

「魚人空手」

 

 先程までとは段違いの速度の“剃”。それで踏み込んできた男が、その拳を振り抜く。

 

「“四千枚瓦正拳”!!」

 

 凄まじい衝撃が、ルッチの腹部へと叩き込まれた。背後の壁や床を砕きながら、その身はようやく止まる。

 

「はっはっは。切り札を隠しているのは貴殿だけではない。……まあ、私のそれはただの本気だが。驚いてもらえたか?」

「ああ……面白い」

 

 直後、再びの激突が始まった。

 

「“嵐脚・豹尾”!」

 

 渦を描くようにして回転する“嵐脚”。ルッチの下に踏み込もうとしたアルキディクスが踏み留まり、後方へと下がる。

 そこへ先回りしていたルッチが側面から攻撃を加える。

 

「“指銃”!」

「ぬうっ!」

 

 肉体を貫くには届かなかったが、肩口に掠める形で入った。裂けたアルキディクスの肩から鮮血が舞う。

 しかし、彼はそれで止まらない。ルッチの顎をカウンターで蹴り上げた。

 

「ぐ……!」

「どうした世界政府! このならず者を止めてみよ!」

 

 そして再びの正拳突き。それをルッチは“鉄塊”で受けるが、叩き込まれた右胸に重い衝撃が走る。

 

「安心しろ……! 貴様らは全員消してやる!」

 

 僅かに離れた距離。だが、それはすぐに縮まる。

 互いの拳が互いの腹にほぼ同時に直撃した。共に空気を吐くような動作を見せる中、先に動いたのはルッチだ。

 

「“指銃・斑”!」

 

 先程の片手の連打ではなく、両腕による“指銃”の連打。アルキディクスはそれを真っ向から受けて立つ。

 

「ぬああああっ!!」

 

 文字通りの拳と拳の激突だ。ぶつかる度に互いの体の芯に衝撃が走る。その最中、互いの一撃が体に何度も叩き込まれる。

 体に複数の風穴が空けられたアルキディクスと、複数の芯に響く打撃を叩き込まれたルッチ。見た目ではアルキディクスの方がダメージが大きいが、実際はそう変わらない。

 

「いいな、楽しい。実に楽しい!」

 

 口元から血を零し、息を切らしながらアルキディクスは言う。

 

「やはり間違っていなかった! あの時の選択を何一つ! 何がフィッシャータイガーだ! 何がオトヒメだ! 所詮ただの死者だ! 敗北者だ!」

「…………」

 

 ルッチも構えながら立ち上がる。何が楽しいのか、アルキディクスは笑ったままだ。

 

「所詮この世で信用できるのは己のみ! 誰かのために何かをしようとした者は皆裏切られ命を落とす!」

「……ご高説は結構だが」

 

 笑う“海災”に対し、“殺戮兵器”の表情は静かだ。

 

「おれにその手の話をしたところで意味はない」

「これは失礼した。……む」

 

 言いかけたアルキディクスの口元から血が溢れる。むう、と彼は不満そうに口元の血を拭った。

 

「まだまだ殺し合いたいところであるが、未熟故にここらが幕のようだ」

「おれもこの後がある」

「ならば丁度いい」

 

 言うと、アルキディクスが静かに構えた。最初の構えと同じ、右半身。

 

「貴殿の強さに敬意を表する。故に我が奥義で終幕と致そう」

 

 雰囲気が変わった。ルッチもまた集中力を高める。

 

「魚人空手奥義」

 

 姿が消えた。“剃”だ。だが動きは見えている──右。

 右方向へと薙ぐような蹴りを放つ。同時に放たれた“嵐脚”により、周囲の壁が割れた。

 だが、と思う。まるで倒れる寸前。身を屈め、その凄まじい体幹で床スレスレに身を屈めていたアルキディクスが、こちらにその渾身の一撃を放った。

 

 

「“武頼貫”!!」

 

 

 今までの中で、最も凄まじい轟音が響き渡った。

 全身を貫き、突き抜けるような衝撃。ルッチの膝が床につき、その身が倒れ込む。

 

「……紙一重、であった。少なくとも、私が戦った敵の中で貴殿は最強だ」

 

 息を切らしながら言うアルキディクス。この奥義を受けて立ち上がった者はいない。文字通りの奥義であり、最後の切り札なのだ。

 

「む、しかし……血を、流し過ぎたか。この後を楽しむためにも、治療を……」

「……なるほど、大した力だ」

 

 ゆらりと、その男は立ち上がる。

 振り返る。すると、息を切らしながら“殺戮兵器”がこちらを見ていた。

 

「く、なるほど、流石だ」

 

 構えるアルキディクス。その彼に、だが、と“闇の正義”が告げる。

 

 

「この世に悪は栄えない」

 

 

 そして彼が地面を蹴った。その彼に、アルキディクスが吠える。

 

「何が“悪”か! それは貴殿らの都合であろう!」

「その通りだ」

 

 迎撃の正拳突き。それを“紙絵”で避けたルッチは、両手の拳をアルキディクスに当てる。

 それは、“六式”の体術を極めたものにのみ許される奥義。

 肉体の内部を破壊する、防御不可の一撃。

 

 

「“六・王・銃”!!」

 

 

 凄まじい衝撃が、アルキディクスの体を貫いた。彼は一瞬、ほんの一瞬だけ意識をルッチの方へ向け。

 小さく、笑った。

 床へと倒れ伏す“海災”アルキディクス。その姿を眺め、ルッチが息を吐く。

 

「世界政府がお前を“悪”と定めた。……この結末は当然だ」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 かつて、一人の人魚がいた。

 その人魚は真面目な人間で、困っている者がいれば手助けを惜しまない好青年だ。

 同世代の子供たちと比べると体格が大きかったその人魚は、魚人空手を学ぶようになる。いつか彼の住む島、魚人島の軍隊に入るために。

 力をつけ、軍人になった後もその生真面目さは変わらなかった。その時はまだ大航海時代が訪れる前のこと。魚人島も平穏だった。

 しかし、事件が起こる。

 些細なトラブルだった。彼の知る人魚の女性がとある人間の男に絡まれたのだ。激昂する男を彼は制圧した。

 だが、その人間は世界政府の人間で。

 彼は、罪人と呼ばれることになる。

 庇った女性さえも、彼を助けることをしなかった。全てに見捨てられた彼は、己のみを信じると決めて世界へ出た。

 幾度も、幾度も戦った。

 いつしか彼は、海で出会う災害──“海災”と呼ばれるようになる。

 故郷に戻ることもできず、誰も信用できず。残ったのは、鍛えた己の肉体のみ。

 そんな人魚が、かつて生きていた。

 今もどこかで、生きている。

 きっと生きているのだと、とある人魚が魚人島の片隅で語っている。

 

 

 

 

 子電伝虫を起動し、ルッチはとある人物に連絡を入れる。

 

『どうした』

「研究資料は手に入れたか?」

 

 上着を拾い、改めて着ながらルッチは問う。電話の向こうにいるのはルッチと同じCP9に所属する男──ジャブラだ。

 

『おお、場所は見つけたが量が多いな。運び出すには時間がかかる』

「なら急げ。じきに海兵が乗り込んでくるぞ」

『命令するんじゃねぇよ!』

 

 電話の向こうで騒ぐジャブラ。その反応にルッチは息を吐いた。

 

「世界政府の命令だ。おれはもう少し掃除をしていく」

『……チッ、しょうがねぇな。しかし政府はこんなもんどうするつもりだ? 何が書いてあるかさっぱりだぞ』

「中身の詮索は任務外だ。……まあ、どうせあの男の依頼だろう」

 

 あの男、とルッチが言うのは世界最高の頭脳を持つとされる、生きる世界政府最高機密だ。数百年先をいく科学力とされる男がこの島の研究に興味を持たない理由はない。

 

『しかし、こっちはともかくブルーノの野郎との連絡がつかん。何か知ってるか?』

「ブルーノには“歌姫”の確保を任せている。仕込みも終わった。お前の任務が済み次第、“歌姫”を増援部隊に引き渡しておれたちは撤退する」

『了解だ。しかし大丈夫なのか? 外の木を吹き飛ばせば怪物共がここに入ってくるんだろう?』

 

 ジャブラの問い。それが狙いだ、とルッチは告げた。

 

「これは海軍との策でもある。この島に上陸したとして、精鋭でも流石に数が足りん。怪物たちを利用し、混乱を起こす。それが策だ」

 

 それがここへ討ち入る前に立てられた作戦だった。何よりもまず、“歌姫”の確保が最優先事項であることは世界政府からもルッチたちは命令されている。だが、それを容易くさせてくれるような者たちではない。

 故に、怪物たちを利用するという策を練った。ルッチたちは別行動し、彼らが討ち入りを行っている間にこの居城を守る木々に爆弾を仕掛けたのだ。

 準備も終わり、後はタイミングを見計らって起爆するだけである。ちなみにそのタイミングはこちらに任せられており、ルッチはどうしたものかと内心で考えていた。

 

(モモンガとスモーカー。あの二人はこちらをあまり信用はしていないようだが)

 

 ルッチは思う。この作戦で行くと決まった時、モモンガとスモーカーの二人は起爆のタイミングをルッチたちCP9に任せることについて難色を示したのだ。

 まあ、当然といえば当然である。CPと海軍では管轄が違うし理念も違うのだ。縄張り争いのようになることも頻繁にある。

 だが、あの祖父と孫は。

 

“いいじゃろ別に。こやつらがあの子を助け出したんじゃろ? しかもそれが任務と言うとる。悪いことにはなりゃせんわい”

“じいちゃんの言う通りだな。おれがシキをぶっ飛ばすから、ウタのことは頼む”

 

 あの二人はこちらに全幅の信頼を置いていた。あそこまで邪気がない反応をされるのは久し振りだ。

 

「……調子が狂う」

『どうした?』

「何でもない。とにかく、急げ」

 

 電伝虫を切る。歩き出そうとしたルッチはふと足を止めると、倒れているアルキディクスの方を振り返った。

 

“何かが違えば、私も“正義”を背負っていたかもしれん”

 

 あの時、一瞬だけ見えたこの男の心。その言葉に込められた意味は。

 

「……くだらん」

 

 呟き、ルッチは歩き出す。

 彼の背に海軍将校のような“正義”を掲げるコートはない。だが、それでも確かに。

 その背には、“正義”があった。

 

 

 四階“鳳の間”前廊下、“殺戮兵器”ロブ・ルッチVS“海災”アルキディクス。

 勝者──ロブ・ルッチ。

 

 

 








完全に味方側のルッチとかいう珍しい姿。
こういうところあるのが面白い。



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