side立花響
「う…あ…」
「ヴァイスさん!大丈夫ですか!?」
「目覚めたばかりで声が…響きますね…ハハハ…」
「冗談言ってる場合でもないだろう。」
師匠もメディカルルームに入ってきた。冗談言ってる場合じゃないって…
「SC波形がはっきり測定出来ん。はっきり言って異常だ。何があった?大体の想像はつくが。」
その言葉を聞いて押し黙ったヴァイスさん。
しばらくしてその口を開いた。
「今のわたしは云わば“充電口の壊れた携帯電話”です。外からエネルギーを入手できず、自分の魂を削って自らを稼働させるだけのエネルギーを生成しています。」
ヴァイスさんの口から飛び出したとんでもない発言に血の気が引く。それはつまり、命を削っているのと同義ではないのか?
「充電口を復旧させる方法は?」
「
「戻ってきて、その後、君はどうなる?」
「精神の深層にて二度と目覚めない眠りにつくと思います。もう彼女を不安定たらしめていた要素はなくなるのですから。わたしがいなくても大丈夫です。」
「そんな…二度と目覚めないってことは、死ぬのと殆ど同じじゃないですか…!」
そんなわたしの叫びにヴァイスさんは首を横に振った。
「わたしが望んだことなんです。全てを忘れて眠りたい。わたしがそう望んだ結果なんですから。響さんが気に病むことは無いですよ。それに、わたしはあくまでもアイムートの代わり。本来彼女が歩む筈の安寧を横取りした不届き者です。だから、いいんです。」
「本当に…それでいいのか?」
もう一度静かになるメディカルルーム。目を閉じてから師匠の言葉にヴァイスさんは苦笑しつつも答えた。
「アイムートが、“生きろ”と言うなら、まぁ、考えます。」
「素直じゃないな。」
「貴族の出なもので。」
師匠とヴァイスさんの会話についていけないわたしは、何がなにやら分からなかった。
ただ、不思議と悪い予感はしなかった。
sideヴァイス
意外だった。生きることを諦めたわたしが遠回しとはいえ“生きたい”と言ったことが。
「変わったのか、変えられたのか…」
少し、苦笑する。
昨日の問答から一夜経ち、わたしはフィーネのアジトと思しき場所にやってきていた。
建物にクリスさんが入っていくのを見て、アタリである事を確信した。と、同時に司令が二課の諜報員を連れて車で来た。
「ヴァイス君…休んでおけと言ったろうに…」
「来てしまったものはしょうがないでしょう。」
司令の言葉に屁理屈で返してから二人で先に中へと押し入る。
そこに居たのは複数人の死体を呆然と見つめるクリスさんだった。
「…!違う…!アタシじゃない!やったのは…!」
だろうね。君は望んで人を殺せる程冷徹な人間じゃない。
「誰もお前がやったなどと疑ってはいない。全ては君や俺達の傍に居た彼女の仕業だ。」
「そうですよ。貴女が疑われる謂れはない。というより、司令もわかってたんですか?“彼女”のこと。」
「あぁ…確定ではないが、“彼女”が米国と通じていた公算は高い。」
「だから、あの文面か。」
反響定位で室内を探りつつ、目線を一つの死体に向ける。
そこに書かれていたのは、“I Love You SAYONARA”の文字。
それが、本心なら…どうして…
そして、わたしの反響定位は紙がめくられる瞬間、ブービートラップの気配を感知した。
「しまっ…!」
直後、信管が作動して爆発。
煙が晴れると、瓦礫の一部を持ち上げてクリスさんを助けた司令が見えた。
「ゲホッゲホッ…司令、すみません。探知が間に合いませんでした。」
「反響定位の精度も下がっているのだから仕方あるまい。」
そうですね…ありがとうございます。と相槌を打って、わたしも飛んできた瓦礫を脇に退けた。
「どうなってんだよ…こいつは…!」
「衝撃は、発勁でかき消した。」
「そうじゃねぇよ!なんでギアを纏えない奴がアタシを守ってんだよ!」
クリスさんは無理やり司令の傍から離れてそう言った。
「俺がお前を守るのは、ギアのあるなしじゃなくてお前よか少しばかり大人だからだ。」
「大人…?」
「アタシは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!」
「とんだ夢想家で臆病者、アタシはあいつらと違う!戦地で難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てるんじゃねぇよ!」
「大人が夢を…ね。」
「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいい!それが一番合理的で現実的だ!」
「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、お前はそのやり方で戦いをなくせたのか?」
「ッ!それは…」
…そうでしょうね。力で破壊するだけでは、不満と軋轢を生むばかり。しばらく溜まって、吐き出されるだけ。そうして表出した不満と軋轢は新たな戦いの合図になってしまう。永遠に終わらない憎しみの連鎖が続くだけ。どこかで、根本的にやり方を変えなきゃいけなかった。
…それはわたしも似たようなもの、か。
「いい大人は夢を見ないと言ったな。そうじゃない。“大人だからこそ”夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちったぁ増える。子供の頃は見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。」
「お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか?
違うな。“歌で世界を平和にする”っていう夢を叶えるために、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」
「なんで…そんなこと…」
「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられる。という揺るがない現実をな。」
「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親はお前の事を大事に思っていたんだろうな。」
クリスさんはようやく誤解が解けたのか、司令が抱きしめると、その胸の中で泣いていた。
しばらくすると、二課の諜報員も撤収を始めた。わたしも一緒に本部に戻ることになった。
「やっぱり、アタシは…」
そう言って立ち止まるクリスさん。
考える時間は、必要だろうな…
「一緒には来られない、か?」
「お前は、お前が思っている程一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず俺達の道とも交わる。」
「今まで戦ってきた者同士が一緒になれるって?世慣れた大人がそんな綺麗事を言えるのかよ…?」
「ホント、捻てるなぁ…ほらよっ!」
司令は、特殊な通信機をクリスさんに投げ渡した。
限度額内なら買い物もできて電車、バスが使える優れものだ。ついでに言えば、わたしも持っている。
そして、最後にクリスさんが貴重な情報を教えてくれた。
「カ・ディンギル!」
「フィーネが…言ってたんだ。カ・ディンギルって…それがなんなのか分からないけど…ソイツはもう完成しているみたいなことを…」
「後手に回るのは癪だからな…こちらから打って出てやる…!」
わたし達は、そのまま二課本部へ戻った。
一人の少女は祈りを知った。
戦姫は揃い、破滅の塔も完成している。
舞台に上がるのは、あと一人。
あと少し…あと少し…
第二十五話、どうだったでしょうか。
ようやく最終決戦の足音が聞こえ始めました。
それにしても、クリスの境遇を見ていると、人ってどこまでも残酷になれるんだなという事を見せつけられたような気持ちになります。
昨今の情勢を見ていると、いつか日本も戦争に巻き込まれそうで怖いと思ってしまいます。
しかし自分は無力な一般市民なので、とりあえず、死ぬかこの作品が完結するまでは小説を書き続けたいと思います。
評価、感想よろしくお願いします。
追記.次話で今のアンケートを終了しようと思っています。
投票よろしくお願いします。
アイムートはフィーネ戦で覚醒させるつもりなのですが、眠り続ける彼女の夢の内容をどうするか募集します。
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本編で話を取るべき
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閑話にして欲しい
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そもそも描写しなくておけ