sideヴァイス
「雨、か…」
地上に出た時はまだ小雨だったが、朝方になる頃には傘が必要なほどになっていた。
しかし、今のわたしには傘の手持ちがない。
唯一の救いは、今着ている服の防水加工をアイムートが既にやっていてくれたこと、だろうか。
比較的被害は少なそうだ。
『Be ambitious』とデカデカと書かれたTシャツの上に白衣、下はダボッとしたズボン…ファッションセンス的にはどうなのだろうか。少しアレな気がするが…
気にしてもしょうがない事なので無視することにした。
すると、路地に倒れた女の子を見つけた。
その人相と格好には見覚えがあって…
「大丈夫ですかッ!?」
急いで駆け寄る。肩を揺らして、気づいた。
服がびしょ濡れで、息が荒い。
つまり、あの後雨宿りもせずに雨に打たれ続け、体調を崩したようだ。しかも、周りに散らばる灰…ノイズか。
その戦闘の時点で無理をしていたのだろう。
どこか、彼女を二課の目に晒さずに療養させられる場所は…
…最悪だな。今わたしがやろうとしてることは裏切り行為に他ならない。
そう思って自嘲すると、ふと人の気配を感じて顔を上げた。
そこには響さんの親友だという小日向未来さんがいた。
彼女なら…
“また巻き込むの?平和の中で生きてきた人を”
これは…彼女の言葉か。
うん、そうだね。…わたしの本質は、他力本願は、多分変えられない。
でも、この思いは、助けたい願いは本物だと思うから、
「巻き込んでごめんなさい。この子を、任せていい?」
未来さんは数瞬考えて、不安げな顔をして、それでも頷いてくれた。
わたしの罪が、また一つ増えた。
side立花響
「ノイズですか?」
朝、どこかに行った未来。先に登校したのだろうと思ったわたしは、追いかけるように教室に向かった。
そんな朝、師匠から電話がかかってきた。
「市街地第五区域にノイズのパターンを検知している。未明ということもあり、人的被害がなかったのが救いではあるが…ノイズと同時に聖遺物“イチイバル”のパターンも検知したのだ。」
それって…
「ということは師匠、クリスちゃんがノイズと戦ったということでしょうか?」
「そうだろうな。」
でも、それじゃあ…
「どうした?」
師匠に思ったことを言ってみた。
「あの子、帰るところないんじゃないかって…」
「そう…かもな。この件についてはこちらで引き続き捜査する。響君は」
「はい。わかりました。」
電話を切ったわたしは、教室に入ったんだけど…
「未来…?」
未来は席にいなかった。
先にやってきていた弓場さん達も居所を把握していないらしい。
「小日向さん、今まで無断欠席なんてなかったんですが…」
確かに、そうだ。未来はわたしみたいなタイプじゃない…
じゃあ、どうして?
三人と話をしながらも未来のことを考えるのをやめられなかった。
side小日向未来
ふらわーのおばちゃんに無理を言って二階のこの部屋を貸してもらった。今度恩返ししなきゃ…
そして、任された女の子は今も熱に魘されて苦しそうだ。
ヴァイスさんも可能な限り様子を見に来るって言ってたけど…
すると、女の子が跳ねるように起き上がった。
周囲を見回していた。
「よかった。目が覚めたのね。びしょ濡れだったから着替えさせてもらったわ。」
それを聞いて
「か、勝手なことを!」
と立ち上がる女の子。でも、下着の替えまでは持ってないから…
と、急いで弁明する。
「未来ちゃん、どう?お友達の具合は。」
聞こえたのは二階に上がってきたふらわーのおばちゃんの声。私は感謝の意を示した。
「目が覚めたところです!ありがとうおばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって…」
「気にしないでいいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから。」
重ねて感謝を示しつつも、たくさんの洗濯物の入ったカゴを持っているおばちゃんに、手伝いを申し出た。
お礼ということで、手伝うことにしたのだ。
洗濯物を手伝って、女の子のところまで戻ってきた。
今は体を拭いているところだ。
「あ、ありがとう…」
背中を拭きつつ、気になる事に蓋をして黙々と作業を進める。
「何も…聞かないんだな…」
確かに、この子の恐らく痣であろう傷跡。
何が原因でこうなったのか、気になってしまう。
それは確か。だけど…でも…
「私、そういうの苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて…なのに、一番大切なものを壊してしまった。」
そう、感情が溢れ出して、響にたくさん酷いことを言ってしまった。関係を壊したのは、私だ。
「それって…誰かと喧嘩しちまったってことなのか?」
アハハ…痛いところ突いてくるなぁ。
「うん…」
今も、この子の背中を拭くことに集中しているつもりで、別の話題で頭を満たしたつもりで、延々考えてしまう。
私…どうすればいいんだろう…?
side Re 立花響
リディアンの屋上、昨日陽だまりを失った場所で呆然と口に出す。
「未来…無断欠席するなんて一度もなかったのに…」
その時、屋上に繋がる扉が、開いた。
そして開いた先、そこに居たのは…翼さんだった。
二人でベンチに座る。
「わたし、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るためにシンフォギアの戦士になるんだって…でもダメですね…小さな事に乱されて…何も手につきません。わたし、もっと強くなりたいのに、変わりたいのに…」
「その小さなことが、立花の本当に守りたいものなのだとしたら…今のままでもいいんじゃないかな?…立花は、きっと、立花のまま強くなれる。」
「翼さん…」
わたしの小さな言葉に翼さんは真剣に向き合ってくれた。
「奏のように人を元気づけるのは、難しいな…」
「いえ…そんなことありません…!前にもここで同じような言葉で親友に励まされたんです。それでもわたしは…また落ち込んじゃいました。ダメですよねー…」
空を見てから、話題を変える。
「翼さん、まだ痛むんですか?」
「大事を取っているだけ、気にするほどじゃない。」
「そっか、良かったです。」
そして翼さんは続けて口を開いた。
“絶唱”。敵味方問わず、全てを破壊する滅びの歌。
その代償と考えれば、安い…と。
でも、わたしは思った。
2年前、ライブの直後、辛いリハビリに耐えられたのは、
翼さん、そして奏さんの歌に励まされたから。
そう思い、そう伝えた。
翼さんの歌は破壊の、滅びの歌だけじゃない。
聞く人を元気にする歌だって、わたしは知っている。
それも、合わせて伝えた。
「だから、早く元気になってください!わたし翼さんの歌が大好きです!」
「なんだか、私の方が励まされているみたいだな。」
その言葉にわたしは驚いて、変な声を出した。
sideヴァイス
「たった一人、理解してくれると思った人もアタシを道具のように扱うばかりだった。誰もマトモに相手してくれなかったのさ。」
服を着替えた女の子、クリスさんはそう語った。
親を殺された自分は一人で生きてきた。友達どころではなかったのだと。
「大人はどいつもこいつもクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてもらえなかった。アタシの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった。」
ねぇ、どう思う?
あなたも同じような気持ちだったのだろうか。
答えて欲しい。わたしはあなたのことを知らなければならない。
いや…それすら自己満足か。なるほど、悪辣で、傲慢だ。
結局、自分のことだけ考えて、最後の最後で自分は何もしない。選択を他人に任せてしまう。
話は終わったか…
壁に寄りかかるのをやめて“ふらわー”近くの路地裏から出ようとして…警報が鳴った。
クソッタレ水銀の声が聞こえた気がした。
「さぁ、此度の
世界が変わっても、わたしは囚われたままか…!
忌々しい…!
白は走る。
背中を押すのは義務感か、怒りか、それとも焦燥か。
最後のDies iraeから抜粋した台詞。夜ではないので“今宵”を“此度”に変更しています。
どうかお許しくだされ。
第二十一話、どうだったでしょうか?
クリスとヴァイスをガッツリ絡ませることも考えたのですが、“ふらわーのおばちゃん”がスキル“鉄の門扉”を発動して中に入れませんでした。
クリスの救助も原作通りOTONAに任せようと思います。
そして、アンケートへの投票お願いします。
アイムートはフィーネ戦で覚醒させるつもりなのですが、眠り続ける彼女の夢の内容をどうするか募集します。
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本編で話を取るべき
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閑話にして欲しい
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そもそも描写しなくておけ