第四話 命の価値 前編
共に世間において名を知られた存在である“新時代の英雄”と“新聞王”。その付き合いの始まりはあまり知られていないが実はかなり古いものである。
最初の出会いは互いにそこまで大きな関心を向けることはなかった。何せ十年近く前の話だ。未だ幼きルフィとウタとモルガンズが出会ったのは多くの偶然からなるものであったのだから。
約十年前。元海軍大将“黒腕のゼファー”率いる新兵教育のための艦隊が彼らの故郷たるフーシャ村を訪れ、そこで大きな事件が起こった。巻き込まれたルフィとウタの二人は結果的に大きな働きをし、多くの命を救うことになる。事件解決後にその件について取材をしたのがモルガンズであり、当時の幼き二人と簡単な会話を交わしたことが出会いであったのだ。
この時は互いにそれだけの繋がりで終わり、そこから二人が海軍へ入隊するまでは音沙汰はなかった。“大海賊時代”という荒れた時代だ。次から次へと事件が起こり、ニュースが広がる。その中で知らず頭の隅に追いやられ、思い出すこともなくなっていった。
──だが、その記憶を呼び覚ます事件が起こる。
その事件は“デッドエンド事件”と呼ばれる、とある海賊が引き起こしたものであった。
元海軍将校でありながらも海賊として名を上げ、“海軍最大の汚点”とまで評された男。その男が裏で糸を引いて開催された海賊たちによるレース ──“デッドエンドレース”。その情報を掴んだ海軍は当時無名の海兵をそこへ潜入させた。
実際に起こったことについての詳細はここでは伏せておく。ただ結果として、“海軍最大の汚点”は後に“新時代の英雄”と呼ばれることになる海兵によって討ち取られたのだ。
その事件を真っ先に報じたのが何を隠そうモルガンズの“世界経済新聞社”である。そこで久しぶりの再会を果たすわけであるが、そこから幾度となく顔を合わせることになる。
海軍としても広告塔たるウタの宣伝に“世界経済新聞社”を活用したかったし、モルガンズもそれには乗り気であった。だが何よりもこの二人は行く先々で事件が起こる。そのうちモルガンズは二人が派遣された場所へ記者を送り込むようになり、状況によっては自分自身が現地入りするようになった。二人の活躍を“世界経済新聞社”が真っ先に報じることが多かったのはそういった事情からである。
そしてこの両者の関係であるが、何とも言い難いものであった。
敵意があるわけではない。だが信頼はないし、友人というわけでは決してない。しかし奇妙なところで信用はあったのだ。
ルフィとウタはモルガンズが掴んだ情報について一定の信用をしていたし、モルガンズはモルガンズで二人が関わる以上何かが起こるという信用があった。
奇妙な関係だ。だがそれはあくまで海軍という組織に所属していたからこそでもある。
明確に世界の秩序の敵となったルフィとウタ。
黒い噂は数あれど、その秩序において一定以上の地位を持つモルガンズ。
かつてとは状況が大きく違う。何ならモルガンズにとっては接触することがリスクになるはずだ。だというのに彼は電伝虫越しではあるがこうして接触してきた。
そこにどんな意図があるのか。今の二人には掴み切れない。
だが、二人が知る中で彼以上に世界の情勢について把握している人間というのもいない。
息苦しく、空気が重い感覚。常にまとわりつく、粘ついた圧迫感。二人が置かれた状況、最早本人たちでさえも理解していない状況に変化をもたらせる可能性がある。
誰よりも世界から注目される二人と、それを世界に届ける力を持つ男。
だがその会談は誰も知らぬ場所で行われている。
──いや、きっと。
行われたという事実さえ、誰も知らぬままなのだろう。
これが、一つの分岐点であったというのに。
「座るといい」
火の点いていない煙草を咥えた男──ルフィとウタをここへ誘った男が並べた二つの椅子を指し示した。彼自身はベッドに腰掛けている。
一瞬の逡巡。だが次の動きは早かった。ルフィが先に椅子へと音を立てて座り、続いてウタが静かにその隣の椅子へと着席する。その姿を見、男は少し驚いた様子で言葉を紡いだ。
「渋るようなら罠じゃないとでも言って促すつもりだったが」
『クワハハハ! ここで足を止めるような奴じゃねェさ!』
男の言葉に対し、電話の向こうからそんな声が聞こえてきた。いつもテンションの高い男だが、今回はいつもよりもテンションが高いように思える。
『まァ、安心したのも確かだ。まだ折れちゃいねェようだな?』
「…………ッ」
ウタが小さく震えた。膝の上に乗せた彼女の手が硬く握り締められる。
「────」
そこへ、優しく手を重ねたのがルフィであった。彼は彼女が折れたその瞬間を見ているのだ。故にこそ“正義”を掲げ、戦い抜くと決めたのだから。
だがそれを語る意味も必要もない。故に安心させるためにウタの手を握ったのだ。
──ここにいる。
自分は隣にいると、それを伝えるために。
「モル──」
「──名前は出すな」
電話の向こうの相手を呼ぼうとした瞬間、遮られた。男がこちらを見据えながら言葉を紡ぐ。
「この周囲から人払いはしている。まず会話は漏れないだろう。だが電伝虫には盗聴という手段がある。そのリスクは減らしたい。……盗聴防止の電伝虫があるが、アレは貴重だ。こんな場所には持って来れない」
『その場にいる人間が誰であるのか、って証拠がなけりゃ存外どうとでも言い訳が効くもんなのさ。旦那方も周囲に迷惑をかけたくはねェだろう?』
周囲、という言葉から浮かぶのはフランキー一家だ。彼らに迷惑はかけたくない。
「わかった」
『実に結構だ! さあ楽しい楽しい長電話といこう!』
この演劇じみた言い回しは盗聴に対するカモフラージュなのだろうか。……いや、おそらく素なのだろう。多分。
ルフィは一度息を吐いた。本来、彼はこういった交渉じみた状況が得意ではない。基本的にウタや副官であったオリン、他には作戦を共にした海兵──それこそモモンガやスモーカーなどに任せてきたというのが実情だ。
だがこの場でウタを前面に出すことを彼はしたくなかった。故に心を決め、彼自身が言葉を紡ぐことを決める。
「おれたちがここにいるってどうしてわかった?」
拳によるものではない戦い方について、かつてルフィとウタはモモンガ中将から学んだことがある。いつか必要になる戦い方だと言われ、そして実際それが必要な場所に今になって訪れることになったのだ。
──終ぞ、あの国に対して何もできなかったとルフィは思っている。
いつか来ると言われていたのに、かつてのあの尊敬する海兵のような戦い方ができなかったのだ。
故に決めた。未熟であろうと、苦手であろうと。やるしかないのであるならば。
今この瞬間からであっても学び、実践するしかない。
『優秀な社員のお陰だ。といっても偶然だがな』
「ニュース・クーがウォーターセブンへ向かう途中の姿を目視した。例の一家と一緒にいるところをな」
二人の回答はあっさりとしたものであった。そこで思い出す。フランキー一家と共に海を行く途中、確かにカモメの群れを見たのだ。こちらの頭上を進んで行ったあの一団の中に、ニュース・クーがいたということか。
「そうか」
頷く。同時、ルフィはこうも思う。
──把握するべきは人だけではないということか、と。
「…………」
天井を一瞥するルフィ。眉間に皺の寄った彼が何を考えているのかは、隣にいるウタにもわからなかった。
『おれは神なんざ信じちゃいねェが、この偶然には感謝している。それでも祈りはしねェがな!』
相変わらずの軽快な口調。この場の主導権を握るためか、それともこちらの警戒心を少しでも削ぐためか。おそらく両方だろう。
はっきり言って、こういう分野でモルガンズと相対するのはあまりにも分が悪いように思える。故にルフィとしては珍しく慎重な心持ちであった。
“戦闘と政治は戦い方が違うとはいうが、基本的なことは変わらん。武器が何であるかの違いだけだ。──どちらが主導権を握るか。結局それに終始する”
とある日の記憶。当時自分たちに拳以外の戦い方を教えてくれた人が語っていたことを思い出す。
思い出すのだ。過去の記憶を、教えを、戦いを。
歩んできた道の中に、きっと答えはあるのだから。
「どうしておれたちを呼んだんだ?」
出来得る限り冷静に、そして同時に情報を探る。何度も見てきたやり方だ。
そう、これは彼女の──ウタの模倣。
『質問の意図が不明確だなァ、旦那』
「わざわざこうして話をする意味はねェだろ」
こちらを揶揄うような言葉に対し、ルフィが重い口調で言葉を返す。だが彼の疑問は当然のものであったのだ。
見かけたのであれば海軍に通報でもすればいい。リスク、とベッドに腰掛けた男が言ったが、そもそもこうして接触するリスクが大きいはずなのだから
『見解の相違だな。まずはそこを正していこう』
モルガンズの余裕は崩れない。彼は楽しそうに言葉を続ける。
『対話において必要なのは互いの前提知識、或いは認識、もしくは見解といってもいいか? それが互いの間でどうなっているかを把握しておくことだ。一番理想なのは互いの認識が一致した状態だな。共通認識って言葉は響きが軽いが、これ以上重要なもんもねェ』
互いに別個の人格を持つ人間である以上、どうしても認識に違いは出る。それを擦り合わせることは最低限必要な行為であった。
『例を出そう。今おれの目の前にあるのは林檎だが、どんなものをイメージする?』
「普通の林檎じゃねェのか?」
『思い浮かべた普通の林檎ってのは何色だ? 赤か? 青か? それとも旦那が見たこともねェような色をした何かか?』
ルフィの眉が僅かに動く。受話器の向こうから小さな音が聞こえた。それは林檎をモルガンズが齧った音だろう。
『これが認識の齟齬だ。これを正さずにする会話は誤解を生む。それは避けるべきだろう?』
逆に言えば、この認識の齟齬というものを正さなければ意図的に誤解を生むことができる。そしてそれはモルガンズが読者を煽る手口の一つでもあった。
拳ではなく、言葉。いや言葉だけではない。“情報”という概念を武器にする男。
それこそが、“新聞王”モルガンズの真骨頂だ。
『さて、見解という概念について相互理解を持てたところで話を進めよう。おれが旦那方と話をする意味がねェだと?──ナンセンス! ジャーナリストってもんをわかってねェな!』
ふう、というため息を吐く音が聞こえた。煙草を咥えた男のものだ。そこには呆れのような感情が宿っている。
『おれたちは集めた情報によって記事を書き、それを読者に届けることが至上の役目だ。そこに少しばかり私的な見解が入っちまうのはまあ、ご愛嬌だ。あくまで私見だからな』
その私見で世界を踊らせる男が言う。そもそも、と彼は言葉を続けた。
『確かに通報は善良な市民の義務だ。それによって報酬を得ることもできる。だがそれをビジネスと考えた場合、おれたちにとっては実入りが悪ィのさ。旦那方を売ったところで得られるのは端金だけ。代わりに失うのは信頼だ。ついでに言うなら余計な恨みも買うことになっちまう。割に合わねェなァ』
「恨み?」
呟いたのはウタであった。そこからか、と呟いたのは我関せずの態度を取っていた煙草を咥えた男である。
「社長。どうやら彼らは自分たちの価値をわかっていないようで」
『それは仕方ねェ話だ。どれだけ見事なダイヤモンドも自分自身では価値なんざわからねェ。価値をつけるのはいつだって他人だからな』
モルガンズの笑い声が響く。そして、さて、と彼は言葉を続けた。
『その価値ってのがおれがこうして話をしてる理由だ。おれは旦那方に価値を見た。わかりやすくていいだろう?』
確かにわかりやすい話であった。だがその『価値』が二人にはわからない。
わからないままに、彼らはここまで来てしまったのだ。
──最早その存在は、人の命さえも左右するほどだというのに。
『さあ、ようやく本題だ。──話をしよう。互いにとって有意義になると幸いだ』
そして、“新聞王”が言葉を紡ぐ。音声だけだというのに、眼前に椅子に座るその姿が見えるかのようだ。
『聞きたいことはいくらでもあるが、まずはこちらから情報を提供しよう。──まずは“世界政府”。旦那方の古巣についてだ』
今の世界の在り方を、おそらく誰よりも世界を知る男が語り始める。
それは、霧の中を歩む二人にとっての光となるのだろうか。
◇◇◇
不夜島、“エニエス・ロビー”。
そこは世界政府中枢に繋がる“政府の玄関”と呼ばれる場所であり、世界政府が直轄管理を行うが故に“司法の島”としての呼び名を持つ。
世界政府の創設と共に生まれたその島は八百年もの長きに渡って侵入者も脱走者もいないという鉄壁の施設だ。ここへ連行された犯罪者は名ばかりの裁判を経て海底監獄“インペルダウン”へと連行される。
権威という意味でも実際という意味でも重要な施設であるわけだが、それ故に相応の戦力が常設されていた。数にして一万の混成部隊──いや、軍隊である。万が一の襲撃時にはこの戦力が迎撃にあたることが想定されていた。
だが、真の守護者は彼らではない。
──世界政府直下暗躍諜報機関、サイファーポールNo.9。
その存在と役割故に一般市民には知られておらず、それどころか世界政府内の人間でさえも知らない者の方が多い存在。
彼らが掲げるのは“闇の正義”。非協力的な市民に対する『暗殺』を許可されており、故にこそ彼らは公式の記録においては存在しないのだ。
ここ“エニエス・ロビー”はそんなCP9の拠点でもある。故にこの地の守りは盤石なのだ。
そしてそんな場所へ軍艦が商船団と共に訪れていた。通常、軍艦が正面からここへ来る場合はその多くが罪人の誤送によるものであるのだが、今回は違うらしい。
何やら聞くところによると、特別な任務を受けた者たちであるということだ。
そう、例えば。
──“堕ちた英雄”の追撃部隊などという、通常では編成されていない部隊である。
「お会いできて光栄だ、長官殿」
海軍本部中将にして追撃部隊の指揮官たるヴェルゴは眼前の男性へと敬礼しながらそう言葉を紡いだ。彼の後ろでは副官の海兵もまた敬礼をしている。
「こちらこそ。噂は聞いてる」
対し、眼前の特徴的なマスクをした男は敬礼ではなく軽い一礼を返した。そのまま右手を差し出してくる。
海軍と世界政府。根本は同じでありながらも在り方が違うことがよくわかる光景だ。
「そちらの言う噂とは怖いな」
「後ろ暗いことがなければ怖がる必要はねェだろう?」
握手を交わしながらヴェルゴとマスクの男──CP9長官スパンダム。暗にピリついた空気が漂っているが、それは海軍とCPという組織間の関係上ある程度致し方ないものであった。
張り詰めた空気。だがそれはその場に居合わせた第三者によって霧散することになる。
「チャパパー。長官は調べても何も出なかったからとりあえずそれっぽいこと言ってるだけなんだなー」
「やめろフクロウ。……まあ、綺麗過ぎて逆に怪しいくらいだが」
何故か文字通り口にチャックが付いた男と、額にサングラスをかけた男であった。ヴェルゴがそちらへと言葉を紡ぐ。
「それは私のことかね?」
「悪く思うなよ中将さん。これはある意味習い性みたいなもんだ。この“司法の島”に怪しい奴を入れるわけにはいかねェからなァ」
笑みと共にサングラスを額にかけた男──ジャブラが立ち上がりながら言う。その視線はこの場にいる海兵二人を探るような色を宿していた。
「海兵ってだけで無条件に信じるわけにもいかねェのはわかるだろ?」
その言葉に対し、眉を顰めたのはヴェルゴの後ろに控えていた副官であった。そんな彼に対し、ジャブラが笑みと共に言葉を紡ぐ。
「“南の海”第43支部からの叩き上げで本部に招集されて今は大尉の階級にある。立派なもんだ。追撃部隊の副官ってだけの格は十分ある」
「中隊規模の部隊を率いて潜伏中の海賊を捕えた功績で本部招集されたー。チャパパー」
びくり、と副官が体を震わせた。それは彼の来歴だ。隠していることではないし、調べればわかることではある。だが彼らがここに来ることになったのはいくつもの偶然の流れからだ。調べる時間などなかったはず。
「彼らは諜報機関CP9。この程度は朝飯前ということだろう」
こちらの思考を呼んだように言うのはヴェルゴだ。そしてそんなヴェルゴに対してはジャブラが肩を竦める。
「そっちの方はとんでもなく優秀で誠実で理想的な海兵って情報しかなかったが」
「それはありがたいな。CP 9に理想的な海兵と保証されるなど、これ以上のものはない」
「……まあ、別にいい。殺し合おうってんじゃねェ」
ジャブラが肩を竦める。それで話は終わったと判断したヴェルゴはスパンダムの方へと改めて視線を向けた。
「先に連絡させて頂いた通り、少しの間厄介になりたい」
「ああ、構わねェさ」
ここへ着く前に事前に話は通していたことだ。スパンダムも文句は言わず承諾する。故にここまでは既定路線。問題はこの後だ。
「だが中将。宿を貸す代わりに一つ協力して欲しいことがある」
「協力?」
「ああ、そうだ。思ったよりも時間がかかっている案件があってな。──って熱ィ!? コーヒー溢した!」
先程まではクールな雰囲気だったのはどこへやら。食器の割れる音と共に騒ぎ始めるスパンダム。
「畜生、ああそう難しい話じゃねェ。実はな──」
「──よよいっ!! お届け物でェ長官!!」
なんとも間が悪いというか、スパンダムが喋ろうとした瞬間に扉を開けて誰かが入ってきた。広がるような長い髪をした男である。まるで歌舞伎役者のようなメイクをしており、その立ち振る舞いも仰々しい。
「あん? 届け物?」
「よよいっ! こちらでェ!」
その男の名はクマドリという。口調も立ち振る舞いも大袈裟であるが、彼も歴としたCP9の諜報員の一人だ。
そのクマドリが差し出したのは厳重に鍵のかけられた小さな箱であった。スパンダムの表情が変わる。
「ようやく届いたか!!」
その表情は文字通りの喜色満面であった。長官、とそんなスパンダムへ声をかけたのはジャブラだ。
「そいつは?」
「おれには色々と伝手があってなァ……ウォーターセブンに行く前に届いて何よりだ」
いまいち答えになっていないが、ジャブラはそれ以上の追求はやめたようであった。肩を竦めて息を吐く。
だが、スパンダムが口にした言葉に反応したのはヴェルゴだ。
「ウォーターセブンへ? 確か“アクア・ラグナ”という高波が来ると聞いたが」
「来る前に行くのさ」
笑みと共に言うスパンダム。彼は箱を片手に持ちながらヴェルゴの方へと視線を向けた。
「“五老星”から勅命が下った。おれたちはとある長期任務の途中なんだが、それを完了させろってな。『多少』は手荒なことも許される」
「“五老星”……!?」
副官が驚きの声を上げる。彼にしてみれば、世界政府の最高権力たる“五老星”というのは雲の上の存在だ。その名が平然と出てくることは予想外であったのだろう。
そんな彼の反応に気をよくしたのか、上機嫌でスパンダムは語る。
「おれたちはCP9だ。世界政府の信頼も厚い諜報機関。こんなことは日常だ」
「……機密ではないのかね?」
ヴェルゴの問いかけ。それに対し、普通はな、とスパンダムは告げる。
「だがおれは優しいんだ。お前らにも協力させてやる。追撃部隊というが、結局大した成果を上げれてねェんだろう?」
「なっ……!」
「耳が痛い話だ」
気色ばんだ副官を制するように言うヴェルゴ。彼はそのままスパンダムへと問いかける。
「名誉挽回の機会を貰えることはありがたいが、具体的には何を?」
「人手が足りなくてなァ。何、少しばかり戦力を貸してくれればいい」
答えているようで答えていないスパンダム。そんな彼とヴェルゴの視線がぶつかる。だがそれも数秒だ。
「承知した。ただ一つ、確認させて欲しい」
「何だ?」
「──それは“正義”のための行いかね?」
「当たり前だろう」
呆れた様子で頷くスパンダム。彼は肩を竦め、言い切った。
「おれたちこそが──“正義”だ」
ある種不遜とも言える彼の態度。そんな彼に対し、ヴェルゴは。
「承知した」
一言、そう返答した。
嵐が来る。それは数多の思惑を孕みながら、徐々にその歩みを進めている。
その果てに何があるのかはわからない。ただ、わかることは。
──何かが起こるという、確信だけだ。
余裕がある時はなんか仕事できそうな雰囲気を出しているスパンダム長官。原作でもうっかり以外は割と有能な動きしてるのでまあこんなものかと。
個人的に会議回というか対話回は結構好きです。二つ以上の視点での探り合いとかすり合わせとかそういうやりとりが楽しい。
上手く書けてるかどうかは別として。