逃亡海兵のルフィとウタ 短編集   作:Nines star

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逃亡海兵Water Seven⑤

 

 

 

第一話 フランキー一家

 

 

 

 海の上を往くのはキングブル二頭が引く一隻の船であった。島が近づいているためか天候も穏やかであり、一見すると周囲に危険はないように見える。

 

「ソドム、ゴモラ。急ぐ必要はねェぞ。おれたちも周りは見てるから安全に行こう」

 

 船を引くキングブル、ソドムとゴモラへとそんな風に声をかけるのはザンバイだ。彼だけではなくフランキー一家の者たちは周囲に対してかなり注意を払っている。

 警戒し過ぎではないかとも思うが、つい先程まであの化け物のような海王類に追われていたのだ。それも仕方ないのかもしれない。

 

「この辺にはあんなのが出るのか?」

 

 甲板の中央、まるで家のようなブリッジの壁に背を預けて座り込んでいるルフィが思いついたように声を上げた。彼の隣ではウタが膝を抱え、寄り添うように座っている。

 

「いや、初めて見ます。この辺りの海はちょっと理由があって普通は穏やかなんですが、あんなのが出るなんて聞いたことがねェ」

 

 応じたのはザンバイだ。敬語の混じった妙な口調で喋っているが、その姿勢からはできるだけ丁寧に話そうとしているのを感じる。ルフィに対して相応の敬意を抱いているのだろう。その理由はあの時見せた“覇気”故か。

 

「理由?」

「多分もうちょっとでわかる。……しかし、本当に助かりましたよ“麦わら”さん」

 

 何度目かわからない礼の言葉。いいよ、とルフィは小さく笑った。

 

「気にすんな」

 

 彼の中ではもう終わった話であるのだ。だから本心からの言葉であるのだが、このフランキー一家というのは妙なところで義理堅い。ザンバイだけでなく他の者たちからも何度も礼を言われっぱなしだ。

 まあ、敵視されるよりは遥かにいい。警戒心は残しているが、ルフィの中で彼らは『気をつける』程度の認識に変わっていた。

 

「いやしかし凄ェ話だ。あんなバケモンを素手でぶん殴って黙らせちまうんだから」

 

 そんな言葉を紡ぐのは別の男だ。その言葉には純粋な尊敬の念が宿っている。彼らにしてみると、大砲さえも効かないあの海王類相手に素手であそこまでやってのける人間がいるという事実が衝撃だったのだろう。

 

「あれぐらいならできる奴は他にもいるぞ。おれより強ェ奴もいる」

「“麦わら”さんより強いってどんなだ?」

「そりゃあれだ、島沈めるとか」

「流石にそれはねェだろ」

 

 ルフィの言葉を受け、わいのわいのと言い始めるフランキー一家。目の前にいるのは世界政府から追われる賞金首だというのに随分と無警戒なものである。命の恩人というのが先に来ているのもあるのかもしれない。

 

「でもその、まさかこんなところにお二人がいるとは」

「…………」

 

 その言葉には沈黙で返した。ルフィのコートの裾を掴むウタの手にも少しだけ力が籠る。

 ──やはりというべきか、ルフィとウタの正体はすぐにバレることになった。

 元々世界中に名を知られ、顔を知られた二人である。気付かれてしまうのも道理だ。実際指摘された時もルフィたちは警戒したのだが、フランキー一家たちはその態度も言動も、何一つ彼らを責めるようなことはしなかった。

 いや、むしろ。

 

“凄ェ人に助けられたんだな”

 

 呟くように一人が言ったその言葉が、ルフィの頭にはずっと残っている。

 

「ああいや、気を悪くしないでくれ。責めるつもりなんてねェんです。……ここら辺は近くに“エニエス・ロビー”もあるし、近寄りたくねェんじゃねェかと」

 

 不夜島、“エニエス・ロビー”。“司法の島”や“政府の玄関”など数々の呼び名を持つその島は世界政府にとっての重要拠点だ。そこには数多の戦力が集っており、海賊を始め数多の無法者が恐れる場所でもある。

 今の二人は追われる身だ。そんな場所には絶対に近付きたくないはずなのだが。

 

「……進路を選べる余裕なんて、なかったから」

 

 ポツリ、とまるで溢すように呟いたのはウタだ。彼女の言う通りである。この逃避行、ルフィもウタも必死で逃げてきただけだ。その結果としてここに辿り着いただけに過ぎない。

 シャボンディ諸島から逃げ、海軍本部から逃げ、そうして辿り着いた場所は“司法の島”の近く。

 ──何とも、ままらないものである。

 

「あー……」

 

 ザンバイが言葉を探して宙へ視線を彷徨わせる。そんな彼に対し、ごめんなさい、とウタが呟く。

 

「気にしないで──」

 

 

────────!!

 

 

 その声を掻き消すように、甲高い音が響き渡った。反射的にルフィもウタも立ち上がり、周囲へと視線を送る。

 何の音だろうか。何かしらの危険が迫っているのか? 海賊船でも現れたのか?

 いくつもの思考が浮かんでは消え、同時に意識が切り替わる。

 だが、しかし。

 

「おお、ここまで来たら安心だな。ソドム、ゴモラ。ちょっとストップだ」

 

 最大限まで警戒心を高める二人とは正反対。まるで日常の一幕であるかのような反応を見せるザンバイが、合図と共に手綱を引いた。その指示に従い、二頭のキングブルが停止する。

 ルフィもウタも眉を顰めた。何だと言うのか。

 

「ッ、また」

 

 ウタが呟く。再びの甲高い音。それもさっきより随分近い。

 何なのだと思う二人の目に、それが飛び込んでくる。

 

 

 ──それは、鋼鉄の列車であった。

 当たり前のように海を駆けるそれが、眼前の海を駆け抜けていく。

 

 

 その列車の名は、“パッフィング・トム”。

 ウォーターセブンが誇る、“海列車”だ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 その都市を人は“水の都”と呼ぶ。そこに込められた意味は多くあるのだろう。『水』と言うものと都市、そして人が関わることは数多い。

 だが誰もがその都市を一目見た瞬間にその異名の意味を理解することになるのは間違いない。それほどまでにその都市は美しく、そして力強いのだ。

 

「……綺麗」

 

 視界に入ったその都市を見て呟いたのはウタだ。彼女が思わず呟いてしまうほどに美しい都市がそこにはある。

 まず目につくのは巨大な噴水だ。都市の中央にあるその巨大な噴水からは噴き出すようにして大量の水が流れており、おそらく都市内を通ってその水が海へと流れ込んでくる。

 その威容は正しく“水の都”。その呼び名に偽りはない。

 

「でっけー噴水だ」

 

 ルフィもまた自身の興奮を隠しきれない様子で声を上げていた。だが噴水だけではない。未だ島とは距離があるというのに、ここまでその活気が伝わってくるのだ。

 世界政府御用達の造船会社を持つ都市。その看板に偽り無しである。

 

「なあ、アレが入り口か?」

 

 とある場所を指差しながらルフィが言う。『ブルー駅』と書かれた場所だ。それを見てザンバイが首を横に振る。

 

「あれは海列車の駅です。明確な入り口ってのはねェが、まあ船が入れるならどこでも入り口ですよ」

「ウォーターセブンはいくつもの造船ドックがある都市なんですよ。船なんてのは色々なのがあるんで、大通りの水路は大型の船も通れます」

「一番ドックなんかガレオン造ってそのまま浮かべるもんなァ」

 

 わいのわいのと口々に言うフランキー一家。その口調は誇らしげで、彼らなりにこのウォーターセブンを愛しているのが伝わってくる。

 

「まあ中に入るのはちょっと待って欲しい。おれたちのアジトは北東にあるから、中を通るより外を回った方が早い」

 

 言いつつザンバイたちが二頭のキングブルへと指示を出す。それをぼんやりと二人は見つめていたが、そんな二人へザンバイが声をかける。

 

「ウォーターセブンは初めてですか?」

「おう」

「機会はあったんだけど、色々あって流れてしまって……」

 

 ルフィは都市の名前にすら心当たりがなかったし、ウタの方はライブの巡回で訪れる予定があったが流れてしまったという過去がある。ちなみに流れた理由は向かう途中で部隊ごとトラブルに巻き込まれたためであったりする。その時は文字通りしっちゃかめっちゃかな事態になった。

 

「そうだったか?」

「覚えてないの?」

 

 首を傾げるルフィに呆れた様子で返すウタ。少しだけ彼女の声にも張りが戻って来ている。

 

「あの時も大変だったでしょ」

「……どれの話だ?」

 

 本気でわからないルフィ。そんなルフィの様子を見て全く、とウタは息を吐いた。

 

「────」

 

 小さく、ルフィの口元に笑みが浮かぶ。

 長い付き合いだ。互いの調子などすぐにわかる。ウタがずっと精神的に沈んだ状態であったことをルフィはわかっていた。

 だが今の彼女はこの逃避行が始まってから久し振りに見る姿をしている。

 ──まだ、本調子には程遠い。

 だが、それでも。少しだけでも前を向けているのなら──

 

「どうしたの?」

「何でもねェ」

 

 怪訝そうな表情を浮かべるウタに、ルフィは首を振って応じる。

 この苦しい状況に変わりはない。今は偶然手助けしてくれる者が出てきただけだ。だが、それでも。苦しく、辛い状況でも。

 きっと、それだけではない。

 彼女が笑っていられる未来が、きっとどこかにある。だからそれを見つけるのだ。

 ──それが、彼にとっての“正義”だから。

 

「……どこか痛いとか?」

「いや大丈夫だよ」

 

 右手の掌でこちらの頬に触れるウタに対してそう応じる。じゃあ、とウタは言った。

 

「変なもの食べたとか?」

「そういやまともなものはあんまり食ってねェな。……肉が食いてェ」

 

 思い出したように呟くルフィ。思い切り大好きな肉を食ったことなど、いつ以来だろうか。

 

「肉が食べたいんスか?」

「多分今日宴会だから食べれますよ」

「金も入ったしな」

 

 そんなルフィの呟きを聞きつけ、近くにいた男たちがそんな言葉を口にする。ホントか、とルフィが言ったところで。

 

「お、見えてきた」

 

 そんなことを口にしたのはザンバイだ。彼は振り返ると、前方を指差しながら言葉を紡ぐ。

 

「アレがおれたちのアジト、フランキーハウスだ!」

 

 示された方を見る。そしてルフィとウタは同時に眉を顰めた。

 開けた場所であった。周囲には背の低い草木しかなく、建物らしい建物は一つしかない。だがその建物の存在感が異様であった。

 三日月と思しき飾りが屋根には取り付けられ、建物の側面からは何に使うのかわからない謎のアームが飛び出している。何というか、非常にごちゃごちゃとした建物であった。堂々と玄関には『FRANKY HOUSE』の看板が掲げられている。

 かつて二人は“ジャヤ”という島を訪れたことがある。そこで半分だけの家に城を描いたベニヤ板を貼り付けた家を見たことがあるが……。

 

「……何か、心配になってきた」

 

 ウタの呟き。その頭に右手を軽く載せながらルフィもまたその家を見据える。

 なんだかんだで多くの島を訪れ、多くの暮らしを見てきた二人だ。奇抜な建物は幾つも見てきたし、驚くような文化にも触れてきた。だからわかる。これはこの都市の文化がどうとか利便性がどうとかそういうのではない。単純に建てた人間の趣味とセンスだ。

 そして大体、こういう尖ったセンスを持つ人間は──癖が強い。

 

「ちょっと待っててください」

 

 二人へそう告げると、ザンバイは周囲に指示を出しながら船を停止させる。手際もよく、全体的に慣れた様子だ。おそらくこういうことは日常的にやっているのだろう。

 船が無事に岸へと繋がれ、フランキー一家の者たちがソドムとゴモラの装備を外し始める。それを横目に見つつ、ルフィとウタも地面へと降り立った。

 

「…………」

 

 柔らかい地面の感触を確かめるようにルフィは地面を踏み締める。海の上が嫌いなわけでは勿論ないが、やはり地に足がつく地面の上というのは安心感があった。

 そして二人がそんな風に周囲を確認する中、ザンバイが建物の方へと声を上げる。

 

「アニキ!! 今戻りました!!」

 

 直後、声が響く。

 

「遅かったじゃねェか」

 

 音を立て、建物の扉が開いた。そこから現れたのは一人の男──いや、変態だ。

 青い髪のリーゼントに、上半身にはアロハシャツ。何故かその両腕は上腕部分が膨れており、所謂一般的な体型とはかけ離れている。

 ──そして何故か、海パンであった。

 

「あァん? 誰だおめェら?」

 

 ウォーターセブンの裏の顔、船舶解体業者フランキー一家の棟梁。

 これが、フランキーとの出会いであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 フランキー一家の拠点であるその家の中は思ったよりも広かった。数十人近くいる構成員たちが全員中に入っても手狭には感じないくらいである。

 その大きな広間の一角。胡座で座り込んだフランキーと向かい合うようにルフィとウタは座っていた。その少し前にはザンバイが正座で座り込み、今回の事情について説明している。

 巨大な海王類に追われていたこと、あのままでは全滅もありえたこと、そこに偶然ルフィが現れたお陰で助かったこと。

 フランキーはザンバイの説明に対し、腕を組みながら黙して聞いていた。

 そして一通りの説明をザンバイが終えるとフランキー腕を解き、頷いた。

 

「成程なァ……つまり、お兄ちゃんたちがうちの子分どもを助けてくれたってわけだ」

「偶然だけどな」

 

 ルフィが応じる。そうであってもだ、とフランキーは言葉を紡いだ。

 

「助けてもらったのは事実だ。礼を言うぜ」

 

 そう言うと、両手をついてフランキーは頭を下げた。アニキ、とザンバイが驚いた声を上げるがフランキーは静かに告げる。

 

「うちの子分を助けてもらったんだ。棟梁のおれが礼を尽くさねェのは仁義に反する」

「気にすんな」

 

 対し、ルフィはそう返した。ザンバイに対するものと同じだ。それを見てとり、あの、とザンバイがフランキーへと言葉を紡ぐ。

 

「その、お二人に礼をしたくて」

「……その意味をわかってんのか?」

 

 一瞬、ルフィの瞳に警戒の色が宿った。フランキーの視線がルフィとウタの二人を捉える。

 フランキーは二人が何者であるかをわかっているのだ。故にこそそのリスクも理解しているのだろう。賞金首を匿うようなことをすればフランキー一家も罪に問われる。それが“天竜人”を害した大犯罪者であると言うのならば尚更だ。

 一瞬、ザンバイは言葉に詰まった。だがそれを振り払うように彼は言葉を紡ぐ。

 

「わ、わかってます! アニキに迷惑をかけるってことも! けどここで何の礼もなく帰しちまったらフランキー一家の名折れじゃないですか!」

「そ、そうッスよ! おれら本気で死ぬかもしれなかったんス!」

「お願いだアニキ!」

 

 そして彼に続き、次々とフランキー一家の男たちが頭を下げる。そんな姿を見、フランキーは小さく口元に笑みを浮かべた。

 彼が纏う空気が少し穏やかになる。喜んでいるようにさえルフィは感じた。

 

「礼を尽くす、っつっただろうが」

 

 そう言うと、フランキーはルフィとウタへと視線を向けた。その視線に敵意はなく、正面から彼は言葉を紡ぐ。

 

「聞いての通りだ。……おめェらがこの島にいる限り、全力でサポートする。それがおれたちからの礼だと思ってくれ」

 

 言い切るとフランキーは立ち上がった。そのまま、ザンバイ、と頭を上げた彼の子分の名を呼ぶ。

 

「アレは?」

「あ、持ってきます!」

 

 そして慌ててザンバイが走っていく。それを一瞥し、ルフィがフランキーへと問いかける。

 

「いいのか?」

「二度も言わせるな」

 

 口調こそ乱暴だが、そこには真摯さがあった。ありがとう、と隣のウタが呟くような言葉と共に頭を下げる。ルフィもまた頭を下げた。

 このウォーターセブンは世界政府御用達の造船都市。そこで二人が出歩き、見つかればすぐさま海軍が押し寄せてくるだろう。宿を取ることさえも難しいことは想像に難くない。それをここにいる彼らが匿ってくれるというのなら助かるのも事実だ。

 

「礼を言ってんのはこっちだ」

 

 呆れた様子のフランキー。そのまま彼は走っていったザンバイを追って歩いていく。

 ──“水の都”、ウォーターセブン。

 ルフィとウタ。世界を敵に回した二人がその島で過ごす場所が決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 深夜。既に陽は完全に落ち、世界が寝静まっている。日中の騒がしい間は聞こえなかった波の音が風に乗ってここまで届いている。

 フランキーハウスの大広間では大勢が床に転がって眠り込んでいた。周囲は散らかったままであり、宴会の後であったということが一目でわかる。

 

「…………」

 

 ルフィはその大広間の隅でぼんやりとその光景を眺めていた。彼の隣ではウタが目を閉じ、静かな寝息を立てている。全身を預けるような格好であるが、普段とは違って寝苦しそうな雰囲気はない。深い眠りに入っていた。

 おそらく安心感からくるものだろう。船の上では周囲への警戒もあってどうしても眠りが浅くなっていた。それだけではない。いつ追手が来るかという緊張は二人の精神を徐々に追い詰めていたのだ。

 だがここは見知らぬ土地であり、フランキー一家についてもどこまで信用していいかはわからない。故に当初はルフィもウタも気を張っていたのだ。

 しかし、そんな警戒を解く出来事が起こった。

 

“あの……ちょっと、いいですか?”

 

 宴会の準備中、休んでいてくれたと言われた二人は動き回るフランキー一家をぼんやりと眺めていた。そこに恐る恐るといった様子で一人が歩み寄ってきたのだ。

 敵意は感じなかった。ただその手に大事そうに何かを持っており、その男は躊躇いがちに言葉を紡いだのだ。

 

“う、ウタ様。サイン……その、貰えねェですか?”

 

 彼がその手に持っていたのはウタのTDだった。驚いて固まるウタと、状況が一瞬理解できずにこちらも停止するルフィ。瞬間、周囲の者たちからも声が上がる。

 

“あっテメェ抜け駆け!”

“お、おれもおれも! 限定版があるんだ!”

“おれはルフィさんのサインが欲しい!”

 

 次々とこちらへと寄ってくる強面たち。その光景を見たウタは何を思ったのだろう。

 ただ彼女は丁寧に彼らの求めに応じた。それはかつてルフィが傍らでよく見た光景である。多くのファンが彼女の前に列を作り、側にいるルフィへも時折人が寄ってくる。

 誰もが笑顔であり、暖かい光景だった。もう随分と前のことのように思える。

 

「……“関係ねェ”、か」

 

 ポツリとルフィが呟く。フランキー一家へ対し、ウタは一つの疑問を口にした。それに対する答えがこれだったのだ。

 ──賞金首となった自分の歌を、どうして。

 それに対し、彼らは当たり前のようにそう答えてくれた。

 自分達を肯定してくれた人はいる。だがそれはかつての部下とその関係者であったり、“救世主”と呼ぶ者たちであったりとその理由に納得がいくものであった。しかし彼らは違う。純粋にファンだと答えたのだ。

 その事実を、どう受け止めるべきなのだろう。

 自分達は今、どういう存在なのだろう。

 考えれば考えるほどわからない。そこへ一つの声が届く。

 

「眠らねェのか?」

 

 そんな声と共に歩いてきたのはフランキーだった。彼はこちらの返事を待たず、少し間を空けた位置へ腰を下ろす。

 

「まあ気持ちはわかるがな。今日いきなり会った人間を信用しろってのも無理な話だ」

 

 コーラを片手にそんなことを言うフランキー。彼はこちらに二本持っていたコーラの瓶のうちの一つを投げ渡してきた。

 受け止めるルフィ。冷たい感触が掌に広がる。

 

「だがうちの子分共におめェらを騙せるような器用さはねェ。……棟梁のおれとしちゃァ困ったもんだが、そこだけは保証できる」

 

 言うと、フランキーは立ち上がり外へと出て行った。扉の閉まる音が響く。

 ルフィは渡された右手のコーラの瓶を見つめる。……ジュースなんて、随分久し振りだ。

 小さな音と共に、その蓋が外れる。口に含んだ炭酸の味は懐かしく。

 

「……美味ェ……」

 

 まるで、体に染み込むようであった。

 

 

 

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

 

 

 

 夜の海風は冷たい。それを一身に浴びながら、フランキーは呟く。

 

「……どういう因果だってんだ」

 

 思うのは客人として受け入れた二人のことだ。子分たちの命を救ってくれた恩人だというのであれば、その礼をするのは当たり前。そこにフランキーは異論はない。

 あるとすれば──あの二人の背景に対してだ。

 特にあの、モンキー・D・ルフィ。

 彼が今やっていることは、かつてフランキーができなかったことでもある。

 

 大切な人を連れて行かれそうになり、全てを捨てて取り戻した。

 そして今もなお、守り続けている。

 

 そこに憧れのような感情がなかったといえば、嘘になる。

 

「なァ、トムさん。おれァ……」

 

 そこから先の言葉は、続かない。

 ただ、どこか遠くで。

 

 ──海列車の汽笛の音が、聞こえた気がした。

 











まだまだお話の序盤、導入部分です。
考えてみるとフランキーことカティ・フラムは大切な人を世界政府に連れて行かれて取り戻せなかったという過去があるので、連れて行かれる前に取り戻して今なお逃げ続けるルフィに対して思う部分はあるのではないでしょうか。
できれば週一くらいでの更新はやりたい。でも忙しい。
年度末は大変です……。
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