その海賊団は西の海で結成された。
海賊となった理由はありきたりなものだ。“大海賊時代”という時代に生まれたこと。生まれ育った故郷が貧しかったこと。何かを育むよりも奪う方が楽だったこと。
喜ぶべきか、どうなのか。彼らには“海賊”としての才能があったらしい。その才能とは“強さ”ではない。“嗅覚”だ。
自分よりも強い相手、或いは危険な場所。そういったものを嗅ぎ分ける嗅覚を持っていたのだ。
特殊な能力というわけではない。本能と経験によるものだ。おそらくはこの海賊たちの本質が“臆病”であったが故にできたことなのだろう。本人たちさえも理解していないその感覚のお陰で、今日まで勝手気ままに彼らは海を生きていた。
「船長! 見てくれ!」
「あん? どうした?」
だが、いつまでもそんなことが続くはずはない。
「小舟です! 旗はなし!」
「ほう。どっかの島の買い出し船か何かか? 運のねェ奴だ」
笑みを浮かべる。運が良い、カモが現れた。
島から島への連絡船というのは通常は複数の船による船団を形成して行われる。海の上というのはただでさえ何が起こるかわからないほどに危険な場所である上にこの大海賊時代だ。島から島へと渡る途中に海賊に襲われることは珍しくない。
故に通常は商会が複数で手を組んだ上で護衛を雇って船団を形成するか、国が陣頭に立って船団を形成するのが普通だ。加盟国であればタイミング次第で海軍による護衛がつくこともある。
そういった船団を襲うことは海賊にとっても当然リスクが高い。襲われる可能性を考慮した上で数を揃えているのだから当然だ。しかし今視線の先にあるような単独で海を渡る船であれば話は別。ああいうのはカモだ。
「ここ最近は天候も安定してたよな?」
「ええ。昨日雨が降ったくらいで」
「てことは嵐で逸れたってわけでもねェようだな。……じゃあれか? 近くの島にちょっと買い出しにって奴か?」
何度か見かけたパターンだな、と船長は言う。たまにいるのだ。それこそ数日もかからないような距離の島同士であれば大丈夫だろう──そんな風に考える奴が。
そして実際、数日程度の船旅で海賊に遭遇することはほとんどない。特に近い島同士の間を渡るというのであれば尚更だ。加盟国の近くであれば海軍が巡回している可能性もあるのだから。
しかし運が悪い者というのは存在する。それがあの船だ。
「買い出し船ってんならそのための金を積んでるはずだ。終わった後なら積荷がある。どっちにしても美味しい獲物だ。──大砲を用意しろ。わかってるな? 当てるなよ?」
「へい!」
バタバタと一部の海賊たちが動き出す。まずは一発だ。あの船は十分射程圏内にある。だが当ててはいけない。それで沈んでもらっては何の利益にもならないのだ。
「船長! 船が反転しました!」
「今更逃げる気か? 遅ェな。一発近くにぶち込んでやれば止まる。──撃て!!」
船長の指示を受け、大砲の玉が吐き出された。だがその軌道を見、船長は声を荒げる。
「馬鹿野郎! 直撃コースじゃねェか下手くそ!」
「すみません!」
その砲弾は真っ直ぐにその船へと向かっていく。本来なら直撃させることは褒めるべきことなのだが、今回は違う。
勿体ねェ、と船長は呟いた。当たり所が悪ければすぐにでも沈むだろう。どうにか積んでいるものを奪える程度の損傷になってくれ、と小さく祈る。
(しかし運のねェ船だ)
単独で海を渡る中で海賊に見つかり、更に威嚇のための砲弾は吸い込まれるように船に向かっていっている。こうも悪い目ばかりを引き当てるとは。
(乗ってる奴は相当に運が悪い)
ふん、と鼻を鳴らす船長。砲弾が船へと吸い込まれるように直撃する──その瞬間。
「────は?」
巨大な『何か』が突如出現し、砲弾を受け止めた。
何が──と思ったのも数秒だ。直後、彼らの海賊船に砲弾が叩き込まれる。
轟音と衝撃が海賊船を揺らした。
「うおっ!?」
「敵襲か!?」
「何だ何だ!?」
いきなりの光景に海賊船内がパニックになる。当たり前だ。攻撃を受けることなど誰一人想定もしていなかったのだから。
だが偉大なる航路にまで来た海賊団だ。それを束ねる船長には相応の格がある。
「落ち着け野郎共!! 被害状況を確認しろ!!」
叩きつけるようなその声が海賊たちの動揺を鎮めた。応じる声と共に慌てて動き出す。
「周辺に船影は!?」
「ありません! あの小舟だけです!」
「見間違いじゃねェってことだな……!」
別の船による攻撃ではないことはこれで確実だ。つまり先程の『何か』は見間違いではなく、こちらが受けた砲撃もあの『何か』がやったということだ。
何が起こっている、と船長は思考をフル回転させる。偉大なる航路とは何が起きても不思議ではない場所だ。それは嫌というほど理解している。だが理屈のないことは起こらない。それがどれほど荒唐無稽なものであろうと、そこには必ず『理由』がある。
「警戒しろ! あの船に『何か』が──」
船長が言い切る前に、『それ』が看板へと着弾した。
誰もが思わず動きを止めた。海賊たちの視線の先。『何か』が着弾したその場所に、ゆらりと一つの人影が立ち上がる。
「…………」
危険な存在を嗅ぎ取る“嗅覚”が、この海賊団を今日まで生き残らせてきた。
関わってはならない相手。背を向けなければならない相手。そういうものを感じ取ったからこそ今日まで生きてこれたのだ。
そしてそんな彼らの“嗅覚”が告げている。
──“これ”は、絶対に関わってはならないものだ。
「……ッ、野郎共!」
それでも声を張り上げた船長は立派だった。この場の誰よりも危険を察知する“嗅覚”を持つ彼は現れた男を前に悟っていたのだ。
自分たちはもう、ここで終わるのだと。
「おい」
その場の全員の体が震えた。まだ年若い青年だ。だが自分たちより一回り以上若いようにみえるその青年を前に、海賊たちは何も言えないでいた。
青年が右手に持ったコートを身に纏った。それは見覚えのあるものだ。
──背に刻まれた、“正義”の文字。
それは海賊たちの“天敵”が纏うものである。
「覚悟、できてんだろうな」
背に回していた麦わら帽子を被りながらの言葉。それだけで数人の海賊が尻餅をついた。
彼のことをこの場の海賊たちは何も知らない。だというのに理解させられたのだ。
──勝てない、と。
「野郎共!!」
それでも彼らは海賊だった。何もせずに逃げることはできない。
いや、逃げられない。
「たったの一人だ!! やっちまえ!!」
だからそれは意地だった。海賊としての最後の矜持。
応じる声が上がり、海賊たちが青年へと殺到する。
しかし、その最中。最後まで冷静に思考を動かしていた船長は思う。
──嗚呼、そうかよ。
運が悪かったのは……おれたちか。
◇◇◇
普段とは少し動きに違和感があった。だが問題はないとルフィは断じる。
戦闘そのものは一瞬だったと言える。襲いかかってきた海賊たちは偉大なる航路に到達するだけの実力はあったが、ルフィにとっては敵ではない。
海賊たちはほとんどが意識を失って倒れていた。たった一人を除いて。
「……黒髪に、麦わら帽子……」
うつ伏せに倒れ、這いつくばるような体勢で唸るような声を上げる一人の男。おそらくはこの海賊船の船長だろう。一人だけそれなりの圧があったし、実際に一人だけこうして意識を残している。
「そうか……テメェが“麦わらのルフィ”か……!」
「……だったら何だよ」
見下ろすように視線を向ける。くくっ、と海賊は笑った。
「運が悪ィな……。よりによって“天竜人”をぶん殴った大犯罪者サマかよ……」
「…………」
ルフィはその言葉に対して何も言わなかった。その海賊はゆっくりと身を起こすと、その場に座り込む。
何がおかしいのか、海賊はずっと小さく笑みを浮かべていた。
「おれたちも殺すのか……?」
「……そのつもりはねェ」
「お優しいね、“英雄”サマってのは」
再び笑う海賊。そして、なあ、とその海賊は言葉を紡いだ。
「──海賊になれよ」
顔こそ笑っていたが、その言葉が本気であることをルフィは理解した。無言でその海賊の方を見つめる。
「あの小さな船には“歌姫”が乗ってるんだろ? お互いお尋ね者だ。……その気ならあんたに船長を譲ってもいい。あんたの子分になるなら不足はねェしな」
「海賊にはならねェ」
即答だった。海賊は笑う。
「強がるなよ。海軍がどれだけ厄介かなんてあんたが一番よく知ってるだろ?」
その言葉にルフィは何も言わなかった。海賊は言葉を続ける。
「あんたたちがどんだけ強かろうが、いつまでも逃げられるわけがねェ。海兵が海賊になるなんて珍しい話でもねェだろう?」
確かにその通りである。実際、ルフィがその名を世界に届けた最初の強敵はまさしくそういう男だった。ガスパーデという、悪辣な元海兵だ。
あの日から随分と遠いところに来たように思う。あの頃にはこんな未来は想像もしていなかった。
「海賊の世界も悪くねェぞ? 堅苦しい宮仕えとは大違いだ。命は懸かるが……まあ、あんたたちには今更だろ?」
どうだ、と海賊は言う。
「どうせあんたたちもお尋ね者なんだ。はみ出し者同士、手を組もうぜ?」
「何度でも言うけどな」
麦わら帽子を被り直し、ルフィは言う。
「海賊にはならねェ。絶対にだ」
「頑固者だなァ」
海賊は笑い、ルフィはそんな海賊の元へとゆっくりと歩み寄る。必要以上に傷付けるつもりはなかったが、意識を残したままにしておくつもりもなかった。
それに気付いたのだろう。海賊は小さく息を吐いた。そして。
「ああ、最後に一つ言わせてくれ。……おれも“天竜人”は嫌いでよ」
ルフィが表情を険しくした。海賊は更に言葉を続ける。
「正直、スカッとしたぜ?」
鈍い音。そして間を置かずに人が倒れる音が響く。
偉大なる航路にまで到達した海その賊団は、この瞬間事実上壊滅した。
ルフィの拳によって沈黙した海賊。その姿を一瞥すると、ルフィは海の方を見た。近くに寄って来た小舟の甲板にはウタの姿がある。
──あの日から、ウタは笑わなくなった。
味方と言った人たちに裏切られた日。現実を突きつけられたその日から笑うことがなくなったのだ。
元々海に出た時から不安定ではあった。だがそれでもまだ大丈夫だとルフィは思っていたのだ。しかしそれがあの日から変わってしまった。
表情としての笑顔はある。だがそれはかつての彼女の笑顔ではなくて。
ルフィが何よりも守りたかったものではなくて。
“大切な人が笑える正義”
ルフィがようやく見つけた、自分自身の“正義”。ウタの笑顔を。彼女が笑っていられる世界を、場所を、時間を。
だが、今の彼にはどうしたらいいのかがわからない。
あの日、ルフィは見てしまったのだ。
──“歌姫”の心が折れた、その瞬間を。
「……くそ」
どうしたらいいのだろう。どうすべきなのだろう。
彼女の笑顔を取り戻すには何をすべきなのだろう。
ズキリと、ルフィの頭に痛みが走った。
それを振り払うように歩を進める。
──折れてはならない。
それだけはしてはならない。
だって、そうだろう?
彼女を海兵にしたのは、他ならぬモンキー・D・ルフィだ。
だから、絶対に守らなければならない。
彼女を罪人にしたのは、ここにいる愚か者なのだから。
◇◇◇
海賊船と遭遇したことは結果として幸運であったように思う。
食料や飲水の補給のために訪れた島では通報されて満足に補給もできなかったし、実を言うと結構状況はギリギリだったのだ。
海賊たちについてはあの後、縛った上で電伝虫で救難信号を出しておいた。近くにはルフィとウタを追って来ている部隊がいるはずであるし、場合によっては近くを巡回しているだろう海軍によって発見されるはずだ。
かつてであれば自分達で連行して近くの基地への引き渡しを行なっていた。だが今の二人にはそんなことはできない。基地に近付くことさえもできないのだ。
今までやっていたこと、やるべきであったことができなくなったという事実。
その現実がまた、二人を追い詰めていく。
「……無人島、かな?」
辿り着いた島に上陸しながら呟いたのはウタだ。ああ、とルフィも頷く。
「灯りもねェしな」
「そう、だよね。……うん」
その声色には安心のようなものが篭っていた。それを感じ取ったルフィに気付いたのだろう。ウタが首を左右に振る。
「よくないってわかってるんだけど。……人がいないなら、通報されることもないかなって」
右手で左手を抱えるようにしながら言うウタ。その言葉は弱々しく、いつもの彼女からは程遠いものだった。
隠し切れない不安。身を小さくするようにしている彼女の姿は、あまりにも儚くて。
「……そうだな」
様々な言葉を飲み込みながらルフィは頷く。否定できる言葉をルフィは持っていなかった。
ルフィは周囲へと視線を送る。彼らが船を停めたのは無数の岩が海面から突き出した場所でだった。少し離れた場所には砂浜もあったのだが、上陸しやすい場所というのは目につきやすい場所ということでもある。小舟ということもあり、岩礁を避けつつ船を隠せる場所を選んだ結果だった。
追われている立場なのだ。海軍時代のように島に堂々と上陸するということはできなかった。
「もう夜だ。……今日は船で休もう。島の探索は明日だな」
「そうだね。夜のジャングルは危ないから」
視線の先、ジャングルの入り口とも言える場所をルフィは示しながら言う。夜のジャングルは危険だ。二人とも大抵の猛獣であればどうにでもできるが、わざわざ視界が悪い中でリスクを負う必要はない。
保存食を口にし、最低限の食事を済ませてから船室に入る。いくつかこちらを見つめる気配を感じたが、襲ってくる様子はない。獣も馬鹿ではないのだ。絶対に敵わない存在に喧嘩を売るようなことはしない。
故にこれはただの威嚇だ。自分達の領域に来た招かれざる来客に対するもの。
「…………」
船室に入る際、ルフィはジャングルを一瞥する。その鋭い視線に気圧されたのか、獣たちの気配が少し遠ざかった。
ズキリ、とルフィの頭に痛みが走る。
思わず眉間に皺を寄せる。最近何度も感じる痛みであった。
何だろうかとルフィが思う前に手を引かれる。ウタが不安そうな表情をしていた。
「……大丈夫?」
こちらを伺うような表情だった。そこにはこちらへの心配と不安が宿っていて。
「大丈夫だ」
だからこそ、ルフィは笑顔を浮かべた。
少しでもその不安を拭うことができればと、そう思いながらその手を握り返す。
──弱い力だ。
ウタがこちらを握る力は、どうしようもないほどに弱々しい。
ただ、今のルフィには。
その手を優しく握り返すことしか……できなかった。
◇◇◇
──目が覚めた。
一瞬にして臨戦体勢に入るルフィ。周囲の気配を“見聞色の覇気”で探る。
「────」
そして察知した。外にいる大きな力を持つ存在を。
今の自分達は招かれざる客だ。こういう対応も当たり前なのだろう。
ルフィは自分の膝の上に頭を乗せて眠る幼馴染へと視線を向ける。寄り添うようにして壁に背を預けて寝ていたのだが、いつの間にか膝枕のような状態になっていた。
その彼女へ手を伸ばそうとして。
“ごめんなさい”
ふと、彼女の言葉が脳裏に浮かんだ。
ウタは何度もその言葉を口にし、その度にルフィはそれを否定してきた。それは彼女を慰めるためのものではない。ルフィは彼女に非があるとは一切考えていないのだから当然だ。
──そうだ、ウタは何も悪くはない。
彼女は、巻き込まれただけで。
巻き込んだのは、ここにいる男だ。
「ちょっと……行ってくる」
呟くと共に彼女の頭を優しく撫で、優しくその頭を下ろす。毛布をかけ直すと、ルフィはできるだけ音を立てないように外に出た。
静かな夜だとルフィは思った。聞こえるのは波の音だけだ。風もほとんどない。
そんな、月明かりだけが世界を照らすその場所に──『それ』はいた。
「…………」
僅かに聞こえる程度の唸り声を上げながらこちらを見据える、一匹の獣。白い体躯を持つ巨大な虎のような猛獣であった。
一目でルフィは理解する。彼こそがこの島の“王”であるのだと。
「……謝るのはおれの方だ」
しかし、その正面に歩み寄りながらもルフィは別のことを考えていた。
この逃亡の始まりについて。今の自分達について。ずっとルフィは考え続けていた。そしていつも同じ結論に至るのだ。
「海兵になろう」
あの日、彼女にそう言ったのはルフィだ。
“シャンクスを、捕まえよう”
そう言って彼女に手を差し出した。そして二人で海兵になったのだ。
“どこにも行かないで。ずっと一緒にいて”
あの日、震える声でそう言った彼女の言葉を覚えている。
──寂しいのは、痛いよりもずっと辛い。
ルフィはそれを何よりも知っている。だからこそ側にいると決めたのだ。同情ではない。憐憫でもない。憐れみでもない。
ただモンキー・D・ルフィという少年がそうしたいと思っただけだ。
一緒にいたいと思ったのだ。
隣にいたいと思ったのだ。
だって、彼女は。
「……おれが、ウタを」
その先の言葉を紡ぐことはできなかった。だがどうしても考えてしまう。
あの日、海兵になると決めた時にルフィはウタを誘った。共に行こうと。
──それは本当に正しかったのか?
こんなことになるなら。
ウタはずっと、あの場所で。
“ルフィ”
自分の名前を呼ぶ彼女の姿を幻視した。
守りたいと思った笑顔。
大切だと想う人。
もう随分、彼女の笑顔を見ていない。
「おれのせいで」
あの日の慟哭を思い出す。彼女の心が折れた瞬間を。
──二度目だと、ルフィは思う。
あの時も何もできなかった。あの時よりも力を手にしたはずだというのに、結局何もできないでいる。
多くの戦いを経験した。何度も死にかけた。何度も傷ついた。それでも立ち上がってきた。そうして強くなったはずで。
今の自分は、あの幼き日よりもずっと強くなったはずで。
だと、いうのに。
今の自分は。
大切な人の笑顔一つさえ、満足に守れていない。
「…………」
眼前、こちらを伺うように見据える“王”へと視線を向ける。
招かれざる客を見据えるその瞳。それは“王”としては当たり前の行動だった。己の縄張りに現れた強大な力を持つ存在を前に何もしないわけにはいかないだろう。
そうだ、それは当たり前のことであるはずだ。
なのに、思ってしまった。
──人でなくても、自分達を拒絶するのか。
拳を握る。応じるように“王”が動いた。
「────!」
鈍く、重い音が響く。
決着は僅か一発。沈黙した“王”を見下ろしながら、幼き日の記憶をルフィは思い出す。
ウタと共にジャングルで生き抜いた時の記憶。あの時、巨大な獣を前に逃げるしかなかった。二人で手を繋いで全力で背を向けて逃げ出したのだ。
今目の前で倒れているのは、あの頃に逃げるしかなかった獣よりも遥かに巨大で強い力を持つ存在だ。今のルフィはそんな怪物さえもこうも容易く打倒できる。
だが……それだけだ。
この拳だけでは、ウタの心を救えない。
「……ウタ……」
まるで祈るようにその名を呼ぶ。
確かめるように。
縋るように。
月明かりが照らす夜の中。
かつて“英雄”と呼ばれた青年の心もまた……少しずつ、蝕まれていく。
ウタが「自分のせいで」と思うと同時に、ルフィもまた「自分のせいで」と思っているというお話。
SW世界線の続きなのでルフィがウタに「海兵になろう」と言って海軍に入ったのであれば、ルフィはどうしても現状を自分のせいでと思ってしまうんじゃないかな、と。
多分このルフィさんは「自分のせいで」という想いをずっと抱え込む気がします。
その上で離れるという選択肢は微塵もないのがこの概念らしいというか。
ただいつまでも暗くて重い話ばかりではないのも真理。次回はちょっと前向きなお話の予定。