とても素晴らしい絵を見てしまったので書きました。勢い10割。
「じゃーん!」
海軍本部のとある一室。その中にそんな声が響き渡った。
声の主は海軍本部准将にして“歌姫”の異名を持つ女性、ウタだ。彼女は両手を広げ、満面の笑みを浮かべている。
「どう、どう?」
いつになく上機嫌なウタ。その視線の先にいるのは麦わら帽子を被った青年だ。
「おお、格好いいぞ! 今回は黒なんだな!」
その青年は上機嫌な少女の衣装を見て笑みを浮かべる。彼の言う通り、ウタの今回の衣装は黒を基調としたものだった。紅白のシャツの上に黒いジャケットを着ており、更に海軍本部の将校であることを示す正義のコート。その紅白の髪と合わさって非常に格好良く、そして可愛い姿になっている。
「うんうん、他には?」
「ん? いやいつも通り似合ってるけど」
身を乗り出すウタに対してそんなことを言う青年──モンキー・D・ルフィ。彼もまた海軍本部において大佐という地位にあり、“麦わらのルフィ”という異名を持つ。ウタの幼馴染でもある彼はウタの新衣装ができると立ち会うことが暗黙の了解となっていた。
「もっとない? 美しいとか綺麗とかビューティフルとか」
「いやそれ全部同じじゃねぇか?」
冷静なツッコミだった。だが更に身を乗り出すウタに対し、ルフィが顔を顔を逸らす。
「いや……うん、綺麗……だぞ?」
そんな彼の様子を見て、一歩引くウタ。ふふん、と彼女は上機嫌に微笑む。
「あっ、照れてる照れてる」
「照れてなんかねぇよ!」
「出た! 負け惜しみ〜♪」
楽しそうに笑うウタ。そしてそんなウタに噛み付くルフィ。
実に平和な光景であるが、この二人は“新時代の英雄”とまで渾名される海軍期待の星である。同時にとんでもない問題児コンビであるのだが、それは今は置いておこう。
いつも通りのじゃれあいだ。故に他の者たちもスルーしていたのだが、この場に居合わせた一人が声を上げる。
「いや確かにビューティフル! 今のあんたを前にしたら“海賊女帝”もたじろぐだろうな!」
声を上げたのは一羽……いや、一人のアホウドリだった。“新聞王”とも呼ばれるその男──モルガンズの言葉を聞き、ウタがルフィの方へと言葉を紡ぐ。
「ルフィもあれくらい言えるようになってよ」
「いや無理だろ。想像できるか?」
「お世辞を言うルフィ……」
想像する。
“今日もビューティフルだなウタ! ハンコックなんて目じゃねぇよ!”
想像上のルフィは目がキラキラと輝いていた。誰だこいつ。
「ぷっ、あははははっ!」
「いや想像でそこまで笑うか?」
「ご、ごめんね。なんか、うん、凄かった」
思わず呼吸困難になるところだった。ウタは思わず目尻に浮かんだ涙を拭いつつ、はー、と息を吐く。
「とりあえず、ああはならなくてもいいけど……もうちょっとルフィは褒め方を覚えること」
「えー」
「えーじゃない」
「いやあのお二人さん? 無視しないで欲しいんだが」
再びモルガンズが片手を挙げて言葉を紡ぐ。ああ、とルフィが頷いた。
「何しに来たんだ?」
「いや今回はちゃんと仕事だぜ旦那。ほれ許可証」
「今回はちゃんと……ねぇ」
許可証を見せるモルガンズに対し、二人して胡散臭そうな視線を向ける。この男の出す記事で何度か騒動をに巻き込まれている二人としてはどうしても疑ってしまうのだ。
「いやそんな顔するなよお二人さん! 今回は“歌姫”のライブポスター撮影だろう! うちにも派手に記事を載せる予定だからな!」
「んー……まあ、それはわかってるけど」
ウタが煮え切らない様子で言う。
この新衣装を着てのライブ。その告知文をモルガンズが社長を務める“世界経済新聞社”が発行する新聞にポスターと併せて掲載の予定なのだが、どうにもこの男は信用できないのだ。
まあ、当たり前である。『ネタないから熱愛報道する』なんて言う奴を信用できるわけがない。
「お前なァ……。おれはいいけど、ウタに迷惑かけたら今度こそぶっ飛ばすからな」
「あ、それは身に染みて理解したから大丈夫だ旦那」
「ならいいけどよ」
モルガンズの言葉に対し、ルフィが頭を掻きながら言う。
ちなみに一度世界新聞社の本社、その三分の一が吹き飛ぶ事件が起きたことがある。その加害者と被害者が丁度この場にいるのだが、二人の感情は非常に乾いたものであるから不思議である。
「まあとりあえず写真だ。何枚か取らせてもらうぜ“歌姫”」
「ん、じゃあ行ってくるねルフィ」
「おう!」
すぐそこであるというのにそんな会話を交わす幼馴染。その二人を見ながら、思わずといった調子でモルガンズが呟く。
「……これ熱愛報道してるがおれ悪いのか?」
幸いというべきか、誰もその呟きには反応しなかった。
ウタが撮影の準備を進めていく。ポーズなど、カメラマンと確認しなければならないことはいくらでもある。
その光景を見守るルフィ。近くの椅子に彼が座ろうとしたところで、部屋のドアが開いた。
「おお、ここにおったか」
現れたのは一人の老人──いや、“英雄”。
ルフィの祖父であり、“海軍の英雄”とまで呼ばれる伝説の海兵ガープであった。多くの海兵が彼を見ると思わず姿勢を正す。実際部屋の中にいた広報部門の海兵たちは姿勢を正している。
だが、ルフィとウタは違う。
「げっ、じいちゃん」
「げっ、ガープさん」
全く同じリアクションだった。腰が引けている。共通のトラウマがそうさせたのだ。
「げっ、とはなんじゃげっ、とは。全く、折角荷物を持ってきたやったというのに」
息を吐きながら言うガープ。その手には大きめの紙袋が下げられていた。その彼の言葉に対してルフィが首を傾げる。
「荷物?」
「お前の新しいスーツじゃ。この間駄目にしたじゃろう」
「あー」
得心がいったというように頷くルフィ。視界の隅でモルガンズが顔を逸らしていた。そのスーツを駄目にした一件こそが彼の本社の三分の一壊滅事件である。
「しかも喜べ。今回はわしとお揃いにしてやったぞ」
「えー」
鈍い音が響いた。ルフィが頭を押さえて呻く。
「痛ぇ!」
「一応サイズは合っておるはずじゃが、確認しておけ。スーツはあの一着しか持っておらんかったじゃろう」
「スーツあんま好きじゃねぇんだよなァ……。動き難いし」
ガープか紙袋を受け取りながらそんな言葉を漏らすルフィ。そんな彼に言葉を紡いだのはウタだった。
「いいじゃん! 着なよルフィ、一緒に写真撮ろ!」
その表情は期待に満ちていた。ルフィはそんなウタの表情を見て逃げられないと悟る。
「……わかったよ」
ウタの撮影であったはずなのに、なんでこんなことに。
彼にしては珍しく、ルフィはボヤいた。
◇◇◇
正直、スーツというものがルフィは苦手だ。動き難いというのもあるが、どうこのネクタイというものが面倒なのである。
結局、幼馴染に頼ることになってしまう。
「あ、こら動かないで。形が崩れちゃう」
「……悪ィ」
上手くネクタイを結べないルフィを見かねてウタがルフィのネクタイを結んでくれる。ルフィは顔を上に向け、できるだけ動かないようにしていた。
「しょうがないんだから」
言いながらも、その声色は弾んでいた。そしてウタにネクタイを締められたルフィは思わず首元に触れる。
「締めすぎじゃねぇか?」
「そんなことないよ。うん、バッチリ!」
親指を立てるウタ。周囲を見ると、ガープも頷いていた。
「よく似合っておる」
満面の笑みだ。以前は黒のスーツであったが、今回着たのは白いスーツだ。それもガープと同じデザインのものである。
「こうして見ると、やっぱり血の繋がりを感じるなァ」
「自慢の孫じゃからな」
モルガンズの言葉に対し、自慢気に言うガープ。そのまま彼はルフィへと問いかけた。
「サイズはどうじゃ?」
「うん、大丈夫みたいだ」
「前のよりは頑丈にしてくれと言ってある。まあ、多少は大丈夫じゃろう」
「そっか。ありがとうじいちゃん」
ルフィの礼。ええわい、とガープが手を振った。
「これぐらい安いもんじゃ」
その表情には優しさが宿っていた。そしてルフィに正義のコートをかけたウタが、そんなガープに向かって言葉を紡ぐ。
「じゃあガープさんもこっち来て。一緒に写真撮ろう!」
「む、いいのか?」
「え、なんで?」
「そのつもりで来たんじゃねぇのか?」
ある意味ガープらしくない、確認するような言葉に対してウタとルフィが逆に首を傾げる。
その時、一瞬。
ほんの一瞬だけ、ガープの瞳が潤んだ。
「いや……そうじゃな。よし、撮るか」
ウタのポスター撮影のはずが、何故か撮影大会になっている。
三人の写真も撮ったし、モルガンズや他のスタッフも交えた写真も撮られた。勿論ウタ単独のものも撮ったし、ルフィやガープだけの写真の撮影まで行われることになる。
確かだったのは、皆が笑顔であったということだ。
──そして、後日。
「見ろセンゴク! わしの孫たちとの写真じゃ!」
同期の友人にこの日の写真を自慢する“海軍の英雄”の姿があったり。
「なんかポスターが私とルフィ、二人の写真になってるんだけど」
「本当だな。ウタのライブなのに」
ウタのライブの告知ポスターだというのに二人がポーズを決めたものが採用されていたり。
「いや……それよりも」
「いつの間に撮ったんだ?」
ルフィのネクタイを直すウタの写真。それと共に『熱愛発覚!!』の文字が踊る新聞が発行されていたりと。
「油断した……」
「飽きねぇなァ、あいつ」
今日も、世界は平和だった。
ちなみにこのモルガンズは「ネタないから熱愛報道しちゃうなー、情報欲しいなー」くらいはします。タチ悪いですね。